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縁をもらって東へ西へ  作者: 赤雪トナ
59/224

59 魔法発動準備

 湖の保養地を出てから数日経過して、第二の目的地である魔法使用のポイントに到着する。

 そこはこれといった特徴のある場所ではない。森の中にある丘といったところで、丘の周囲と中腹までに建物がある小さな町だ。この町では、平原だと栽培の難しい薬草を森の中で行っているらしい。栽培以外には、ほかの町と同じく森から材木を得て、加工し輸出するという、アッツェンでは珍しくないこともやっている。

 この町の代表が王子であるフーイン様の来訪に驚いてたけど、連絡はしていなかったんだろうか? トウプル様みたいに突然予定を変更したわけじゃないんだろうし、事前に連絡は入れられそうだけど。

 それを聞いてみたら反体制派に邪魔を入れられないよう、連絡を入れていないということだった。かわりにロンジー様が事情を書いた手紙を見せることで、国家機密の作戦中だと納得してもらったそうだ。

 俺たちは代表の屋敷ではなく、三つの宿にわけられて滞在している。代表は自分でもてなすよりも宿に任せた方が過ごしやすいだろうと挨拶のときに言っていた。少し気弱そうな人だったから、毎日フーイン様と過ごすのは避けたかったのかなと思う。実は反体制派の人間で、フーイン様に近くにいられると困るという理由があるかもしれないけど、そこを考えるのは俺の仕事ではないな。

 町に到着したその日は、俺たち加護持ち組の仕事はなかった。魔法使用のための準備が丘の上で行われたからだ。ようやく出番だと研究者たちがはりきって騎士や兵に荷物を慎重に運ぶよう指示を出していた。

 そして翌日、朝食後の食堂でフーイン様が俺たちに計画の発動を告げる。


「いよいよ始まりだ。ここをはじめとして五ヶ所。君たちの力を借りて国内を落ち着かせる。初めての試みだ、手間取ることもあるだろう。だが成功を諦めるつもりはない。諦めるということは国内が荒れたままで良しとすることだからだ。俺たちも努力するから、君たちも助力を頼む」


 フーイン様の言葉に全員が頷く。

 ここまで来てやっぱりやめたと言う奴はいないだろう。特に俺とダイオンとシャーレ以外は故郷のことだ、荒れることを良しとはしないはず。

 朝礼のようなものが終わり、全員で宿を出て、丘の頂上に向かう。

 そこでは地面に運動会で使うような白線で魔法陣が描かれてた。

 今は魔法陣の上に五人が立っている。陣は五芒星ではないが、立ち位置的には線で結べばそうなる位置だ。陣の模様としては雪の結晶に近い。

 テストなのか魔法陣に立つ人たちが風の魔法を使って、ゴウッと強い風が上空に吹いていく。その風の余波が俺たちの間を駆け抜けていった。舞い上がった草や砂から目を守る者、髪やスカートを押さえる者がいて、間近で風を受けた研究者たちは笑顔で頷いている。問題なく準備が整ったのだろう。


「あの線は雨で消えてしまわないんですか?」


 風になびいた髪を整えながら、疑問に思ったことをトーローさんがフーイン様に聞く。


「ずっとは無理だけど半年以上は雨にさらされても消えない特殊塗料を使っていると聞いている。準備は整ったのか!」


 フーイン様が研究者に聞くと、彼らは腕を上げて丸と示す。


「じゃあまずは研究者たちから説明を受けてもらう」


 陣に近づくフーイン様の後ろをついていく。

 フーイン様が研究者の一人に説明を指示して、六十歳ほどに見える狐のニールの研究者が一歩前に出る。あご髭を触りつつ、俺たちに穏やかな笑みを向けてくる。


「改めて自己紹介と行こうかの。ファロントと言う。この計画の一員じゃ。見ての通り、あの魔法陣を使って君たち加護持ちに魔法を使ってもらう。加護を持たない者だと強風を吹かせるのが精一杯だが、君たちならば超広範囲の風を自在に操ってくれるだろう。使う魔法はこちらから指定させてもらう。詠唱は『ヴィント。風よ、繋ぎ結んで走れ』といったものだ。効果は指定した方向へ風を吹かせ続けること、同種の陣と風を繋ぐことの二つ。ここ以外の四ヶ所でも同じことをやって、国内の風の動きを一定期間制御して、薬をばらまくというわけじゃな。ここまでで質問は?」


 シャイマンがすぐに口を開く。


「となると俺たちが最初にやるのは魔法の習得か?」

「そうなる。だがそう難しいものでもない。効果としては決まった方向に風を吹かせ続けるというものだ。似たような魔法はあるし、暑い日に使ったことのある者もいるじゃろ?」


 扇風機替わりに使えそうだもんね。あとは木材加工で出る木屑を吹き飛ばすときとかも使ってそうだ。

 覚えがあるのだろう、加護持ち以外の者もうんうんと頷いている。


「今から魔法を使ってみせるからそれで覚えてくれ」


 早速ファロント爺さんが使ってみせる。指を向けた方向に十秒ほど風が吹き続けていた。

 俺を含めた加護持ち組は、それを見たり、風に触れたりして効果を実体験する。そして今度はダイオンが尋ねる。


「既存の魔法ではなく、この魔法を習得させる理由はあるのか?」

「うむ。既存の魔法では、風を吹かせるだけになってしまう可能性がある。詠唱に「繋ぎ結んで」と入れること、効果と目的を説明することで五ヶ所の魔法陣を繋ぐ効果ももたせるのじゃよ。陣自体にそういった効果を持たせているが、魔法にもイメージを絡めることで循環という最終目的をしっかりと果たせると考えている」


