85 登城は無理
シャーレとイリーナから目を離してコードルは続ける。
「ええと、洞窟の炉が使えなくなって、その原因を探ったそうなんだ。文献には過去マグマが噴出して事故が起きたとは書かれていたが、マグマが引いたことはなかったそうだ。んでそこの火山には火と土の大精霊たちがいるらしくて、なにか原因を知っているんじゃないかと思って話しかけた。でも返事がなかった」
「大精霊たちになにかあったから異変が起きたと見てよさそうだな」
「ああ、あの町の者たちも同じ考えだ」
ダイオンの予想をシバニアが肯定する。
「自分たちにはどうしようもないと、住民は考えて高名な占い師を呼んだ。占い師が呼ばれる前に俺たちも良い武具を求めてバセルテルに入って、町全体で休業状態と知った」
「鍛冶がメインの町で、休業はきつそうだね」
損失がどえらいことになってそうだ。
コードルたちも生じた損失がいくらなのか考えたくないと言う。
「町の状況を知ってなにか手伝えないか調べている間に、占い師が到着して早速占ったんだ。そしたら最初の占いで俺たちを示してな」
「町の警備兵が押し寄せてきて、あのときは驚いたわね」
「町の危機だからな。真剣にもなろうさ。でももう少し落ち着いてほしかったな」
そのときのことを思い出しているんだろう、三人は乾いた笑みを浮かべた。
「道を歩いていたら人が走ってきて、うむを言わさずに担がれて町長の家まで運ばれたからなぁ」
「必死とはいえ、それはひどい絵面だ」
誘拐と判断されても仕方ないよ、それ。
「意味のわからないまま占い師のところに連れていかれて、占い師が俺たちを見てまた占いだした。それを見て、占いに俺たちのことが出たんだなって理解したよ」
「住民たちは俺たちが直接解決のきっかけになると思っていたみたいだが、占い師はそうじゃないとわかっていたみたいだったな」
「占いの結果で、私たちの行動の先に解決のヒントがあるって出て、住民たちは嬉しそうだったけど、今すぐ解決できないとわかって肩を落としてもいたわね」
「一日も早い解決が望まれていただろうしな」
そう言うダイオンに、三人は深々と頷いた。
「占いはどんなことを言われたんだ?」
「ええとたしか。『この地でもっとも大きな都で再会あり。その者は大いなる者に縁ありて、良き方向へと進む者。この地にも縁ありて、光明もたらすだろう』とこんな感じだな」
ああと納得したような反応を見せたのはシャーレたちだ。
大いなる者とか良き方向へといった部分に反応したのかな。
「ここらで大きな都といえば領都だってことで、バセルテルの現状報告もかねて俺たちが使いとして領都に来たんだ。そしてリョウジ君と再会した。大いなる者というのは風と水の大精霊に関係しているんだろうし、該当するのはリョウジ君で間違いないと思うんだ」
俺は大いなる者ってのは管理者だと思う。
「俺もそう思うよ」
ダイオンがコードルを肯定して、そのまま俺を見てくる。
「この件に関して、リョウジはどう思う? 嫌な予感とかするかい?」
んー、とりあえずコードルたちを見てみる。三人からは嫌なものを感じないな。むしろ良い感じが少しだけする。三人と行動しても俺には悪いことは起きないんだろう。一緒に行動するシャーレたちがどうなるかはわからないけど。
たぶんだけど火山に行って問題を解決すれば、火と土の大精霊から加護をもらえるんじゃないかな。それは俺の内で休んでいる霊獣の魂にとってはいいこと。霊獣が精霊になって復活したら俺にもメリットがあるからね。だから良い感じがしているのかな。
「嫌な予感はしないね。もともと向かう場所だったんだし、なにかの縁だから行ってみるのもいいんじゃない? ダイオンたちが反対するならそれに従うよ」
絶対行かないといけない場所でもないし、行かないならそれもありかと思う。嫌な感じはしないとはいえ、急に状況が変わる可能性もあるわけだし。それはどこに行っても言えることだけど。
「行ってみて、無茶振りされるなら断るって感じでいいんじゃないか? リョウジに不利益をなにもかも押し付けて町を救うってことになったら、俺は町よりもリョウジを選ぶ」
「私も見知らぬ多数よりも主様の方が大事です」
もしものときは町を見捨てる判断をさっさと下すと言うダイオンとシャーレ。イリーナはどうなのかとコードルたちが視線を向ける。
「私は正直リョウジに拘る理由はないんだけど、今後もダイオンについて行きたいから町よりもリョウジ優先側かな」
「こちらとしては助けてやってほしいけど、無茶な要求されたら逃げるというのは理解できる。そのときになったら俺たちも協力しよう」
コードルはシバニアとフロスにいいだろうと確認し、了承を得る。
明日すぐに出発とはならない。領主からもらえるはずの紹介状を無視して出発することになるからだ。
この領地のためになることだから、紹介状を受け取らずに行ってもいいと思ったけど、ダイオンによるときちんと手続きしたことを無視しては余計なトラブルを招く可能性もあるので受け取ってから行こうということだった。それにコードルたちも賛成したから、出発は遅らせることになった。
翌朝、朝食を食べているときにコードルたちがやってきた。コードルたちの宿に言伝を聞いた領主からの使いがやってきて詳細を求めたそうだ。
「詳しいことを知りたいってことで夕方に登城してほしいんだそうだ」
「ダイオン、お願いできる?」
「わかった」
この頼みにコードルたちは首を傾げる。俺の事情を知らないから仕方ないね。
「解決の要はリョウジだろうから、登城した方がいいと思うが」
「俺は無理。ああいった城とは相性が悪い。体調崩すとわかっているところに行きたくないんだ」
