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縁をもらって東へ西へ  作者: 赤雪トナ
72/224

72 手段

 騎士たちはスライムに対して行ったことを説明していく。


「スライムは火に弱いのはわかっていたので、空を飛べる者に上空から油をまいてもらい、火矢を放ちました。火で包まれたスライムは特に苦しむようなことはなく、火が消えても損傷は見受けられませんでした」

「大きさを減らすこともか?」

「はい。正確なところはわかりませんが、減ってはいないと思われます。効果があるなら、何かしらの反応は見せたと思うのですが、軽く揺れるくらいでした」

「火は効果が薄いとみていいだろうな。ではほかになにをやった?」

「矢を放ったときは表面で弾かれ、バリスタを使った攻撃は突き刺さりはしました。ですがゆっくりと体外に排出されただけです。風と雷の魔法は効果がでたかよくわからず。水や氷の魔法はぶつけても吸収されたようで、使用は控えた方がいいでしょう」

「効果を上げた攻撃はなかったか」


 これ打つ手あるのか? 接近戦をやるのは論外だろう。あの大きさ相手にちまちまと攻撃したところで意味はない。

 ある程度の弱体化はできそうだ。そのための魔法を持っている。神守の森でスライムと戦ったときに、どうやればもっと簡単に倒せたか考えて、手持ちに使えるものがあったとわかったのだ。まさか役立つ日がくるとは思っていなかった魔法だ。接触しないといけないから、簡単には使えないけどね。


「こちらから仕掛けてばかりだが、あちらからなにかやってこなかったのか? ただ動くだけでも被害甚大だが」

「移動はしません。重いのか、それともあそこを気に入ったのか。アクションはありました。住民を避難させているとき、体の一部を触手のように伸ばして、人をさらい食らいました」

「あれも人を食らうか」


 この国に入ったばかりの頃に見たスライムを思い出す。あれだけ大きくなってもやることは変わらないな。

 もしかしたら消化中だから動かないのかもな。

 挙手して、それを発言するとフーイン様は同じことを考えていたか頷いた。


「なにか餌を与えれば、あのまま動かずにいるかもしれないな。住民の避難はどうなっている?」

「あれが触手を伸ばせる範囲からは避難完了しています。もう少し伸びることも考えて、避難範囲は広げています」

「避難した住民はどうしている?」

「健康な者は町の外のテントへ、怪我病気や老いで動かしづらい者は空き家と宿にという感じです。ただかかった費用は警備隊からの持ち出しでは足りず、いくつかの商人に借りている状態です」

「そうか。費用はうちの領地やほかの氏族から出すようにするから、そう伝えてくれ」

「了解です。たぶんですが、あのスライムを倒したら宝物庫や金庫から回収できるもので支払い可能だとは思います」

「そうなのか?」

「はい。あれは肉しか食べないようで、金属や布は排出しています。体内の奥にあって動かせない貨幣や宝石などはそのままになっているかと」


 村にいたスライムは服も溶かしてたけど、こっちは違うんだな。そこが倒すヒントになってくれたらいいが。


「それは嬉しい情報だな。後処理が少しは楽になる。さて現状は理解した。今後どうするかだが、お前たちでなにかやろうとしたことはあったか?」


 対策本部にいた者たちは申し訳なさそうに首を振る。


「これといった案はでませんでした。破城槌を用いて一度接近戦をしかけてみようかと思っていた程度です」

「あまりいい案とは思えないな。だが俺も良い案は思いつかない。せいぜい被害を受け入れて、餌で釣って町の外に誘導させるくらいか。周囲に餌がなくなれば動くとは思うのだ。無差別に動かれるよりは誘導した方が被害は少ないはずだ。その後どうするかはさっぱりなのだがな。もう一度全員で考えてみるか。少しは人数が増えたからいい案がでるかもしれん」


 さてどう切り出したものか。弱体化の魔法は水魔法なんだよな。フーイン様には風と土の資質持ちだって思われてるだろうし、水の魔法が使えると知られるのはな。町の一大事なんで手を貸すのも嫌だと言うつもりはない。ただし多くの人に全属性使用可能と知られるのも嫌だ。嫌だけど動かないのもどうかと思う。

