96 起きて話す
「霊熱病治療はダイオンが喜ぶ情報だけど、他の人に知られたら確実に面倒事が起きる情報だなぁ」
「利用したい人が集まってくるだろうね。仲間以外には知らせない方がいい」
言いながらローズリットはまた寝転んで俺の足に頭を載せる。
本当に苦しんでいる人もいるだろうけど、利用したいって人もいるだろうし、迂闊に広められない情報だよなぁ。
ローズリットもなにかしらの情報があるって管理者が言っていたな。なんだろ?
「ローズリットから話すことはなにがあんの」
「私が常時顕現するってこと」
「これまで力を使いすぎるからできなかったよね。それができるくらいには力が溢れてるってことか」
「溢れる力を私と精霊と少しだけシャーレにも流してようやく、落ち着いたのよ」
「シャーレにも?」
「一時的にだけどね。今後は改造予定の馬車に力を流して消費させる」
「どんな改造を施すのさ」
「以前言っていたこと。広くして軽くする。今ならそれができるし、慣れないうちは力の貯め込みすぎは体によくない」
俺自身が処理できないから、自動的に力を使ってしまうようにするんだな。世話をかける。
それにしても自身の強化に使ってローズリットと精霊に力を流すのに、さらにそれだろ? 思っている以上に力が溢れてるし自分でどうにかできる自信はないな。自動消費は助かる話だよ。
膝枕くらいで礼になるならいくらでもしないといけないな。
ローズリットの気が済むまでこのままでいることにする。幸い夢の中だからトイレに行く必要もないし、足が痺れることもない。
現状でできることの講義を受けていたら、シャーレがそろそろ起きるということで、俺も起きることになった。
「現で会いましょ」
「はいはい」
部屋の色が抜けていき、真っ白になって意識が閉じていく。
目を開けると宿のベッドだった。部屋の中は暗い。扉とか窓の隙間から光が差し込んでくることもないから、夜なんだろう。
体を起こそうとしたら腹に何かがいる。
よく見ようと、明かりの魔法を発動させる。
「イット。明るく照らせ」
カッと太陽かと思うような明かりが間近に生じた。目が痛い!? 腹の上いるやつも驚いて動いている。すぐに魔法を消す。スタングレネードってこんな感じなのか。シャーレと開発したものと似たものを自分で食らうことになろうとは。
少しの間、目が眩んで暗さになれようと目を瞬く。そうしているとローズリットの声が右耳のすぐ近くで聞こえてくる。
「魔法が強化されていることを失念していたわね」
「そういえばシャーレも火の属性が強化されたとき失敗してたっけ。同じことをやらかしたのか」
「目が慣れたら、今度は魔法を使うときにキーなしで使ってみなさい」
「それで発動する?」
「今のあなたなら大丈夫。精霊が風を動かしたりするときキーを口に出していないでしょ? 加護が一つになって、そこらへんも同じ感じになってるわ。キーを口に出して正式に手順を踏むと強すぎるから、今後はキーなしで魔法を使うといいわ」
「明るく照らせ」
できるだけ弱い光をイメージして魔法を使うと、蛍のような光が指先に生じた。
シャーレも同じ感じになってそうだし、魔法を使う前に言っておかないとな。
光を頭上に浮かばせて、光量を上げる。その光に照らされて、ようやく腹の上にいたやつを見ることができた。霊獣のときと同じ姿の鷲だ。
「驚かせてごめんな」
言いながら、そっと背に触れる。鷲がおとなしく受け入れてくれた。
さて名前がないんだっけ。なにがいいかな。鷲の英語をそのままにするのは安直だと思う。この子の境遇からつけてみるか? まだ生まれたばかりで人に捕まり、魔物材料に……駄目だな。そこを参考にするとろくな名前にならない。新しい生なんだから、過去のことは置き去って、もっと楽しい思い出を作ってもらいたい。
たしか楽しい思い出って花言葉があったような……ニチニチソウの花言葉だったか。ニチニチソウってつけてもなんだか違和感がある。ローズペリウィンクルが英語名だったはず。ペリウィンクルがそれっぽく思える。
「お前の名前はペリウィンクルでどうだ」
「ピー」
小さく返事をしてくれた。拒絶の意思は感じなかったと思う。
「受け入れたようよ」
「ローズリットもそう思うのなら、嫌がってないんだろう。お前は今日からペリウィンクルだ。よろしくな」
よろしくという意思表示なのかピョンピョンと軽く跳ねる。
ペリウィンクルをそっと撫でつつ、自身の記憶力に疑問を抱く。花言葉とか意識して覚えた記憶はないのに、すっと出てきたし、英語名も出てきた。強化されたことで思い出すということもやりやすくなったんだろうか。
そんなことを思っていると、ローズリットがどうしたのかと聞いてくる。疑問をそのまま口に出す。
