87 町長との話
うっすらと噴煙を上げる山のすぐ近くに町がある。山の下部に大きな道が続いていて、レンシアが言うにはそれが火山の鍛冶場へ続く道なんだそうだ。いつもは精錬された金属などを運ぶ馬車が行き来しているとレンシアが言うけど、今は鍛冶場が使えないせいか、そういった馬車の姿はない。
止めていた馬車を動かして、町へと向かう。
馬車を預けて、町に入る。主力産業の鍛冶が行えないせいか、町は活気が少ないように思える。人はそれなりにいるんだけど、元気がない。このまま鍛冶場が使えないかもという不安だったり、稼ぎの問題だったりで元気でいられないんだろう。
そんな町だけど嫌な感じはしないし、良い感じがある。問題解決したら加護をもらえるんだろうし、それが縁の能力に反応しているんだろうね。
「いよいよ私も仕事開始です! まずは役所に行きましょう。宿は向こうが準備してくれるでしょうから、とらなくて大丈夫です」
こちらですと張り切った様子のレンシアが先導を始める。
ここに来たことがあるのか迷いなく道を進んで、十五分ほどで大きな屋敷に着いた。
「ここが役所です」
レンシアが入っていき、封筒に入った手紙をカウンターに置いて受付嬢に話しかける。
「こんにちは。領都から派遣されてきたレンシア・フィラメと言います。こちらの書状は領主からのものとなっています、ご確認を」
「確認させていただきます」
自分よりも若いが偉い立場のレンシアに受付嬢はこくこくと頷いて、封を開けて中身を確認する。
何が書いてあるのか読み終わり、受付嬢は丁寧に手紙を封筒に戻す。
「確認は大丈夫ですか?」
「はい」
「では町長に取次をお願いします」
受付嬢は小走りでその場から離れて、階段を上がっていった。そして五分もせずに戻ってきて、息を整える。
「案内いたしますので、こちらへどうぞ」
受付嬢に案内されて、二階の階段近くの部屋に入る。
俺たち全員が中に入ると、受付嬢は扉を閉めて去っていった。
町長の部屋には、五十歳くらいの男と三十歳くらいの女がいた。男の方は右肩に角が、女の方は額に角がある。
「ようこそいらっしゃいました。レンシア様、そして皆様方。この町で町長を務めております、ファッボと申します」
「私は秘書のリンクルスと申します」
二人が頭を下げてきて、こちらも礼を返す。
「ちょっと場所を移しましょうか。ここは椅子が足りませんから」
この部屋は来客を考えた内装ではなく、ファッボさんとリンクルスさんの椅子しかない。領主からの使者を立たせたままというのはまずいと思ったんだろう。
すぐ隣に応接室があるそうだけど、そちらでも全員座るのは無理ということで、会議室に案内される。
リンクルスさんはお茶を持ってくると別の部屋に入っていった。
皆で長机を動かして、ロの字に並べる。
レンシアとファッボさんが向かい合うように座り、俺たちとコードルたちが向かい合うように座る。
「準備が整いましたので、話を再開したいと思います。レンシア様がコードル殿たちと一緒に来たということは占いの人物が見つかったとみてよろしいのですか」
「ええ、こちらはそう考えています」
紙とペンを取り出して記録準備を整えたレンシアが手で俺を示す。
「彼が占いで示されたであろう人物。リョウジさんと言います」
期待を込めて目でファッボさんが見てくる。これでどうにかなるんだろうと思っているかもしれないけど、俺はなにをすればいいのかさっぱりなんだよな。占いでも具体的になにをすればいいかでなかったようだし。
「リョウジです。よろしくお願いします」
「よろしく頼みます。早速だが、どう動くのか聞かせていただきたい」
「どうと言われても答えようがないのですよ。俺もここに来てなにをすればいいのかわかっていませんから」
俺の返答に戸惑いを見せるファッボさん。
「占いに示された人物なのだろう?」
少し声が震えたファッボさんに、それは保証するとコードルが言う。
