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縁をもらって東へ西へ  作者: 赤雪トナ
91/224

91 下山と逮捕

 レンシアが祠を開けると、すぐに石像が外に出てくる。


「持ってきたな……やはり質が落ちている」

「直接見なくてもわかるんですね」


 断言した石像の前に鉱石の入ったリュックを下ろす。

 

「では補完するか。今から穴を開ける。そこに鉱石を入れて、その後霊水を注いでくれ」

「りょーかいです」


 リュックが置かれている地面がへこみ、ダイオンとシバニアがリュックから鉱石を取り出して置いていき、リュックを持って穴から離れる。その穴に俺が水を注いでいく。


「どれくらいですか?」

「いいと言うまで注いでくれ」


 そう言って石像は穴のそばまで移動して、手のひらを下に向ける。その手のひらから目に見えない力が放たれたのがなんとなくわかった。そろそろ溢れるかなといった感じだった水は、溢れることがない。

 おやと首を傾げた俺に、石像がどうなっているのか説明してくれる。


「鉱石に霊水を吸わせているのだ。あと五分ほど霊水を頼んだ」


 俺は頷いて水を出し続ける。水の増加よりも減りの方がわずかに早く、五分の間に水位は半分近くまで減っていた。

 もういいと石像に声をかけられ魔法を止めて、水がいっきに減っていく。

 鉱石はわずかに青みを増しているように見える。青金石に見た目が近いかな。


「完成だ。これを職人に持っていってくれ」


 鉱石をリュックに入れていく。水に浸かっていた鉱石はまったく濡れていなかった。

 指輪が完成したら、またここに持ってきてくれと頼まれたあと山を下りる。

 山の中腹よりも前でまた少し嫌な感じがした。それを皆に告げる。すぐにシャーレたちが警戒度を上げて、コードルたちも念のためといった感じで武器を抜く。

 

「勘なのですよね? そこまで警戒することですか?」


 レンシアが不思議そうに聞く。


「主様の勘は当たります。これまで何度も危機などを察してきました。レンシアさんも油断だけはしないように」


 シャーレに真剣な声音で言われたレンシアも気を引き締めた表情になる。

 そうして五分ほど進んで、シャーレとダイオンとシバニアがもっと進んだところから人間のものらしき気配を察した。

 休憩を装ってその場に留まり、どうするか話し合う。

 

「見た限りでは姿は見えなかったし、隠れているんだろう。こっちから魔法を打ち込んで奇襲もありじゃないか? 入山規制されているんだから、登山客ってわけでもなさそうだし」


 コードルの提案に俺は賛成だけど、レンシアが首を横に振る。


「中央領地からの調査員だと厄介なことになるので。一応向こうから許可をもらった人が山全体を調べることは可能なんですよ」

「調査員なら隠れる必要はないと思うのだけど」


 フロスの疑問に、向こうもこちらの正体を察しておらず隠れたという可能性もあるとレンシアは答える。

 いやな予感に引っかかるってことは調査員だとしても、まともな奴じゃなさそうなんだけどな。レンシアは俺の勘について知らないし、判断材料にはできないか。

 警戒したままいつでも戦闘準備に入れるように下山ということになる。


「飛び道具に備えて風の魔法を使ってもいい?」

「いいと思うぞ。向こうが警戒しているというなら、こっちが警戒しててもおかしくないだろうし」


 俺とコードルがレンシアを見ると、頷きが返ってきた。

 下山を再開し、シャーレたちが感じた気配の場所に近づいても、相手は姿を現すことはなかった。気配はコースから少し外れたところにあるようで、このまま進んでもぶつかることはない。そのまま気づいていないふりをして素通りする。

 様子見だけなのかと思っていたらシャーレがきましたと小声で伝えてくる。

 すぐになにかが風の守りに遮られ、地面に落ちる音がした。

 即座に全員が戦闘態勢に入る。

 相手も隠れていたところからぞろぞろと出てくる。八人の男女がそれぞれ武器を手にしている。そして無言で襲いかかってくる。

 戦闘はすぐに終わる。相手側はダイオンよりも二回りくらい格下ばかりだったのだ。山での戦い方に慣れた感じだったけど、それだけでは実力差を覆せなかった。劣勢を悟って逃げようとしたが、それも無理で全員が気絶した。


「ただの賊なのか、なにかの目的があったのか。持ち物を探ってわかればいいのですけど」

「俺はこいつらが隠れていたところを探ってみる。そっちにもなにかあるかもしれない」


 シバニアが言い、コードルもついていく。

 気絶した者はダイオンたちが調べている。武具は離れたところに一ヶ所にまとめて、起きたら逃げにくいように靴と靴下を脱がし、薄着にもしていく。凍死はしないけど、確実に体調を崩して寝込むことになりそうだ。

