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縁をもらって東へ西へ  作者: 赤雪トナ
40/224

40 違和感

 スマートフォンのアラームが鳴って、枕元を探って止める。

 画面を見ると時刻は七時。いつも通りの起床時間だ。

 体を起こしてカーテンを開ける。空にはぽつぽつと雲が浮かび、朝日が建物を照らしている。良い天気でジョギングの人や犬の散歩をしている人や会社に向かうため車を運転している人の姿も見える。

 いつもの光景が広がっている……いつも通りだよな? なんか少しだけ違和感があったような。んー、気のせいだな。

 顔を洗うため洗面所に行くとスーツ姿の兄さんがいた。


「おはよー」

「おはよう。すぐ終わるから待っててくれ」

「あいよー」


 髪を整えていく兄さんからは大学時代の遊んでいた感じがしない。


「真面目になってまあ、社会に出るって大変?」

「大変だなぁ。でもやりがいもある。俺は運よくやりたいことを仕事にできたから他の奴より恵まれているんだろうな」

「俺もやりたい仕事に就きたいもんだ」

「がんばれよっと終わった、ほら交代だ」


 兄さんは朝食を食べるためリビングに行き、俺もさっさと顔を洗って口をゆすいでリビングに入る。

 テレビの音とみそ汁の匂いがまっさきに感じられ、なんだか鼻の奥がつんとした。なんでだろう?


「なに突っ立ってんだ。飯食えよ」


 兄さんが不思議そうにこっちを見て声をかける。

 椅子に座り、いただきますと手を合わせて、いつもとたいして変わらない白ご飯、みそ汁、ハムエッグ、トマトの入ったコールスローサラダに手をつける。

 妙に心に感じるものがあるのはなぜだろう。味はいつもと同じ、特別豪勢でもない。でもごちそうと心のどこかで感じている自分もいる。その感覚に従って、よく味わって食べていく。


「どうしたの、なにか味がおかしかった?」


 母さんに聞かれ、いつもどおりと答えて朝食を食べ進める。

 残す気はせず綺麗に食べて大学に向かう準備のため部屋に戻る。

 財布に教科書のノートをリュックに入れて、それを持ってリビングに降りて、ソファに置く。


「行ってくる」

「俺も行ってくる」


 父さんと兄さんが一緒に玄関へと向かっていく。


「いってらっしゃい。車に気をつけて」

「なんだよ。いつもはそんなこと言わないだろうに」


 たしかにいつもはいってらっしゃいだけですませる。でもなんでだろう、不意にそう言わないとって思ったんだ。


「まあ、たまにはそんなことを言う日もあるさ」

「そうか。お前も気をつけるんだぞ」

「また事故で怪我したくないし」


 ん? また? 一度事故にあったことあったっけ? ないよな? 大きな怪我なんて、こけて腕にひびが入ったくらいだ。

 俺が首を傾げている間に父さんと兄さんは玄関を開けて家を出た。


「母さん。俺事故で怪我したことあった?」

「ないでしょ。なに言っているの」


 きょとんとした顔で言い返された。


「だよね」


 なんだったんだ。なんか朝から少しおかしいな。

 不思議に思いながら、リビングのソファに座り、今日の天気を知るためテレビを見る。今日一日晴れのような気もするな。


『10月5日、今日の天気は晴れときどき曇り。雨の心配はなくお洗濯日和でしょう』


 やっぱり晴れかー。

 テレビをなんとなく見ていたらそろそろ出発の時間になる。

 歯をちゃっちゃっと磨いて、リュックを持って玄関に向かう。


「いってきます」

「いってらっしゃい」


 母さんの返事を聞いて玄関を閉める。

 なんとなく車道から離れてつつ五分歩いて人の多いバスに乗り、三十分ほど揺られて降りる。そこから五分歩いて大学に入り、教室のある建物前の大きな掲示板で休講の知らせを見る。休みはなく四つの講義を予定通りに受けることになりそうだ。

 一時限目の講義がある二階の教室に入ると、俺に気づいた友人たちが手を振ってくる。


「よう、おはよ」

「おっす」


 教科書とノートを出しながら、昨日あったことなどを話して教授が入ってきて喋るのを止める。

 教授の声を聞きながら、大きなホワイトボードに書かれたものを書き写していく。


(んー? どうにも聞き覚えがある気がするんだよなー)


 何度目かのおかしなものを感じつつ講義を終えて、友人たちと話しながら次の講義に向かう。

 このおかしいという感覚はこの後も何度も続いた。

 そして今日の講義が終わり、友人たちと少し話して家に帰る。これから遊びに行くという友人たちについていきたかったけどバイトがある。遊ぶ金のためにもバイトはさぼれない。

