裏で動く者たち
主人公たち以外の視点からになります。後半では新たな人物も登場しますが……。
『……では今後はそのクリスタルというのを探すことに主軸を置くということですか?』
「えぇ、久々に胸躍りそうな情報ですもの。私が乗らない道理はありませんわ」
どこかの平野にて、打ち捨てられて久しい元は農家の人が使っていたと思われる廃屋の中……手にした水晶盤に向かってそう言う女性ーーアスタロッサ・ディーンは実に楽しげといった感じに見えた。
「私も最初は半信半疑でしたけれど、実物をこの目で見たのだから眉唾物とは言えなくなりましたわ。それにクリスタルそのものだけでなく、秘宝とやらに繋がるという話も聞きましたし、トレジャーハンターとしては見過ごせないでしょう?」
最初にショコラ達と出会った後に颯爽とその場から居なくなったように思えたアスタロッサは、こっそりと一行の後を追っていた。
気配の消しかた、足音の立てなさなどレオリアも気付かない高レベルの隠遁術を発揮し、会話を盗み聞きしてクリスタルや秘宝に関する話などもバッチリと聞いていたのだ……それのお礼代わりというのか、援護としてあの気持ち悪い蟲の止めは刺してあげた訳だが。
尚、その時に使用した魔導銃然り、今使っている遠距離連絡の手段として扱われている水晶盤ーー〝ポータブル〟というがどちらも最先端の魔導技術で開発された非常に珍しいアイテムである。
魔導銃は弓矢に変わる武器として魔導技術が盛んである西方諸国ーー中でも、一番の技術力があるドレスディン帝国で量産されている物で魔石という魔力が内包された鉱物を組み込まれて作られている。
ポータブルも同じく、ドレスディンで開発された遠距離連絡可能な通信機であるが……魔導銃は最小の物でも大の男が両手で抱える小銃タイプ、ポータブルも据え置き式という大掛かりなものしかなく、アスタロッサが手にしてるような小型の物はまだ開発途上の代物なのだ。
それらを持っている時点で、彼女が一介のトレジャーハンターということでは済まない人物なのは明らかだった。
「そういう訳なので、あなたにはクリスタルというのに関連している伝承や伝聞を調べる仕事を与えますわ。いいこと? どんな些細なことでも徹底的に調べるようにお願いしますわよ、くれぐれも見落としなどが無いようにね」
『アスタ様の命とあらば骨身を惜しまずにやり通してみせます』
女性の声とも青少年の声とも取れる会話先の相手は、アスタロッサに深く忠誠を抱いてるような口ぶりであり、姿が見えずとも平伏しているように思える。
『……ですが、アスタ様。それを加味してもやけに楽しそうというか嬉しそうですね?』
「あら、そんなところまで分かるの?」
『貴女に仕えて私も長いですから』
「まぁ、当たっていますわ。私好みの素敵な殿方に会えましたのよ、見た目は少女然としておりますけど中身は勇猛果敢な男で実にどストライクな子でしたの♪」
頬を染めて楽しげに話すアスタロッサ。ぶっちゃけ、彼らをひそかに援護してやったのもレオリアが気に入ってたからという側面もあった。
そうでなかったら、偶然出会った初対面の連中がどうなろうと別に助けてあげようという義理も無かったので静観を決め込むこともあり得たのだから。
そして挨拶代わりにほっぺにキスをしてあげた際の戸惑いと恥じらいの表情になったレオリアは実に良かった。あのキャットピープルが突っかかってこなければ、他にも色々やって反応っぷりを楽しみたくもあったぐらいだ。
「ほんのスキンシップ代わりにしてあげたキスでも可愛い反応をしてくれましたもの。次はもうちょっと大胆な手に出てあげようかしら?」
『ご自由に為されては? そのレオリアとやらが明確に拒絶してこなければよろしいですけど』
そういったのを語るが、彼女の従者と思われる会話相手の人物は受け答えはするがそういう異性の話題には興味ないという感じが端々から読み取れた。
しかし、そういう反応をすることは承知していたのかアスタロッサは早々にレオリアの話題を切り上げた。
「こほん、話がずれてしまいましたけれど調査は精密にお願いしますわね」
『もちろんです、有益な情報を掴んでみせます』
