不穏な噂
スランプに陥ってて遅くなってしまいました。
また以前の投稿速度に戻れるように精進致します。
二つ目のクリスタルを求めて旅を再開してから一週間後、ショコラ達は中間地点になる街〝パジャック〟に着いてそこで休息や食糧補給などをしていた。
「う~ん、久々の街に着いたらなんだかホッとしちゃうわね~。やっぱり歩きも多いと疲れるわ~」
「それは分かるけど、ちょっとだらしないよ。シャキッとしてくれるかな」
カフェに寄ってそこでお茶を飲んでいたのだが、エルフォルトがカップのお茶をちびちび飲みながら机に突っ伏してだらけきった姿を晒してるので流石にショコラが注意した。人目があるところでこんなことを気にせずやれるのはある意味ですごいとも言えよう。
「さて、目的地まではもう半分ってとこまで来た訳だが……出来たらここでいくらか例のジャングルについて調べておく必要がある」
「慎重だね~、レオリアは~」
「そりゃ慎重にもなるだろ。未開の土地に加えて、詳細が知れない部族まで居るんだから」
ここまでは途中で多少のモンスターに遭遇したぐらいで問題なく来れたが〝ジェロディア〟なる部族が住む未知のジャングルに近づいてきたこともあって、レオリアは可能であればここで情報収集をやっておきたいと話す。
それにはショコラも同意する、何せ今の時点でもクリスタルがあるという場所を大雑把に示した地図ぐらいしか頼りに出来るのがないのだから。
「で、どこでどう調べるつもりなの?」
「そうだな、冒険者ギルドが妥当だろ。ひょっとしたら珍しい素材目的に立ち入ってる奴が居るかもしれないし、駄目元でも当たってみるべきだろ」
「じゃ~、あたしはここでダラダラしとくんで~。いってらっしゃ~い」
「だらけすぎだよ、君はっ!」
カフェでそのままだらだらと自堕落タイムを過ごそうとするエルフォルトをショコラが引きずっていき、一行は情報を求めてこの街の冒険者ギルドに向かった。
~冒険者ギルド、パジャック支部~
「ていう訳で、そのジャングルについて細かなことを知ってる冒険者とか居ないか? それか職員の誰かでも良いんだけど」
「……その前にギルド内で揉め事を起こすのは止めて欲しいんですけど」
「いや、不可抗力だよそれは。あっちの方からレオくんに喧嘩を吹っ掛けたのが悪いんだよ」
「まぁ、それはそうなんですけど……」
渋面している受付嬢の視線の先には、折り重なるようにしてのされた冒険者達の山があった。つい先程、ギルド内にやって来た一行に対してまずレオリアにナンパをかけ、彼が男だと話すと今度はショコラとエルフォルトにちょっかいを掛けようとした為にレオリアの鉄拳を喰らったのである。
素行は悪いがそれなりに実力ある冒険者達を拳一発で仕留め、尚且つ見た目美少女にしか見えないレオリアがやったことで注目を浴びつつあり、もうさっさと用件を済まして出ていきたいところだった。
「こっちは情報を集めたらすぐに出ていく。無闇に諍いを拡げたりはしねーから頼むよ」
「はぁ、分かりました。思慮の浅い行動を止められなかったこちらに不手際もありますし……けれど、有益な情報が無いからって文句を言うのは勘弁してくださいよ?」
「そんなに器量が狭い人じゃないよ、私たちは」
受付嬢の言い草にショコラが不満そうにするが、まぁレオリア達が来なかったら一連の揉め事は起こらなかったのだし、事後処理をさせられる彼女からしたら棘のある言い方にもなろうというものだ。
それから彼女自身や、旅慣れてるという冒険者からも聞けるだけのことを聞いてレオリア達は冒険者ギルドを後にする。
結果はと言うと受付嬢が言ってたようにそれほど目新しい情報は得られなかった。野生モンスターが数多く蠢き、詳細不明な現地部族が住んでるらしいと既に分かっているぐらいのものしかなかった。
