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オリュンポスの聖なる炎  作者: 絵之空抱月
一章『戦いの始まり』
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1話「曲がり角には神来たる」


 太陽が休むことなく照りつける雲一つない夏の日。

 コンクリートジャングルと化した東京はまだ朝であるのにも関わらずまるでサウナのような熱気に包まれていた。

 会社員は腕を捲り、ネクタイを緩め、額に汗を流しながら歩いている。

 学生たちは制服をだらしなく着崩し待ちに待った夏休みへの思いを馳せながら暑さに愚痴を言いつつ仲睦まじく学校へ向かう。

 街を歩く人々の雑踏と道路を行き交う自動車の音が混じり、けたたましい音色を奏でているが誰も気にしない。慣れてしまっているのだ。

 そんな都心から離れた場所でも同じくバイクに近付く少年がいる。

 果たして何台のバイクが貯蔵されているのか巨大なガレージの中から黄色が特徴的なリッタークラスのスーパースポーツにキーを差し込み——回す。

 最新型のバイクである為、メーターに針は無い。電子メーターが起動して画面にタコメーターや速度などが表示される。

 ほんの少しだけアクセルを開けながらセルのスイッチを入れる。

 するとセルモーターが回転。間も無くエンジンの鼓動が聞こえてくるようになる。

 エンジンが掛かったのを確認した少年は軽くアクセルを開けてやる。

 バイクはその合図に応じるようにマフラーから猛々しい音と白煙を外の世界に吐き出す。

 

 「よし!今日も元気だ!」


 愛車の調子を確認した少年は一旦ガレージと繋がっている家に戻る。

 時間が無いので食後の食器を流しに置いたままテーブルの上に置いておいた通学用のリュックを手に取り出発しようとするが。


 「おっと…」

 

 少年は家を出る前に慌てて和室に入る。

 忘れてはならないことがある。

 四畳半のさほど広くない和室には素材の味をそのまま使った素朴な木造りの仏壇が置かれている。

 ただし仏壇に遺影は無く、仏具も置かれていない。あるのは蝋燭と香炉とリンくらいでほぼ空っぽの状態。

 少年は正座して「行ってきます」とだけ言って部屋を後にする。

 エンジンを温めておいたバイクに跨がり、ガレージのシャッターをスイッチで開けて、首にぶら下げた剣モチーフのネックレスを服の内側に仕舞う。

 暗いガレージの中に光が差し込まれ、その光に向かってバイクを走らせる。

 速度によって生み出される風で茶色混じりの黒髪を靡かせる少年——坂本勇気さかもとゆうきは都内の私立六手(ろくのて)高校に通う18歳。

 生まれつき茶色っぽい髪の毛と運動神経の良さを除けば何処にでもいるような学生の1人だ。

 しかし、家族に関しては特殊な状況になっている。両親は共に考古学者をしていて、『翔吾《Shogo》と英莉《Eri》』の名はその筋からは世界でも有名であった。

 元気溌剌な翔吾と冷静沈着な英莉は順調に調査を進めていたのだがある日、調査中に行方不明なってしまったのだ。

 レムリアと言う大陸を探している途中に行方知れずとなった2人を探す為に知人たちが総出で捜索を行った。深海探査用の機械を持ち出したりとやれる限りのことはやったが遂には見つからずじまい。

 勇気だけは「いつか帰ってくるはずだから」「まだ分からない」と言い張る。

 自分だけでも親を信じてやらねばどうするのだ、と。

 今でも勇気はあの家でずっと両親を待ち続けながら生活している。

 両親が帰ってこなくなって何度目か。

 夏のバイクはやはり暑かった。



 学校に到着した勇気は駐輪所の空いてるスペースにバイクを停める。

 駐輪所には当然だが自転車が多くバイクで通学している生徒は少ない。勇気のバイク以外だと原付が数台あるくらいで大型は見当たらない。

 バイクから降りた勇気を見て駐輪所に居た先生が話しかける。


 「今日もバイクか!ヘルメット被らなくて大丈夫か?」

 「おはようございます。夏場は暑くて…」

 「そうかそうか。まあ走り屋やってるようにも見えないから大丈夫だろうがどれだけ自分が気を付けてても事故は起こるから気をつけるんだぞ!」

 

