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縁をもらって東へ西へ  作者: 赤雪トナ
54/224

54 不気味なスライム

 矢の飛んできた方向、百五十メートルくらい離れたところに三十人ほどの集団と神獣様より少し大きななにかがいる。集団はニール種が多いが、ヒューマ種やリアー種の姿もあった。


「斥候はあれを見逃したのか!? なにをやっていた!」

「今は責めているときではないっ騎士団前進! あの馬鹿どもを蹴散らすぞ! これ以上神獣様に無礼を働かせるな!」

『おおおおーっ!』


 騎士団はそれらへと移動を開始する。

 こちらへと駆けてくる集団の背後にいるなにかとは? それは表現しようのないなにかとしか言えなかった。

 黒っぽい巨大スライムに様々な動物の部位が生えて、手足は空をかくように動き、動物の顔も苦悶を訴えるように歪んでいる。

 それにあえて名をつけるなら、失敗作キメラとでもつけたらいいのだろうか。漫画などで見るキメラほどに整合性がないからそう呼ぶのもおこがましいかもしれないけど。


『なんとむごい仕打ちだ。ああなってしまっては助かるまい。お前たちの同族がしでかしたこと、お前たちでどうにかしろ。私は力を貸さぬ』


 神獣様の憐みの視線は、失敗作キメラに向けられていた。

 驚きの表情でフーイン様が神獣様を振り返る。


「あれはなんなのですか!?」

『あれの近くにいる者たちに聞け』


 神獣様がそう言うと森は消え、神獣様の姿も半透明に透ける。

 手を貸さず見に徹すると、その様子でわかる。人が矢を射かけたことを怒らないだけましなのだろう。

 フーイン様は、騎士の近くで指示を出すため駆けていく。

 騎士たちは向こうと接触する前に、相手の数を減らすことにしたようで、風と水の魔法が失敗作キメラとその近くにいる者たちに飛んでいく。

 それを相手は意に介さず前進する。魔法がぶつかり怪我をするどころか、転ぶ様子もない。


「魔法が効いてない?」


 俺の疑問にシャーレが首を横に振った。


「魔法が衝突の前に消えたりしていました。なんらかの対策をとっているようです。巨大なスライムには当たりましたけど、効果はそれほどでていない様子」

「あれはおそらく騎士団と戦った経験があり、対策を練っているな」


 ダイオンが顔を顰めて言う。


「俺たちはなんの指示もでてないけど、このまま見学でいいのかな?」

「なにかすることがあるならフーイン様が言ってくるはずだ。ただ向こうが魔法かなにか遠距離攻撃手段を持っているかもしれないから、迎撃の準備はしておいた方がいいな」


 竜巻の魔法でいいかな。いつでも使えるようにして、戦いの様子を見る。

 数としてはこちらの方が優勢なのだけど、失敗作キメラの動きによっては数の差を覆されそうだ。

 騎士たちと向こうの人間がぶつかる。失敗作キメラは移動が遅いのか、それとも後方待機を指示されているのか、向こうの集団のやや後ろだ。


「あいつらどこにいたんだろうね。周辺の巡回に出た兵士が見逃したのかな?」


 斥候たちからは魔物がいるという報告はあっても、人がいるという報告はなかったはずだ。


「見逃したんだったらいいが、間者がいてあいつらの情報を伝えなかったとかだと、今後も同じことが起こりかねないぞ」

「それは嫌だね」


 間者がいないとすると、あれらは騎士団と戦った経験があるって言ってたし、空からの巡回をするって知っててこの地に適した迷彩服でも着てたか? 巨大スライムはどう隠していたかわからないけど。

 あ、失敗作キメラが体を大きく震わせた。


「は!?」


 思わずその光景に驚きの声が出る。シャーレも同じく驚いたのか、手を口に当てていた。

 失敗作キメラはいくつもの動物の手足をくっつけて触手のように伸ばしたもので、前方を薙ぎ払ったのだ。それも味方ごと。

 目の前の敵に意識をとられていた騎士や兵は、横から襲いかかってきた丸太よりも太い一本の触手に対応できず薙ぎ払われて、地面に転がされた。そこに追撃だとでもいうのか、今度は上から何度も触手が叩きつけられる。やはり味方にも攻撃が当たっているが、失敗作キメラが攻撃を止めることはないし、向こうも止める様子もない。


