35 ロリ奴隷メイドの一日
朝が来て、主様を起こさないように静かに起きる。自身の体を探ると体調に異常はなく、健やかな目覚め。
隣のベッドを見ると静かに寝息を立てている主様の寝顔がある。
(おはようございます。ありがとうございます)
毎朝の習慣になった無言での挨拶と感謝の言葉を送り、寝間着を脱いで着替える。
昨日買ってもらった旅用のメイド服を着る。やっぱりまだ違和感があるけど、着たばかりのときよりはましになってるかな。このまま何日か着たら慣れると思う。
着崩れてないか手鏡を使って確認して、髪に櫛を入れていく。もっと大きくなったら化粧も覚えた方がいいと先生が言っていたから、身支度はもっと時間がかかるようになるんだろう。だとすると今よりも早起きしないといけないかな。
そんなことを考えつつ手早く身支度を整えて、主様の体を揺らして起こす。
「おはようございます。朝ですよ」
「んん、おはよう」
主様は寝起きがよく、よほど疲れてなければ、こうして声をかけて少し体を揺らせば起きてくれる。
孤児院にいたときは大きく揺らしても起きない子もいたから、寝起きが良いのはありがたい。でも寝起きが悪くても世話のしがいがあるから、そっちでもよかったかなと思う。
主様に霊水をもらって飲む。体の芯にわずかに感じられていた火照りが、霊水によって消えていく。うん、これで今日一日元気でいられる。
着替えた主様と一緒に部屋を出ると、ダイオンさんが廊下で待っていた。
挨拶を交わして一緒に食堂に向かう。そこでダイオンさんは霊水をもらっていっきに飲み干した。そして私が起きてやっているように、体調の確認を行う。
ダイオンさんの話では霊水によっては火照りが完全に消えないことがあるそうで、質の良い霊水をくれる主様には感謝です。この感謝はお世話することで返さなければと思うのだけど、主様は自分でできることは自分でやってしまうので、なかなか感謝を示すことができない。もっと私に任せてもらいたいのに、残念です。
朝食を食べて、私とダイオンさんは辺境伯様の屋敷へ。主様の今日の予定を聞くと、簡単な仕事をして牧場に向かうとのことでした。
屋敷について、ダイオンさんと別れて、メイドさんたちに挨拶をして先生の居場所を聞く。
「メイド長は客室掃除のメンバーについて行ったと思うわよ」
「ありがとうございます」
先生たちが向かったという客室の場所を聞いて、そちらへと歩いていく。
歩いていると廊下の向こうに同じくらいの年頃かなと思える男の子がいた。こっちをじっと見てるけど、なにか用事かな? 辺境伯様の客だろうし無礼をしては駄目だから遠くから一礼だけしてさっさと行こう。離れると追ってくる様子はなかったし、問題なしだと思う。
「先生、おはようございます」
先生の視線が一瞬私の服へと動く。
「おはようございます。いつものメイド服ではないのね?」
「これは旅用の防具を兼ねたメイド服で、昨日主様に買っていただきました。着心地に慣れるため着ています」
「以前護衛を兼ねたメイドが同じようなメイド服を着ていましたね。たしかにあれに近いですね」
「見苦しいのでしたら明日からはまた元のメイド服を着てきますけど、どうでしょうか?」
「その必要はありません。あなたには必要なものでしょう。特におかしな部分もありませんから、そのままで大丈夫です。さてまずはベッドメイクを手伝ってきなさい」
「はい」
まだ手が付けられてないベッドのシーツを替えて整えて、ほかのメイドさんに見てもらう。ちょこちょこと手直しされたけど、最初にやってみたときよりも直されるところは少ない。直されたところをしっかりと覚えて、次に活かそう。
いくつかの部屋の掃除とベッドメイクを手伝って、午前中はそれで時間が潰れた。
昼の休みになって、メイドさんたちと一緒に使用人用の食堂に向かう。今日の調理担当の使用人がサンドイッチとスープを作って、テーブルに並べていた。
メイドさんたちと話しながら、サンドイッチを口に運ぶ。あまりパンの質や具の質はよくはない。いや駄目だ、舌が肥えてしまっている。これは孤児院で食べていたものと同じか、それより少し上なのに。
主様と一緒に旅を始めてすっかり贅沢を覚えてしまった。主様は食にこだわりがあるようで、食材や食堂は贅沢になりすぎない程度に良いものを選んでいく。一緒に旅をする私にも同じものを与えてくれるから、それが当然になってしまっている。
美味しいものを食べられるのは嬉しいけど、贅沢が当然になっては駄目だと思う。今後も慣れてしまわないように、しっかり気を引き締めないと。
この味を忘れないように味わって昼食を終える。普段のものより美味しいから味わっていると勘違いされてしまった。