 注意を呼びかける先生の左腕は無い。

 過去にバイクで峠を攻めていた際に事故を起こして大怪我をした先生のその台詞に勇気は苦笑いするしかなかった。

 まだホームルーム開始まで余裕があるのに勇気の教室は生徒で一杯だ。

 真面目な生徒しかいないなんてことはなく、ただ友人たちと駄弁りたいから早めに学校に来てる生徒が多いだけなのだが勘違いした周りの先生からは高い評価を受けている。

 

 「おはよう」

 「おう!やっぱり勇気だったか!お前はバイクの音ですぐ分かるぜ!」

 「坂本か」

 

 勇気の席の前で元気よく挨拶を返したのは数少ない友人——大西唯人おおにしゆいと。プライベートではバンドをやっている超が付くほどのイケメンでクラス、否、学校内外からかなりモテる。

 勇気の両親の事情を知った後も態度を変えることなく付き合いを続けてくれている。

 遅れて反応を見せたのは唯人の友達である桜井正弘さくらいまさひろ。唯人の友達と言うよりかは腰巾着に近い。

 唯人と仲が良いことが気に入らないらしく露骨に嫌な顔をしてくる正弘が勇気は苦手だった。

 

 「そういえば昨日の夜の地震結構大きかったね。音はそうでもなかったけど揺れが結構強くなかった?」

 

 勇気は話題として昨晩の地震の話を出すが唯人は眉を顰める。

 

 「地震?地震なんてあったか?」

 「おい坂本、適当なこと言うなよ」

 「正弘、お前はどうしていつもいつもそうやって勇気を虐めるんだ。嫌ならどっか行け。俺たちが気付かなかっただけで本当にあったんだろうよ。勇気がそんなくだらない嘘吐く意味ないだろ」

 「あれ…?」

 

 気のせいだったのだろうか。

 勇気は昨日の夜中9時くらいに確かに揺れたのを確認している。

 だが言われてみれば緊急地震速報が携帯から響くことはなく、SNSを開いてみてもトレンドに入っていなかった。テレビでも同じだった。

 

 「んなことよりよ!そろそろ待ちに待った夏休みだぜ!」

 

 正弘が輪から外れ、暗い雰囲気を唯人がぶち壊す。


 「大分ご機嫌だね。ライブハウスか何処かでまたバンドの予定でもあるの?」

 「違うぜ勇気。夏だぜ夏!夏の日差しに照らされた砂浜には水着のナイスバディなお姉さん…海に行かない理由はない!今年こそ女を引っ掛ける!」

 「引っ掛けるって…」

 

 イケメンでモテる唯人は実は今の今まで彼女がいたことがない。それに伴い勿論あっちの経験も皆無。今年こそはと熱意を激しく燃やしている。

 教室でそう言うことを声高らかにして話していることが原因だとは気付いていない。 

 今も話を聞いていた周りの女子たちが冷たい目を向けている。

 女性経験がないからこその貪欲な姿勢の所為でクラス内の評価は『イケメンだけど遊び人』である。

 

 「勇気も一緒に夏のナンパ旅しようぜー!」

 「いやー、僕はいいかな」

 「なんでだよー!勇気は自己評価が低すぎるんだって!結構顔整ってるぞ?かっこいいってよりは爽やかな部類に入る。間違いない!勇気は多分隠れファンが多いタイプだ!暇だろ?」

 「確かに暇だけど……受験勉強は?」

 「あっ…」

 

 勇気たちは高校3年。年を越せば首を長くして待っているのは数々の大学。

 私立であっても附属校ではない六手高校に内部推薦など存在せず、真面目に勉強をしなければ落っこちるのは明白。

 作詞作曲を自分でやってる分、国語と英語の成績は抜群の唯人。他は赤点ギリギリである。

 

 「ま、まあ…まだ夏だからセーフ…だよな?」

 「うーん…どうだろ…?僕も別に成績が良い訳じゃないから…」

 

