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縁をもらって東へ西へ  作者: 赤雪トナ
34/224

34 買い物

 祭りまであと一週間に迫り、メイド長の私用で指導ができず休みとなったシャーレとそれに合わせて休んだダイオンを連れて魔物牧場に向かう。

 そろそろ馬車をひく魔物を決めてしまおうということで三人で行くことにしたのだ。

 以前とは別の飼育員がいて、声をかける。


「おはようございます。以前ここで見学させてもらい、魔物の購入を決めてしまおうと来たのですが」

「そうですか。ではこちらへどうぞ」


 なにかの道具の整備をしていた飼育員は、建物の奥へ客を案内してくると言って、手招きする。


「以前と言いましたがどれくらい前ですか?」

「半月もたってないですね」

「でしたらあの四匹を見たんですね。そこに一匹プラスされていますよ」


 背中が甲羅でおおわれた牛の魔物が追加されたらしい。あの四匹よりも足は遅いものの、頑丈さは一番とのことだ。

 急ぎの旅じゃないとはいえ、足が遅すぎるのはどうかな。

 五匹が過ごしている区画に来て、改めて説明を受ける。

 ダイオンは慣れた様子で近づいて魔物たちの様子を見て、シャーレは少し怖がって俺の近くにいた。


「どの子もおとなしいし、近づいてみないか」

「大丈夫ですか? いきなりぱくっと食いついてきません?」


 大丈夫だったよとまずは俺が近づいて、飼育員の許可をもらってバッファローの魔物の胴に触れる。

 触れられた魔物は特に反応をみせずにいる。


「ほら大丈夫だ」


 シャーレを手招きすると近づいてくる。魔物が近づいてきたシャーレに反応して顔をそちらに向けたことで、シャーレは一歩後ずさった。しかし魔物はそれ以上反応せず、のんびりとしている。

 そろそろと近づいたシャーレは、魔物の胴に手を伸ばす。


「……あたたかい」


 目を丸くしてそのままゆっくりと手を動かしてなでる。

 ほかの魔物にも触れてみようと誘い、ほかの四匹にも触れていった。

 ダイオンを呼び、どれがいいか話し合う。


「爬虫類タイプは少し苦手です」

「俺も戦闘できるより運ぶことに特化してもらいたいと思ってるから、あの三匹だね」


 ダイオンはと見るとそれでいいと頷かれる。


「それじゃ三匹のどれか」

「俺は山羊だね」


 ダイオンと同じだな。バッファローと甲羅牛よりも山羊は力が弱いそうだけど、それでも馬車を引く程度の力は余裕であるそうだ。だったらそこそこの速度も望める山羊かなと思う。シャーレはどうだろう。