 またバスに揺られて家に帰り、荷物を置いて徒歩で近所のファミレスへ。

 同僚たちに挨拶をして男子更衣室に入って、調理服に着替える。手をしっかりと洗って厨房に入る。なにかを焼く音や切る音、調理の匂いがいっきに感じられた。

 厨房は注文が増えてきだして忙しくなり始めていた。調理を進める先輩たちに声をかけて、やることを確認する。やることはいつもと変わらなかった。

 といである米を大きな炊飯器に入れてスイッチオン。次は付け合わせ用のサラダに使うキャベツの千切りを水切りして、小分けしていく。それがある程度ストックできたら、パフェなどに使う果物のカットだ。

 調理の方はまだまだ手はだせないけど、専用の道具があるため素人の俺でも下準備を進めることができる。

 下準備に余裕ができたら、皿洗いを手伝っているうちに今日の仕事が終わる。


「お先に失礼しまーす」

「お疲れさーん」


 客が少しずつ減っていき余裕のできた先輩たちに声をかけて店を出る。

 四時間弱のバイトを終えて、家に帰るとだいたい十時だ。

 仕事から帰ってきてのんびりとしている父さんがリビングで母さんと一緒にテレビを見ていた。


「ただいま」

「おかえり。夕飯はどうした?」

「今日は向こうで食べてきてないからお腹ペコペコ」

「すぐに準備するわね」

「おねがい」


 キッチンで料理を温めなおす母さんに頼み、リビングに入る。


「兄さんは?」

「まだ帰ってきてないぞ。同僚と飲むらしい。遅くはならないって言っていたらしいな」

「そうなんだ」


 父さんと話しているうちに母さんが食卓に並べた料理を食べていると、玄関が開く音が聞こえてきた。


「ただいまー」

「おかえり。そこまで飲んでこなかったようね」

「明日も仕事あるから学生時代みたいな無茶な飲み方はしないよ」


 ネクタイを緩めながら兄さんが母さんと話しながらリビングに入ってくる。

 口の中に食べ物があって話せないので、手だけでおかえりと表す。


「俺も軽くなにか食べたいけど、お茶漬けくらいはできる?」

「できるわよ。市販のお茶漬けの素でいい?」

「ん、ありがとう」


 隣に兄さんが座り、ふわっと酒の匂いが届いた。働き始める前はもっと濃い酒の匂いがしていたな。近寄るのも躊躇うくらいだった。


「会社の方は上手くいってるか?」


 テレビから視線を外し、父さんが兄さんに話しかける。


「今のところは問題なくやれてるよ。運がいいことに親切な先輩が丁寧に教えてくれるからね」

「よかったな。後輩ができたら同じように指導してやれよ。丁寧な指導は助かるってわかっただろうしな」

「わかってる。いい加減な指導をしたら大変なことになるってのも同僚から聞いてるしな」


 顔を顰めて兄さんが言う。同僚さんたちになにがあったんだろう。

 しっかりとした指導が大切ってのは俺もわかる。思い出したくないコンビニバイトで理解させられたからなぁ。

 母さんが食卓に置いたお茶漬けを兄さんはさらさらとかきこんでいく。


「ごちそうさん。風呂入ってくる」


 兄さんは茶碗をシンクに持って行って、そのままリビングを出ていった。

 俺も食べ終わり、シンクに茶碗を置いて、部屋に戻る。

 スマートフォンを触ってぼーっと暇を潰していると、風呂から出てきた兄さんが二階に上がってきた。俺も風呂に入るか。

 ささっと風呂に入り、歯も磨いて、部屋に戻ってくる。

 スマートフォンで動画をいくつか見ているうちに時間が流れていく。気づくと十二時近くになっていた。


「明日の準備をして寝るか」


 明日の講義に使う教科書をリュックに入れて、スマートフォンのアラームをセットして部屋の明かりを消す。

 暗く静かになった部屋で目を閉じると、遠くから犬の鳴き声や車が通りすぎる音が聞こえてきた。それらを聞き流し、睡魔に身を委ねた。


 スマートフォンのアラームが鳴って、枕元を探って止める。

 画面を見ると時刻は七時。いつも通りの起床時間だ。

 体を起こしてカーテンを開ける。空にはぽつぽつと雲が浮かび、朝日が建物を照らしている。良い天気でジョギングの人や犬の散歩をしている人や会社に向かうため車を運転している人の姿も見える。

