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縁をもらって東へ西へ  作者: 赤雪トナ
83/224

83 到着前

 ラムヌ北部で十日間の滞在を終えて、領都に向かう。

 温泉のある町の町長が捕まったという話は行商を通して、滞在していた村にも伝わっており、なにをやらかしたのかと村人は噂していた。もっとも気になったのは町長の行く末ではなく、新たな町長によって税やいくつかのしきたりに影響がでないかということらしかった。

 それらは自分たちの生活に直結する問題だから、元町長がどうなるのかよりも気になるのは仕方ないね。

 領都は馬車で五日の距離だ。それを聞いてわりと近いなと思った。そう思って、考え直す。旅しているから、距離感少しがばがばになってるなと。

 自動車よりも遅いとはいえ、馬車で五日の距離が近所なわけはない。順調にこの世界の旅人生活に慣れてきているんだろうか。べつに慣れるのが嫌ではないけどね。

 目の前に見える山脈、そこの標高が一番低いところに作られた道の頂上に到着すれば、大きな町が見えるだろう。山の一部も居住区にした都。そこが目的地だ。町の一番高い位置に城のような建物があるそうで、それが領主の居城だと聞いた。

 そんなことを隣に座るシャーレと話しつつ御者をしていると、シャーレが警告を発する。


「主様、急ぎ前方に風で防御をお願いします」


 何事か問わず、風の魔法を使う。

 その間にシャーレが背後の小窓を開けて、ダイオンたちに賊かもしれないと告げた。

 そして矢が何本か飛んできて、風で軌道がそれて地面に落ちていく。

 矢が飛んできた方向は左の木立から。馬車を止めて、木立を見ると四人のショートソードなどを持った男たちが出てきた。さらに矢が飛んでくるけど、それも軌道がそれたことで、ショートボウを持った三人がそれを捨てながら出てくる。

 領都も近いのに、ここらで強盗をやるとか灯台下暗しを狙ったのかな。

 ギラギラと欲に濁った気配っぽいものを感じるけど、嫌な感じは少ない。良い感じはしないから、たいして問題にならない奴らなんだろう。

 ダイオンとイリーナが馬車から降りて、剣を抜く。それを見て賊たちは少しだけ狼狽えた様子を見せたけど、それ以上人が出てこないとわかると強気でこちらへと駆け寄ってくる。

 俺でもそこまでの強さはないってわかる連中だから、ダイオンたちで十分すぎるだろう。


「あっちは二人に任せて周囲の警戒をしよう」

「はい」


 シャーレを抱えて馬車の屋根に上がってもらい周囲を見てもらう。俺はいつでも魔法が使えるように構えておく。

 賊たちの悲鳴が上がるなか、シャーレは木立の向こうを見ていた。


「賊の仲間がいる?」

「わかりません。誰かがいるのは間違いないかと」

「それ以外には誰かいそう?」

「いえ、木々の向こうにだけだと思います」


 二人でその誰かを警戒していると、ダイオンたちは賊の無力化を終える。賊たちは手足の腱を切られたようで、その場に倒れて動けずうめき声だけを上げていた。


「終わったぞ。誰かほかにいるか?」

「木々の向こうに何者かがいるらしいよ」

 