「それは私との繋がりが深まったからでしょうね。私はリョウジの記憶を大事に保存している。その保存領域に無意識にアクセスして思い出しやすくなった」
強化されたことが直接の原因ではないけど、的外れでもなかったのか。
俺が忘れたいことも保存されているんだろうし、あまりアクセスしたい場所じゃないな。
「んん」
シャーレの声が聞こえてきた。衣擦れの音も聞こえて、人影が身を起こした。
「シャーレも起きたのか」
「主様」
明かりをもう少し強くして、部屋全体を照らす。
シャーレはぼんやりとした表情で俺を見ていたかと思うと、目に涙を浮かべた。すぐにポロポロを涙がこぼれだす。前にも泣かれたことはあるけど、そのときとはまた違ったように見える。
「ちょっ!? なんで泣く!?」
シャーレはなにも答えずに、ベッドから転げ落ちるように出て、俺に勢いよく抱き着いてきた。
ローズリットとペリウィンクルのことは見えていないようで、大きく揺らされたローズリットと挟まれたペリウィンクルが悲鳴を上げた。
「主様! 主様!」
「はいはい、どうした」
俺を呼ぶ声音には怯えがあった。俺に怯えているんじゃないのはわかる。ではなにに怯えているのかというと、それはわからん。
何度も俺を呼んで、離さないと抱き着く力を強める。ここにいるぞとシャーレの背を撫でる。
ペリウィンクルはどうにか俺とシャーレの間から抜けて出て、ピーピーと抗議の声を上げた。そのペリウィンクルも撫でて落ち着かせる。
十分くらいそうしていたけど、シャーレが落ち着く様子はない。シャーレはこのままだといつまでも抱き着いていそうなので、撫でるのを止めて顎に手をやって俺の方を向かせる。
涙で濡れるシャーレの目にはやはり恐怖が宿っていて、寂しさもあるような気がする。
「どうしたんだ? なんで怯えているのか理由を教えてほしい」
俺の手をシャーレは両手でしっかりと握る。その手は小さく震えている。
「怖い。寂しい。一人は嫌」
「一人じゃないぞ。俺が、俺たちが近くにいるだろう」
シャーレはこくんと頷くけど、震えが治まることはない。
「んー? 近くに誰かがいないから寂しさを感じるってわけじゃないのか」
「もしかしたらシャーレの在り方が問題なのかもしれないわね。あれが言ってたでしょ。単独種だと。自分と同種がいないことの孤独感からくる怯えなのかもしれない」
ああ、納得できる話だ。そして具体的な解決法もない。そう簡単にシャーレと同じになんてなれやしない。俺は希少種ではあるけど、神獣という同族がいる。だから孤独をわかってやることはできない。
「今のシャーレはリョウジとの繋がりが縋れるものなんでしょう。それが切れかけたことも怯えの原因なんだと思うわ」
「そっか。じゃあシャーレ、約束だ。一緒にいる。なにがあっても離れない。だからお前は一人じゃない。そばには俺がいる」
頭の片隅でプロポーズみたいだなと思ったが、それもいいかと思う自分もいる。管理者もラブがあると言ってたしな。俺もシャーレから離れようとはもう思わん。
「本当?」
「ああ、本当だ。だから泣くな。泣き顔はお前には似合わないと思う」
「……はい。あの、まだ抱き着いてていいですか」
「いいよ、ほら」
両手を広げるとシャーレはそっと抱き着いてきた。また背中を撫でる。シャーレの震えは小さくなった。
空いている手にペリウィンクルが体を寄せてきたので、そちらもまた撫でる。
そのままでいると窓の隙間から光がわずかに差し込み、朝が来たとわかる。その頃にはシャーレの震えもほぼなくなっていた。まだ寂しさはあるけれど、俺が近くにいれば耐えられる程度にまで治まったんだと思う。
部屋の扉がノックされて、返事を返すとダイオンたちがほっとしたように入ってきて、今の光景に驚く。シャーレがいつもより甘えているし、肩にはローズリットがいて、ペリウィンクルもいる。
「体の調子はどうだ?」
「どこも悪くないよ。逆に調子がいいくらい。良すぎて問題があったけど、ローズリットがどうにかしてくれたよ」
「ローズリットが出ていることもあわせて、いろいろと話を聞きたいがまずは食事が先がいいか?」
「そうしてくれると助かる」
その前にトイレだけどなー。
シャーレに離れてもらって、トイレと食事をすませる。
ペリウィンクルはペットで誤魔化せるけど、ローズリットはそうではなく宿泊客の注目が集まっていた。旅を始めた頃から注目されるのはよくあることだったから、今更どうこう思わないな。
会議用に与えられた部屋で、話し合いが始まる。
コードルたちとレンシアはローズリットを見ているけど、まずは俺とシャーレが気絶してからのことを聞かせてもらう。
ふむふむ、俺たちが気絶してから夜明けまで鍛冶場入口で待機、その後宿に戻って丸一日寝て起きた。