 いつもの光景が広がっている……いつも通りだよな? なんか少しだけ違和感があったような。気のせいだな。

 顔を洗うため洗面所に行くとスーツ姿の兄さんがいた。

 いつもとかわらない感じで言葉を交わして、交代してもらう。

 口をゆすいで顔を洗ってから、リビングに入る。

 見える光景と漂う匂いに鼻の奥がつんとして立ち止まっていると、兄さんに不思議そうに声をかけられる。

 椅子に座り、いつもと似た感じだけど残す気がしない朝食を食べる。食べ終わって二階からリュックを取ってくると父さんと兄さんが家を出る時間になって、二人に声をかけて見送る。

 今日の天気を見るためソファに腰掛けてテレビを操作する。少し曇るけど晴れな気がする。


『10月5日、今日の天気は晴れときどき曇り。雨の心配はなくお洗濯日和でしょう』


 当たっていた……なんだろう予想が当たったって感じがしない。……デジャビュ? 既に知っている、そんな感覚がする。

 どことなく気持ち悪さを感じつつ、大学に行くため家を出る。

 なんとなく車道から離れて歩いてバス停でバスに乗って、大学に到着して、休講のない掲示板を見て、教室に入る。友人と話して、教授の話を聞いて、ノートをとって、今日の講義を終える。

 大学が終わるとバイトだ。友人たちは遊びに行った。家に帰って荷物を置いて、バイト先のファミレスに向かう。

 着替えて手を洗って、先輩たちにやることを聞く。

 調理の下準備と皿洗いをやっていく。まるで何度も同じことを繰り返したかのように手際よく作業を進めることができた。バイト時間が終わり、家に帰ると兄さんはまだ帰ってきていなかった。父さんが言うには同僚と飲んでくるらしい。

 遅い夕食を食べていると兄さんが帰ってきた。学生時代よりは薄い酒の匂いを漂わせ、俺の隣に座り父さんと話している。母さんに頼んで作ってもらったお茶漬けを食べて、風呂に入りにいった。

 兄さんが風呂から上がり、俺も入り、上がってから時間を潰してベッドに入る。


 朝になりアラームで起きて、外を見て強い違和感を感じ、リビングで残す気のしない朝食を食べて、出社時間になった父さんと兄さんを見送り、テレビで今日の天気を見る。


『10月5日、今日の天気は晴れときどき曇り。雨の心配はなくお洗濯日和でしょう』

「10月5日、今日の天気は晴れときどき曇り。雨の心配はなくお洗濯日和でしょう」


 テレビから聞こえてくるアナウンサーと一言一句同じ言葉が自然と口から出た。

 なんだこれ。初めて聞いたはずの情報をまったく同じに言うことができた。

 確実になにかおかしい、でもなにがおかしいのかわからない。なんだか気分が悪くなってきた。

 そんな俺の変化を見て、母さんが心配そうに近づいてくる。


「顔色悪いわよ、どうしたの?」

「……俺もよくわからないけど、季節の移り変わりだからかな。ちょっと部屋で休んでくる」

「それがいいわ」


 リュックを持って自室に戻る。ふらつくようなことはなかったけど、気分の悪さはかわらない。

 ベッドに寝転び、なにがおかしく思えたのか考えていく。


「天気予報を同じように言えたことはおかしい。以前同じものを見たわけはないな。それに見たとしてもあのタイミングで言えるわけはないし。そういやほかにもおかしく感じたり、いつもと違った感じはあったっけ」


 外の様子に違和感を感じたり、ごはんに懐かしさっぽいものを感じたり。この感覚はなんだ?

 答えがでないまま考えていくうちに講義の始まる時間になった。すると気持ち悪さが引く。なにがなんだかわからないもどかしさはあるものの、気分は元に戻っている。

 大学には行けるけど今から行っても途中からなら、二時限目に間に合うように家を出よう。

 ベッドに寝転んだまま時間を過ごし、大学に行く時間になって一階に降りる。


「顔色良くなったわね。よかったわ」

「じゃあ学校行ってくる」

「気をつけてね」


 母さんに見送られてバス停に向かい、いつもより空いているバスに乗って大学に入る。

 教室のある建物の前にある掲示板で休講を確認すると、また気持ち悪さがぶり返す。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] ぬ、これは! スタンド攻撃を受けている!?(違う 夢を見せる程度の能力の持ち主か? ……善意かな?
[一言] リョウジが死んだ日がわかったけど、なんだろう? 何か起きてる。
[気になる点] 悪気はないんだけど結果的にトラブル持ち込むのは大体精霊だったからたぶんまた変な精霊の仕業なんだろうなぁ [一言] 精霊の仕業の方に花京院の魂を賭ける
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