プロローグ~ある酒場にて~
趣味を全面に押し出した話になりますが、よろしくお願いいたします。
雑談、喧騒、たまに酔っぱらいの怒号が響く室内。
とある街にある一軒の酒場内は、陽が高い内からテーブルやカウンターに多数の客がそれぞれ料理や酒に舌鼓を打ったり、他愛ない世間話で時間を過ごしてたりしている。
男連中が大半だが、中には連れの女性に得意顔で武勇伝を語ってる者や、酒場の給仕の看板娘を口説こうとしてる者もおり、一概にむさ苦しいとは思えない空間だ。最も昼間から呑んだくれてる時点でどうかとも思えるが、酒場側としては嬉しい限りである。
そんな賑わいの中、来訪者の入りを教える酒場の扉に付けられた鈴が鳴った。普通なら差して気にも留められないものだが、何人かが入ってきた人物を見て感嘆とした声を挙げたことから視線が集まった。
入ってきたのは二人組の女性だった。一人はくすんだ灰色のショートヘアから猫の耳が覗いており、衣服の隙間から同じく猫の尻尾が揺れている。猫系の亜人とみられ、ブラウスの胸元から見える豊満な谷間やニーソックスを穿くしなやかで肉感的な脚などメリハリのあるプロポーションをした体が男の目を惹くが、20代ぐらいの亜人女性はそんな視線など気にもせずに物怖じしない様子で酒場内を闊歩する。
一方でもう一人の方も注目が浴びており、こちらは色気のある猫亜人とはまた違った魅力があった。金髪碧眼の人形のように整った顔立ち、白磁のように綺麗な肌で歩く度に揺れ動く腰まで届く金髪が幻想的な雰囲気を演出する。猫亜人と違って、こちらは起伏の無いスレンダーな体型だがそれを補って余りある綺麗さに満ち溢れていた……ただ、着ている服が戦士風の装いのように思えて、その容貌もあってみるからにギャップのある出で立ちだがこれがまた不思議とマッチしてるようにも見える。
こちらの方は周囲の視線に我関せずといった風に猫亜人に付き従うように歩いている。やがて酒場のカウンターまで辿り着いた二人はそこに座って、猫亜人が店主に話しかけた。
「ちょっといいかなオジサン?」
「おう、なんだい別嬪の姉ちゃん。先に断っとくが、姉ちゃんがいくら色っぽくても値引きはしてあげねえぞ」
「にゃははは、そんなケチ臭いことはしないよ。オジサンはこの辺の地理には詳しい方だったりする?」
「地理? まぁ、この街に店を構えてそれなりになるから詳しい方だと思うが」
「だったら、この地図に記されてる場所とか分かるかな?」
「どれどれ……」
懐から出した地図を店主に見せる猫亜人の女性。どうやら、その地図に記されてる場所の詳しい情報を調べる為に来たらしい。
気のいい店主は地図を覗き込んで目印と思われるマークまでの行き方を大まかではあるが彼女に教えてやった。店主の記憶では確かこのマークのある場所には寂れた遺跡がある筈だが、特に珍しくもなく見所もないものだがこんな所にわざわざ聞き込みまでして行こうとは物好きだなと思った。
その間、隣の金髪の美少女は目線は向けてるものの大して興味が無さそうでボーッとしている。やがて必要な情報を聞き終えて、店主への礼にと適当な酒を注文して一杯呑んでいるとそこへ二人組の男が寄ってきた。
「よぉ、亜人の姉ちゃん。良かったら俺らと一緒に呑まねぇか?」
「俺らも姉ちゃん達もちょうど二人だし、酒代は奢ってやるからよ」
酒気を帯びた息から少し酔っぱらってるようだ。酒の勢いに任せた雑なナンパであり、猫亜人の女性は初対面で馴れ馴れしい態度をしてくるのに困ったように眉根を寄せながらやんわりと断った。
「いや~、せっかくだけど急ぎの用事があってね。一杯呑んだらすぐに出ていくつもりだから、お喋りしてる暇がないんだよ」
「まぁまぁ、そんなこと言うなって。一杯呑む間だけでも構わねぇだろ? そっちの嬢ちゃんと一緒に楽しく呑もうぜ」
そう言ってガッツリと猫亜人の女性の胸元をいやらしい目で見つつ、あろうことか無遠慮に触ろうと手さえ伸ばしてきた男だったが、半ばまで伸びたところで横合いから出た白い手が阻むように掴んだ。
手の主はそれまで沈黙を貫いていた金髪の美少女だっだ。だが細く華奢な手なのに、万力のような強さで締め付けてきて痛みで酔いが覚めてきた男は目を剥いて驚く。
とても鍛えてる風には見えないのに、細身の腕からは考えられない握力だった。
「……おい、お前ら。女を口説きたいんだったら、もうちょっと品性ってのを整えてからやるんだな。野蛮人じみた真似でやろうだなんて、笑えもしねーぜ」
「な、なんだとっ!?」
やや高音の声から放たれる見た目の可憐さとは裏腹に男のように乱暴な言葉に二人組は虚を突かれながらも、自分達を嘲られたことに怒りを感じて険しい顔になる。
まだ酔いも残ってたことから、二人組の男は人目があるにも関わらず暴力的な手段に打って出ようとした。
片方は掴まれていないもう一方の腕で殴りかかろうと、もう片方は背後から取り押さえるように掴みかかろうと動いた。
目の前で起ころうとする暴力沙汰を止めようと、店主や他の客達が声を挙げて、中には腕っぷしに自信を持つ者が力ずくで制止させようとしたがーー結果としてそれらは徒労に終わった。
