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縁をもらって東へ西へ  作者: 赤雪トナ
68/224

68 知人を訪ねて

 イリーナが同行して、喜んだのは騎士や兵たちだった。戦帝大会優勝者に指導を望んだのだ。

 自分の履歴が知られた場合、そういったことを頼まれるのは珍しくはないと言って、イリーナは時間があると騎士たちに訓練をつけていった。

 それを見てわかったことは、騎士たちは自身のどこが悪いか、どういった人や魔物とどういったふうに戦ったのかを聞くばかりで、イリーナと戦うことはなかった。最初に模擬戦をやって、それで実力差を知り、高みを知って満足したのだとダイオンが言っていた。

 その模擬戦も勝つという熱意は感じさせず、憧れの人物と手合わせできて嬉しいといった雰囲気だった。

 イリーナがこれまで会った人が皆こんな感じなら、たしかに寂しさがあるかもしれない。イリーナは後進を育てることよりも、自身を高めることの方が好きだ。それは彼女の話を聞いてわかった。慕われるのも嫌いではないけど、競い合う方が嬉しい。だからダイオンが後者であったことは救いになったんだろうなと思う。

 だからといってどこでもいちゃつかれるのはシャーレの教育に影響でまくるのでやめてほしいのだけどね。

 一緒に行動したり、隣に座るのは当たり前、その距離が近い。ここまではシャーレもやっているけど、イリーナはボディタッチもよくやっている。食事のときも自分のおかずをダイオンの口に持っていて食べさせたり、その逆を望んだり。

 恋人になったのかと思ったけど、二人の会話からはそういった話は全く出てこない。恋人でないとしたら、浮かれたイリーナが距離感を測れていないということなんだろうか。

 ダイオンが落ち着いて対応しているんで、俺とシャーレは見ているだけ。好きなようにやらせているダイオンはイリーナの心情を察しているんだろうか?

 そんなイリーナだけど俺たちと交流していないわけじゃない。交流のメインがダイオンではあるけど、俺たちとも雑談するし遊びにも加わる。鍛錬のときにダイオンとはまた違った指摘をしてくれることもある。

 総評としてはダイオンにとても執着していてそこを外せば、だらしなさはあるけど頼れる年上というものだ。


 でもほんといちゃつくのは見えないところでやってほしい。シャーレが影響を受けたようで、世話を焼かれることが微増したのだ。どこまでなら手を出しても大丈夫か慎重にラインを見極めていて、俺が自分でやろうとすること、任せてもいいことを持前の観察力や洞察力を発揮して見抜いていった。その結果、気づいたら風呂上りに髪を拭かれることや作った料理を味見と称して毎回あーんとやられることが当たり前になっていた。

 とある野営の風呂上りに、当たり前のようにシャーレにタオルを渡そうとしたところでふと気づいて、やっぱり自分でやると言ったときは、雨に濡れる子犬がこちらを見上げているような物悲しさを感じさせて、断ることができなかった。

 一歩というか半歩ずつという慎重さで、世話を焼こうとジリジリ距離を詰めてくるシャーレに気づかなければ、いつか一緒に風呂に入って体を洗われていたかもしれない。世話を焼いてくれるのはありがたいし感謝もしている。それをシャーレは喜んでやるんだろうけど、年下の子になにもかもやられるのは堕落していく危機感を覚える。

 流されるのではなく、自分のことは自分でやらねばと意識させられる出来事だった。油断していると、また一つまた一つと世話を焼かれることが増えるので気をつけよう。

 ちなみにすでに世話を焼かれている部分は、また悲しませると思うと拒否できず、そのままになっている。言い方は悪いが、ダメ人間製造機とはシャーレのような子のことを言うんだろう。わかっていても止められないシャーレの甲斐甲斐しさとスペックの高さに戦慄する日が来ないことを祈る。


 とまあここに来るまでいろいろとあったわけだけど、俺たちは小さな町に到着した。

 ここで五日ほど滞在する。なにかしらのトラブルがあったわけではなく、年末年始なので休憩も兼ねて休みとなったのだ。

 俺たち四人はここからまた移動するのだけどね。イリーナの親しい知人がこの近くの村に住んでいるというので会いに行かないかと誘われた。知人に会うのが、アッツェンに来た目的の一つらしい。

