到着、フラノイズ村
今回は笑えるネタを仕込んでみました。
途中、メイジゴーストの襲撃に逢いながらもエルフォルトの活躍でなんとか切り抜けることができたショコラ達はバロッサの森を抜けて、やっとアルクスラ平原にへと足を踏み入れる。
平原という地名通り、遠くまで見渡せる草原が広がっており陽気な気候もあってピクニックなどに持ってこいの場所でのどかな雰囲気である。ここから先はまず近い場所にあるフラノイズ村にへと向かい、そこでクリスタルに関連した情報の収集をする予定だ。
「ん~、なかなか良いとこじゃないの~。天気も良いし、こりゃ絶好の散歩コースになるかもね~」
「ほんとだね。こういうところをのびのび歩くのは嫌いじゃないし、気分が和やかになってくよ」
「あんま気を緩めんなよ二人とも。少しでも異変を感じたらすぐに教えるんだぞ」
「分かってるよ、レオくん」
「了解了解~」
先の一件もあり、レオリアは特に警戒心を募らせながらショコラ達に気を抜きすぎるなと注意を促して平原を進み始める。
またさっきみたいな真似を晒すのはごめんであったので、気合いを入れまくって先導を務めるレオリアは端から見れば力みすぎとも捉えられるが、それだけ幻で惑わされたのが堪えたのだろう。
ショコラとエルフォルトもそれに習って、周囲を警戒しながら後をついていくーーが、結果から言うとこの用心は徒労に終わった。メイジゴーストのような敵や罠の類いなども特に無かった為だ。
それに拍子抜けしながらも、取り敢えずの目的地であるフラノイズ村にショコラ達は辿り着いた。疎らに木造の民家が建ち、周囲にはモンスターなどが襲ってきた際の備えとなる柵があるが少々古びてそうで高さも低いことから申し訳程度な印象が拭えない。
門衛らしき村人も居るが中年の男が一人だけ、それも半ば日向ぼっこしてるようにボーッと座ってるだけだ……平和ボケした田舎村というのがぴったりだ。
「なんていうか……平和だねぇ」
「だね~。のどかな片田舎の村って感じ~、こういうところで余生とか過ごせたら良いよね~」
「そうだな……って、和んでないで早いとこ情報を集めるぞ」
のんびりした雰囲気に絆されかけた一行だが、気を取り直してフラノイズ村に入る為に寝かけている門衛の村人を起こした。
「おじさん、ちょっと起きてくれるかな?」
「ふがっ?……おぉ、なんだあんたら旅人かい? こんな何にもない村に来るなんて珍しいことがあるもんだなぁ。それも可愛い娘ばっかり」
「いや~、そんな可愛いとか照れるってばさ~。まぁ確かにあたしら美人なのは自覚してるけど~」
「おい、俺をその美人の数に含めんな。俺は男だからな、お・と・こっ!」
「えぇ、そこのあんた男だってのか? またまた、おらを担ごうとすんなよ。こん中で一番の美人が男だなんて信じられねぇよ、はっはっは」
この発言で美少女扱いされたレオリアはいつものこととは言え、額に青筋が浮かびかける。ショコラの方は同性ならいざ知らず、男であるレオリアの方が綺麗だと面と向かって言われてしまい地味に凹んだ。エルフォルトだけは差程気にしてないように苦笑してるだけに留まってるが。
「そんで、あんたら別嬪さんはなんか用でもあって来たんかい?」
「そ、そうそう、実は私たちある探し物をしてるんだけどね。おじさん、この辺でお宝とかそういうものに纏わる話とか知らない?」
「お宝ぁ? こんなとこにそんなもんがあったら村だってこんな寂れてはいねぇよ。けどそうだな、うちの村長ならなんか知ってるかもしんねぇよ。この村で一番の長生きだからな、最近じゃ痴呆の方がちょいと進んじまってるが」
痴呆……つまりボケているということである。情報を集める上では、些かどころか甚だ不安極まりないが村人に聞き回ったところで有力な手がかりを得られるとも思えなかったのでひとまず話だけでも聞きに行くことにした。
ーー村長宅にてーー
「ほほぉ、宝に纏わる言い伝えなどがないかどうかを知りたい……という訳なのですじゃな?」
ショコラから話を聞いて頷く老人……現村長であるラクヨウは白髭を蓄えたご老体であり、今年で御年80という高齢の人物であった。
村民の話だとボケが進んでるということらしいが、話の受け答えは案外しっかりしており、内心では不安だったショコラも取り敢えず安堵していた。
「村長さんはこの村で一番長く生きてるそうだし、そういった話とかがあったら詳しそうと思うんだけど心当たりとかないかな?」
「……ふ~~む……むむぅ……」
ラクヨウは腕組みをすると時折唸りながら椅子に腰掛けたまま微動だにしなくなった。記憶の糸を手繰っているのだろうが、なにせ80歳という高齢者だ。知っていたとしてもそうあっさり記憶の中から思い出すのはすぐにとは行かないだろう、ショコラ達は迂闊に声をかけずにラクヨウの答えが出るのを待った。
