69 無事合流
「イリーナの剣はなにか特別なものなのかな」
「どうしてそう思ったー?」
イリーナが枝を切り落としながら聞き返してくる。
「刃物は鋼色っていうのかな、ダイオンが使っている剣と同じ色になるだろ。でもイリーナの剣は赤っぽい。これまで見た剣でそういった色はなかったなとなんとなく思った」
「鋼に希少鉱石を混ぜ込んであるからね。硬さは鋼以上だそうよ。加えて衝撃を逃がす柔軟性もあって折れにくいと聞いているわ」
「へー、腕のいい職人が作ったの?」
「そうね、伝手を使って頼んだわ。鋼よりも頑丈なものをって頼んだら、これができた。もう五年以上使ってるけど、鋭さは手に入れた頃からほとんど変わらないし、壊れずにいてくれて助かってるわ」
「ダイオンも騎士時代はああいった剣を使っていた?」
いやと首を横に振られる。
「俺は上質な鋼の剣だったな。ただ錬金術でよく硬度を増してもらっていた。だから長く使えたよ。それは病気で使えなくなって、騎士団に置いてきた。誰かが使っているんじゃないかな」
「大きな大会で準優勝した人の剣だから大切に保管されている可能性もあるかもね。そんな感じに名剣とかすごい武器を保管している家とかあるのかな?」
「有名どころだと倒竜槍を代々受け継いでいる槍騎士の家系だな」
「演劇の題目にもなる家のことですね。孤児院の男の子たちが好んでいる話でした」
そう言うシャーレにどういった話なのかあらすじを聞く。暴れまわり人々を困らせていた竜を倒した傭兵の話だった。悪竜討伐の功績で貴族になったそうだ。
「人助けじゃなくて、仇討ちのため竜に挑んだと聞いたことあるわね」
「俺もそっちが正しいと思う。子供たちに聞かせるには仇討ちはちょっと暗いから、人助けというふうに変えたんだろう」
イリーナとダイオンが修正を入れてくる。実話は血生臭かったのかな。
「ほかにも強い魔物を倒した人の武器を受け継いでいるところはありそうだね」
「あるとは聞くな。強い魔物には数打ちの武器だとたいしたダメージが与えられないから、良い材料で作った武器を準備しないといけない。勝ったら箔がつくし、そのときに使っていた武器も同じく箔がつく。それを受け継ぐ家はある」
「じゃあ、そういった有名な武器で受け継がれていないのはある?」
「行方知れずってこと? それだとキングソードとか名もなき聖剣とかが有名よね」
その二振りは管理者からもらった知識にあった。
キングソードは王になり得る人のところに現れて、数年したら消える剣だそうだ。精霊が宿っていて、王の資質を持ったものを選ぶんだそうだ。
名もなき聖剣は、神から与えられたとされる剣。使い手の扱いやすいように、刃の形状と重さが変わる。こちらは精霊が宿っていたとは知識にない。
「あとは壊れたと明言されている武器で山崩しと湖の矢があるわ」
それも知識にある。
山崩しは、大規模な山崩れを斬ったとされる武器だ。剣から魔力の刃を飛ばす武器だったらしく、その斬った跡が今も残っているらしい。壊れた経緯は。山崩れを斬ったときに複数人の魔力を込められ、限界を超える魔力を貯め込んだせいで壊れた。
湖の矢は、魔物を倒したときにその衝撃で大地にクレーターを作り、そこから地下水が湧きだして、雨水も注がれて、湖になった。その湖には矢を放った者の名前がつけられている。この矢は大地にぶつかったときに壊れた。
知識で武器について確認していると、これくらいでいいだろうとダイオンが言い、枝集めが終わる。
「燃やすわけだけど、どういったふうに風を動かせばいいかわかるか?」
ダイオンに聞かれ、ここらの地理がよくわかっていないことを自覚する。
「あー、ちょっとわからないかな。木に登ってここら一帯を確認しながら風の操作をするよ。燃やすのは待ってて。シャーレ、合図を出したら燃やして」
「わかりました」