 勇気も勇気でまだ進路が決まっていないことに焦りを感じている。

 

 「小難しいこと考えててもしょうがねぇな!受験前になったら考えれば良いか!」

 「幾つか声が掛かってるならデビューしても良いんじゃない?」

 「それがよ…どの要望も俺の作りたい曲じゃない曲ばっかりなんだよ。ちょくちょく作詞の仕事は受けてるからその収入で個人事務所でも設立すっかな。良く考えたら大学行く気無かったわ!だははは!」

 

 下品な笑い声が教室に響き、再び注目を浴びる唯人。

 それを聞いて勇気は考える——やりたいことってなんだろう。

 やりたいことがない勇気には音楽に打ち込め、仕事にまでしている唯人が輝いて見えた。

 勇気の普段と違う視線に気付いた唯人は悪そうな笑みを浮かべる。

 

 「なんだ?俺の事務所がそんなに羨ましいか?安心しろって!勇気が受験失敗したら無条件で雇ってやるからよ!」

 「歌上手くない人が入ってもあんまりでしょ」

 「いや!メインボーカルじゃなくても需要はある。コーラスとか楽器とかな。そん時は俺が教えてやるよ」

 「じゃあその時はお言葉に甘えちゃおうかな?」

 「おう!いつでも歓迎だ!」

 「おーい!ホームルーム始めっから席戻れー」

 

 いつの間に入って来てたのか担任が教卓の側で着席を呼び掛ける。

 椅子に跨るように座っていた唯人は大人しく前に向き直った。

 それから毎週5日間の代わり映えのしない授業が1日の時間を食べ進めていく。

 流石は高校3年生の夏と言うべきか大勢の生徒が真剣に授業を受けている。先生の話を真面目に聞いている生徒、その科目は大丈夫で全然関係のない勉強をしている生徒、勉強をする気がない寝ている生徒と、様々な生徒の姿を見ることが出来る。

 そして学校終了を告げるチャイムが鳴る。

 勇気と唯人は教室に居残り、雑談に耽っていた。

 するとクラスの女子が2人に近寄ってくる。

 

 「お!桜じゃん。なんか用か?デートなら付き合うぜ」

 「大西君に用はないから大丈夫。坂本君、女の子が来てるよ?」

 「ちぇっ…冷たいな。もっとお洒落な返しはないのかよ」

 「誘い方がお洒落じゃないからどうにもね」

 

 話しかけてきた藤原桜ふじわらさくらはクラスでトップの成績を誇る秀才。だからと言って頭がお堅くもなく男女共に人気を集めている。

 相性が悪そうな唯人とも言葉の殴り合いと言う独特な関係で成り立っている。

 

 「女の子…?あっ!忘れてた!ごめん唯人、もう行く!」

 「おう、据え膳はちゃんと食っとけよ」

 

 唯人の頭を桜が叩く。

 

 「大声でそう言うこと言わないの」

 「へいへい…」

 

 とある約束をすっかり忘れていた勇気は慌てて教室の外に出る。

 廊下では栗色の髪の毛をポニーテールにした可愛らしい女の子が頬を膨らませていた。

 

 「あ…ごめん。忘れてた」

 「うぅ…ひどいッスよ先輩!勉強教えてくれるって言ったから教室来てくださいって言ったのに…明日の小テスト通らなかったら楽しい楽しい夏休みは講習で埋まっちゃうッスよ…」

 

 勇気の一つ下の後輩——上田祈うえだいのりがぽかぽかと勇気のお腹を叩きながら目に涙を浮かばせる。

 

 「今から!今からやろう!場所は何処にする?」

 「最近出来たお洒落なカフェ…」

 「分かった!じゃあそこにしよう!」

 「やったぁ!ご馳走さまッス!」

 「また…またやられたっ…!」

 

 役者顔負けの演技に騙された勇気は大人しく後輩の祈を連れて駐輪所に向かった。

 場所が近いとのことなのでバイクのエンジンは掛けず手押しで学校を出る。

 