「占いの解釈が間違ってなければ彼だ。領都で久しぶりに会ったのは彼だけだ」
「こちらの事情は話したのだろう? だったらこうなにか考えはあるのでは?」
「話に聞いただけなので、精霊に会いに行ってみようかといったことくらいしか思いついていませんね」
これくらいはこの町の人たちもやってそうなんだよな。誰か会いに行ったのか、どんな様子だったのか、こちらから聞く。
「山頂に精霊へと感謝を捧げる祠があって、そこに人をやってみたがなんの反応もなく」
「いつもは会える場所なんですか?」
「そこに行けばいつも会えるというわけでもない。年一回ある感謝祭でも姿を見せることは稀だ」
「でも会えることもあると。ではまずはそこと鍛冶場に行ってみましょう。俺が行ってみたらなにか反応あるかもしれませんし。入って大丈夫なんですよね? 鍛冶技術の関係で部外者は入れないとかありますか」
「仰るように部外者は鍛冶場には入れたくはないが、そんなことを言っている場合ではないとわかっているので問題はない」
リンクルスさんがカートを押して会議室に入ってくる。お茶がそれぞれの前に置かれていく。
「山の方は魔物が出たりしますか?」
お茶を一口飲んで、次の質問をする。
それにファッボさんは頷いた。麓は傭兵に討伐依頼を出しているそうだけど、中腹から上は祠に悪さされないためにも侵入禁止にしていて、魔物も放置状態らしい。感謝祭のときには、護衛をつけて祠まで巫女といった神職が山頂まで登っているんだそうだ。
今回祠に行ったのもそういった神職だとファッボさんは話す。
「魔物の強さはどれくらいなんだろうか」
ダイオンが聞く。
「山道ということもあって経験の少ない駆け出しの傭兵にはきついが、魔物自体はそこまで強くはないと聞いている。いつもは熟練の傭兵に護衛を頼んでいて、問題が起きたことはない」
大精霊がいるから魔物も避けるのかな。水の大精霊のいた川も強い魔物はいなかったし。
気を付けるのは魔物よりも雪の山道だな。そんな場所で動いた経験はないし、俺はあまり戦闘に参加できないだろう。
「雪の積もり具合はどんな感じなんですかね。歩くのも苦労するくらい積もっていたりするんでしょうか」
「冬ももう終わりだから、そこまで積もってはいないと聞いている。今回登った者たちによると、滑ってこける方に注意しなくてはいけなかったそうだ」
なるほど。すっごい滑るようならシャーレに魔法で地面を乾かしてもらおうかな。
「山に関してほかに質問は?」
「あそこでやってはいけないこととかありますか」
「中腹以上に登らないということと坑道を勝手に掘らないということ以外に禁止していることはないな」
今のところはこれといった質問は思いつかない。ほかの人たちも同じみたいだ。
記録を取っていたレンシアが俺に向かって質問を投げかける。
「今後の予定は鍛冶場と祠に行くということですが、いつから動きますか」
「先に鍛冶場でそのあと祠でいいかなと思う。鍛冶場は今日でもいいとは思うけど、レンシアは大丈夫? 旅の疲れで明日に回した方がいいならそうするけど」
旅慣れた俺たちはまだまだ動ける。でもレンシアは疲れが溜まってたりするんじゃないだろうか。
「鍛冶場までの道のりがどんな感じなのかによって返答が変わりますね。きついのなら今日は休んで、しっかりと旅の疲れを取りたいですけど」
そこらへんどうなのだろうかとレンシアがファッボさんに問いかける。
「鍛冶場までならば馬車を出すことができます。なのできついということはないかと」
「でしたら今日で大丈夫です。馬車の手配をお願いします」
「わかりました」
ファッボさんはすぐに調査が行われることをありがたそうに頷く。
「リンクルス、これから手配するとしてどれくらい時間がかかる?」
「そうですね……馬車の点検に少しばかり時間がかかると思います。皆様が少し早めの昼食をとってから出発という予定をお勧めします」