 最初は親交の邪魔をするのは悪いと俺たちは断ったのだけど、その知人が四英雄の一人だと聞いて興味が湧いた俺とダイオン。俺が行くならシャーレも行くので、全員で一日はかからない距離にある村に行くのだ。

 町で補給して、フーイン様に出かけることを伝えて、町を出る。四英雄に会いに行くと知ったら同行者が増えるとイリーナが言うので、知人に会いに行くとだけ告げてある。

 久々にマプルイに自分たちで指示を出して道を進む。

 イリーナにも御者をしてもらおうとダイオンが教えていたけど、手綱にいらぬ力が籠められるようでマプルイから嫌がられていた。マプルイが小さく鳴くたびに「ごめーん」と謝る声が聞こえてきた。あとでマプルイを労わってやろうとシャーレと頷き合った。

 そして野営で一泊して、午前十時になる前といった感じの時刻に村に着いた。小さな村で広さ的に人口百人にも満たないと思われる。村の周りは木の柵と畑に囲まれている。さらにその周囲を森が囲んでいる。


「すいませーん」


 御者台から畑仕事をしている男に声をかける。


「あいよ。旅人かい? 珍しい」

「ここに仲間の知り合いがいるってことで来たんですよ。馬車を置くところってありますか?」

「村の端ならどこでも大丈夫だろう」

「ありがとうございます」


 徐行運転で村に入り、邪魔にならなさそうなところで止めた。

 三人が降りてきて、シャーレは俺の方へ、ダイオンとイリーナは近くにいた女に知人について聞いていた。


「ちょっといいですか? リンドー・トーカーさんの家はどこあるんでしょうか」

「あんたリンドーさんの知り合いかい?」

「はい。母の仲間だった人で、何度も会ったことが」

「へー、そうなんかい。リンドーさんの家はあそこだよ。丸太が壁に立てかけられている家だ」


 村人が指差す方向に、一メートルくらいの丸太が五つ壁にそうように置かれている家がある。


「今は留守なんだけどね」

「え? そうなんですか」

「うん、狩りで森に入った子を迎えに行ってもらっているんだよ。昨日から帰らなくて、怪我でもして動けないんだろうと二時間くらい前にリンドーさんに頼んだのさ」

「ああ、そうだったんですか。いつくらいに帰ってきますかね?」

「いつもなら狩りはそう遠くまで行かないだろうし、探す手間があっても昼頃には帰ってくると思うんだけどね」

「ありがとうございます。昼まで待ってます」


 リンドーさんの家まで馬車を移動することにして、その後はマプルイの世話をしたり、昼食の準備をしたりして過ごす。

 昼食を食べて、片付けもしてリンドーさんが帰ってこないことにイリーナは首を傾げた。

 不思議に思ったのは村人も同じなようで家に来て、リンドーさんが帰ってきたか聞いてくる人が何人かいた。

 そしてリンドーさんの家を教えてくれた人がやってきて、ほかの村人と同じように帰ってきたか聞いてきた。

 イリーナは首を横に振って答える。


「まだですね。目的の子がいつもと違う場所に狩りに行って、探すのに手間取っているんでしょうか」

「一人前とは認められていない子だから、違う場所に行くのは止められているのよ」

「そうですか。だとしたらなにかあったということになりますかね」

「そうね。リンドーさん強いから、あの人が苦労するような事態になっているとは思いたくないんだけどね」

「心配ですし、ちょっと探しに行ってみます。狩場を教えてもらえませんか」

「ありがたいけど、いいのかい?」

「ええ」


 女は礼を言い、リンドーさんが探しに行ったであろう場所を教えてくれた。

 遠くても村からのんびり歩いて二時間くらいの距離を狩場にしているそうだ。


「私はちょっと行ってくるけど、三人はどうする?」


 どうしようかと三人で顔を見合わせ話して、ついていくことにする。ここにいてもすることがないし。

 馬車の扉に鍵をしっかりかけて、馬車から放したマプルイを近くの木に繋ぎ、そこから届く距離に水と餌を出して出発する。

 狩場は南東ということで歩きながら、たまにリンドーさんに聞こえるよう呼びかけつつ進む。

 以前入った森と同じく移動に苦労することもなく、一時間ほど歩いて一度止まる。


「人が歩いた形跡とかあった?」


 三人に聞くと、シャーレとダイオンが頷いた。


「あったの?」


 俺と同じように見つけられなかったイリーナが周囲をきょろきょろと見回しつつ言う。


「でもそれを追っても探せないと思います。あちこちにいくつもあったし」

「そうだね。普段から使っている狩場だから移動の形跡はあちこちにある。今回は形跡をヒントにするよりも声をかけながらの移動が一番だと思うよ」


 そう言ってダイオンが形跡であろう場所を指差す。そこは藪が少し荒れた感じだった。ぱっと見の俺とイリーナは気にしなかったが、折れた茎や落ちた葉から移動の跡だと二人は判断したらしい。

