クロ発見?
さて、木に到達したは良いものの、どうしたらいいのか。
そう思ったのも束の間だった。
「にゃ〜ん」
俺の帰りをいつも出迎えてくれる、あのワントーン高い甘え声。たたたっと廊下の先から駆け寄ってくる様子が目に浮かぶ。
その鳴き声ひとつで次々と思い出がよみがえり、無性に会いたくなる。俺の大切な存在…。
あぁ、クロだ。
そう感じた瞬間、木の幹の中から子供が出てきたのだ。
…え、子供?
クロを見つけたと思ったら、子供が出てきました。はい。
自分でも何を言っているんだろうと思うけど、マジです。マジのマジです。はい。
そんな俺の混乱を他所に、木の幹から光と共に出てきた子供が近づいて来た。
「ケン!遅い!なんでもっと早く来てくれなかったんだ。僕はもう待ちくたびれた!」
そう言いながらすぐ側で怒っている子供をよく見る。
年は10歳くらいだろうか?僕と言っているから男の子なのだろう。
焼けていない白い肌に映える艶のある黒髪に、緑がかった黄色の目。吊り目がちなその目はどこかクロを彷彿とさせる。子供らしい細い身体にまとっている赤い服は、俺がクロに付けていた首輪と同じ色だ。
「もう!ケンってば、聞いているの!?」
「いや、聞いてなかった。なんだ?」
目の前の子供の観察に没頭していたから、なにも聞いてなかった。
そんな俺の態度にどうやら怒っているらしい。
「だーかーらー!ケンが来るのが遅いから、僕もうお腹がペコペコだって言ってるの!」
「いや、木の存在を知ってからこれでも早く来たつもりなんだが…。というかお前誰だ?なんで俺の名を知っている?」
そう、ケンは俺の名だ。早川健。どこにでもありそうな名前だが、覚えやすくて気に入っている。
「はぁ?僕だよ僕!クロだよ!ケンはケンでしょ?僕のご主人様」
にゃーん