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縁をもらって東へ西へ  作者: 赤雪トナ
75/224

75 手伝い

「あのときローズリットがやったことだけど、スライムの動きを止めたのは空間魔法で、俺の怪我を治したのは時間魔法だそうだよ」

「時間魔法に空間魔法?」


 イリーナが首を傾げた。俺も聞き覚えはなかったんだよな。一般的な知識じゃないようで、管理者からもらった知識にはなかったんだ。

 でも空間魔法に関しては、フェルス様からもらった見た目よりもたくさん入る箱がヒントになってもおかしくなかった。空間に関した魔法が使われているから、大容量になっているんだろうし。


「空間魔法は聞いたことがある。腕の良い錬金術師が使える魔法だ。自在に使えるわけじゃなくて、昔からある魔法陣を利用してようやくらしいが。時間魔法に関しては初耳だな」

「ローズリットは空間魔法でスライム周辺の空間に干渉して動けないようにしたんだってさ」


 それだとスライムそのものに干渉できなくなるのではと思ってローズリットに疑問をぶつけたら、空間魔法の初級はそうなるけど、使ったものは干渉可能にするものだったそうだ。


「時間魔法はどういったものなんだ?」

「そのまんま時間を操るものだってさ。時間を操作し、俺を怪我する前まで戻した。だから怪我を治したけど正確には治療というわけじゃない。使いこなせば不老長寿も可能な魔法だと言っていた」

「不老不死にもなれそうだが」

「俺も疑問に思ったんで聞いたよ」


 即死するような事態がなければ肉体は不老不死になれる。でも人の精神は長く生き続けることができるようにはなっていないそうだ。過去不老不死を実現しようと時間魔法を使った人がいたけど、四百年を生きる前に精神が疲弊して何もしなくなったという記録が残っているそうな。その人物は魔法の効果が切れて、肉体も滅びたとローズリットが言っていた。

 そう説明すると、ダイオンはなるほどと頷く。


「不老不死を目指したいなら、人間から変化しないと駄目っぽいね。ローズリットや神獣様たちは長く生きても平気。そういった元から長く生きる種族に自身を改造したらもしかして不老不死を達成できるのかな。以前遭遇したメイドとか錬金術みたいにね」

「早死には嫌だが、あそこまで自身をいじくって長生きするのもどうかと思うね」


 俺もだな。人並かそれより少し長いくらいでいいんじゃないかな。それだけ生きれば人生を謳歌できるんじゃないかと思う。人それぞれだから、もっと生きたいって人はいるだろうけどね。


「その二つの魔法をあなたは使えるの?」


 イリーナに聞かれて首を横に振る。


「俺だけだと無理。ローズリットの補助があれば時間魔法の初歩的なものは使用可能らしい。大精霊の加護のおかげだそうだよ」

「空間魔法の方は無理なの?」

「ローズリットが体をのっとれば使えるけど、俺にはまだ無理だって言っていた。少しずつ教えるとは言っていたね」


 夢の中ならば俺に負担をかけずに自由に会えるから、毎日二時間くらい夢の中で勉強会だとうきうきとしていた。二時間だけなのは、意識も休めないと精神的な疲労が抜けないからなんだろう。


「時間魔法はどういったことができるんだ?」

「物体の時間を早めたり、遅くしたり。それによって煮物の調理時間が短縮されたり、食材の傷みが遅くなる。あとは人の意識を加減速できる。人の動きが遅く見えたりするようになるってことだね」


 魔法を使わずとも人間はそういった事象を自力で起こすことができる。日本で死んだとき、まさにそれだった。ダイオンとイリーナも似た経験があるのか、どういった魔法か理解した顔だ。


「使うことでリョウジに負担が大きくないなら、イリーナとの模擬戦のときに使えないか? 俺はゆっくり見えることでどういったときにどう対応すればいいか学べて、イリーナはもう少し手ごわくなった俺と戦える。今よりもましな鍛錬ができるようになると思う」

「おお!」


 イリーナがキラキラとした目でダイオンを見ている。


「いいよ。俺も練習になるだろうし。魔力消費が大きいそうだから十回二十回といったたくさんの行使は無理だけどね」

「一回でも使ってもらえれば十分すぎる。空間魔法の方はどういったことができるようになるのか、聞いているのか?」

「簡単なものなら、空中を踏むことができるようになるとか、見えない壁を作って盾にできるとか。慣れてきたら物の重さを増減させたり、部屋の広さを変えたりできるんだとか」

