52 森へ出発
「思わぬ弱点があったなー」
「そんな弱点があるのはリョウジくらいだけじゃないのか」
ダイオンもああいった症状を見るのは初めてか。
「パーレのお城にはいなかった?」
「いなかったよ」
「ああ、そういえば、すっごい身分だったんだね。病気とかが完治したら城勤めに戻るの?」
「その予定はないよ。理由があるとはいえ、一度王に辞職を告げたのだから戻るのはちょっと格好悪い。このまま気ままに君たちとあちこちに行くんじゃないかな」
気ままに自己鍛錬を続けたいとダイオンは付け加えた。
そっかーと答えて立ち上がる。その俺をシャーレが支える。
「宮殿から出たからフォローは必要ないぞ?」
「いえ、お医者様もどんな影響が残っているかわからないと言っていました。今日一日はおそばでフォローをさせていただきます」
なんだか嬉しそうだしやる気に満ちてるな。そんなに世話を焼けるのが嬉しいのか。
いつでも支えられるようにシャーレがいつもより一歩近く横を歩く。今のところはよろけるようなこともないのだけど、やりたいようにさせるか。歩きにくいわけでもないしな。
「昼はどうする? 俺はたまには宿の外の料理を食べたいんだけど」
宿の料理は美味い。それは間違いない。でもたまには上品なものじゃなくてジャンクフードのようなものを食べたいのだ。
そんな俺の考えを察したのか、ダイオンもシャーレも反対することはなかった。意外と二人も違う味に飢えていたのかもしれない。
魔物肉の串焼き、ベーコンとほうれん草とたまねぎのスープ、丸ごと食べられる串焼きの魚、フライドポテトを買い、ベンチに座って食べる。
「主様、どうぞ」
シャーレが串焼きを俺の口元に差し出してくる。
「いやいやいや自分で食べられるから!?」
そこまでしなくていいよっ。残念そうにしているから本気で食べさせたいと思っていたな。弱っているところを見せたからかここぞとばかりに世話してくる。
そして串焼きを引く様子がない。これは少しは甘えないと納得しないか?
「一口だけね? それで満足してくれ」
「はい! ではどうぞ」
ダイオンが笑いながらこっちを見てる、他人事だと思って。恥ずかしいんだぞ。
周囲からもなんだあいつって感じで見てくる人がいるし。
串焼きにかじりつき、一切れを串から引き抜く。宿の料理の方がやはり美味い。でも満足感というか落ち着く感じもある。
約束通り一口だけで満足してもらい、あとは自分で食べていく。シャーレもひとまず満足したようだ。
スパイシーな味付けの串焼きで口の中がくどくなったら、薄味の優しい味わいのスープでリセットして、肉に飽きたら魚やポテトをかじる。
ゴミをゴミ箱に捨てて、少し散歩してから帰ることにする。初めて町に入ったときはそのまま宿に一直線で観光なんてできなかった。
パーレの村や町では石と木で建物は作られていたが、こちらは木が豊富なためか木造が多い。さすがに宮殿は長く使うことを考えてか、石材がメインだったけど。
あとは市場に果物が多いな。果実のとれる木も多いということなんだろう。探せばフルーツを使った質の良いお菓子やドライフルーツがありそうだ。
いろいろ見てたら、このまままっすぐ宿に帰るのはもったいなく思えてきた。
「もう少し見物していってもいいかな?」
「人通りの少ない小道に入らず、大通りをうろちょろするくらいなら大丈夫じゃないか」
「じゃあ、そうさせてもらおう。馬車の中に置く家具とか見てみたいな」
「ここならいいものがありそうだな」
「シャーレも使いやすそうなものを探そうな」
「はい」
悪い感じのする店は避けるように移動していき、二時間ほどぶらついて野外で使える折り畳み椅子などを購入して宿に帰る。
ホームセンターで工具やらキャンプ用品を眺めている感じで楽しい時間だった。
穏やかに時間が流れ、出発の日がやってくる。
出発にはロンジー様からの挨拶があるとファニから聞いていた。宮殿でフーイン様といった責任者たちに挨拶し、その後町の外で出発準備を整えた兵たちにも挨拶が行われるということだった。
宮殿の方には加護持ちも参加するそうで、俺も行く必要があるのかと思ったけど、出発前に体調を崩すのはどうかということでダイオンが代表者として参加すればいいことになった。
俺たちは一足先に町の外で待つ兵の方に合流すればいいようだ。
朝食後にダイオンはファニと一緒に宮殿に向かう。ちなみにファニはこの旅に同行せず宮殿で留守番ということだった。
部屋に戻って、まとめた荷物の近くでシャーレと話していると扉がノックされる。
シャーレが扉を開かず誰何する。
「ヤマゾエ様、お迎えに上がりました」
合言葉にした母の旧姓を扉の向こうの誰かが口に出す。
いよいよ計画始動ということでランドニスタたちがまた接触してくる可能性を考えて、合言葉を決めていたのだ。
廊下に立っていた騎士にダイオンの荷物を持ってもらい、馬車に移動し荷物を載せる。
そのまま騎士が御者となって、馬車を町の外に移動させていく。
町の外には五十人を優に超える人間とそれらを乗せる馬車がある。一般人はなんだなんだとその集団を見ている。兵はそういった見物の一般人が近づかないようにバリケード役をしている。
その兵に騎士が関係者だと説明し、馬車がバリケードを越える。
「このままお待ちください」
「案内ありがとうございました」
御者をしてくれた騎士に礼を言い、ロンジー様たちがやってくるのを待つ。
「少し緊張します」
馬車の外にいる騎士たちを見ながらシャーレが言う。
「緊張?」
「はい。このように騎士と兵が集まっているのを見ると、国主導の計画に参加するのだと実感が生じてきて」
「一ヶ月前には想像もしてなかったよね。でも俺たちは指示に従っていればいいんだし、気楽にかまえておこう。面倒事は全部国にぶん投げるくらいの考えでいいだろうさ」
「それはどうかと思いますけど、これだけ騎士や兵が一緒に行動するなら大抵のことはどうにかなりますよね」
「なるなる」
非戦闘員を含めると中隊にも届きうる規模の戦力を投じるに値するなにかがあると、ロンジー様たちが考えているとも言えるから、油断はしないでおこう。
まあ反体制派と残党、この二つの障害がすでにいるってわかってるし油断する方が馬鹿か。
馬車の中でおとなしくしていると、外の騒がしさが増す。誰かが来たぞと言っているのも聞こえてきた。
「ロンジー様が来たみたいだから、外に出ようか。さすがに挨拶のときに中にいちゃだめだろうし」
「はい。そうしましょう」
どこで待機しろとか言われてないし馬車のそばでいいよな?