周囲を見渡して、高くて登りやすそうな木を探す。
見つけた木の枝にジャンプして掴まり、枝を足場に登っていく。そういや木登りなんて初めてだ。日本にいた頃よりも身体能力がいいから、すいすいと昇ることができた。
てっぺん近くの枝に腰掛けて、リンドーさんがいた場所を見る。二百メートルくらい視線の先に木々の少ない開けたところがあり、リンドーさんの姿は見えないけど、バスタービーの姿はちらほらと見える。
「ヴィント。意のままに動け風」
風をリンドーさんのところへと吹かせて、開けたところをぐるぐると囲むように動かす。
そのままシャーレに「燃やして」と声をかける。
シャーレの返事の少しあとに、もくもくと大量の煙が上がり始め、その煙は風に乗って、リンドーさんがいる場所へと流れていく。どんどん煙が移動し、やがてリンドーさんのいる場所が煙に包まれて見えなくなった。バスタービーの姿も煙の中に消えていった。
「火はよそに燃え広がってない?」
下へと声をかけると、大丈夫だとダイオンからの返事があった。
じゃあもっと煙を送り込もうかということで、そのまま十五分ほど魔法を維持して、そろそろいいだろうとダイオンから声をかけられる。
風の魔法を維持したまま、木を下りる。まだまだ盛大に煙を上げている枝から三人を離して、風の魔法を止めて、水で燃えている枝を包んで消火する。煤で黒くなった水を消すと、そこには濡れてすっかり鎮火した枝の燃えカスだけが残る。
「一応火種が残ってないか確認しとこう。そのあとにリンドーさんのところだ」
ダイオンの提案に頷いて、消火ができているか確認してからリンドーさんのところにこそこそと移動する。
煤や煙の臭いはそこら中に残っているけど、煙自体はほぼ散っていて視界は良好だ。
風の魔法は上手くいっていたようで、開けた場所は煤がほとんど届いていなかった。そしてあちこちに地面に落ちたバスタービーがいて、頭部を潰されていた。
「近づいても大丈夫かな?」
小声で三人に聞く。
「接近に気づいて、また声をかけてくると思います。それまで待っていればいいのでは?」
「そうしようか」
シャーレの提案にダイオンとイリーナも頷いて、腰を屈めて隠れながら待つ。
そのまま待つこと三分くらいか、声が届く。
「もう大丈夫だ! バスタービーは倒した」
立ち上がり、リンドーさんのいるところに向かう。
三人の男たちがいて、体のあちこちに怪我をした二人は岩を背に座っていて、リンドーさんと思われる五十歳前半で小太りの男はイリーナを見て、少し驚いた顔になった。
彼には怪我どころか、服の汚れすらない。目の辺りがうっすら黒っぽく、頭部には毛に包まれた丸い耳がある。たぶんパンダのニールだと思う。
「嬢ちゃんだったのか」
「お久しぶりです」
「四年ぶりくらいか? 元気そうでなによりだ」
「おじさんも。会いに来たら帰ってこないっていうんで、探しに来たんですよ」
「そうかい、助かったよ。俺一人ならなんとでもなったんだが、怪我人二人を抱えていては動きようがなくてなぁ。複数でこられると、戦っている間にこの二人が攻撃されてさらに怪我を負いかねん。まあ、そうなってもこやつらの自業自得なんだが、見捨てるのもちょいと可哀想だ」
「自業自得って、なにがあったんです?」
俺たちが視線を向けると、怪我を負った二人は気まずそうに顔をそらした。
「バスタービーの幼虫や卵を確保しようとして、巣を刺激して大騒ぎだ。欲しがっている者がいて高く売れそうだからとそこの男に誘いをかけられて無茶をしたらしい」
「それはたしかに自業自得だわ。そのせいで村にも被害がいっていたら、目も当てられない」
「うむ。これにこりて無茶な狩りはせんだろうさ」
リンドーさんがいないと死んでたんだし、その幸運が二度も続くとは思えないだろうしね。