「便利だな」


 空間魔法を応用すれば、空や水上に見えない道を作り、軽減させた馬車で高速移動ができると言っていた。すっごい目立つだろうけど、行動範囲は広がるだろうね。いずれ復活するっていう精霊が加わったら、さらにだ。そういった移動をするなら目立たない夜だろうか? でも足場が見えないから怖そうでもある。

 普段は使わないか、ぬかるみとか進みにくいところを進むときに使う方がよさげ。

 マプルイもいきなり進めないところを進めと言われても困るだろうし、少しずつ慣れていってもらった方がいいだろうね。

 あとは空間圧縮して魔物を殺すなんてこともできそうだ。狩りには向かないだろうし、使う機会はないかな。でもそう言って水分を減らす魔法を使ったし、機会があったりするんだろうか。

 そんなことを考えていたら、ダイオンとイリーナは聞きたいことは聞けたと立ち上がり馬車を出ようとする。


「ローズリットが我が子とか言ってたのは聞かなくていいの?」

「それも気になるっちゃなるんだけど、魔獣独自の感覚で言っていたとしたら、聞いたところで理解できないだろうしなぁ」

「なんでそう言いだしたのかも聞けたし、説明しとくよ」


 二人は出ていくのを止めて、座り聞く体勢になった。


「まず母じゃなくて姉になった」


 二人の表情は戸惑い一色になった。


「いや、なんでだ。やっぱり聞いても理解できそうにないんだが」


 まあそう言うよね。ローズリットから聞いたことを話していく。

 感情に影響された結果ということに、ダイオンたちは一応の理解を示す。


「人間も感情に振り回されることはあるし、理解はできるんだ。でも魔獣もそうだと言われても微妙に納得はできないんだよな。魔獣の生態に詳しくないからかもしれないが。ともかく正式にリョウジの味方になったんだな?」

「うん。そこは間違いない」

「とりあえずは、そこがわかればいい。俺たちはフーイン様にお前が目を覚ましたことを伝えてくる。お前とシャーレはここでのんびりしているといい。もう深夜でやることはないしな」


 二人が出ていき、抱き着いたままだったシャーレを放す。安心したからか眠っていて、俺が寝ていた布団に寝かせる。

 俺は起きたばかりで眠くはないし、お腹が空いたから保存食を食べることにするかね。

 お湯を沸かして、干し肉と瓶詰のピクルスを小皿に取り出し、ちびちびと食べていく。

 思い出すのは、地面から触手が出てきたときのことだ。今思い出しても体が震える。ローズリットがどうにかしてくれなかったら死んでたと思う。

 地面から出てきたってことは、奇襲を考えてのことだったのかな。スライムがそれだけの知能を有するとか想像もしてなかった。ダイオンたちも気づいた様子はなかったから、それだけ予想外な行動だったんだろう。

 今回のことを教訓にして、どんな相手でもこちらの想像外の行動を起こすってことを想定しておこう。今後も死にかけたらローズリットが助けてくれそうだけど、かといって慢心して毎回痛い目にあいたくない。

 

 結局、二度寝することなく夜明けまで時間を潰す。ダイオンとイリーナは宿で寝たのか朝まで帰ってくることはなかった。

 夜更けまで起きていたらしいシャーレは起きてくることはなく、そのまま寝かせることにして静かに外に出る。

 お腹が空いたんで、どこかで炊き出しでもやってないかと周囲を見渡すけど炊煙はなく、匂いもしない。

 また保存食でも食べるかと思い、体の点検のためラジオ体操で体を動かしていく。痛みがはしったり、眩暈がしたりといったことはなかった。健康体であることを喜んで、そこらを散歩して食べ物でも探すことにする。遠くまで行くとシャーレが起きたとき心配かけるだろうし、すぐに戻れる範囲を歩く。

 顔見知りの騎士や兵に体は大丈夫かと声をかけられる。一緒に旅をして親しくなった人たちだ。彼らに大丈夫だと返し、パン屋といった食べ物が売られている店を聞く。幸い近所にあるそうなので、そこに行って四人分のパンを買う。サンドイッチに使うというハムとチーズもあるそうなので、それも買った。