「……」
「……」
「……ふぁ~~」
しかし、無言のままで10分も経ち、エルフォルトがあくびをする始末。流石に長すぎるのでレオリアが声をかける。
「なぁ、村長さん。心当たりがないんなら無理して思い出してもらうこともねぇんだけど」
「……」
「なぁってば、おい?」
「……zzz、zzz」
「いや寝てんのかよっ!!」
考え込んでるのかと思いきや、まさかの熟睡モード。これにはショコラもずっこけそうになった。そして今のが起きるトリガーとなったか、ラクヨウがやっと目を覚ました。
「んぁ?……おぉ、これはお客人、なにかわしにご用ですかな?」
「記憶飛んでるしっ! しっかりしてよ村長さん、さっき会話してたじゃないっ!?」
「んん、そうでしたかのぉ? いやいけませんなぁ、最近物忘れが激しくてのぉ……おぉ、そうでしたそうでした。宝に纏わる言い伝えなどがないかどうかを知りたいということでしたのぉ……ふ~~む、むむぅ……」
「おいこれ、さっきと同じループにならねぇか?」
「あたしもそんな気するな~」
さっきと同じような台詞を二度も繰り返すラクヨウに、当然ながらレオリアは大いに不安がる。このまま無駄に時間を潰すぐらいなら別の村にでも行った方が良いんじゃないかと考えたが、思いもかけずにラクヨウから有力な情報が出てきた。
「神殿だって?」
「左様ですじゃ、確かアルクスラ平原の……そうですな、この辺りに古い時代に建てられた神殿らしきものがありますじゃ。わしが子供の時は秘密の遊び場としてよく行っておりましたのぉ」
ショコラ達が持ってきた地図の一点を指し示しながら、ラクヨウはその頃の思い出を振り返って感慨に耽っていた。
このアルクスラ平原は余所の地域と比べると、モンスターの生息数なども少なかったり賊なども滅多に現れなく子供が遠出をしてもあまり問題ないところであったが、子供にとって遊び場となるところが少なくこの神殿地帯を冒険場所として探検遊びに興じる子供は昔から多かったらしい。
しかし、古びた建物故に子供だけで立ち入るのは危険だとしてやたらに近づかないようにと親から言い聞かせられるようになっていき遊び場にする子供は減っていき、更に最近では得体の知れないモンスターらしきものがそこの神殿に巣食ってるらしい。
〝らしき〟とか〝らしい〟というのは、偶然に立ち寄った村民がそれっぽい影や唸り声を見聞きしただけなのだが、いずれにせよそんなものが巣食ってる状態のままであるのは周囲に点在する村の安全を考慮すると宜しくはないのだが……。
「如何せん、冒険者や傭兵の方を雇える程の金を持っておる者はどこの村にもおらんでのぉ。かといって村の人間で戦える相手なのかどうかも分からんのでは下手に赴く訳にもいかず……」
「領主さんとかに頼むのはどうな訳~?」
「いやぁ、それがですのぉ……この地域では滅多に問題などが起こらぬので、ずいぶん前に領主は別の地域の担当になって今は居ないのですじゃ」
税に関してはたまに王都から来る役人が徴税を行ってるらしいが……とにかく、そんな訳なので頼める人材が皆無という状況であった。
件のモンスターらしきものは神殿から出てくることこそ無く、実質被害はなにも出てないのだがこのままにしておく訳にも行かないだろう。
「そう悩んでおりましたが……なるほど、宝を得るためとはいえ未知のモンスターに無謀にも……いえ勇敢にも立ち向かってくださるという訳ですじゃな、なんとも心強い限りですじゃ」
「いま無謀って言いかけたよね、村長さん」
「言いかけたな。それ以前に村長、俺たちは別にモンスター退治の為にここに来た訳じゃ……」
「いや無論、少なくはありますが幾ばくかのお礼はさせていただくおつもりですじゃ。遠慮されることはありませんぞ、わしにも村長としての意地がありますからのぉ」
「いやだから話を……」
「なんとっ、お礼など貰う訳にはいかないと? いやはやまるで聖人君子の塊のような方々ですのぉ。いや、この場合は聖女と呼ぶ方がしっくり来ますかのぉ? ほっほっほっ」
「誰が聖女だっ! 俺は男だっつーのっ、あと人の話を聞けジジイっ!」
いつの間にやら神殿に巣食ったモンスター退治を引き受けさせられたばかりか、タダ働きということになってしまった。余りに強引な話の持っていきかたに流石にレオリアもキレて口が悪くなった。しかし、当の老人は問題が解決して良かった良かったと和やかに笑うばっかりであり、暖簾に腕押しであった。
今のやり取りは本当にボケた上でのことなのか、それともフリをした確信犯なんじゃないかと疑うぐらいだったが……どうあれ、貴重な情報ということには変わり無くやむ無しといった体であるがショコラ達は平原にあるという古い神殿にへと向かったのだった。