「あとで村長から説教してもらうとして、誰がほしがっていたかも聞きたいところだな。バスタービーなんぞそうそう利用できるものじゃない。ろくでもないことに使われる可能性もある」
もしかしたら残党の依頼かもしれないな。神守の森のときのように魔物を合成しようとしたのかもしれない。この情報はフーイン様にも流した方が良いかもしれない。
「その情報をこちらにももらえますか? 伝えておきたい人がいるんです」
「いいぞ。ちなみに誰に伝えるんだ?」
「王族です。ゆえあって騎士団と一緒に行動してまして、残党に繋がる情報かもと思いまして」
「王族に残党か。嬢ちゃんは今この国に世話になっているのか?」
リンドーさんに聞かれて、イリーナは首を横に振り、簡単に事情を話す。四英雄と呼ばれる人とはいえ、国家機密の計画をそう簡単には話せないと判断し、そこらへんは伏せてある。
「探していた者に会えたのか。それは良かったが、話に聞いていた実力はなさそうだが」
「病気で体力などが落ちまして、鍛え直している最中なのです」
観察するように視線を向けられたダイオンが答え、リンドーさんは納得し頷いた。
積もる話は家でということで怪我人二人をダイオンとリンドーさんが背負い、村へと帰る。
その帰り道で、自己紹介をして改めて煙の礼を言われた。
村に戻ると、村人たちに無事の帰還を喜ばれたが、煙が上がっていたことを聞かれる。もしかして火事かと帰りの遅さとはまた別に不安を抱いていたらしい。
リンドーさんが事情を説明したことで、火事が起きたわけではないと村人たちはほっとしていた。
若い狩人と彼に儲け話をもちかけた男は、村人に連れられていった。治療と事情聴取のためだ。簡単な事情は引き渡すときにリンドーさんが話したので、こってり絞られるだろう。
リンドーさんの家に入る前に、マプルイの水や餌を追加して、武具を馬車の中に置いて、家に入れてもらう。
人数分のコップがテーブルに置かれていて、水で悪いがと水差しから注がれる。
こちらから手持ちのナッツやドライフルーツを茶請けとして出し、水を飲んで一息ついて会話が始まる。
「嬢ちゃんはなにか用事があって、ここに来たのか?」
「いえ、近くに来たので挨拶にと」
「そうかい。ノーナは元気かな」
「母さんには一年くらい会ってないんだけど、最後に見たときはまだまだ元気でしたよ」
「たまには帰ってやらないと心配するぞ」
「はい。目的を果たしましたし、一度帰ろうと思ってます。そのときにリンドーさんが元気だったと伝えますね」
「うん、ありがとう」
会話はこれまでの旅で見てきたものについてになり、たまに俺たちも知っていることを話して近況報告のような会話が三十分ほど続く。
一通りの話が終わってイリーナはリンドーさんに手合わせを頼む。
「いいぞ。どれくらい腕を上げたか見てあげよう。君たちもどうかな?」
「よろしくお願いします」
すぐに答えたのはダイオンだ。
「俺はまだまだ未熟でやっても意味はなさそうなんで遠慮しておきます」
きっと差がありすぎて得られるものはなにもない。模擬戦をやって得られるアドバイスもダイオンやイリーナが言うものと変わらないだろう。もっともっと強くならないと、この人との模擬戦に意味はないと思う。
シャーレも断った。ある程度の強さは求めるけれど、ダイオンたちのようにどこまでも上を目指すというわけでもない。日々の鍛錬で十分であり、料理や裁縫といった家事方面の熟練がシャーレにとって重要視することなのだ。
シャーレの不参加に少し不満そうなのはイリーナだ。鍛錬の時に才を感じさせる動きを見ているのだから、もっと伸ばしてライバルの一人になってほしいんだろう。
そんなイリーナの背をリンドーさんは軽く叩いて、外に行こうと促す。
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