 馬車に戻ってもシャーレはまだ寝ていて、ダイオンたちも帰ってきていなかったので、一人でパンを食べる。チーズとハムを軽くあぶってパンにのせた。

 マプルイにも水と餌を出す。食事中のマプルイの体をふいたあと、糞尿の処理をしていたらシャーレが起きたようで馬車から物音がして、焦りの表情で外に出てきた。


「主様! 中にいないからどうしたのかと」

「おはよ。パンを買ってきてあるから食べるといいよ」

「おはようございます。お体はどうでしょうか、どこか痛いとかありませんか」

「どこも痛くないよ。元気さ。だから不安そうな顔をしないで」


 水で手を洗って、ふきながらシャーレに近づいて、ぽんぽんと頭を軽く叩く。

 本当かとじっと見てきて、納得したのかシャーレはほっと安堵の息を吐いて、身支度を整えるため馬車の中に戻る。

 シャーレが食事を終えて、二人でこのあとはどうしたものかと話していると、ダイオンたちが帰ってきた。やはり宿で寝ていたようで、食事もそこで簡単なものを食べたらしい。

 イリーナがシャーレを見る目に少しだけ怯えが浮かんでいた気がするけど、なんでだろうな?

 そんなことを考えている俺にダイオンが話しかけてくる。俺が起きていたら対策本部に連れて来てくれとフーイン様に頼まれたそうで、四人で対策本部に向かう。

 忙しそうにしている騎士や兵の間を抜けて、臨時の執務室になっている二階の部屋に入る。

 各地へ現状を知らせる書類を作っているらしいフーイン様をトーローさんが手伝っている。二人は寝不足なのかな、目が赤いように見えた。

 フーイン様は書類を作る手を止めてこちらに笑みを向けてくる。


「おー、リョウジ。元気そうでよかった」

「ええ、元気ですよ。フーイン様は少し疲れてますか」

「いろいろと忙しくてな。まずは礼を言う。お前とお前を守っている精霊のおかげでスライムはなんとかなった。循環が無事発動したこともあって、宴会を開きたかったが、その暇がなくてな」

「事後処理も大事ですから、落ち着いてからでいいと思いますよ」

「ああ、そうだな。お前たちは今後パーレに戻ると言っていたな」

「はい。そろそろ春でしょうから、雪に移動を妨げられることはないでしょうしね」

「その予定を変えて、もうしばらくアッツェンに滞在してもらえないだろうか。いろいろと人手が足りないんだ。今回のことで王都に張られている結界も支障をきたしていたりする。加護持ちがいてくれると復旧にあたって心強いんだ」


 俺はいいかなと思う。数ヶ月一緒に旅をして、親しくなった人たちをこのまま放置するのもどうかと思うし。三人はどうかと視線を向ける。

 特に反対する気はないようで頷きが返ってきた。


「手伝えることでしたらやります」

「ありがたい! この礼はきちんとする」


 早速結界の張り直しや宮殿内の調査といった仕事をふられて、俺とシャーレは結界へ、ダイオンとイリーナは調査に向かうことになる。

 宿はここを使っていいことになり、食事もフーイン様が手配するといったことを話して、一階にいる騎士たちと一緒に動いてほしいとその旨を伝える書類を渡されて、部屋を出る。

 一階でそこにいた者たちと話して、作業に移る。ダイオンたちは兵と一緒に宮殿に向かって、俺たちは宮殿近くにある結界の要へと案内されて、そこにいた研究者たちに協力する。宮殿に用があったら、気分が悪くなる俺は使い物にならなかったな。

 復興作業を始めて三日目に、それぞれの氏族から人材や支援物資が送られてきた。ロンジー様が騒ぎが起こる前に、なにかあるかもしれないと連絡を入れていたそうで、そのおかげで人や物を動かす作業が早く終わったそうだ。

 フーイン様はありがたそうに、支援を受け取り、やってきた人たちと会議を開いていた。

 その会議でフーイン様たちの氏族は今回のことで力が削がれたので、早期の王族交代を希望していると提案したそうだ。だけど平時ならともかく今の大変な時期に交代したがる氏族はいないようで、それぞれの長に話を持って帰り報告すると乗り気ではない返事があったと騎士が話していた。

 今後どうなるのだろうとその騎士に聞いたら、状況が落ち着くまで支援を受けながらフーイン様が王として働くことになるだろうと言っていた。

 反体制派も今の状況で利益がどうのこうのは言っていられないってことか。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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[一言] 母じゃ無くて姉で落ちつきました。 うん、言ってる側も訳わからない。
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