 言われてようやく気付ける俺とイリーナは森での人探しに向いていないんだろう。

 移動を再開して、なるべく周囲を見るようにする。それでも移動の跡など見つけることはできなかった。そっちに集中して、魔物や猛獣への警戒が疎かになっていることに気づいて、形跡探しは諦めた。

 そうして四十分ほど歩いた頃だろうか、シャーレとダイオンが止まる。なにかを捉えたらしく、目を閉じて音を聞き取ることに集中する。

 俺もなにかしら感じるかと周囲を見る。南からかすかに嫌な感じがした。

 シャーレとダイオンも南を見ている。


「そっちから少し嫌な感じがする、魔物じゃないかなと思う」

「俺は戦闘が起きた可能性があると思っている」

「戦闘に関してはイリーナさんが一番でしょうし、なにか感じませんか?」


 シャーレに聞かれてイリーナは首を横に振った。


「感知っていうの? 遠く離れた場所での戦闘を感じ取るのは私には無理。自身に殺気が向けられたら、まだなんとかなるんだけどね」


 戦いの当事者になれば発揮される能力も、他人の戦闘では緊張も高揚もできずに鈍るってことかな。

 南へと慎重に進むことになり、ある程度進んで止まる。

 視線の先に開けた場所があるようなのだが、そこを蜂の魔物が取り囲んでいるようなのだ。大きさは五十センチを超えるくらい。見た目はスズメバチをそのまま大きくした感じだ。数はどれくらいか、軽く五十匹は超えてそうだ。

 それだけ集まっているのなら、開けた場所にはなにかあるのだろうと思っていると、そちらから大声が発せられた。


『誰かそこにいるのだろう?』


 俺たちの気配を察したのかな。周囲を蜂の魔物に囲まれて、その向こうの人間の気配を察することができるのはすごい。

 この声を聞いてイリーナが、リンドーさんだと表情を明るくした。


『返事はしなくていい。蜂どもに居場所がばれる。すまんが助けてほしい。助けると言っても、ここに突っ込む必要はない。むしろ近づかれると困る。ここには怪我人が二人いて、守る人数は増やしたくないのでな。蜂どもの情報を渡すので、弱点をついてほしい。こやつらはバスタービーという名でな。蜂を巨大化させただけと考えてくれていい。弱点も蜂と同じで、煙に弱い。よってここらを煙で満たしてくれれば、あとはこっちでどうにかできる。頼む、どうにか煙を準備して、ここら一帯を煙で包んでほしい』


 どうしようかと小声で聞くと、一度下がろうとダイオンとイリーナが言ってくるので、それに従う。

 バスタービーたちはリンドーさんの大声に注意がいっているのか、こちらに気づくことがなかったので問題なく下がることができた。


「生木を集めよう。それを燃やせば煙はどうにでもなる。あとはリョウジが風を操って周囲に煙を満たせばいい」

「燃やしたらほかに燃え移らない?」

「そのときは風の操作を止めて、水で消火を頼む」


 さくっと方針を決めて、離れたところにある木の枝をダイオンとイリーナが切り落としていく。

 枝をシャーレと一緒に一ヶ所に集めていく。

感想と誤字指摘ありがとうございます


ダイオンとイリーナにいちゃつかないでといっても、ダイオンからすれば亮二とシャーレは最初からいちゃついていた件

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― 新着の感想 ―
[一言] >久々にマプルイに自分たちで指示を出して道を進む。 おお、てっきり国が用意した馬車での移動で、マプルイと自前の馬車はどこかに預けているのかと思っていました。 (そして、そのうちマプルイがす…
[一言] 気がつけば周囲をコンクリート詰めに。
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