 シャーレは三匹を見て、考え込む様子を見せる。視線がバッファローと山羊の魔物を行き来している。その二匹が気に入ったのかな。


「……山羊がいいです」

「山羊で決まりだな。そういうわけなんで山羊をお願いします」


 待っていた飼育員がわかりましたと言い、山羊の魔物に近づいて手綱をつける。

 ついてきてくれと言われ、山羊を引く飼育員の後ろを歩く。

 十五畳ほどの広さの場所で講習が開かれる。実際に山羊の魔物に触れながら世話をする際の注意点、怪我や病気の前兆、馬車への繋ぎ方。そういったことを教わっていく。

 一番重要なのはなにかしらの変調を感じたとき、近くの牧場に連れていきプロに任せることだと締めくくられた。

 一通り教わると、いつでも確認できるようにと習ったことが書かれている冊子が渡される。


「すぐに連れてでますか?」

「いえまだこの町にいるので、もうしばらくここで預かってもらいたいんですが」

「大丈夫ですよ。町を出るまでに何度か顔を出して、この子があなた方に馴染めるようにしてください。その方が旅はスムーズにいくでしょうし」

「わかりました」


 山羊の魔物に別れを告げて、飼育員と事務所に向かう。そこでお金を渡し、所有者と示す書類を作る。

 この書類を持って馬車の店に行き、あの山羊の魔物に合う馬車を購入してくれということだった。

 事務所を出ると、ちょうど以前世話になった飼育員がいた。なにか悩んでいる様子だ。嫌な感じはしないし、俺に関連したなにかってことはなさそうだ。


「以前はお世話になりました。あのとき見た山羊の子を購入しましたよ」

「ああ、そのときの。あの子にしたんですか。大事にしてあげてくださいね?」

「はい。では失礼します」

「ではまた。あ、ちょっとお聞きしたいのですけど」


 なんだろう。能力に反応しないし気軽に聞き返せる。


「騎乗の経験はあります?」

「馬や魔物にですか? 俺はないですね。シャーレやダイオンはどう?」


 シャーレは首を横に振る。奉納殿にそれらはいなかったし聞くまでもなかったかな。


「俺はどちらもあるが」

「お時間ありますか!? ちょっと依頼したいことが!」


 飼育員が勢いよく近づき、ダイオンは一歩下がる。


「お、おう? 今祭りまでの仕事を受けているから時間はどうだろう」

「までということは祭り当日は大丈夫ということですよねっ」

「まあそうだけど」

「でしたらぜひとも依頼を受けていただきたい!」


 彼女はダイオンの手を両手で握り頼み込む。

 そこまで熱心に頼んでくるならまずは話だけでもとダイオンが言い、事務所に戻ることになった。

 先ほどの飼育員が戻ってきた俺たちを不思議そうに見ていたけど、ダイオンの腕を取る飼育員を見てなにかに納得した表情になった。

 椅子に座り、ダイオンが話を促す。


「頼みたいのは騎乗の補佐なのです。祭りのメイン種目の一つであるチャリオット競技に知人と一緒にでてもらいたくて」

「前々から準備していた奴がいるだろう」

「いたのですが、はりきって練習していたら先日怪我をしてしまいまして。この時期になるとかわりになる人はおらず、私が参加できればよかったのですけど審査員側としての参加が決まっていて」

「参加を諦めるわけにはいかなかったのか?」

「私の知人は六十歳です。ルールで参加は六十歳までと決まっています。最後になる競技に参加できなくなるのは寂しそうで、結果は悪くとも参加はしてもらいたいと思いまして」


 もともと一緒に参加予定だった人も最後だからと張り切ったのかな。そして気合を入れすぎて怪我しちゃったと。


「結果が悪くてもいいなら素人でもよくないかい?」

「安全措置の面から騎乗経験半年もない者には参加資格がありません」


 素人でいいなら俺でもいいかなと思ったけど、半年の制限があるなら無理だわ。


「そういうことか。んー、まあいいか。依頼を受けよう。ただししばらく乗っていないから結果には期待するなよ」

「ありがとうございます!」


 知人のところに早速行こうということになり、俺とシャーレは行かなくていいだろうとダイオンたちと別れて町に戻る。

 俺たちは馬車の販売店に行き、以前の話を聞いた店員に牧場でもらった書類を渡す。


「購入ありがとうございます。馬車に関してなにかご要望はありますか?」

「以前話したことを覚えてます? 覚えているならそれから変わってないですけど」

「はい、大丈夫ですよ。付属品に関してはいかがなさいますか? 少し値は張りますが錬金術で作った道具で旅のサポートが可能です」

「そっちはあてがあるので大丈夫。振動を押さえる絨毯と物を多く入れられる箱を入手してます」

「いいですね。商人がほしがるものです。ほかには室内の気温調整の道具もありますが」

「そっちは魔法でなんとかなりますね」

「そうでしたか。では付属品はなしということで?」


 頷くと店員はそのことを書類に書き込んでいく。


「馬車の候補はいくつか考えています。どれもそこまで大きな違いはありません。少しだけ頑丈だったり、速度がでやすかったりです。本当に小さな差なのでどれを選んでも気にならないかと」


 店員は話しながら候補となる馬車について書かれて書類を俺たちに差し出す。

 それをシャーレと一緒に読んでいき、できるだけ長く使いたいということで頑丈なものを選んだ。

 お金を支払い、祭りのあとで受け取れるようにして、店を出る。

 おやつを購入し宿に戻ると、レイレーンが休憩するということでシャーレは食堂の隅でおしゃべりを始める。

 俺は部屋に戻って、錬金術の本を開く。一度読み終わり、二度目もそろそろ終わりそうだ。コーダーにほかの本を借りることができるか聞いてみよう。高熱とか腹痛とかに効く野草が載った本を借りれないかな。