 ダイオンとイリーナが視線をそちらに向ける。


「近づいてきているな」

「そうですね」


 ダイオンとシャーレがそう言ったあと、木々の向こうに走ってくる人影が見えた。

 嫌な感じはしないかな。

 その人物はシルクハットをかぶり、深い青の長髪と赤の裏地の黒マントをはためかせていた。目のあたりを隠す白のマスクをつけていて道に出る手前で大きくジャンプした。


「とーう!」


 それなりに大きくジャンプしたことから、身体能力の高さは一般人を超えているとわかる。

 空中でクルリと一回転しスタンッと着地した彼女は腰に手を当てて仁王立ちでこちらを見てくる。

 十五歳くらいかな、たぶんそれくらいの大人になりかけといった少女だ。

 黒のサイハイブーツに白の長袖シャツとショートのスカートといった出で立ちで、仕立ての良さから賊の仲間ではないなと思えた。


「君たちの活躍を見ていた! 素早い対処見事だ!」


 褒めてもらえるのは嬉しいけど、何者なんだという疑問が大きく素直に喜べない。嫌な感じはしないけど、変な人なのは確かだろう。

 ローズリットがあの仮面は錬金術で作られた道具だと教えてくる。


「何者だ?」


 警戒半分疑問半分といったダイオンの誰何に、彼女はドヤ顔でそれなりの膨らみの胸に左手を当てた。


「誰が呼んだか、謎の仮面騎士とは私のことだ!」

「自分で謎って言っちゃうのか」

「ふふふ、正体は明かせないのだよ」


 得意げになられても。素の状態で会ったら、すぐにわかりそうだけど。


「それで仮面騎士はなにをしに来たんだ」


 ダイオンの問いに仮面騎士は頷く。


「久々に友人に会おうと思い、近くの村に行ったのだが、その友人から近頃ここらに賊が現れると聞いたので、その討伐にきたのだよ。そしたら君たちと賊がぶつかっていて、手を貸そうと思ったけど、問題なく降りかかる火の粉を払った。でだ、もう一働きする気はないかね?」

「もしかして拠点を突き止めているのか」


 その通りと不敵な笑みでダイオンに返す。

 拠点を知っているなら巡回の兵とかに教えたらいいと思うんだけど。思ったことを聞いてみた。


「やつら定住していないのだよ。馬車で移動して隊商を装っているんだ。だから兵に教えている間にどこかに移動されるかもしれぬ。しかも倒されたそやつらが帰ってこないとなると、異常を悟ってすぐに移動しそうだ」

「どうするリョウジ。協力するか?」

「規模がわからないと答えようがないかな」

「そこまで大きくないぞ。二十人くらいだ。七人はすでに倒れているから、奇襲でもすれば残りもなんとかなろうさ」


 なんとかなるのかと思いながらダイオンとイリーナに聞く。


「実力がこれらと同じなら私一人でも大丈夫よ」

「だったらダイオンとイリーナと仮面騎士で行ってくる? 俺とシャーレはこれらの見張りをしとこうかと思う。馬車をほったらかしにできないしね」


 ダイオンは周囲の気配を探って、ここに俺たちを残して問題ないか確かめて頷いた。


「俺はそれで問題ないな」

「私も」

「決まりだ! さあ行こう!」

「その前にどれくらいで帰ってくるのか教えてほしいんだけど」


 歩き出そうとした仮面騎士に声をかけて止める。


「そうだな……ここから三十分ほど歩きで移動したところにいるから、長くても二時間くらいか」

「りょーかい。それまで道の端に穴をあけて、そこに賊を放り込んでおくよ。あの状態なら上がってこれないだろうし」

「出発前に手伝っていくよ」


 魔法で穴を一メートルほど掘り、そこにうめき声をだしている賊を入れていく。


「いってらっしゃい」

「いってくる」「いってくるわね」「吉報を待っててくれ」


 仮面騎士を先頭にダイオンたちは木々の向こうへと走っていった。

 

「俺たちは見張りながら、のんびりしてようか」

「はい。お茶の準備しますね」

「おねがい」


 テーブルと椅子を出して、シャーレが入れてくれたお茶を飲みながら、ローズリットを広げて魔法の検索をする。

 水の魔法で暑さを遮断する膜をはるというものが出てきた。砂漠の国で役立ちそうだな。良い魔法が出てきてくれた。いつかこの逆の魔法も手に入れたいね。

 出てきたものをシャーレにも一度見せてから、さっそく習得のために練習する。

 シャーレも道端に生えている花を取ってきて、コップを使って生け花の練習を始める。

 そういったことをやっていたら時間が流れ、いくつかの馬車や徒歩の旅人が道を行き来する。また馬車の移動する音が聞こえてきたので、旅人かなとそちらを見るとダイオンが御者をしてこちらに近づいてきていた。


