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縁をもらって東へ西へ  作者: 赤雪トナ
61/224

61 原因

 ポーション作りでは泡立つような入れ方は駄目らしい。逆に攻撃的な液体の薬はどぼどぼと入れた方が良いのだそうだ。

 三つのビーカーに入っている薬液を小鍋に移して、シャーレが木のスプーンでゆっくりと混ぜる。

 五分くらい混ぜたらポーションの完成だと本に書いていた。低品質だからか手順が簡単だな。高品質だとどれだけ難しくなるんだろうか。こうして俺たち素人がやったところで確実に失敗するだろうとはわかる。


「これでそれなりの切り傷を治癒できるんだっけ」

「本にはそう書いてましたね」


 地球にはなかったもので、すごく便利だと思う。わりとお手軽に作れるもので数針縫うものが治るってのは本当にすごい。

 ただしこればっかりに頼っていると、生物が持つ自己治癒能力を弱めてしまうらしいので、ポーションでなんでもかんでも治すってことはやらない方がいいと、クリムロウさんに習ったなー。十日に一回くらいの使用が問題ないペースだったはず。一日に何回も使ったときは三ヶ月くらいポーションの使用を控えて、ようやく落ちた自己治癒能力が戻るとか。

 急ぎじゃないなら布に少量のポーションを含ませて怪我したところにあてるという使い方をするそうだ。治癒を促進する使い方で、それならば毎日使っても問題ないらしい。

 シャーレが混ぜているところを見ていると、ポフンと少し煙が出た。五分くらいたっていると思うし、完成の合図かな。


「たぶん完成だと思いますけど」


 シャーレも完成と思ったみたいで手を止めて小鍋を少し揺らす。白っぽい液体が揺れた。

 これをフラスコに入れてコルクで栓をして、テーブルの上に置いておこう。うん、ゲームに出てくるポーションっぽい。


「ポーションは完成したようだし、次は普通の薬を作っていこうか」

「はい。えっと材料は」


 シャーレが別分けしていた材料を並べていく。

 買ってきた材料でできるのは熱さましと咳止めだ。ポーションのように飲み薬ではない。いくつかの薬草を洗って、シャーレが火であぶり水分を飛ばしてすり鉢で粉にする。粉を天秤でしっかりと量り、決まった分量を混ぜ合わせて完成だ。ポーションのように仕上げに魔法は使わない普通の薬だ。

 粉薬の方も丁寧にやることを心がけて、完成させる。できあがった二つの粉薬をテーブルに置いた頃には、シャーレが小さく欠伸をする時間だった。


「おっと、そろそろ寝る時間だ。使ったものを片付けて寝ようか」


 ダイオンは戻ってこないけど、ゲームが盛り上がってるんだろう。

 粉薬を手のひらサイズの小箱に入れて、手早く洗ったものをテーブルに置く。少し草っぽい部屋の空気を魔法で換気し、体をふいて、寝間着に着替えベッドに入る。

 うとうととしていると、ダイオンが戻ってきたか、扉が開く音がして、ごそごとと服を脱ぐ音やベッドがきしむ音がした。


 朝になり、シャーレに起こされた。

 朝食の場で今日も魔法陣に集合とフーイン様が連絡してくる。

 それを聞きながら目玉焼きに、山菜のポタージュ、パン、リンゴを朝食に食べて、部屋に戻る。

 シャーレが手早く洗濯をして、干すのを俺たちで手伝ってから宿を出る。

 魔法陣のある丘の上には研究者たちがそろっており、眠たげな雰囲気を漂わせていた。もしかして徹夜したんだろうか。やりとげたって顔もしているから、原因がわかったっぽい。

 フーイン様も察したようで、ファロント爺さんに原因について尋ねる。


「こうではないかと確信に近い推測はできました。それを確認したいので実験の許可をお願いしたいのです」


 国が集めたメンバーなだけはあるな。一日で原因を突き止めたのか。


「どのような実験だ?」

「この魔法陣は最低四人いれば発動するということは報告済みですね。ですので一人をどけて発動させたいのです」

「それは誰か一人が魔法を阻害しているということか?」

「はい。私どもはそう考えています。ただし加護持ちではないと嘘を吐いているわけではないのでしょう。それならば発動すらしないでしょうから。おそらくこうだと思うことはあるのですが、まずは実験してから」


 フーイン様は俺たちを見て、いいかと確認してくる。

 それに俺は頷きを返しつつ、原因は自分かもしれないと思う。大精霊の加護かもしくはローズリット所有が悪影響しているかのどちらかが原因だと思ったのだ。

 実験が開始される。

 最初は俺も入って発動が失敗し、三度目の実験で俺が抜けて、発動が成功した。あ、やっぱりか。


「原因は彼なのでしょうな」


 全員の視線が突き刺さる。シャーレとダイオンはどこか納得した表情でもあった。二人とも俺と同じことを考えてたのかなー。

 ファロント爺さんが俺に近づき、問いかけてくる。


「君はもしかすると大精霊の加護を受けているのではないかの?」


 この場で隠しても意味はないし、頷くか、

 肯定するとほぼ全員から驚きの視線を向けられた。


「やはりのう。魔法陣の一部に負荷がかかっておった。魔法習得の早さもヒントのようなものだったな。協力魔法というのはバランスが大事なのじゃ。最初からそうと知らせてもらっていれば、その方向で調整をしたが、知らずに実行すればバランスが崩れて、結果は昨日のように発動後すぐに魔法が止まる」