 そんなことを考えつつ読み進めていると、シャーレが戻ってきた。


「あの主様」

「ん? なに」


 遠慮がちに声をかけてきたシャーレに顔を向ける。


「レイレーンからお祭りを一緒に見ようと誘われて、何時間かでいいのでお休みを頂けますか?」

「いいよ。丸一日休みをとっても大丈夫。友達と楽しんでおいで」

「ありがとうございます!」


 友達とお祭りだなんて楽しいに決まっている。そういった機会をシャーレが得られたことはよかったと思う。

 あ、そうだ。せっかくのおでかけなんだし。


「これから洋服を買いに行こうか。少しくらいは着飾らないと」

「でも荷物になるから」

「これまではそうだったけど、馬車を買うんだから少しくらい荷物が増えても平気だろう。シャーレは手持ちの服が少ないと思ってたし、ちょうどいい」


 本なんて読んでる場合じゃないな。シャーレはもとがいいんだから、着飾ればもっと可愛くなるだろう。見るのが楽しみだ。

 まだ遠慮気味のシャーレの背を押して部屋を出る。

 ロビーに出るとレイレーンが店内の床掃除をしていた。


「あれ、また出かけるの?」

「シャーレの洋服を買いに行こうと思ってね。祭りの日に着るためのものだよ」

「新しいお洋服とか羨ましい」

「どこかいいお店知ってるかい」


 頷いたレイレーンに店の位置を二つほど聞いて、宿を出る。


「主様が選ぶんですか?」

「俺にそこらへんのセンスを期待されても困る。店員さんに予算を告げて要望を投げればいい感じにまとめてくれるはず。シャーレ自身が気に入るものを選んでもいいんだぞ?」

「私も選んでもらった方がいいかなと思います」


 シャーレが持っている服はおかしいものじゃないし、自分で選ぶのもありかと思ったけどね。

 店に入り、店員にシャーレを預ける。

 自分用の秋物を見ていると、着替えたシャーレが店員と戻ってくる。

 薄い緑のノースリーブワンピース、白の七分丈カーディガン、サンダル、白のつば広帽子、小さなショルダーバッグという恰好だ。ガラのないシンプルな服で、シンプルが故に着る人を選びそうなものを、俺が見るかぎり着こなしているように見える。


「おー可愛い。どこのお嬢さんって感じだ」


 褒めるとシャーレは照れて帽子で顔を隠し、店員は満足そうだ。


「そうでしょう。いい仕事をしたと思います。手の奴隷印がなければ完璧だったのですけどね」

「そこは諦めて。それ買いますので、このジャケットと一緒にお会計お願いします」

「お買い上げありがとうございます」


 シャーレはメイド服に戻り、服一式を包装紙に包んでもらい店を出る。

 そういえば防具としてのメイド服もそろそろ完成しているんじゃないだろうか。


「シャーレ、防具を頼んだ店にも行ってみよう。完成しているかもしれないよ」

「はい。でも洋服に防具にと私にお金を使いすぎではないですか?」

「そうでもない。どちらも必要なものだろう」

「防具はともかく洋服は必要かな」

「可愛いシャーレを見れて、俺は満足できてる。だから無駄じゃない」


 こう言っとけば今後洋服買うときに遠慮なんかしないだろう。可愛いのは事実だしな。

 また照れたシャーレのペースに合わせて歩く。


「こんにちはー。以前メイド服の防具を頼んだ者ですが」

「あー、いらっしゃいませ。できてますよ。一度着て調整がなければ、今日持って帰れます」


 シャーレに手招きして、店員は店の奥へと向かう。

 戻ってきたシャーレは、これまで着ていたメイド服とデザインがほぼ変わらないメイド服を着て戻ってくる。


「どんな感じだ?」

「ちょっと硬いです。動きにくい」

「大き目に作ってあるし、防具用ですからね。しばらくすれば慣れるし、服の方も柔らかさがでてくるはずです。それ以外は不都合なさそうだし、調整はしないでよさそうですね」


 想定内のことみたいだし問題はないな。お金は先払いしてあるし店を出よう。

 シャーレは防具に慣れるため着替えず、このままでいるようだ。

 店から出て歩いている間も、防具を気にしたようにシャーレは歩く。生地も厚めだし、熱がこもって暑そうだ。どこか涼しい店で昼食にしよう。

 シャーレにそう言うとこくこくと頷きが返ってくる。

 冷房など完備した少し高めの食堂に入るとシャーレはほぅっと小さく息を吐く。

 普段ならこういったところに入ると少し遠慮が見えるんだけど、暑さには勝てなかったか。

 メイド教育を受け始めて、少しずつ隙を見せなくなっていたけど、こういった姿を見ることができて安心するというか和む。

 そんな俺の視線に気づいたようで、シャーレは表情を引き締めて届いた料理を綺麗な姿勢で食べ始めた。

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