大精霊たちとファッボさんからお礼がある。ダイオンたちは防具用の鉱石をもらって、鎧作成をここの職人に無料で優先の仕事としてやってもらう。ついでにイリーナはアッツェンでもらった鉱石を使った武器作成も頼むようだ。コードルたちは加護をお礼としてもらい、武器を優先で作ってもらう。
「なるほど。俺とシャーレは大精霊からの加護が礼ってことになるだろう。町長からは……どうしようか。俺もブレストプレートとか作ってもらうかな。シャーレは弓とかかな。旅用のメイド服を新調したいけど、ここは布は扱ってなさそうだし」
「服職人はいると思いますけど、いいものを作れるかと言われるとノーと言わざるを得ません」
レンシアがそう言ってくる。
「弓もしくはどこかで新調できるようにお金をもらうかのどちらかで」
「ブレストプレートと弓かお金ですね」
承知しましたとレンシアがメモを取り、こちらを見てくる。
「今日サイズを測って、明日祠に行って鉱石や加護を受け取って、その後に鉱石を持っていき作成開始という流れになりますがよろしいでしょうか?」
頷くと、メモ帳に短くなにかを書いて閉じる。
「では次ですが、肩にいる人と鷲について聞きたいのですけど」
「精霊と精霊、終り。と言いたいけど少しくらいは説明しようか。肩に座っているのはローズリット」
「リョウジの姉。よろしく」
姉? とコードルたちとレンシアが首を傾げた。
「自称ね、自称」
「自称であっても精霊から姉と名乗られるのは驚きなんだけどね。姿を見せるのは魔力を使うからできるだけやらないんじゃなかったのか?」
ダイオンが聞いてくる。それに答えたのはローズリットだ。
「四つの加護が統合されたことで、力の増量が起きたの。それをそのままにしていたら体に悪いから、私とペリウィンクルに流したことで常時顕現が可能になった」
神獣化による力の増量は隠すことにしたのか、ローズリットはわざとはしょって説明した。
「ペリウィンクルというのがその精霊の名前なんだな」
「リョウジがつけたのよ。この子も受け入れているし、不満があっても変えさせないわ」
「いや不満はない。傷ついていたはずだが、完治したのかとは気になるが」
「完治しないと精霊となって外に出ないわ」
ということらしいとダイオンがレンシアへと告げる。ダイオンも細々としたことは伝える気がなかったんだろう。
「ここから先は仲間だけに伝えておきたいから部外者は席を外してくれる?」
「あ、はい。では礼に関しての要望を町長に伝えてきます」
「俺たちも席を外そう。あと俺たちから話があるから時間をもらえると嬉しい」
席を立ちながらコードルが言う。
ダイオンたちと顔を見合わせて、ダイオンが小さく頷き、わかったとコードルに返す。
四人が出て行き扉が閉まって、話を続ける。
「リョウジはシャーレの状態をわかっているのか? 俺たちは大精霊から聞いているけど」
「夢の中で神から聞いた。シャーレ、許可なく全力で魔法を使うのは駄目だからね」
「わかりました」
理由を問わずに頷いてくる。でもダイオンとイリーナは気になったのか、どうしてだと聞いてくる。
「加護が統合されたことでパワーアップしたんだけど、できることの一つとして精霊の強化がある。シャーレも強化に該当して、その状態で全力を出すと、この町は一日とかからず廃墟になるそうだよ。しかも制御できなくて俺たちも巻き込まれる。火力という点のみなら、人間でトップだそうだ」
「断言されたのか。そりゃ許可なしでの全力は禁止にするわな」
「俺もそうだったんだけど、シャーレは魔法を使うときキーなしで使うといい。そうすれば自動的に手加減できる」
「発動できるんですか?」
「明かるく照らせ」
発動のキーなしでの魔法発動を実際にやってみせる。
「できたな」
「できたわね」
驚きながら俺の手のひらに浮く明かりをじっと見つめるダイオンとイリーナ。
「火よ」
シャーレが人差し指を立てて、指先に炎を出現させる。
「できました」
なんとなく褒めてと期待の視線を向けられた気がするんで、偉い偉いとシャーレの頭をなでると嬉しげに笑む。
「シャーレに関しては寿命が延びたり、霊熱病が治ったというか体に負担をかけるところを通り過ぎたとかだったり、水に弱くなったとかだな」
「火の属性に特化したんだろうし、水に弱くなるのは納得できる」
「海といった四方に水がある状況だと弱体化して魔法も使えなくなるそうだから、そのときは俺よりもシャーレの護衛を頼む」
「わかったよ。それにしても霊熱病が治ったのは羨ましい」
「ああ、霊熱病とか俺も治せるようになったよ」
間近にいる人が持つ魔法の適性を感知できて、問題ない程度にまで抑えられるのがなんとなくわかる。抑えた分はもう一つの魔法資質に振り分けるから、治すというより調整するって感じだな。
俺の発言にダイオンは衝撃を受けたように呆然としている。
感想と誤字指摘ありがとうございます




