47 誘う理由
森に入ってスライムを見つけるまでは簡単にすませて、そこからフーイン様たちと出会ったこと、取り込まれた人を助け出したこと、治療したこと、帰ってきたことを話す。
加護のことは話さずにフーイン様から頼まれごとをされていることも話して、ここから別のところに向かう可能性もあると話しておいた。
「別の村がスライムに襲われたのか。それでロローさんのことなんだが」
いよいよホプランの聞きたいことになり、身を乗り出す。
「ロローさんの特徴を教えてもらっていいですか? ちなみに助かった女性は二十代と三十代の二人です。二十代の方は猫の特徴を持っていて、三十代の方は犬だったと思います。だよね?」
「はい。私から見てもその特徴であっているかと」
「ロローさんは亜麻色のボブカットで、猫のニール。二十代で小柄だよ。尾の先が黒くなっている」
シャーレを見ると頷きが返ってくる。
あ、夕食が届いた。いい匂いが腹を刺激するけど、報告をすませてしまおう。
「助かった一人ですね」
俺がそう言うとホプランはよかったと呟いて脱力しテーブルに伏せた。ラジィさんもほっとしたように笑みを浮かべた。
「生きていたか。よかったよ。怪我の具合などはわかるか?」
「助けたときは皮が溶けて、その下が見えている状態でした。でも騎士団の人が治療して、その後慌てた様子はなかったんで命に危険はなかったんだと思います。完全に治るまでいつまでかかるのかはわかりません」
「傷跡が残るかもしれないけど、死ぬよりましだね。ただ精神的な傷がどうなっているかが気になるところだ」
「それは家族や親しい人のフォローに期待するしかないですね」
あんな状態になっていたんだから、魔物に対して恐怖心を抱く以外にも、全身を包む風呂にも恐怖を感じるようになるかもしれない。
時間と家族のフォローだけが一番の薬かもしれないな。
ホプランが立ち上がる。
「彼女の家に行ってくる」
「あまり騒ぐなよ? 向こうが会わせられないって言ったら素直にひくんだぞ? ロローさんは今安静にしなければいけないんだから」
「わ、わかった」
絶対会うんだって感じのホプランにラジィさんが警告する。あのままのテンションで行ったら、迷惑かけそうだったしなぁ。
本当に大丈夫だろうかと言いつつ溜息を吐いたラジィさんが立ち上がる。
「心配だから私も行ってくるよ」
「いってらっしゃい」
今のホプランはしでかしそうで心配だよな。
夕食を食べて、部屋に戻る。ダイオンの夕食を作り置きするように頼んでおいたけど、帰ってくるの遅くなるかな?
交代で体をふいて、あとは寝るだけという感じでシャーレとゲームをして過ごす。
のんびり遊んでいるとダイオンが帰ってきた。
「おかえりー」
「ただいま。夕食ありがとな」
「体ふくなら俺たち外にでるけど、どうする?」
「お願いできるか。ささっと終わらせる」
タライに水を入れて、シャーレと廊下に出る。五分ほどで扉が開いて、終わったぞと聞こえてきた。
水を消して空になったタライを壁に寄せて、それぞれベッドに座り、ダイオンが村長の家で聞いていたことを聞く態勢になる。
「今回の件は国規模の騒動から派生したことらしい。数ヵ月前に大陸を滅茶苦茶にしようとした奴がいたそうだ。そいつは十年以上の時間をかけて準備を整えていたけど、国のトップも馬鹿じゃない。日頃からの情報収集でそいつのことがひっかかり、最終的な行動を開始する寸前に捕まえて処刑することができたそうだ」
ちなみに犯人はニール種ではなく、ヒューマ種だったらしい。
「ラジィさんたちの村が魔物に襲われたのはもしかしてそれ関連なのかな」
「おそらくな。そいつがやろうとしたことの一つに魔物の凶暴化というものがあったそうだから。そういった準備の過程に、スライムに関することもあったようだ。ただし成果を見込めず廃棄したものもあったそうで、その生き残りが今回のスライムなんじゃないかとフーイン様は言っていたよ」
「スライムのせいで村一つ壊滅してるんじゃなかったっけ? それで成果が見込めないって、本気で滅茶苦茶にしたがってたんだな」
小さな村でも壊滅させることができたなら十分に脅威だと思う。でもそいつは足りないと判断した。どんだけ大陸や国といったものを荒らしたかったんだ。なにがそいつをそこまでさせたんだろうな。
「その努力を良い方向に向けてほしかったものだ。スライムのように廃棄されて各地で被害を出している魔物はほかにもいるようで、騎士団があちこちに派遣されていると言ってた」
「そいつの目的は少しくらい達成されてるなー」
「ああ、時間をかけていろいろと策を練った成果だな。アッツェンの民にとっては迷惑でしかないが。ほかの話はこの村に対する国からの補償などだったから俺たちには関係ない。あとはフーイン様が明日の朝食後に話したいと言っていた」
「わかった」
どんな頼みなんだろうか。このままアッツェンを旅することになるのかな。すぐにパーレに戻ることになると思ったから、ファーネンさんに顔を見せに行かなかったんだけど。このまま冬に入るようならパーレは雪で移動がつらいだろうし、雪解けの時期までこっちに滞在だろう。
「依頼を受けてこっちの用事が長引いたらファーネンさんに会いに行くのは半年後だな。そうなったらすまないな、シャーレ」
謝るとシャーレはふるふると首を振った。
「お仕事や気候の問題だから仕方ないです。ファーネンママもわかってくれると思います」
「元気だと知らせる手紙でも出したらどうだい。事情を説明していれば、向こうも安心できると思う。この村からは無理だけど、大きな町なら国を越えての手紙も届けてくれる」
