94 確認がほしかったお礼
「申し訳ありません」
火の大精霊がしゅんとして謝ってくる。
「喜ぶなと言わないよ。でも俺が帰ってからにしてくれ」
「はい、ごめんなさい」
「そう責めないでやってくれ」
石像から聞こえていた声がする。聞こえてきた方向を見ると壁から祠にあった石像にそっくりな岩人形が現れる。喜びの表情で火の大精霊が近づいていった。
「あなた!」
「妻よ。贈り物は今度こそきちんと届いただろうか」
「はい。たしかにここに」
手のひらに載せた青い指輪を地の大精霊に見せる。そしてもじもじとそれを地の大精霊に差し出す。
「あなたにはめていただきたくて」
「うむ」
地の大精霊が指輪を受け取り、火の大精霊の手をとって指輪をはめる。火の大精霊はそれを見た後に、地の大精霊に寄りかかる。
「うふふ、私は幸せものです」
「俺もだ」
俺のことを忘れたように二人だけの世界に入る。
幸せそうでいいことだと思うし、周囲の環境も荒れてないから命の危険を感じてもない。だからといってこのままずっと待たされるのも……帰っていいよね?
普通にジャンプしても天井には届かないだろうし、ローズリットに交代して空間魔法で足場を作って天井まで移動しようかな。
ローズリットに交代する前に地の大精霊がこちらに気づいてくれた。
「放置してすまないな。外まで送ろう。そこで礼をしなくてはな」
地の大精霊が地面に力を使い、俺の立っているところが動き出して、天井の穴に入り上がっていく。精霊二人も一緒に地上に向かう。
すぐに鍛冶場へと戻れて、シャーレが駆け寄ってくる。
「主様! どこか怪我などありませんか!? 底の方が騒がしかったので心配しました」
「ないよ。少し命の危機は感じたけどね」
念のためと体のあちこちを調べられているうちに、レンシアが精霊たちに話しかける。
「誤解は無事に解けたのでしょうか?」
「迷惑をかけたな。こうしてまた一緒にいられる」
「迷惑をかけて、ごめんなさいね」
「また一緒になれたようで良かったです。鍛冶場はもとに戻るのでしょうか」
「もう大丈夫だ。すぐにでも戻る」
「穴を覗けばマグマが少しずつ上がってきているのがわかりますよ」
コードルたちが穴を覗き込んで確認し、レンシアに頷いている。
「これで無事終わりですね。あとは帰って報告だけですか」
「帰るのは少し待ってください、解決に動いてくれたお礼を。まずは私の加護を彼と彼女に」
火の大精霊がそう言って、俺とシャーレに火の粉をふわりと投げてくる。
シャーレも大精霊の加護を受けられる素養があるのか、ってちょっと待った! 霊獣の欠片とかで抑えているのに強化されたら霊熱病がひどくなるんじゃ!?
止めようと思い、声を出そうとして口を開いたときには火の粉は俺とシャーレに触れていた。
シャーレの様子を見ようと思ったけど、そうすることができずに意識が落ちる。落ちる直前にはなにかがあふれ出しそうで、抑えきれない感覚があった。
◇
亮二とシャーレが気絶してその場に崩れ落ちる。突然のことに皆反応できず、三秒ほどでダイオンが動く。
ダイオンは慌てて二人に近づき頭部を打っていないかの確認をする。
亮二はぱっと見ではなんの問題もない。怪我も変化もなかった。大きな変化は亮二から生まれたくすんだ銀色の鷲だろう。この場にいるダイオンだけは鷲の正体がわかるため、亮二に寄り添う鷲を気にしない。
シャーレの方も怪我はないが、周囲に小さな炎を出しては消してと繰り返している。見た目も髪の毛が朱色に変化していて、手の奴隷印がこれまでのものから金のファイアパターンに変化した。
「え、なんで気絶したんですか!? あの鷲はリョウジさんの体から出てきませんでした? それにシャーレの変化も!?」
レンシアが驚き、加護を与えた本人に思ったことを全部聞く。火の大精霊もシャーレの変化に少しだけ驚いている様子だ。鷲については大精霊たちは把握できていた。
「リョウジの方は想定していたことだ。四つの大精霊の加護が一つになり、力がコントロールできないでいる。暴走する前に本能が意識を落としたんだ。本当ならばこのまま一ヶ月は眠り続けて体になじんでいくのだが、彼の中にいるものが調整しているようで数日眠るだけでどうにかなるだろう。鷲は傷ついた霊獣の魂が彼の中にいて、自身に適した力を吸いとって、精霊として生まれた」
「女の子の方は、ちょっと素質を見誤ってましたね。大精霊の加護を与えたことで、火の素質が人間の域を超えて、精霊の域に届きました。そして精霊に変化しかけています。ですがリョウジと言いましたか? このまま変化してしまえば、彼との繋がりがなくなるところでした。それが嫌なのか繋がりを手放す気がなく、完全には精霊へ変化しないようです」
「ということはシャーレは人間と精霊のハイブリッドといった感じになるのだろうか?」
ダイオンが聞く。人間と精霊の間に子供ができたという伝承を聞いたことはある。
それに火の大精霊は首を横に振った。
「人間であり、精霊でもある。人霊同位体とでもいうのでしょうか。世界で初めてでしょう、このような変化は。おそらく必要によって姿を切り替えることができるようになるのだと思います。今の姿が精霊としての姿ですね。その代償というのか、その子にあった地の素質は完全に消えてしまったようです」
シャーレは主に火の魔法を使っていたので、地の魔法が使えなくなっても気にすることはないだろう。それよりも亮二との奴隷契約が切れかけたことを気にするはずだ。
「シャーレはどれくらいで起きるんだ?」
「長くても三日後には。今の状態では町に戻っても大変でしょうから、私から干渉して火だけはでないようにしておきましょう」