 正義感から助けたいと思っているわけじゃない。人を助けたいからという気持ちが大きいわけでもない。あとでやっておけばよかったと後悔しないため、今後心に棘を残さないため、つまり自分自身のために助けようと思っている。

 ……話が進まなかったら一度解散になるだろうし、そのときに話しかけるか。

 対策を考え始めて一時間ほど経過する。いくつか案が出て、印象に残ったのは二つ。

 一つはいくつも巨石を投げ入れて、スライムをあそこに固定すること。固定できるかどうかわからない、隙間をすり抜けそうだということで没になった。

 もう一つは凍らせて砕いて小さなスライムを高温で焼き尽くすこと。あの巨体を凍らせることが可能な術者がいないという意見がでて、だったら端の方から少しずつ凍らせて削ればいいのではと意見が出た。それには俺も含めていいんじゃないかと思った。

 氷の魔法をぶつけたら吸収されるそうだけど、スライム自身を凍らせるなら吸収はされないだろうしね。

 それなら俺が魔法を使わずともよく、秘密は秘密のままにできるし。


「凍らせて、その部分を砕いて回収で行ってみるか。氷の魔法が得意な者を集めてくれ。まずは凍るかどうか試してみないとな」


 行動が決まれば騎士や兵の動きは早い。求められた人材を集めるため、対策本部を走って出ていく。

 残った俺たちにフーイン様は馬車で休むように言ってくる。

 側近とファロント爺さんは残り、俺たちは馬車に戻る。

 俺たちが馬車で休んでいる間に、騎士たちは行動を開始する。建物を盾にして移動しているため俺たちからは見えなかったけど、行動を開始したこと自体は教えてもらった。

 集めた氷属性の得意な魔法使いを護衛しつつ魔法が届く距離まで進み、魔法を使うということで、スライムを凍らせたらなにかしらのアクションはあるだろうと馬車から様子を窺う。

 見ていたらスライムがぶるんと体を震わせた。そして体の右下辺りから何本もの触手が出てやたらめったら振り回す。

 あの数は俺だったら避けきれない。ガードしている騎士たちも危ないんじゃないかと思えた。


「あ」


 触手に二人の人間が捕まっているのが見えて、体内に取り込まれていった。その二人は暴れていたけど、やがて窒息したのか動かなくなる。

 これは失敗か? 凍らせたか削った時点で暴れたんだろう。あれだけ暴れられたら凍らせたスライムの回収は難しいと思う。もう少しおとなしい反撃なら、上手くいったんじゃないかな。

 こっちから提案して弱体化させたあと、もう一度凍らせる作戦でやってもらうってのでいいかもしれない。


「ダイオン。フーイン様のところに行こうと思うついてきて」

「いいけど、なにか思いついたのか?」

「あれを使ったらいけるんじゃないかって。凶悪な水魔法があったろ?」

「……あれか! たしかにスライムには相性がよさそうだ。だが接触しないと駄目だろう」

「だからダイオンとイリーナに守ってほしい」

「私はいいけど、あれってなに?」


 イリーナが仲間になる前に習得して、使えるって教えてなかった魔法だから知らなくて当然だ。

 説明するとイリーナもダイオンと同じく効果がありそうだと認めた。

 シャーレが俺の服を引っ張る。


「私はついていっては駄目ですか」

「今回はさすがに駄目。俺っていうお荷物がいる状態で、さらにシャーレも追加したらさすがに二人も護衛は難しくなる」


 だろうと二人に確認すると、頷きが返ってくる。


「リョウジの安全を願うなら、シャーレは留守番の方が助かる」

「あの触手の数より多くこないともかぎらないから、リョウジだけを守りたいわね」

「わかりました」


 シャーレも無理がある提案と思ったのか、すぐに引いたね。

 少し不安そうなシャーレの頭を撫でる。


「強い二人だからきっと守ってくれるよ」

「俺も少し不安だが、イリーナがいるなら心配ないさ」

「あの動きよりも速くてもなんとかなるわ」


 断言してくれるのは頼もしい。

 馬車を降りて、フーイン様のところに行く。報告を受けていた難しい顔のフーイン様に話があると、二階の部屋に誘う。


「ここでは駄目なのか?」

「はい。まずはフーイン様にだけ知らせて秘密にするという確約をもらいたいのです。ほかの人が信用できないというんじゃなく、奥の手に関することなんで」


 本当は信用もできないんだけど、そう言ってしまうと反感が大きくなるだろうし言えない。

 フーイン様の側近がそういうものがあるなら最初から言えばよかったのではと言い、それに周囲の人たちは同意したように頷く。


「本当に秘密にしておきたいことなので、良い案がでなければ解散後に言おうと思ったんです。でも凍らせる案がでて、俺もそれでいけると思ったんですよ。だから言わずにいたんです」