外で待っていると、外壁に皆の注目が集まる。そこにロンジー様たち王族の姿や彼らを守る近衛の姿があった。
ロンジー様が姿を見せると騎士や兵はおしゃべりをぴたりと止めて、静かにロンジー様を見上げる。
ロンジー様の口が動いたように見えてすぐに周辺に声が響く。
『皆のもの、おはよう。我らを祝福するような晴天で、今後の期待ができると思ってしまうのは単純であろうか』
挨拶から始まり、神獣様や循環の魔法に関してことを直接話さずに激励し、けれどこれからの動きが重要であることはしっかりと告げて挨拶が終わる。
ロンジー様が一歩下がり、代表者であるフーイン様が挨拶を始める。必ず成功させようといった挨拶が終わり、王族たちは外壁から降りていく。
騎士や兵たちも出発のためそれぞれの持ち場に移動していく。
「馬車を移動させたいので、乗ってください」
ここまで御者をしてくれた騎士がまた来て、俺たちに声をかけてくる。
「わかりました。俺たちはどの位置で移動するんでしょう?」
「フーイン様と近い中央ですね。ほかの加護持ちの方もそこでほかの馬車に乗って移動です。御者はこのまま私どもがやりますので、皆様は馬車の中でおくつろぎください」
「ありがとうございます」
楽だけど体が鈍るかもしれないな。変に思われるかもしれないけど、ジョギングをやって体力づくりしようかね。
そう思いつつ馬車に入る。移動した先にはダイオンがいて、馬車から顔を見せると手招きされた。
「呼んだ?」
「ほかの加護持ちに挨拶しといた方がいいだろうと思ってな。この三人が俺たち以外の加護持ちだ。左からシャイマン、トーロー、シェーゾン」
シャイマンさんは男の鳥のニールで、三十歳手前くらいだろう。普段は狩人を生業としているそうだ。
トーローさんは女の羊のニールで、二十歳に届いていないかって感じ。国に勧誘され、宮殿で働いているときフーイン様の兄であるキーン様と出会い、婚約したらしい。
シェーゾンは男のトカゲのニールで、十歳くらいだ。子供一人を旅に放り込むのも不安だろうと、一六歳ほどの姉が同行している。
こちらも自己紹介をして、出発するまでその場で雑談する。
シャイマンさんは妻帯者で、今回の計画に参加したことで今後の税金がゼロになると嬉しげに話していた。狩人としての暮らしが性に合っているようで、国に勧誘されはしたが断わったそうだ。
トーローさんは今回の計画が終わるとキーン様と結婚するのだと幸せそうに話していた。婚姻の証なのだというペンダントが服の上で揺れている。
シェーゾンは今後王都の学校に通うことになっているそうだ。学ぶことは嫌いじゃないそうで、今からどんなことが学べるのか楽しみらしい。姉のレンソはシェーゾンと一緒に宮殿で過ごしている間、メイド見習いとして教育を受けることができたらしい。適齢期に入るため結婚に備えて有利なことを学べたことが嬉しそうだった。
俺たちもあちこちと旅をしてきたことを話しているとフーイン様が近づいてきた。
「挨拶はすでにすんだようだな。今回の計画は君たちの働きが鍵になる。どうかよろしく頼む」
ニールの加護持ちたちは自分たちの国のトップということでやや緊張した様子で頷いた。
「そう緊張しなくていい。今回にかぎっていえば、君たちの方が立場は上と言ってもいいんだ。ため口で話せとはいわないが、そこまでかしこまることもない」
言いたいことはわかるけど、そう簡単にはいかないだろうな。
それはフーイン様もわかっているようで、緊張を解く様子のない者たちに小さく苦笑して離れていく。
見送りだろうか、フーイン様にファニが近づきなにかを話していた。ファニは仕事の話をするような真面目な顔ではなく、少しだけ心配そうな顔だった。上司と部下ではなく、恋人に近い雰囲気に見えた。
話を終えた二人が別れ、フーイン様が自身の馬車の近くにいた騎士に声をかけると、出発だと風の魔法で声が届けられる。
加護持ちニール組と別れて、俺たちは馬車に乗り込む。
すぐに御者台に誰かが乗る音がして、馬車が動き出した。
ここから神守の森までは五日ほどらしい。そこから九日ほどかけて最初の魔法使用ポイントに向かうのだそうだ。
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