冒険者と言えども地図すら作成されていない土地を行くのは色々とリスクが高いから一部の命知らずや余程の腕自慢でもなければあのジャングルには行きたがらないようだ。
まぁそれはそうだろうなとレオリアも内心で納得はしている。冒険者も生活の為に働いてるのだ。未開の土地に命を捨てにいくような輩などまず居やしないだろう。
「足運んだ意味がほとんど無かったね、どうするレオくん?」
「まぁ冒険者ギルドがあるのはこの街だけじゃねーし、途中にある余所のギルドでも根気よく続けるしかねーだろ。どっこいどっこいでも無いよりはマシだからな」
ひとまずこの街に於いてはこれぐらいが関の山だろうと判断し、泊まっている宿屋に戻って今後の旅路の計画を練ろうかという話をしていたところ、張りのある声が掛けられた。
「ねぇ、ちょっと。あんた、もしかしなくてもレオリアじゃないの?」
レオリアに対して声を掛けてきたのは刈り上げた髪型と濃い口紅が印象的な女だった。それなりに整った顔立ちだががっしりした体格をしており、両刃剣を帯刀していることから戦士職を生業にしてそうな人物だ。
「あ……もしかしてメルギブか?」
「あったり~。やっぱそうだったわね、ひっさしぶり~。ロドス戦線以来だっけ? 相変わらず可愛い顔してんじゃない、ちょっと襲ってもいいかしら?」
「それに対する返答は裏拳でいいか?」
「ちょっとせっかく誘ってんのに野蛮な返しをしないでよ」
「なら公然と卑猥なことを抜かすな」
顔馴染みといった感じで軽口を叩き合う二人。それを見ていたショコラは自分と違って気を許してそうなレオリアの態度がちょっと気に入らず、二人の間に割り込む形で入った。
「ちょ~っと失礼するよ……レオくん、この人は誰? 知り合いなのかな? 仲良さそうだけど知人程度の関係だよね? そうだよね? 淡い恋心抱いてるとか言わないよね、ね、ねっ?」
「いや落ち着けって……てか据わった目を止めろっ。恐いわっ!」
至近距離から真顔で病んだような目で詰問してくるショコラは言い様のない迫力があってたじろぐレオリア。
なんとか落ち着かせると、メルギブは以前に一緒に仕事をしたことがある傭兵仲間だと説明する。ほんの三週間ばかりの間だったが、見た目の綺麗さに反して相当に強いレオリアのことはメルギブの記憶に強く残っており、戦闘の合間にもよく喋っていたことがあってレオリアも彼女のことは覚えていた。
「初めに見た時はびっくりしたわよ。戦場に居るのがめちゃくちゃ似合わない顔してて、しかも男だってんだから……興味本位であんたの性別を確かめようとした荒くれ達を瞬く間にのしたのも驚いたし」
「そんで、俺に色々とアプローチ掛けてきたよな」
「そうそう、でもすげなく断るんだからひどいわよね~。あんた達もさ、そう思うでしょ。男なら女の誘いは無条件で受けるべきじゃない?」
「うんうん、思う思うよ。レオくんだったら逆に寝込みを襲われても私は気にしないし……なんだったら今からでも路地裏に行ってチョメチョメしちゃわない、レオくぅん?」
甘ったるい声色で体をくねくねさせるショコラに対し、レオリアからの返答は脳天拳骨による鉄拳だった。ゴスッと重い音がして、痛みで頭を押さえてのたうち回る彼女を尻目にレオリアは会話を続けた。
「横の女二人とは恋人とかって関係じゃなさそうね」
「そだよ~、ショコラはレオリアに護衛頼んだ依頼人で~、あたしはなんていうか~……付き添い?みたいな感じ~」
「何なのその疑問系混じりの答え……こんなとこに居るもんだから、私てっきり〝あの依頼〟を受けたもんだと思ってたけど何か違うみたいね」
「〝あの依頼〟?」
「そう、暫く前に傭兵ギルドに出されたもんなんだけどね……この街から先に進むと未開のジャングルがあるでしょ、そこでモンスター討伐をしてほしいって依頼があったのよ」
「モンスター討伐? 依頼した奴はわざわざ傭兵ギルドで出したのか?」