「ダイオンたちのお茶をお願い」

「はい」


 ローズリットをしまい、シャーレにお茶を頼む。見たところダイオンに怪我はない。手を振ると、振り返してきた。


「おかえり」

「ただいま」


 近くで見ると少しばかり服に血が付着している。返り血だろうな、痛そうな様子が皆無だし。

 ダイオンの操作していた馬車の後ろにいたほかの馬車も止まって、イリーナと仮面騎士が近寄ってきた。


「お茶をどうぞ」


 三人のお茶をテーブルに置く。

 三人は礼を言って椅子に座り、お茶を飲む。大きく反応したのは仮面の騎士だ。


「うわ、おいし」


 年相応の話し方の感想が漏れた。

 素かな? 目の部分が開いていないマスクの向こうで、目を見開いているのかもしれない。

 俺たちの視線に気づいて、仮面騎士は小さく咳払いする。


「美味であるぞ! その年齢でここまでのものを入れるとは見事なり」

「ありがとうございます」


 少しばかり仮面の騎士のキャラがぶれていることに、シャーレは反応せず淡々と頭を下げる。


「リョウジ、シャーレ。こっちで待っている間、なにかおかしなことはあったかい」

「いんやなにも。行き来する人たちが、穴の中でうめく賊を見て、首を傾げていたくらい」

「そうか、よかった」

「そっちはどうだった?」

「こちらも問題なかった。二人が強いので、私の出番がなかったくらいだ。本当に思った以上に強かった。もしかして戦帝大会優勝者のイリーナだったりするのか?」


 好奇心を感じさせる声音で仮面騎士が聞く。


「そうよ。ダイオンも準優勝の経験があるわ」

「ダイオン殿もか。どうりで強かったわけだ。賊たちは運がなかったな。しかしどうしてこんなところにいるのだ。優勝者や準優勝者ともなると王侯貴族に雇われて、出身国の首都にいそうなものだが」

「俺も彼女も目的があって旅をしている」

「王侯貴族からの誘いはあったけど、目的の方が大事で断ったわ」


 そうかと仮面騎士は頷いた。それ以上は踏み込むつもりはないようで、お茶と一緒にそれ以上の疑問を飲み込んだ。

 休憩を終えて地面を元に戻し、七人の賊を彼らの持っていた馬車に放り込んで移動を始める。

 ここから領都までは今からだと夕方直前には到着するらしい。

 小山の頂上から見える領都は事前に聞いていたとおりの光景だった。

 仮面騎士によると、山部分の建物は貴族の屋敷で、平地の居住区には庶民が住んでいるそうだ。

 五つの大通りが町の中をはしるのが見えて、それは城へと続く一本の坂道に集まっている。


 山を下りて、領都に到着する。

 まずは領都の入口にある馬房にマプルイと馬車を預けて、賊たちの馬車ごと門番に近づく。門番が声をかけるまえに仮面騎士が声をかける。


「職務ご苦労!」

「レンシア様、お帰りなさいませ」


 やっぱり正体ばれっばれなんだなー。


「名前で呼ぶんじゃない。今の私は領都に咲く花、謎の美少女仮面騎士!」


 ポーズをとっての名乗りに、門番は呆れた視線を向けている。


「あとでへこむと聞いてますし、あまり華美な名乗りは止めておきましょうよ」

「うるさい。そんなことよりも兵を頼む。彼らの協力もあって賊を捕まえることに成功した」


 門番は表情を引き締めて、仲間に声をかける。

 声をかけられた門番たちがすぐに賊の馬車に集まって、確認していく。

 急ぎの確認を終えて、門番たちが馬車をいずこかへと移動させていった。


「協力してくれた彼らに報奨金をやってくれ。私は帰る」

「わかりました」


 さらばだと言って仮面騎士は領都の中へと走り去っていった。子供たちから声をかけられて、走りながら手を振っている姿が見えた。


「君たち詰所に来てくれ、手続きしたいんだ」


 門番に誘われて、すぐ近くの詰所に移動する。

 歩きながら彼女は何者なのか聞いてみる。


「あの方は領主様の姪なんだ。普段は文官として領主様を手伝っている」

「想像以上にすごい立場だった!」


 シャーレたちも仮面騎士の正体に驚いている。

 姫扱いされてもおかしくない人じゃないか。なんで仮面騎士とかやってんだ。


「なんであんなことやっているのかと思っただろう? あの方は溜め込む性格らしくてな。ストレスが一定量溜まると、ああしたふうにはっちゃけるんだ」

「止めたり、かわりのストレス解消法を探した方がいいんじゃないの? いつか痛い目を見そうだけど」


 イリーナの言うとおりだと思う。エロ漫画だと悪漢に捕まってぐへへとか王道パターンだよな。


「止めようにも爆発はいつも突然だそうだから。かわりのストレス解消も周囲は探したようだけど、見つからなかったから今も続いている。ちなみにストレスが解消されるとはっちゃけたことを思い返して、へこむんだそうだ」


 周囲も本人も大変だなぁ。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[良い点] そこでへこんじゃうのか 難儀な性格だな 楽しみな子だ
[一言] これまた濃いキャラが出て来たな、、、、。
[一言] つおいはんざいしゃに『クッコロ』されちゃうぞ。
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