「え? あっちの味方じゃないの?」


 疑問にはダイオンが答えてくれた。


「……あれは最初からああなることを織り込み済みだったんだろう。あれが反体制派じゃなくて、残党と呼ばれるものだったら、それくらいやりそうだ。すべてを滅ぼすことを目的にしていたそうだから、自分の命も簡単に捨てられるんだろう」

「俺にはあいつらがわからないよ」


 命を懸けてなにかを行うということはあるだろう。でも今この場で行われていることが、それに該当することなのか? なにかを成し遂げ前進するために命を懸けるんじゃないのか? 俺の目には懸命というより簡単に命を投げ出しているようにしか見えない。


「わからなくていい。わかっちゃいけないことだろうさ。ああなるまでになにかがあいつらにあったんだろう。それはきっと並大抵のことじゃないし、経験しないならその方がいい類のものだ。お喋りはここまで。俺たちも動く必要があるぞ」


 敵味方を薙ぎ払った失敗作キメラが前進を始めた。


「あのまま進むとこっちの味方も潰される。そうなる前に止めるぞ」

「とりあえず魔法をぶっ放すけど」


 走り出したダイオンについていきながら、魔法が届く距離で迎撃用に準備していた竜巻の魔法を使用する。

 やや後ろから足音がしたからシャーレもついてきたか。


「ヴィント! 吹き荒れて斬り刻めっ刃の竜巻!」


 竜巻は効果を発揮して失敗作キメラを切り刻んでいく。

 近づいてわかったけど、失敗作キメラの中枢に翼を閉じた鷲が目を閉じ動かずにいた。ほかの動物の部位と違って、その鷲は体の部位が失われていなかった。


「もしかしてあの鷲が核なのかな?」

「そうだとすると鷲を取り出したら体を保てなくなるはず」

「どうやったら取り出せるかわからないけどね」


 吹き止んだ竜巻は失敗作キメラを切り刻んだけど、たいしてダメージを与えてないっぽいんだ。傷口はすぐに閉じて、動きが鈍った様子もない。


「あれがスライムというなら炎が効くのでは?」


 背後からシャーレの声がする。やっぱりついてきたんだな。下がっていてほしいけど、有効打がシャーレしかないし、そうも言えない。俺の火の魔法だと焼け石に水だろうしな。


「メインはシャーレだな。炎で攻撃して小さくしたら鷲をどうにか取り出す。俺とリョウジはシャーレを守りつつ、あれの攻撃を引き付ける」

「攻撃を引き付けるのは俺たちも参加だ」


 フーイン様の声がして、そちらを見るとフーイン様とシャイマンさんがいた。二人の後方では非戦闘員が倒れた騎士と兵をさらに後方へと運んでいる。

 フーイン様は戦闘の後方から指示を出していたんで、触手による被害を受けなかったようだ。


「王族が前線に出ていいんですか?」

「騎士と兵があの状況なんだ、使える者は使わんと手が足りないだろう?」


 たしかに参戦はありがたい。シャイマンさんは空からしかけるようで、すぐに飛び上がった。

 ダイオンとフーイン様はそれぞれの武器に雷をまとわせて失敗作キメラに突っ込んでいく。


「シャーレ、頼んだよ」

「はい!」


 俺は雷の魔法で攻撃しつつシャーレを守ることに専念しよう。細い雷しか放てないけど、ダイオンたちが攻撃に雷を選択したから、風の魔法よりは効果を出すんじゃないかと思う。


「レーメ! 暴虐の赤、弾けて砕け、大火球!」


 シャーレが掲げた手のさらに上空に直径一メートル以上の火球が現れて、すぐに失敗作キメラへと飛んでいく。

 それは失敗作キメラの上部に命中し、ごっそりとその分を削った。俺の魔法と違い、再生が遅い。アッツェンの騎士団との戦闘を考慮して、風と水に対策を練ったけど、火の魔法には弱くなったと見ていいのか?