 彼らの懐から出てきた手帳で、傭兵だとわかる。手帳にはいくらで雇われたことは書かれていたが、誰からといったことは書かれていなかった。

 調べているうちに寒さで彼らが目を覚ます。現状を察して逃げようと周囲を見ていたけど、薄着と裸足では無理だと諦めて、靴などの返還を要求してくる。


「あなたたちが誰から雇われたのか話してくれるのなら返しますよ」


 レンシアが言うが、傭兵たちは答える気はないようだった。


「信用に関わるから答える気はないということですね。でしたら領主権限でこの場で死刑でもかまいませんね」

「そんな勝手が通るか!」

「通るのですよ。私はある程度の権限を領主様から受けてこの場にいるのですから。領主代理として派遣された私を殺そうとしたのですから、死刑になってもなにもおかしくないでしょう?」

「殺そうとなんてしていないわ!」


 その言い訳はさすがに通らないだろ。背後から奇襲してるんだし、明らかに殺意がある。

 レンシアもその言い訳を認める気はないようだった。


「正式に死刑を通達してもいいのですよ? この場で簡易裁判を開きましょう。加害者はあなたたち、被害者はこちら。裁判官も検察官も私が権限で行えます。弁護人は準備できないようですから、弁護はなしで。では開始です。裁判官、私は彼らに死刑を求めます。よろしい、検察官の主張を認めます。では次に加害者の弁護人はでてきなさい。あら、弁護人はいませんね。彼らは被害者の訴えを退けることはできません。よって死刑を認めます。これで裁判を終了します」

「そんな無茶苦茶な!」

「無茶を通せるのが権力というものなのですよ」


 俺も無茶苦茶だと思うな。本当に今の裁判は正当なものなんだろうか? 今それを口に出したら邪魔にしかならないだろうし黙っておくけど。

 そこらへんがわかっていそうなダイオンをちらりと見ると苦笑はしているけど、無茶だという表情ではなかった。


「だいたいあんたが本当に代理として派遣された人物なのかもわからないじゃないか」

「では山を下りて町長のところにいきましょう。町長は領主様から私について書類を受け取っていますからね。証明してくれます」

「……わかった。山を下りて町長のところに行く。だから服などを返してくれ」

「断ります。こちらの命を狙った人に武装を返すわけありませんし、逃げられないよう靴なども返還しません。そのまま一緒に山を下りてください」


 わあ、厳しい。いや逃走を阻止するためには当然の処置かもしれないけど。町に帰る頃には足の裏がひどいことになってるわ。

 傭兵たちはわめいているけど、レンシアは聞く気がないようだ。

 俺たちが出発の準備を整えていると、傭兵の一人が鍛冶屋からの依頼だと叫んだ。


「鍛冶屋ですか?」

「ああ、そうだよ! 中央領地と組んだ鍛冶屋があんたらの始末を依頼してきたんだ」

「詳しく」


 観念した傭兵にレンシアは上着を返す。それを見て、ほかの傭兵も知っていることを話していく。情報が洩れてはこれ以上隠してもどうしようもないと判断したようだ。どれも似た情報だったけど。

 わかったのは鍛冶屋の詳細、その鍛冶屋と組んでいる中央領地の人間の顔などはわからなかった。

 邪魔した事情は簡単だった。問題解決しない方が中央領地にとって都合がいいからだ。


「靴は返しましょう。武具はこの場に置いて行きますけどね」


 文句を言うが、それならば靴も返さないとレンシアが言い、傭兵たちは不満そうに黙る。

 傭兵たちが靴を履いて、さて出発というタイミングで傭兵二人がシャーレへと迫る。子供を人質にして逃亡でもという考えなんだろう。でもひらりと避けられた。シャーレは鋭いから、傭兵の考えなんて読めてたろうしね。狙うなら俺かレンシアだろう。


「スー。凍てつく風よ吹け」


 すぐにフロスが冷たい風をその傭兵たちに吹きつけて体温を奪っていく。風が止んで動きを鈍らせてところで、コードルとダイオンがその傭兵たちから上着と靴を回収し丸めて遠くへと放り投げた。そして立たせようとしたが動かないままの傭兵たちの足を持って引きずり出した。


「やめてくれ! 自分で歩く、歩くから!」

「また人質を取ろうとされたらたまらないからな。お前らはこのままだ」

「いやだ! いやだ! 助けて!」


 俺たちは助ける気はないし、ほかの傭兵たちも巻き込まれてはたまらないと無視だ。やがて助けを求める声は止まり、小さくうめく声だけが聞こえた。そうなってコードルとダイオンは手を離して、自分で歩かせる。