午後からはお花の生け方を教えてもらえるらしい。まだ休み時間はあるから、今のうちにおトイレに。
おトイレからの帰り、朝に見た子が私を見て近づいてくる。その隣には三十歳を過ぎた女性がいる。少し似てるから親子かな。
「おい、お前」
「はい? なにかご用事でしょうか」
「俺のメイドになるんだ」
「え?」
この子はなにを言っているんだろう。説明をしてくれないかと母親の方を見る。視線に含めた意味を察してくれたようで母親が口を開く。
「うちの子があなたを一目見て気に入ったようでね。専属のメイドにしようと思っているの。ここで下働きするより条件を良くするわ。どうかしら」
「私はすでに主のいるメイドであり奴隷ですので」
待遇の良い条件でも主様から離れることなんてありえない。
手の奴隷印を見せる。気づいてなかったようで驚いたように手の印を見る。
「奴隷だったの。奴隷にそのような質の良いものを着せるなんて。だったらあなたではなく主に交渉しないといけないわね」
「母上? 大丈夫なのですか?」
「大丈夫よ。たかが奴隷一人、渋る人でもないでしょう。あなたついてきなさい。すぐに交渉しますので」
「交渉と言われましても。私はこれから教わることがありますので」
「奴隷が貴族に口答えしない。そこらへんの教育はやりなおす必要があるみたいですね」
口調は厳しくはないんだけど、話を聞かない人だ。
交渉って言っても主様は宿にいないでしょうし、歩き回るつもりなのかな。
動かない私の腕を母親が引っ張り歩き出す。ここで振り払ったら無礼になるだろうし、どうすればいいのか。
「メリジェーヌ様? シャーレの腕を掴んでいかがなさいました?」
「あ、先生」
カートに教材らしき花束と花瓶を置いて運んでいた先生が通りかかったくれた。これでなんとかなるといいのだけど。
「この奴隷をうちの子が気に入りまして。辺境伯様からお譲りさせていただこうと。この子が動かなかったので、辺境伯様のところまで連れていくところでしたわ」
「シャーレがなにが無礼を働いたわけではないと?」
「ええ」
「でしたらその腕をお放しください。その子は私の生徒ではありますが、客人としての立ち位置でもあります。無体な扱いは避けていただきたいのです」
「奴隷なのよね? 辺境伯様の」
「奴隷ですね。ですが旦那様の奴隷ではなく、ほかの方の奴隷です。この屋敷にシャーレがいるのは、とある仕事に対する報酬でシャーレがメイド教育を望み、旦那様が認められたからです」
メリジェーヌ様は腕を放してくれた。
「でしたらシャーレの主を紹介していただけないかしら。そちらに交渉します」
「そうなさる前に旦那様と一度話されてはいかがでしょう。その交渉は、旦那様とあちらの関係を荒らすことになりかねませんので」
「……そうさせてもらうわ」
頷いたメリジェーヌ様が歩き出し、ご子息が私を名残惜しそうに見てから母親を追う。
はあー、びっくりした。
私を落ち着かせるためか、先生が背中をゆっくりさすってくれる。
「ああいった方の無難なあしらい方も近いうちに教えましょう。今後似たようなことがないともかぎらないから」
「お願いします」
その知識は切実に欲しい。私は命を救ってくれた主様から離れる気はないのだから。
先生と一緒に歩き、若いメイドさんたちが待つ部屋に入る。
その後行われた花の生け方は心を落ち着かせるのにちょうどよかった。
綺麗に見せる角度、派手に綺麗に見せるのではなく部屋の一部としてひっそりと見せる方法、生けるときに組み合わせやすい花の種類、花に込められた意味などなど。そういったものを考慮して生ける。ただ花瓶に花を入れるだけではない奥深さに私だけではなく、ほかのメイドさんも感心するばかりだ。
当然ながら今日一日で習得できるものではなく、まずは魅せる角度と色合いの組み合わせを教わる。たったそれだけでも部屋のどこに置くかで、いろいろと変わって考えさせられる。
二時間ちょっとお花の勉強をしたあとは洗濯ものを取り込んだりして夕方になり、帰る時間がきた。
ダイオンさんと待ち合わせしている玄関に向かうと、そこに先生がいた。なにかを話していたけど、私に気づいてこちらを見てくる。
「シャーレ。この手紙をあなたの主に」
差し出されたのは封筒だ。
「これは?」
「旦那様からあなたの主へとあてたものです。メリジェーヌ様の話に関して書かれているそうですよ」
奴隷を譲れという内容だったら嫌だな。
そんな考えが表情に出たのか、先生が肩に手を置く。
「おそらくあなたにとって不都合な内容ではないと思います。また明日元気な姿を待っていますよ」
そう言うと先生は屋内へと戻っていった。
私とダイオンさんも屋敷から出て宿へと歩く。