 「乗せてくれても良いじゃないッスかー。重くないんスか?」

 「うん?別に大丈夫だよ。帰りは乗せてくよ」

 「ほんとっスか!」

 「だから勉強頑張ってね」

 「はい…」

 

 お洒落なカフェに到着した勇気と祈は早速注文をして勉強道具を広げる。

 物理の教科書にはメモが、ノートには文字が所狭しと書かれている。

 普段から必死に勉強しているのが伝わるノートだがしかし…見にくい。誰が見ても同じ感想が出ることだろう。

 寧ろこんなノートで先生が指摘しないのが勇気には不思議でしょうがない。

 

 「どうっスか?結構やってると思うんスけどね」

 「このノート見にくくない?」

 「だって隙間開けたらもったいないじゃないっスか。先生も褒めてくれるし…ってどうしたんですか先輩」

 

 勇気は頭を抱える。どうやら元凶は先生らしい。

 運ばれてきたホットコーヒーを一口含む。

 勇気がコーヒーを飲んだのを見て祈もメロンクリームソーダをストローで飲む。

 

 「もう少し隙間を取って書こう。これだと見返した時、何処に何が書いてあるの分からなくなってるから」

 「はいっス!先輩!」

 

 勉強に意欲的な祈に勉強を教えるのは難しくなかった。

 祈は飲み込みが早いのでちゃんとした説明、解説をしてあげると一瞬で理解してくれる。

 小テストの対策もほぼ完璧に仕上げ、後は本人の頑張り次第。

 追加で頼んだコーラフロートのアイスを嬉々として口に運ぶ祈を見て勇気は思わず表情が綻ぶ。

 

 「祈ちゃんは将来の夢とか決まってる?」

 「藪から棒な質問…あたしはそうっスね…演劇も考えたっスけどやっぱり親の後を継ごうかなって思ってますね。あ、先輩は決まってない感じなんスね」

 「特にやりたいこともないから」

 「だったら先生にでもなったらどうっスか?向いてると思うんすけど。と言うか先輩もうこっちに住んで欲しいっスよ。そしたら勉強いくらでも教えられるっス」

 「教えて貰えるの間違いじゃないか。でも、そうか…叔母さんの家か…」

 「今でもうちの親が心配してるっスよ」

 

 祈の母親は勇気の父親の姉。つまり祈は勇気の従姉妹だ。

 当然、両親が行方不明のまま帰ってこないことは知っていて、何度も家に来るように勇気を誘っている。

 考えたことはあった。

 今の家をそのまま残しておいて上田家に住めば自分をまるで本当の子どものように扱ってくれるほど優しい人たちだと知っていた。

 それでも勇気は残ることにした。

 幸運なことに勇気の両親は富豪と言って差し支えないほどの資産を持っている。使い方さえ間違えなければ勇気が働かなくても一生暮らせるレベルの資産だ。

 ガレージに集められたバイクたちも定期的に走らせてやらないと動かなくなってしまう。

 希少価値の高い旧車も揃っている。

 両親との大事な思い出が盗難されるのは避けたい。

 

 「うん、ありがとう。でも大丈夫。1人でもなんとかやってけるから」

 「……先輩は頑固っスね」

 「そうかな?じゃあ今度遊びに行こっか?」

 「今度と言わずに今日晩ご飯ご馳走しまスよ。安心して欲しいっス。もう、許可は取ってあるっスから」

 

 そう言って祈はスマホの画面を見せる。

 

 「うぇっ!?」

 「えっ…!?あっ…ミスったっス!ノーカン!ノーカン!」

 

 スマホの画面には何故かアダルトグッズのサイトが表示されていた。

 勇気の反応を見ておかしいと思った祈は即座に画面をひっくり返して自分の方向に向ける。

 顔を真っ赤にしながらちゃんとトークアプリの画面を見せる。

 そこには祈の母親が勇気の分もご飯を用意しておく旨が書かれていた。

 これと言って断る理由もなかった勇気は分かったと頷いてカフェを出た。

 バイクの後ろに祈を乗せ、薄暗い夜道を走らせた。

 