 町の入口が見えて、レンシアは兵を呼んでくると言い、俺たちに傭兵の見張りを頼む。

 小走りで入口まで向かい、そこにいた兵に話しかけたレンシア。話しかけられた兵が別の兵に声をかけて、その兵がどこぞへと走っていく。十分ほどで十人くらいの兵が町の入口に集まった。彼らはレンシアと一緒にこちらへと向かってくる。


「彼らがそうですか?」

「はい、八人の傭兵が私たちに背後から奇襲してきました。中央領地の人間に雇われたと自白しています。のちのち証人となりうるので牢屋に入れて見張ってください」

「わかりました。お前たち連行しろ」


 兵が傭兵を捕縛するのに邪魔とならないよう端に避ける。


「彼らを牢屋に入れたら引き続き手伝いをお願いします。ロッカンセル鍛冶屋の捜査を行います。私がそれを行うと町長に連絡もお願いします」

「了解しました」


 兵が傭兵たちを連行する後ろをついていきながら、俺たちはどうするかレンシアに尋ねる。


「このまま同行お願いします。向こうに腕利きの傭兵がいないともかぎらないし、役所に中央領地の息のかかった人がいて鉱石を持ち逃げされるのも困るので」


 兵の詰所まで移動し、傭兵たちは牢屋に入れられた。

 次は兵たちの案内でロッカンセル鍛冶屋へ向かう。兵と一緒に大人数で移動している俺たちを、住民たちはなんだなんだと注目している。

 件の鍛冶屋に着いたら「御用改めである!」とか言いたくなる雰囲気だ。

 ロッカンセル鍛冶屋はさほど大きくはない、鍛冶のみの店だ。店頭販売はしていないようで、住居と鍛冶場が一体化した建物だった。

 兵たちは表と裏をふさぐ配置に着き、三人の兵が俺たちと一緒に屋内に入る。


「なんですかっあなたたちは!?」


 住人らしき女が驚き誰何してくる。先頭に立つレンシアが返す。


「領主からの命を帯びて行動する者です。ここにスパイ容疑がかかっています。家宅捜査を領主権限で行います。おとなしくしてください」

「スパイ!? なんのことですか!」


 あの女の驚きようは演技には見えない。本当に知らないのか、演技に長けているのかどっちだろうか。

 奥へ進もうとするレンシアを女は止める。


「邪魔をしますか。拘束をお願いします」


 レンシアの願いに兵が頷いて、ロープで女を縛る。

 その騒ぎを聞きつけた住人たちが姿を見せる。彼らにもレンシアは家宅捜査をすることを告げる。おとなしくしているなら鍛冶職人以外は拘束まではしないと言って、兵たちと捜査を開始する。

 腕利きの傭兵がいなかったため、俺たちはずっと見学だった。

 捜査は時間をかけて建物の隅々まで行われた。一通り調べ終わる頃には日は落ちていて、町長からの使いもやってきていた。

 その使いにレンシアがこれまでのことを説明し、鉱石はこちらで預かっておくことを使いに言付ける。

 使いが帰ったあとに、スパイと決定づける証拠が見つかったようで、レンシアが鍛冶職人を牢屋に入れるよう兵に頼み、解散を告げる。


「私は町長に報告に行ってきます。皆さんは先に宿へ」

「コードルたちレンシア嬢の護衛を頼めるか。派手に動いたし、ほかにいるかもしれない中央領地の人間にレンシア嬢が狙われるかもしれない」

「わかった」


 ダイオンの頼みに頷いたコードルたちとレンシアは証拠の書類を持って役所へと歩き去っていった。


「こっちの鉱石も狙われるかな?」

「可能性はあるけど、現状嫌な予感はするかい?」


 言われて周囲や鉱石を探る。特に目立った感覚はなかった。


「ないね」

「だったら、油断しなければ大丈夫だろうさ。むしろ危ないのはそれを扱う職人かもしれないね」

「今から町長のところに行ってそれを伝えた方がいいんじゃないの?」


 イリーナが言い、ダイオンは首を横に振る。


「上に立つ者ならそこらへんは自力で気付いて護衛を派遣するだろうさ。さて宿に帰ろう。風呂にでも入って温まりたいね」


 ダイオンが歩き出し、俺たちも宿へと歩き出す。

 宿に帰ってきたレンシアから話を聞くと、ダイオンの言葉通り指輪を作る予定の職人に護衛がついたということだった。

感想ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] コードルとダイオンがその傭兵たちから上着と靴を回収し丸めて遠くへと放り投げた →服の上から、冷水ぶっ掛けてやれば良いのにw
[一言] 中央領地は大精霊の邪魔をしたいのか・・・・。
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