「貴族から誘いがあったんだって?」
先生と話していたし、そのときに聞いたんだろう。
「はい。ご子息が私を気に入ったとかで」
「シャーレが誘いをどう思ったのかなんて、聞かなくてもわかるか。霊水をもらえる以上の感謝の念とかをリョウジに向けているものな」
「はい。主様は命を救ってくれるだけではなく、奴隷の私をとても大事にしてくれます。あり方を認めてくれて、でも間違った方向に行こうとしたら正してくれました。私は良い主を得られたと思います。今はまだ未熟な私ですけど、いつか主様をしっかりと支えられるようになりたい」
「才があって、やる気もあるなら大丈夫だろうさ」
そのためにも学べるうちにしっかりと学ばないと。
無理にならないぎりぎりまで頑張る。そう心に決めて手を握りしめたら、持っていた手紙をぐちゃぐちゃにしてしまった。ああ、やらかしてしまった。まだまだ一人前のメイドにはほど遠い。
宿にとってある部屋に入ると、主様はすでに戻っていて笑顔で出迎えてくれた。
「ただいま帰りました。こちら辺境伯様からの手紙です」
「なんでぐちゃぐちゃ? こういった風習でもあるのかな」
「ちょっと握りしめてしまって。ごめんなさい」
いいよいいよと主様は言い、封筒を開けて中身を読んでいく。こういうところは叱らないと駄目なんじゃないかなと思いつつも、叱られないことに安堵もある。
先生は大丈夫と言っていたけど、やっぱり内容が気になる。
「貴族から奴隷の移譲の話がでたのか。可愛いから目に留まったんだろうね。そのことについて俺が嫌なら頷く必要はないと書かれてある。断るなら、あちらで問題が起こらないように断ってくれるそうだよ。シャーレはどうしたい? シャーレが行きたいならその気持ちを優先したいと思う」
「私は行きたくないです。誰よりも素晴らしい主様と一緒がいいです」
はっきりと気持ちを伝えると、主様は少し驚いたあと照れたように指で頬をかく。
「素晴らしいってことはないと思うけど、そう言ってくれるのは嬉しい。それに俺もシャーレがいなくなるのは寂しいし断るよ。向こうが諦めなくても逃げてしまえばいい。しばらく近くの村とか巡って捕まらなければ諦めるだろう」
逃げることになったら申し訳なさを感じるのだろうけど、そこまでしてそばに置いてくれることが嬉しいと思う。
顔がにやけてはいないだろうか、両手で顔を押さえる。
「返事を書きたいけど、貴族への手紙の書き方なんか知らないし、ダイオン知ってるといいな。夕食のときにでも聞いてみよう」
主様は手紙をベッドに置いて、私が今日はどのようなことを習ったのか聞いてくる。それに答えながら夕食まで過ごす。
夕食の時間になって、ダイオンさんが声をかけてくる。今日の夕食はなんだろう。
食堂に行くと、いつものようにレイレーンがやってきて一緒に食べる。メイド教育のため屋敷に通い始めて、レイレーンとの会話が貴族の暮らしに関してになっている。どんな暮らしぶりなのか興味あるそうなんだけど、暮らしの質が高いだけで特別変わったことはないんだけどなぁ。
夕食後にお風呂に入りに行って、寝る前まで自由時間だ。最近は先生から習ったことを、主様が買ってくれた紙に書いていつでも見られるように残している。
主様は私が暇そうにしていると相手してくれるけど、復習とかしていると静かに本を読んでいることが多い。ダイオンさんは酒場に行ったりしてるらしい。ついでに噂話とか集めてきている。主様はお酒を飲んだりしないのかな。
「ん? なに」
書き終わり、ベッドに座って錬金術の本を読む主様を見ていたら気づかれた。
「主様はお酒を飲みに行ったりしないんですか?」
「今はあまり酒は好きじゃないからなぁ。美味しい酒に出会ったらダイオンと一緒に行くかもね。でもシャーレ一人宿に残すのもあれだし、買ってきて部屋で飲むかな。シャーレは酒の匂いは苦手だったりする? それなら持ち込むのは止めるよ」
特に気にしたことはないと首を横に振ったら、機会があれば部屋で飲むよと言って本をベッドに置く。
「やることないなら、この前の続きをする?」
眠たくなって途中で終わったボードゲームだ。配置はメモに残っているようだから続きからできる。
勉強終わったし、遊ぶのもいいよね。
頷くと主様はベッドをぽんぽんと叩いて、しまってあるゲームを取り出す。
ベッドの上に座って、主様と眠たくなるまで遊んだ。
朝になって主様から辺境伯様への手紙を持って屋敷に向かう。それを先生に預けたらいいのかなと思ったけど、ダイオンさんが届けてくれるということで預けて先生のところに向かう。
ここでお世話になるのもあと数日。今後のために今日もしっかりと学ぼう。
誤字指摘ありがとうございます