 上田家で食べた晩ご飯はいつもよりも美味しく感じた。

 叔母さんとおじさんは笑顔で迎えてくれて、会話も弾んだ。勇気から見ても祈はカフェにいた時より楽しそうで祈も楽しいと口にしていた。

 普段も賑やかだ。とは言えない勇気であった。

 

 「では、帰りますね」

 

 ご飯を食べ、一休みした勇気は外でバイクのキーを回す。

 

 「気を付けるんだぞ」

 「また来て良いっスよ!」

 「娘の言う通り、困ったらいつでも来てくれていいから。許可なんて要らないわ」

 「はい、ありがとうございます。ご飯美味しかったです」

 「そう…それは良かった。じゃあ気を付けて」

 「先輩また学校でー!」

 

 上田家に見送りされながら勇気がアクセルを捻る。

 すっかり太陽も隠れて月が顔を出している時間。

 勇気は先ほど食べた晩ご飯の味を思い出しながら軽いツーリング感覚で回り道。

 都心から外れた家の近くに見て楽しい物はないけどバイクに乗ることが目的なので気にならない。

 (そう言えば祈ちゃんはなんであんな喋り方になっちゃったんだろ。昔は普通…なんなら丁寧な言葉遣いだったのに)

 そんなことを考えながら人通りの少ない狭い道を走っていると曲がり角から人が飛び出してきた。

 

 「うわぁ!?」

 「きゃっ…!」

 

 のんびり走っていたのもあってブレーキは余裕で間に合った。

 びっくりして尻もちを着いてしまった女の子に勇気が慌てて歩み寄る。

 

 「大丈夫…?」

 

 その女の子は結婚式の時に付けるヴェールを被っていた。

 バイクのライトに照らされているだけではよく分からないが勇気が生きてきた中で1番可愛いと言っても過言ではないほど愛らしい顔立ちだった。

 

 「あなた様は私が見えるのですか?」

 「え…見えるよ?それがどうかしたの?」

 「助けてください!それが不可能ならお逃げください!兵士が来てしまう!」

 「兵士…?」

 

 

 ——カチャ。



 足音が聞こえる。

 普通の靴の足音じゃない。金属の音。

 街灯に照らされた場所に足を踏み入れたことで音の発信源が明らかになる。

 勇気は言葉を失った。

 照らし出されたのは青い鎧を身に纏い、右手に槍を持った人間。少なくとも今の時代にいる人間とはかけ離れているのが分かる。

 逃げようとする勇気の足が止まる。

 女の子は逃げてくれと勇気に頼んだ。

 勇気に追われる理由はない。

 では誰が追われているのか?女の子だ。

 勇気の脳裏に父親の言葉がフラッシュバックする。


 

 ——男は勇気あってなんぼだ!困ってる女の子を見捨てちゃいけねぇ!



 「ねぇ君!追われてるの!?」

 「え、あ…はい」

 

 可愛い女の子に助けを求められて放って置くわけにはいかない勇気はバイクに跨り、車体を目一杯傾ける。

 ハンドルを切り、アクセルを開ける。

 上手くクラッチを繋ぐとバイクの向きが瞬時に半回転。

 

 「乗って!早く!」

 「は、はい!」

 

 走り出す少女を見た兵士はガチャガチャと騒がしい金属音を鳴らしながら走る。

 勇気の耳にも近付いてくるのが分かるくらい音が大きくなってきた。

 少女にとって初めてのバイク。

 乗り方が分からず勇気に説明されながらなんとか後部座席に腰を落ち着かせる。


 「しっかり掴まってて!」

 「はい!これでいいですか?」

 

 腰に手を回して力強く抱きしめると少女の豊かな二つの膨らみが勇気の背中に押し付けられる。

 勇気も初めての感触にドキッとしながらも平静を保つ。


 「う、うん!行くよ!」


 勇気は一気にアクセルを開けた。

 バイクに理解がある人間なら聴いてて心地の良い音を掻き鳴らしながら夜の街を駆け抜けていった。

 この出会いは一生忘れられない出会いとなる。

 勇気の知っている日常の認識がまるっきり変化することになろうとはこの時はまだ、知る由もなかった。

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