 たしかに説明を受けたおかげで、魔法がどう動くのか想像しやすくなったね。

 そういったものをイメージしながら、魔法を使う。


「ヴィント。風よ、繋ぎ結んで走れ」


 発動したし、風も吹き続けている。あとはこれが繋がる効果があるかどうかなんだけど。


「習得できたようだの。さすがは加護持ち、早い早い。ではこっちに来てくれ」


 早いなと少し驚いた様子のファロント爺さんに手招きされて、少し移動する。

 移動した先には、小型の魔法陣があり、それが五ヶ所に作られていた。


「これは国内に作る予定の魔法陣を超小型にしたものだな。ここで実際に魔法を使って、風の循環が起きるか試してもらいたい。これで成功すれば、魔法の習得が完全にできているとわかる」

「よかった。完全に習得できたか不安だったんだ」


 ここまで考えて準備してくれたのなら、魔法習得に不安はないな。


「では早速やってみてくれんかの」


 頷いて魔法陣の一つに立つ。時計回りに循環させようと魔法を使おうとして止まる。


「これどっち向きに風を循環させたらいいんです?」


 どう動かすかすでに決まっているんだろうし、それにそって動かした方がいいだろう。

 ファロント爺さんは右の陣に向けて吹かせるよう指示を出してくる。反時計回りだったんだな。

 それに従い、右に見える陣に風を吹かせて、すぐに風を向けた陣へと移動して魔法を使う。すると吹き付けていた風と今生み出した風がすべてさらに右の陣へと向かっていくのがわかる。

 これは成功っぽいなと思いつつ、次々と魔法を使っていき、五ヶ所目を終えると風が陣を巡っていた。陣だけではなく、中央や外部にも風が吹いている。


「よしよし。最終確認じゃ」


 ファロント爺さんは地面から草をちぎって陣へと放り込む。その草は陣から陣へと風に吹かれて移動していった。


「どうやら成功だ。薬もこうやって国内を巡る予定だの。このまま魔法を維持できるか?」

「ええ、できますよ」

「では頼む。成功例を見てもらった方が、ほかの者も魔法をイメージしやすいだろうからな」


 ファロント爺さんはこの場を離れて、魔法の練習をしているダイオンたちを呼ぶ。

 呼ばれた加護持ち組とシャーレたち付き添いがこっちに来て、縮小版を見る。

 こうなるのかとダイオンたちは明確にイメージができたようで、全員がひとまず習得できた。あとは俺と同じように実際に小型魔法陣を使って循環させ、完全に習得できているか確認する。

 順調に進むことにフーイン様も研究者たちも満足そうだ。

 全員の魔法習得が終わったのは、昼食後に二時間ほどしてからだ。


「習得は完了じゃ。今日は陣で一斉に魔法を使ってみて終わろうか。タイミングを合わせる必要がある。その方がより高い効果が期待できるんじゃ」


 本番で使う陣の上に立ち、フーイン様の合図に合わせて魔法を使うことになる。魔法はある程度力を抜いて本発動しないように指示された。今日はタイミングを合わせる練習のみだ。本発動するときは陣が強く発光するようなので、そうなりかけたら魔法を弱める感じにすればいい。

 次の陣がある方向を教えてもらい、そちらに弱い風を吹かせることをイメージする。


「じゃあ手を叩くから、それに合わせて使ってくれ。準備はいいな? いくぞー」


 そう言ってフーイン様は手を叩く。

 叩かれたタイミングで俺たちは魔法を使う。少しだけずれた詠唱ののち風が吹いてすぐに止まった。

 おや? 風が吹き続けないな。

 フーイン様も不思議そうな表情を浮かべた。


「ずれがあったからか? もう一回やってみようか。今度は合わせることを意識してみてくれ」


 フーイン様はいいかと確認して、全員が頷いてから「せーの」と前置きして手を叩いた。

 先ほどよりもズレのない詠唱で魔法が発動し、先ほどと同じく魔法がすぐに止まる。

 困ったようにフーイン様はファロント爺さんを見る。


「ファロント。詠唱タイミングは完璧にしないと駄目なのか?」

「いえ、そんなことはないかと。もう三度ほどやってもらって様子を見てみましょう」

「わかった。皆もそれでいいか?」


 俺たちが頷くと、フーイン様が合図を出して、俺たちは魔法を使う。その様子を研究者たちが真剣な表情で見ていた。

 結局その三度でも魔法が正式な効果を出すことはなかった。

 これは以前シャーレとやった協力魔法みたいなものだし、俺たちが知らない発動条件とかがあったりするんだろうか。でもそんな問題があるなら研究者たちはすでにわかっていそうなんだが。一応聞いてみるか。


「俺たちがやろとしたことって協力魔法みたいなものなんでしょう? それって難しいって聞いたからそこに原因があるんじゃないですか?」


 ファロント爺さんが首を横に振った。


「いやおそらく違う。協力魔法に関しては陣の方に組み込んでいて、意識しないでいいように作ったんだ」


 ありゃ、違ったか。だったら上手くいかない理由は想像つかないな。

 今日はここまでで俺たちは町に戻ることになって、研究者たちが残って調査することになった。

 すぐに研究者たちとフーイン様は陣を再確認したり、あーだこーだと意見を出し合って原因を探り始める。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 誰かの仕業?と思わせて、実は 1人だけ異様に加護の力が強くて魔法陣のバランスが 崩れ、立ち消え安全装置が作動していた。 ガスコンロみたいな事だったりして。
[一言] ゴルゴムの仕業だ……! もとい、またぞろ残党の仕業かな?
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