行って帰ってくる頃には昼食の時間を大きく過ぎてるのかな。それなら早めの昼食の方がありがたい。
いかがでしょうとリンクルスさんが聞いてきて、俺たちはそれでよいと頷く。
「あとは、皆様宿は取られましたでしょうか?」
「まだです」
レンシアが答えると、リンクルスが「でしたらこちらで手配します」と返す。
「宿泊費などは領主様がもつので、そのように処理してください」
「承知いたしました。ほかに手配することなどなければ、早速動きますがよろしいでしょうか」
リンクルスに問われて、俺たちはなにかあるかと考える。
祠に行くことになったときのため、以前山を登った護衛に声をかけてほしいとダイオンが頼む。登山装備についてや注意すべきところを直接聞きたいんだそうだ。
俺はなにかあるかな……。
「あ、じゃあ、してほしいことというかしてほしくないことがあるんですけど」
「なんでしょう?」
「占いで示された人が来たと広めないでください。皆から期待をかけられるのもプレッシャーになるんで」
「町長どうしましょうか」
町側としては広めて活気を取り戻すきっかけにしたいのかな。でも誰も彼もから期待されるのはちょっと面倒そうなんだ。さっさと動けと急かされそうだし、期待の視線にさらされるのも鬱陶しい。
「それが要望ならそうしようとは思うが、コードル殿たちと一緒にやってきたから、そうなんじゃないかと噂は広まると思うが」
「それは仕方ないんで放置でいいですよ」
正式に公表するよりましだろう。
「わかった」
ほかにはと再度確認してからリンクルスさんはいろいろと手配するため会議室を出て行った。
ファッボさんも仕事があるということで会議室を出て行く。宿に案内する者を寄越すので、少しここで待っていてほしいと言っていた。
鍛冶場に行って問題が解決すればいいななどと話していると、扉がノックされて受付嬢が入ってきた。
「宿の手配ができましたので案内いたします」
皆で受付嬢についていき役所を出て、五分ちょっとのところにある建物に入る。
受付嬢がフロントに話しかけて、鍵をいくつかもらう。
「二人部屋を四つ、会議用に大部屋を一つご用意させていただきました」
差し出されたものを受け取っていく。俺たちはいつも通りに分かれて、コードルたちは男二人、フロスとレンシアが一緒になる。大部屋の鍵はレンシアが受け取った。
いい宿のようでポーターが俺たちの荷物を持って、部屋まで案内してくれる。宿の中が静かに思えるけど、鍛冶場が使えないせいで来客が減ったからなのかな。
三十分後くらいに食堂に集合と決めて、それぞれの部屋に入る。
鍛冶場は使っていない今でも見回りしていて魔物が入り込んでいないということなので、鎧は脱いでもいいだろうと部屋の隅に置く。
シャーレとローズリットの三人で話しているうちに集合時間になり、食堂に向かう。
人の少ない食堂で、三種類あるランチメニューのうち、ポトフセットを選んで食べる。野菜の甘味とベーコンとソーセージから出た旨味が合わさったスープが良い感じだ。
温かいものを食べて、ぽかぽかとしてきたところで役所の受付嬢がやってきて、馬車を町の山側入口で待たせていますと言って帰っていった。
早速行こうということになり、そのまま宿を出る。
活気の少ない町を突っ切って、山側の入口に到着し、そこで待っている馬車にレンシアが近づいて、御者に話しかけた。
「これは町長が手配した鍛冶場に向かう馬車でしょうか」
「はい。間違いありません。レンシア様御一行ですね?」
「ええ、出発できると聞いて来ました。乗っても大丈夫ですか」
御者は頷いて、ドアを開ける。二つの長椅子があり、八人が乗り込めばいっぱいになる。
全員が乗って、御者がドアを閉めて、出発すると声をかけてくる。
動き出した馬車は俺たちのものより乗り心地はよくなかった。三十分弱ガタゴトと揺られて外からそろそろだと聞こえてきた。
感想と誤字指摘ありがとうございます