「どうしてそのことを教えてくれなかったんだ?」


 驚きの表情のままフーイン様が聞いてきて、俺がなにか言う前にファロント爺さんが答える。


「精霊の加護持ちというだけでも珍しいのに、大精霊の加護となればその希少性はさらに上がる。余計なトラブルを招きたくないなら黙っておくものでしょう」

「ああ、そうか。そうだな。すまん、わかりきったことを聞いた」


 フーイン様が納得したように、ほかの人たちも納得した表情を見せた。でも珍しそうなものを見る視線はまだある。まあ、仕方なし。ローズリットのことはばれていないようだからセーフと考えよう。


「となると計画からはリョウジは抜くのか?」

「いえ、むしろいた方がいいですな。陣の調整は必要ですが、より強力な効果が見込めます」

「そうか、ではその方向でいこう。調整にどれくらい時間がかかる?」

「夕方までには終わりますので、そのときに一度試したいですな」


 フーイン様は頷いた。


「ということだ。加護持ち組たちはそれまで自由にしてくれ」

「リョウジは残ってくれ、ちょっと使う魔法に変更があるのでな」

「わかりました」


 シャイマンさんたちは町に戻っていき、シャーレとダイオンは残る。

 フーイン様がダイオンも帰っていいのだと言っている。


「俺はリョウジの護衛なので、町の外ではできるだけ近くにいるつもりなのですよ」

「ああ、そういえば護衛だと聞いていたな」


 そんな二人の会話から、ファロント爺さんに意識を移す。


「習得する魔法とはどんなものなんですか?」

「お前さんには風を増幅する魔法を使ってもらいたい。四人の加護持ちの魔法を後押しするといった感じじゃろうか」

「魔法自体は四人で発動。俺はその発動された魔法そのものに干渉して、効果をさらに強化するといった理解で大丈夫ですかね?」


 自分なりの解釈を言ってみると、ファロント爺さんは頷いた。


「それであっとるよ。というわけで練習として風の魔法を誰かに使ってもらうから、それに干渉してほしいが、そんな魔法を知っておるか? 知らなければ教えるが」

「炎の魔法に風の基本魔法で風を送り込んで威力を増したことはあります。これでも魔法で魔法に干渉していると思いますが、また違った感じでしょうか?」

「それはそれで正解じゃ。だが専用の魔法があるし、今回はこっちを使ってもらいたい」

「わかりました」


 使用する魔法や魔法陣について関わってきた研究者が言うんだから、そっちの方が問題なく事が運べるのだろう。

 手本を見せるということで、兵が風の魔法を使い、ファロント爺さんが続く。


「ヴィント。あと吹きて、さらなる風よ、強くあれ」


 兵が吹かせ続けていた風が一時的に強くなった。

 これって事前に使っておいても意味はないのかな? 聞いてみると使われている魔法にのみ効果を出すものらしい。今兵が使っているように長時間効果が出ているものだと使いやすいけど、風の刃を飛ばすみたいな発動時間が短いものだと合わせるタイミングが難しそうだな。


「これって風派生の雷魔法にも効果あったりします?」

「いや風のみじゃな。雷用のものが知りたいならあとで教えようか?」

「お願いします」


 ダイオンが電撃を剣にまとわせて使うことがあるんで、強化できるのはありがたい。

 まずは風の増幅魔法だと練習を始める。手本があったんで、習得はわりと簡単だった。

 習得すれば俺のやることは終わり、フーイン様も加えて四人で町に戻る。


「ダイオンから聞いたんだが、大精霊の依頼を受けてその報酬で加護をもらったというのは本当なのか?」

「本当ですよ」

「どういった依頼だったんだ?」

「友人を助けてくれというものでしたね。これ以上は秘密です」


 詳しく話すと水の大精霊の加護持ちということもばれるからな。

 俺の返答で、フーイン様は大精霊から口止めされていると勘違いしてくれた。


「じゃあシャーレが加護持ちじゃないのは?」

「シャーレの資質は火と土なんです。風の資質がないから加護は無理ということでした」

「なるほど。精霊を助けたら加護をもらえたというおとぎ話は聞いたことがある。本当だったのだなぁ。それにしても大精霊の加護か、ぜひとも我が国でその力を役立ててもらいたい」

「ごめんなさい」

「即答か」

「今は旅暮らしが性に合ってますから」

「なんとなく理解できる。旅暮らしが楽しいのか、野外に風呂を作ったり、そっちを充実させようとしているしな」

「もっと便利にしたいですね。馬車を買ったおかげで寝床は十分なものになりました。次は警戒用の魔法を習得して、野営のときに夜番をしなくていいようにしたいな」

「町中で暮らせばいいだけじゃないか? いやまあこうして旅をしていれば、便利になればいいなと思う部分はあるけどな」


 話しながら歩き、宿についてフーイン様と別れる。

 このあとは鍛錬にしようかと二人と話し、その前に昨日作った薬の鑑定を頼むことにする。

 武具を身に着けて、宿を出て、薬を預けて、町を出る。

 体力づくりと素振りと回避を繰り返す。ダイオンがいけると思ったら、武器のみで下級の魔物と戦うことになるらしい。下級というと以前戦ったクロコーダよりも下の奴かな。一対一ならなんとかなりそうだ。

 昼食の時間になって宿に戻る。昼食後は少し素振りをして、鍛錬を続けるダイオンの近くで、シャーレと薬草本を見ながら実物を探していく。

 そうして夕暮れ前になって、魔法陣の調整がそろそろ終わるだろうと移動する。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[良い点] 風が強化されすぎて猛烈な嵐になりませんように(笑) 残りの加護持ち+主人公の強化と、主人公一人での最大パワー、どちらが強いのだろうか。
[一言] やっぱり大なり小なり関係無く、 精霊持ちだから人気と一緒に勧誘とか しつこくてみんな大変なんだろうな、、、、。
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