「それと……この件にはどこかの組織が絡んでる可能性もありますわ。ただの犯罪組織か、あるいは国絡みなのか今は確定できませんけれど、身の危険を感じたら速やかに引いて私に連絡すること、絶対ですわよ?」
そう強く念を押して、アスタロッサは通信を切った……あの優秀な〝右腕〟は自分に忠実で仕事もバッチリこなす出来る人間なのだが、その忠誠の高さが時に自身を蔑ろにしてまで仕事を遂行しようという悪癖にもなりかねる。
最後の念押しは、それを諌める意味もあるのだが果たしてどうなるかはアスタロッサ自身も予想が付けづらいことだ。
「少々、不安はありますけれど今は無茶なことをやらないよう願うしかありませんわね……さて、私も情報集めに勤しもうかしら。運が良ければ、また彼に会えるかもしれませんわね、ふふふ♡」
蠱惑的な笑いを溢して、アスタロッサは廃屋から立ち去っていった。
彼女とアスタロッサが迎合するのは、割と早いのかもしれない。
ーーアルクスラ平原にある古びた神殿……ショコラ達が最初のクリスタルを手に入れてからそれらがやって来たのは一日半は経過した頃だった。
「……おいおいマジか、こりゃあ。ゴーストの奴の反応が途絶えたからまさかとは思ったがよぉ」
「出来れば当たってほしくなかった事が起こってしまったようだな」
土塊に潰された肉片類……レオリアとエルフォルトが共同して倒したあの蟷螂人間の残骸を前に話し込む男が二人いた。
一人は逆立った茶髪に耳にピアスなどの装飾を付け、顔の左半分には炎をイメージしたような刺青があり、黒を基調としたパンク風のファッションに身を包んだ見るからにガラが悪そうな男。
もう一人は、髪をバッサリ剃り落としたスキンヘッドに糸目、僧侶を彷彿とさせる格好に身を包んだ壮年の男。チンピラ然とした横の男と違い、こちらはやや顔は厳ついが理知的な雰囲気があった。
「メイジゴーストに加えて〝インセクター〟も倒され……そして、例の石が無くなってるとなると、何者かが持ち去った可能性があるか。ひょっとするとアレはクリスタルの在処を示すヒント、もしくはクリスタルその物だったということもあるな」
「だから言ったろうがよぉ、石でも何でも持ち帰って調べりゃいいってよぉ。わざわざ、見張り役を配置してこの場所まで偽装工作して隠した労力がパーじゃねぇかぁ」
「とは言うがな、ここで可能な範囲で調べた限りでは正真正銘の石としか分からなかったのだ。そんな物を持ち帰って、やはりただの石でしたということになればペナルティは免れん……私は元よりも、あの人の評価に泥を塗る真似はしたくない」
「けっ、俺様は知ったこっちゃねぇけどなぁ。他人からの評価だの、あいつが安く見られようがどうでもいいことよぉ」
チンピラ風の男が吐き捨てるように言うと、スキンヘッドの男の片眉がぴくりと動いて横に僅かに視線をよこした。何も言いはしなかったが、さっきの言動の一部が癇に触ったかのようである。
「……まぁ、結果論の是非をここで問答していても変わらん。至急、報告を入れねばなるまい。ここにあった石が物が本物だったと仮定すると、持ち去った何者が現在発掘中の場所に現れるとも限らん」
「あぁ、あの場所かぁ。ようやっと、原始極まる連中を殺し尽くして始めたとこだろぉ。まだ掛かりそうだよなぁ?」
その口ぶりから〝発掘している場所〟というところに住んでいた住民を悉く殺害したということらしい。
それを何の感慨もなく、まるで面倒な掃除がやっと終わったと言わんばかりであり、それだけで彼らが目的の為なら他者の命を蔑ろにすることに躊躇いも罪悪感も抱かないというのを表していた。
「うむ……状況次第では我々も向かうことになるだろう。相手が何者であれ、障害となる者は抹殺せねばならぬ。我らの……未来の為にも」
スキンヘッドの男の糸目が僅かに開く。
その眼差しは鷹のように鋭く剣呑で、邪魔立てする者は誰であろうと容赦しないという気概に満ちていた。
蟲の死骸を焼却して処理を終えた二人組はそのまま神殿を後にする。
連中ーーひいては、その背後に控える組織とショコラやレオリアが相対するのはもう暫く後であるが、この時点からクリスタル、秘宝の争奪戦は始まっていたのだった。