「どんどん頼む」

「お任せください!」


 はりきった様子でシャーレは即座に二発目を撃ち、それも命中する。

 それで失敗作キメラも一番警戒すべき相手をシャーレと定めたのか、触手がこちらへと振られた。

 すぐにシャーレを抱っこしてその場から移動する。そこに触手が叩きつけられ、地面がかすかに揺れる。

 あの触手の動きは速いけど、挙動がわかりやすい。しっかりと見ていれば避けられるのだ。騎士たちも不意を突かれたからまともに受けたのであって、きちんと見ることができれば避けていただろう。

 接近戦を仕掛けているダイオンたちも、触手の根本と胴にできる隙間に潜り込んで避けている。


「抱えられながら魔法は使える?」

「なんとかやってみます」


 使いづらいだろうけど、頑張ってほしい。

 シャーレを抱き上げたまま触手を避けていく。シャーレは使用速度を落としたものの、火球を放っていく。

 七度火球を放ってシャーレが申し訳なさそうな顔になった。


「主様、魔力が切れます」

「そっか。じゃあこれでおしまいってことで後方に下げるよ?」

「……はい」


 少しだけ迷いを見せたけど、これ以上ここにいても邪魔なだけと考えたようで頷いた。


「十分仕事をしてくれたよ。あとはどうにかするさ」


 シャーレの魔力切れと下げることを大声で伝えて、一度戦いから離脱する。

 トーローさんたちのところにシャーレを下ろし、ありがとうと頭を撫でて、戦闘に戻る。

 失敗作キメラの大きさは最初の三分の二くらいになっている。これからどうやって鷲を取り出すかだけど……ダイオンたちなにかいい考え浮かんだかな。


「これからどうする!? 俺はいい考えないよ!」


 大声で皆に聞く。


「俺に考えがある。スライムの中に突入して鷲を掴んで脱出するというものだ」


 フーイン様が槍で攻撃をしながら答える。

 それは失敗作キメラに取り込まれそうなんだが。さすがにそうならないための策はあるんだろう。

 同じ心配をしたダイオンが剣を振りながら詳細を尋ねる。


「こうして攻撃をしているとわかるだろうが、火ほどではないが雷魔法もある程度の効果を出している。俺は全身に雷をまとう魔法が使える。これだけではまだ足りないだろう。そこで攻撃で大きな裂け目を作って、あの鷲までの距離を少しでも縮めてほしい」


 これまでの攻撃で一番大きな傷を作ったのはシャーレだ。でも魔力が不足しているから無理。二番目だと俺か?


「竜巻の魔法でやればいい?」

「まだ魔法を使えるのなら頼みたい」

「それは大丈夫ですけど。ダイオン、この策でいいのかな?」

「いい考えは俺にもない。俺が突入できるならやるんだが、その魔法は使えないし、フーイン様に任せるしかない。一応保険として命綱をつけてもらいましょうか。取り込まれかけたらそれを引っ張る」

「綱を伝ってくる電撃でダメージを受けることになるぞ」

「あなたに襲いかかる危険に比べたら、まだましでしょう」


 すっごい痛そうだけど、ダイオンの言うように取り込まれるよりはましかな。


「魔法を使うタイミングはどうしますか」

「呼吸を整えたら合図を出す。その前にシャイマンっ綱をとってきてもらいたい」


 了解ですと答えたシャイマンは後方へと飛んでいく。

 彼が戻ってくるまでの間、俺たちは振り回される触手を避けていく。失敗作キメラはあまり知能はなさそうだ。何本もの触手で一斉に攻撃されていれば、避けきれない可能性があっただろうけど、いまだに一本のみで攻撃をしてくる。当たれば強烈ということを騎士たちで学んだせいかもしれない。

 綱を持って戻ってきたシャイマンから呼ばれ下がったフーイン様は綱を腰に巻き付けて、俺の側まで来て深呼吸を繰り返す。


「やってくれ」

「わかりました。ヴィント! 吹き荒れて斬り刻めっ刃の竜巻!」


 再び竜巻が失敗作キメラを襲う。

 それを見ながらフーイン様が失敗作キメラに近づいていき、竜巻の勢いが弱まり始めたところで、雷を体にまとい走る。

 竜巻が完全に消え去ると、体中を切り刻まれた失敗作キメラが姿をさらし、すぐに再生を始める。


「おおおおおおおっ!」


 一番の裂け目と思われるところにフーイン様は勢いよく突っ込んで鷲へと手を伸ばす。

 雷に触れた裂け目の再生速度は、ほかの裂け目よりも遅い。だが鷲のいる中枢までは魔法による傷は届いていないので、どうにか鷲を掴んでも中央部分に動きを阻害されて脱出は困難だろう。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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