「体調を崩すのかい?」
「リョウジは勘が良い。その勘の良さが城といういろいろと思惑が渦巻く場所だと、余計なものまで感じ取るんだ。アッツェンの宮殿で実際に体調崩したんだよ」
ダイオンの説明にコードルたちはそんなことあるんだろうかと不思議そうだ。
そりゃそうだな。だから納得できないなら納得できるようにすればいい。
「こうしよう。夕方城の入口まで一緒に行こう。そうすれば嘘を言っているわけじゃないってわかる」
実際に体調を崩したところを見れば、すぐに城を出て帰っても大丈夫だろうさ。
「主様、私は反対です。体調が悪くなるとわかっているのに」
「普通はそんなふうに体調が悪くなるとかありえないから、信じられないってのもわかるからね」
俺が意見を変えないと理解し、シャーレは渋々と納得する。納得したのは大怪我するわけでもないからなんだろう。
夕方になる少し前にこの宿に合流となって、コードルたちは帰っていった。
そして約束の時間になってやってきたコードルたちと王城に向かう。坂を上って城の前まで来る。
「今のところは平気そうだが」
こちらを見てコードルが言う。
「アッツェンの宮殿でも敷地内に足を踏み入れるまでは平気だったよ」
「そうなのか」
皆で城門をくぐる。
途端に以前感じたものがここでも感じられる。粘りつくような空気が相変わらずの気持ち悪さだ。
すぐにシャーレがそばに寄り添って俺を支える。
そんな俺を見て、コードルたちは少し目を見開いている。
「……本当に顔色が悪いな」
「演技じゃないなこれは。化粧でもしたのかってくらい、入る前と顔色が違う」
「ええ、本当に体調を崩しているようにしか見えない」
「納得しましたね? 主様を早く外に連れていきたいので、ここで失礼します」
早口でシャーレが言い、引き返そうと俺を促す。それに逆らうはずもなく城の外に出る。
一歩出ただけで、空気が変わる。空気が美味い。というか城内の空気が不味すぎるだけか。
「そこのベンチで休んでいきましょう」
「そうしよう」
がっつり気力を削られているから、休憩はありがたい。
シャーレに支えられたままベンチに座り、夕暮れ色に染まり始めた町の風景を眺める。すぐに城から出たし、十分くらい休めば大丈夫だろう。
◇
去っていく亮二たちを見てコードルは頭をかく。
「あとで謝らないとな。気分が悪くなるって言ってんのに連れてきちまったし」
「そうだな、三人とも謝らないと駄目だろう」
「申し訳ないことをしたわ」
反省している三人をダイオンが促して、謁見の間まで先導してもらう。
謁見の間の前にいる兵にコードルが用件を告げると、兵はこの場で少し待つように言って、コードルたちの到着を知らせるため謁見の間に入っていた。五分もかからずに戻ってきた兵に十分ほど待つように言われて、それだけ待ってから全員で中に入る。
広さは高校の教室より少し広いくらいか、床にはクリーム色の絨毯が敷かれて、厚い紅色のカーテンが壁に掛けられている。部屋の奥に豪奢な椅子があり、太り気味の男が座っている。
男の年齢は四十歳ほどか、威厳よりも愛嬌を感じさせる。正面からは見えないが、後頭部に角がある。
ダイオンたちは部屋の半ばまで進み、そこで片膝を床について礼を取る。
「初めて見る顔がいるな。自己紹介から始めようか。私は領主オルトー・マエツベラ。よろしく頼む。そちらの二人、名前を聞かせてもらえるか」
「ダイオン・ネロウと申します」
「イリーナ・ジフリストと申します」
二人の名前を聞いて、オルトーたちは反応する。もしかするとという疑問が表情に表れている。
「戦帝大会で聞いた名前だな。もしや本人たちか?」
二人が肯定し、オルトーたちの驚きはさらに大きくなった。
「コードルたちよ。まさか優勝者と準優勝者を連れてくるとは想像もしていなかった。この二人がバセルテルの問題を解決するのだな?」
「いえ、違います」
領主は期待を外されて、訝しそうな顔で問いかける。
「違う? ならばどうして連れてきた」
「それに関しては私から説明してよろしいでしょうか」
ダイオンが言い、オルトーが「許す」と許可を出した。
「ありがとうございます。バセルテルの住民が占い師を呼び、領都を示したことは彼らからお聞きでしょうか」
「ああ、最初に会ったときそこらへんは聞いた」
「その占い師が示した人物は私の仲間なのです」
「その者がここにいない理由は?」
「彼は王城や宮殿といった場所との相性がすこぶる悪く、この場に姿を見せたとしても受け答えが無理なのです。最悪この場で嘔吐することもあって、登城していません」
そのようなことあるのかと疑わしそうな声を上げたのは、オルトーのそばにいた男だ。護衛の騎士たちも疑うような顔だ。
コードルが口を開く。
「疑うのも無理はありませんが事実です。私どもも疑い、入口まで彼と一緒に来ました。そして城門をくぐって一歩敷地内に足を踏み入れた途端、顔色が悪くなるのを我ら一同目撃しています」
「このことはアッツェンの王も認めていることですので、どうしても嘘だとお考えになるのであれば、アッツェンに文を送っていただければ確認が取れることでしょう」
他国の王を出してきたことにオルトーたちは戸惑う。
「アッツェン王まで持ち出してくるのか。もしそれが偽りであれば、王を騙りに使ったことで確実に死罪であるぞ?」
「問題ありません。嘘ではないのですから」
きっぱりと言い切ったダイオンにオルトーたちは偽りではないなと考えた。そしてアッツェン王を引き合いに出せるくらいには親交があるということも察し、下手な扱いができないとも考えた。
メリークリスマス
感想と誤字指摘ありがとうございます