まず、腕を掴まれていた男の方。そちらは金髪美少女が腕を捻るように回転させるや否や、腕を起点に体の上下が引っくり返る形になり、瞬きをした一瞬で視界が反転して混乱する間もなく、男は木造の床に強かに頭を打ち付けて昏倒した。
もうひとりは相方の末路に仰天した刹那、顎から脳天を打ち抜くような強烈なショックに何が起こったか分からぬままに意識を手放して仰向けに倒れたーーこちらの方は一人目をのしてから瞬時に標的を切り替えた金髪美少女のしなやかな脚が男の顎を下から蹴り上げたのだ。
相手がチンピラの域を出ない連中とは言え息を吐く間もなく、流れるような動作で瞬く間に無力化してみせた金髪美少女の手際と強さに酒場内でたむろしてた酔客たちが喝采の声を送る。
「おぉ、すげぇな嬢ちゃんっ!」
「見た目からは考えらんねぇ強さしてんなっ」
「武闘家かなんかの娘かいっ?」
「……はぁ」
称賛の声を受けてるのに、煩わしいというようにため息を吐いた金髪美少女は次の瞬間に酒場の客達が驚くカミングアウトを放った。
「ひとつ言っとくがな……俺は歴とした男だ、そこんとこ間違えんな」
「「「えっ……!?」」」
指をビシッと差しながらそう宣言して、一気に喧騒だった酒場内が静まった。男……どっからどう見ても美少女要素百パーセントしかないのに、まさかの男性発言にどよめきが広がる。確かに口調は女性らしさの欠片もなく、中性的な声色にも思えるがそれでも信じきれなく疑惑の目を向ける者も多数いる。それとは別に男だったとしたら、なんてきめ細やかで綺麗な肌をしてるんだと一部の女性客がひがみに似た視線を向けている。
「にゃはは。私も見慣れてきたけど、いつもながら相変わらずの反応だねぇ」
「俺としてはうんざりだけどなこれには……いくら俺が女みてぇな面してるからといってもよ」
「女みたい、じゃなくて女にしか見えないの間違いっしょ?」
「やかましいわっ!」
最初の寡黙な様子から打って変わって、猫亜人の女性とフランクな会話をやりだす。話の内容から察して、常日頃から女性と間違われてるのが窺えるがそりゃあ格好を整えれば貴族の令嬢としても振る舞えるだろう顔立ちをしてるのだから、初見で性別が男だと気づける者など居やしないだろう。
その内、ひそひそと「本当にあいつ男なのかよ?」「いやとてもじゃねーが信じられねーな」といった疑念に満ちた会話がそこらでされる始末だ。
「いつもの事だけど信じてないね、皆さん方は」
「気に触るけど、俺としては取り敢えず言えたらそれでいいよ。じゃあ、情報も入ったんだし、さっさと行こうぜ」
「あ、ちょっと待って、出てく前に……」
「ん?」
勘定を済ませた猫亜人の女性がなぜか背後に回ってきて、その行動に首を捻っていた金髪美少女改め金髪美少年はーー
「そいやっ!」
「なっ!?」
いきなり穿いていたズボンを下ろされて大いに困惑した事で思考が一瞬だけ停止した。突然の猫亜人の奇行に静まっていた酒場内が先ほど以上にどよめいて、ほとんどの客の視線が自称男と名乗った金髪美少女に向く。
そこで大半の信じてなかった客達はそこで自称でなく、正真正銘に男だったということを信じたーー下着の中に収まってる非常に男らしい象徴の膨らみを目の当たりにして男達は一様に敗北感に包まれ、女性客は恥じらいながらも華奢な体には不釣り合いなその象徴に釘付けとなった。
「どうかな、皆さん方っ。これでこの子も立派な男の子だっていうのがよくお分かりになって「なにしてくれとんじゃあっ、このど変態がぁっ!!」ぶへぇっ!?」
混乱からやっと立ち直った金髪美少年は、顔を羞恥で真っ赤に染めながら元凶たる猫亜人に裏拳をお見舞いして制裁を食らわした。
結構本気で打ったようで、裏拳を腹部に貰った猫亜人は酒場のカウンターを盛大に破壊して吹っ飛んだ。
「もうやってられっかっ! 護衛の契約は解消させてもらうからな、スケベ猫っ!」
普通に考えると大怪我は必至だろうが、そんな事は気にも留めないように金髪美少年は素早くズボンを穿き直すと踵を返して足早に酒場を出ていった。
「ちょっ、ごめんっ、ごめんってばぁっ! ほんのお茶目なスキンシップのつもりだったんだよぉ。謝るからさぁ、契約解消だけは勘弁してぇっ!」
その後をカウンターだった残骸の中から這い出てきた猫亜人が泡を食いながら追いかけていく。元気に走ってく様子を見るに、大した怪我もしてなさそうだが一体どういう体をしてるのだろうか……亜人は総じて、人より頑丈な体質の者も多いがそれを差し引いても、あのタフネスさは目を見張るものがあった。
それはそれとして店主は立て続けに起こった騒ぎから漸く我に帰ったのだがーー
「……修理代、請求すべきだよなこれ……?」
派手に壊されたカウンターの跡地を見ながら達観した表情で呟く店主に酒場の客達はご愁傷さまと心の中で呟いた。
今後はこの作品を主軸に書いていくつもりです。エタってしまう可能性もありますが、そうならないように頑張っていきます。