ダイオンの提案にシャーレはこっちを見てくる。それに了承の意味を込めて頷く。
ぱっと花が咲いたような笑顔を見せたシャーレに、俺とダイオンもつられて笑みが浮かぶ。
朝になり、朝食をとってのんびりしていると部屋の扉を誰かがノックする。俺とダイオンが動く前にシャーレが素早く動いて出ると、騎士の一人がいた。
「お迎えに上がりました」
そう言う騎士と一緒に宿を出て、村長の家に向かう。フーイン様たちは話し合いのあと村長の家に泊めてもらったらしい。
村長の家に入り、リビングにいるフーイン様と挨拶して、向かい合うように椅子に座る。椅子の数が足りなかったので、シャーレは俺の背後に立っている。
「よく来てくれた。早速昨日の話の続きをしようと思う。この国がどういった状況にあったかは、ダイオン殿から聞いているかな?」
「はい。大陸を荒そうとした奴がいて、そいつは捕まえたけど、後始末に奔走していると」
「それであっている。君たちに頼みたいのは後始末の手伝いなんだ。大規模な風の魔法で国内の風を循環させたい。その風に正常化の魔力を込めた薬を乗せて荒れている魔物の鎮静化などをしたいんだ」
「犯人の計画は潰したんですよね? だったら鎮静化は必要ないのではないですか?」
「本格的なものを潰したのは間違いない。でも計画を進める過程で各地で行われていた実験があり、その影響が残ってしまっている。そのせいで今回のようなことが起きているんだ」
放置するには大きな問題だな。ここで起きたようなことがほかの場所でも起きているとなると、心情的には参加してもいいかなとは思う。別の村でも似たような被害がでるかもと知って放置はどうかと思えた。
ダイオンとシャーレはどうだろう。
「この村で起きたことを目にしたので参加は前向きに考えてもいいとは思います。ダイオンとシャーレはどう?」
「私は主様に従います」
「俺も被害を少なくできるならそうしたい」
俺たちの返事にフーイン様たちは嬉しそうな雰囲気を出す。それを邪魔するようで悪いけど聞いておきたいこともあるんだ。
「でもこの国の人間じゃない俺たちが、そんな国家規模の計画に参加していいのですか? なぜ他国の人間がここにとか貴族に睨まれるのは勘弁してもらいたい。そんなことになるなら参加は止めてパーレに帰りますよ」
「この後始末はさっさと終わらせてしまわないと被害が広がるばかりだ。それを理解しない貴族などいないと言いたいが、中には馬鹿な貴族もいると思う。なのですぐに陛下に報告し、正式な客人としての身分を保証してもらうつもりだ」
それで大丈夫なんだろうかとダイオンを見てみる。
ダイオンは少し考えて、身分保証は貴族全体にしっかりと効果を出すのか、連絡の行き違いなどが起きないかと質問する。
「そこらへんは問題が起きないよう対応するつもりだ。連絡には時間が少しかかるだろうから、こちらの準備も兼ねて一ヶ月くらいは王都に滞在してほしい。その間に連絡の行き違いなど起きないよう動く」
ダイオンが納得したように頷いた。
「では俺からも質問をいいですか」
「なんだろう?」
背後にいるシャーレを示す。
「この子は俺の奴隷で、計画に直接参加するわけでもない。なのでこの子だけぞんざいに扱われる可能性はないでしょうか」
「君とダイオン殿ほどの扱いは無理だ。それでも君の奴隷をぞんざいに扱っては気分を害するのは明白。おかしな対応をしないようきちんと通達しておこう」
「よろしくお願いします」
念を押すように頼むと、フーイン様はしっかりと頷いた。
「ほかになにか質問はあるかな?」
「そうですね……行商人の手伝いでここに来たんですが、離れる事情を彼らに説明する際、今回の件を話しても大丈夫でしょうか?」
「こちらから騎士を出して説明させよう。必要ならば君たちが抜けた分、こちらの兵を彼らの護衛にあてる」
それならラジィさんたちと離れても安心だ。
あとなにか聞きたいことは……あ、ふと思い浮かんだ。
「国が動いているんなら、わざわざ他国の加護持ちに頼まなくても自国にいる加護持ちを集めたらいいんじゃ?」
それにフーイン様は苦笑を浮かべる。
「君の状況なら勘違いしても仕方ないのかな。加護持ちというのは少ない。どの国も勧誘しているけど、城にいる加護持ちなんて両手で数えることができる程度なんだ。そして風の加護持ちと限定するとさらに数は減る。勧誘なしで君のようにすぐ近くに加護持ちがいるのは珍しいことなんだよ」
国の力を使っても十人に満たない数しか集まらないのか。勧誘を断った人もいるとして、加護持ちは一国に百人すらいなさそうだ。
大精霊に願ってダイオンを加護持ちにしてもらえたのはすごく運がよかったんだな。
「ちなみに君たち以外に国が協力を得られている風精霊の加護持ちは三人だ」
「少な!」
「少ないんだよ。だからいっきに二人みつかったのは運がよかった。魔法を使うのに最低限必要とされる人数が四人だから、あと一人はどうしても見つけないと駄目だったんだ。見つからなかったら、周辺の国にも協力を要請する必要があった」
外交で他国に借りを作る形になると少しだけ嫌そうにフーインが言う。
国政はよくわからないんで説明はいらないな。
ヒューマ種が中心のパーレなら一人くらいは力を借りることができたかもしれない。なにせニール種が中心のアッツェンでことを起こそうとしたのがヒューマ種なのだから、気まずさとかあるだろう。
もしかすると犯人がことをなそうとした原因はパーレにあったりするかもしれないし。
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