火の大精霊がシャーレに手を向けると、出ては消えていた火が出なくなる。
「彼らの説明に関してはもういいな? 次は君たちだ」
「といってもあなたたちには加護を受け取る資質がないから、かわりのなにかを与えましょう」
「ほしいものがあれば言ってくれ、可能であれば与えよう」
「そう言われましてもすぐには思いつかないのですが」
レンシアがそう言い、コードルたちも頷く。
ダイオンは自分と同じことをやればいいのではないかと思いついた。
「火と地のどちらかの資質がある者に、加護を与えてもいいという精霊を紹介するのはどうですか? 俺は以前そうやって風の大精霊から精霊を紹介してもらったんですが」
「それは可能だな。そこの女以外に加護を与えることはできそうだが、それがいいか?」
除外されたのはフロスだ。フロスは水と風の資質なのだ。
「俺は遠慮する」
「私も」
ダイオンは霊熱病が悪化してはたまらないと加護を受けることを固辞し、イリーナも続く。イリーナは母たちのように自力で強くなりたかったのだ。
二人は性能の良い防具を作るための希少な鉱石を求めて、地の大精霊から了承を得た。フロスもそちらを願う。
レンシアとコードルとシバニアは加護をもらうことにして、精霊を紹介してもらう。
礼は今日中には準備できないので、また後日祠で渡すことになり、今日は解散だ。
大精霊たちが姿を消して、ダイオンが亮二を、イリーナがシャーレを抱える。鷲は抱えられた亮二の腹に座り、目を閉じた。
コードルとシバニアはリヤカーを鍛冶場から借りて、拘束している黒装束たちを運ぶ。
鍛冶場から出ると日が暮れており、人を抱えての夜の山道は危ないとその場で夜を明かすことにする。
周囲に魔物の気配はないが、傭兵が潜んでいる可能性はあり、警戒は怠らずに夜を過ごす。夜中に拘束されている者たちが起きて呻いていたが、気絶した亮二たちが安静にできないと頸動脈を絞め気絶させられた。
そして夜が明けてすぐに鍛冶場から移動し、町の入口で警備兵に拘束している黒装束たちを牢屋に入れるようにレンシアが指示を出す。
宿に戻って亮二とシャーレを寝かせて、ほかの者たちは朝食を食べる。
朝食後、レンシアとコードルたちは役所に向かう。ダイオンとイリーナは仲間の護衛のため宿に残った。
シバニアだけは別行動でトルトークの工房に向かった。大精霊たちがトルトークに礼を言ってほしいと頼んでいたのだ。
シバニアからこのことを聞いたトルトークは、鍛冶場が再稼働すること、大精霊に喜んでもらえた品を作れたことを嬉しそうにしていた。
役所に向かったレンシアたちは、ファッボとリンクルスからどうだったのかと期待と不安が籠った視線を向けられる。
「報告します。昨日祠で地の大精霊様に指輪を確認してもらい、その後鍛冶場に向かいました。鍛冶場には正体不明の三人が倒れていて、これを拘束。その後指輪を持ったリョウジさんが穴の中へと降りて行きました。しばらくして地の底から振動が感じられ、不安を感じましたが、それ以上の異変はなく、リョウジさんが大精霊様たちと帰還。鍛冶場の異変は無事解決となりました」
四つの加護が一つになることや精霊が生まれたことやシャーレの精霊化は言わなくていいだろうと、レンシアは除外する。
「そうか解決したか!」
「良かったです」
ファッボとリンクルスは心底ほっとしたように笑みを浮かべた。
これで町にまた活気が戻ってきて、食い詰めて馬鹿をやる人間がでてくることはないだろうと町の行く末に希望が見えた。
「鍛冶場はいつから使えるようになるのか聞いているのかね」
「すぐにでも使えるだろうと大精霊様は言っていましたよ」
「ではすぐにこのことを町中に知らせよう。また忙しくなるぞ」
「町長、その前に尽力してくれた方たちへの礼が先です」
町をまた以前のように戻したいと気が急いて、礼のことがすっぽりと頭から抜け落ちていたファッボがはっとした表情になる。
「ああ、そうだったな。レンシア嬢、彼らがなにを希望するのか聞いてもらえるか」
「わかりました。ただしリョウジさんはしばらくは眠りっぱなしだと思うので、起きてから報告にくることになると思います」
「加護を持つ彼か。怪我でもしたのか?」
「それに近いですかね。重傷というわけでもないので大丈夫ですが」
「大怪我したわけではないのか、それは良かった」
今回の依頼で、傭兵仕事ができなくなるくらいの怪我をした可能性もあり得ると想像したが、そうではないと否定されて安堵する。
「鍛冶場についてはここまで。別の話をしましょう。捕まえた黒装束の人たちですが、どこの誰か調べた結果をこっちにもお願いします」
「もちろんだ。ちなみにレンシア嬢はそれらをどう見ている」
「町長が警備を潜ませていた可能性もあると思っていたのですが」
ファッボはないと否定する。
「そういった警備は置いてないな。私が出した指示は、明るい間に鍛冶場周辺を巡回させた程度だ」
「では中央領地の人間かもしれませんね。解決の阻害を狙っていたけど、大精霊様の行動で偶然無力化された」
「大精霊様はなにをしたんだ?」
亮二が地下に向かうために空気穴を作ったこと、それでガスが鍛冶場に流れ込んだことを説明する。
今ガスはどうなっているのかファッボは尋ね、ほぼなくなっていると返され、ほっと胸をなでおろす。今度はガスの問題で使えないのかと思ってしまったのだ。
報告を終えて、レンシアとファッボたちは領主に渡す報告書を作成していった。
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