「どうして今提案に来たんだ?」

「激しい抵抗を見て、おそらく失敗したと思ったからです。実際のところ結果はどうなったんですか」

「失敗だな。凍らせることには成功したんだが、その時点で抵抗にあって削りとることができなかった。奥の手とやらは効果を出せるか?」

「ある程度の弱体化は可能だと思います」

「……わかった。二階で話を聞こう」


 ついてこいとフーイン様が移動を始め、それに俺たちはついていく。二階に上がって、奥の部屋に入る。


「それで奥の手とはどういったものだ?」

「その前にダイオンとイリーナに聞きたいけど、部屋の外に誰かいるかな」


 二人は気配を探っていないと答える。念のため風の魔法で音が漏れないようにもする。


「慎重だな」

「そりゃ慎重にもなります。使うのはとある水の魔法です」

「水の魔法……ちょっと待て」


 あ、これは気付いたな。


「お前が使える魔法は風と土だろう。風の精霊の加護を持ち、土の魔法で穴を掘っていた」

「俺は水と火も使えるんですよ。だから秘密にしたいと言ったんです」

「全属性だと!? そんな者聞いたことが……いやいたな。はるか昔に霊人と呼ばれた者がいた」

「霊人のこと知っていたんですか」


 王族に選ばれるような地位だから、勉強の幅も広かったんだろうな。


「その霊人らしいです」

「……大精霊の加護のことも秘密にしていたんだ、霊人なんて情報はもっと秘密にしたがるよな。だがなぜばらした」

「さすがにこの状況で手段があるのに秘密にするのは気が咎めて」

「そうか、この国のため動いてくれるのか。礼を言う。約束しよう神獣様に誓って秘密にすると」


 真摯な表情で言い、神守の森の方に向かって祈る仕草を見せる。

 ダイオンとイリーナの方に振り返ると頷きが返ってきた。二人とも信じられると判断したんだな。

 あとで二人に聞いたら、ニール種が神獣に誓ったことを破ったとき、それは死を意味するんだとか。


「ではどういった魔法を使うか説明します」

「ああ、頼む」

「水分を半分にする魔法です」

「水分を半分に? そういった魔法があるのは聞いたことがある。だがそれは果物や魚や木材の乾燥に使われるものだろう。生物には使えないと聞いた」

「生物にも使えるよう改造した奴がいるんです。たまたまそれを知る機会があって習得したんです」


 生物から半分も水分が抜けたら即死だろう。ローズリットでこの魔法を知り、一度だけ魔物に使ったことがある。触れたら終わりというその魔法を実際に見て、二度と使うことはないだろうと考えたのに、まさか出番があるとは。

 フーイン様も凶悪さが想像できたのか、表情を歪めた。


「本当に習得しているのか?」

「はい。これは禁じられ、封印された類の魔法でしょうね。広めちゃいけないものです」

「その意見には賛同するよ。だが今回にかぎっては役立つ魔法だな」

「そう思ったので、こうして提案に来ました。スライムを弱体化させて、もう一度凍らせる作戦を行いませんか。巨体が縮めば、それだけ抵抗も減ると思うのですよ」

「あれだけの巨体だ。一部分しか効果がでないのではと思うんだが」

「そこは大丈夫です。どんな大きさものもでも半減させるとはいかないでしょうけど、湖の水量を半減させたと記録が残っていました」


 でなければ提案しない。魔法を使う対象が人間程度の大きさまでといった制限があるなら、たいして意味はないと黙ったままだっただろう。湖くらいの大きさが大丈夫ならば、あのスライムも大丈夫なはずだ。


「そうか。期待はできるが、一度実践してほしいな。一階に果物があったはずだ。それに使ってくれないか」

「わかりました」

感想と誤字指摘ありがとうございます

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[一言] スライムと触手って エロ担当とばかり、、、
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