傭兵は大体の仕事が対人戦闘になる。モンスターとの戦闘とは丸っきり無縁とは言えないが、それでも対モンスターというなら冒険者の方が本職だからそちらのギルドに出す方が適任と思われるのだが……不可解な話はそれだけではなかった。
「その依頼、受けるには面接みたいなもんをやる必要もあるそうでさ。その時、たまたま見かけたんだけど頭からすっぽりローブを被った怪しさ全開の奴がやってたのよね。で、それに合格した連中もなんというかね……」
「なにか訳ありの連中とか~?」
「訳あり、と言うか問題ある奴らが多かったのよ。傭兵の中でも汚いやり口で稼ごうとしたり、金の為なら論理とかそんなのは幾らでも捨ててやるって考えの奴とか……何せ、あのダグラスが受かってたぐらいだもん」
「ダグラスだと……!?」
その名前を聞いたレオリアが剣呑な顔つきになって不快感を露にする。その様子から好意を抱いていないそうなのは分かったが、ここまで敵視するような態度を取るのも珍しく、ようやく頭の痛みがマシになってきたショコラが訪ねてみた。
「レオくん、そのダグラスって知り合い……?」
「……知り合いなんかじゃねーよ、あのクソ野郎は」
悪し様に言って舌打ちまでするところを見るに相当に嫌ってるようだ。自分の口から喋りたくすらないと言う程だったので、代わりにメルギブが話してくれたがその人物像はレオリアが毛嫌いする理由が良く分かるものだった。
ダグラスという男は一言で表すと金にがめつく節操がなく、自分の為ならどんな手段でも取るという者だった。
依頼料に不満があれば雇い主を脅して金を釣り上げさせ、戦争の最中に於いても高い報酬を相手から約束されれば雇われた自軍側から敵軍に寝返る裏切り行為を平然と行い、戦闘中では敵や味方を肉盾にして不意打ちや騙し討ちなどダーティな戦法を躊躇なく率先してやるなどと言ったことから傭兵の間では悪い意味で有名な奴なのだ……人間として最低なレベルの人物というのが嫌と言う程に分かった。
実はメルギブと初めて出会ってから少ししてそのダグラスも同じ戦線に来たのだが、上述した汚すぎるやり口を嬉々としてやり始めてキレたレオリアがダグラスに鉄拳制裁を下したのだ。
その後は戦争のどさくさに紛れて姿を消したのだが……レオリアが寝泊まりしていたテントに『いつか必ず殴られた借りは返してやるぞ』と脅迫めいた文言が書かれた置き手紙を残して。
「執念深い奴だね~、それからレオリアは大丈夫だったわけ~? 夜討ちとかされてない~?」
「いや、暫くは俺も警戒してたけどさっぱり姿を見せてこなかったよ。もし現れても返り討ちにしてやるだけだけどな」
「レオくんが心底嫌う理由がよく分かったよ、そんな調子じゃ同業者からも嫌われてるんじゃないの?」
「その通り、自分で言うのもなんだけど傭兵なんて真っ当な職業とは言えないけどね……だとしてもあんまりにも酷いやり口を取るもんだから、あいつを嫌う奴はレオリア以外にもたくさん居るよ」
顔を会わせることすら嫌な男のことをこんなところで聞くことになるとは思わなかったレオリアは気が重くなった。もし出会ったならばあちらは問答無用で襲い掛かってくるだろう、無論そうなっても撃退する自信はあるが問題なのは今は自分ひとりでなくショコラ達も同行してることだ……不利を悟ったダグラスがショコラを人質に取ろうという行動をやるのは容易に予想できるからだ。
(あいつともし殺り合うことになったら、真っ先にショコラを避難させないとな。エルフォルトに護衛して貰ったら大丈夫と思うけど、あの野郎が形振り構わない手を使ってくるかもしんねーし……)
不安要素はそれだけでなく、わざわざ傭兵ギルドに出したという不可解な依頼もそうで嫌な予感がすると感じ取ったレオリアの危惧は図らずも当たることになるのだが、この時はまだ確信するまでには至ってなかったのだった。




