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縁をもらって東へ西へ  作者: 赤雪トナ
33/224

33 報告

 食堂で採取成功を祝って小さな宴会を開く。テーブルに料理が並び、コードルたちは酒を注文する。


「リョウジはなにがいい?」

「俺は水で」

「お酒は飲めないの?」

「飲んだことないからね。少しは興味あるけど、いつか機会があればって思ってる」

「じゃあ今がその機会ってことで、果汁割りを飲んでみるか? 度数が低いならアルコールに弱くても悪酔いはしないだろう」

「とりあえずコップ一杯分でお願い」


 それぞれに届いた酒が入ったコップを持つ。


「無事の成功を祝って乾杯!」


 コードルの音頭に合わせてコップを掲げる。

 まずはなめる程度にコップを傾ける……ジュースの味だけで酒がどうとかはわからないな。いや少し苦みがある気がする。

 感想を聞かれたけど、ジュースだなとしか言えない。


「慣れればまた違った感想がでるだろう。まあ今日はその一杯で終わっとけ」

「そうする。さて料理を楽しませてもらおう」


 ほどよく焦げたチーズのかかったジャガイモだったり、骨付きの肉だったり、ロールキャベツらしきものだったり食欲を誘うものが多い。

 周囲のにぎやかな雰囲気合わせて、俺たちも楽しい雰囲気で宴会が進む。三人とも美味そうに酒を飲むなぁ。つられてジュース割りを少しずつ傾ける。雰囲気につられたかなんとなく美味く感じられた。

 翌朝、わりと飲んでいたように見えたコードルたちは二日酔いなどならず元気な様子で朝食を食べていた。

 朝食後、宿を出て町に入る門の前で三人は止まる。


「ここでお別れだ。俺たちは牧場に行く。ほれ、約束の報酬だ」


 銀板六枚を渡された。二日間の報酬としては多くない? それに俺が働いたのは実質数時間だし。一般家庭なら半月を超える生活費になるよ。

 多くないかと聞くとそうでもないと返ってきた。


「加護持ちを長時間働かせた報酬としては適正だと思うわよ。あのロックワームの相手もしてもらったし」

「俺とシバニアも同意見だ。こっちが満足する仕事ぶりだったんだから遠慮なく受け取るといい」

「そっか。じゃあ遠慮なく」


 銀板をポケットにしまう。


「またいつかどこかで会えるといいな」


 その言い方だとわりとすぐに出発する感じだな。


「三人は祭りを見ていかないの?」

「ああ、預けている魔物が元気になったら出発だ。そっちは祭りまでいるのか?」

「そうだよ。祭りのあとにここをたつ予定。どこに行くかはまだ決めてないけどね」


 いつまでも話してても仕方ないと三人は手を振り、牧場へと歩いていった。

 俺も宿に帰るとするかね。今日は……仕事はなしでのんびりしようか。新しい本かゲームでも探そう。

 宿に戻ると出発しようとしていたシャーレとダイオンと宿の前で会う。


「ただいまー」

「おかえりなさい!」


 顔を輝かせて抱き着いてきたシャーレの頭をなでる。


「おかえり。ちょっと遅かったな」

「昨日の夜には町に到着してたんだけどさ、中に入れなくて」

「ああ、それで。なにかあったんじゃないかってシャーレが心配していたぞ」

「特にトラブルはなかった……ちょっとしたものはあったか」

「フェルス殿が向こうの様子を聞きたがっていた。一緒に来てくれるか? 疲れているなら明日でも問題ないが」

「いいよ。たいして疲れてない」


 抱き着いたままのシャーレをひとまず放して、宿に荷物を置いて、二人と一緒に屋敷に向かう。

 歩きながら向こうの様子を話し、落石から助けられたことを二人は安堵していた。あれが一番の命の危険だったし、安堵するのも無理ないか。

 屋敷に着いて、シャーレは別れを惜しみながらメイド長のところへ向かっていった。

 俺とダイオンはフェルス様の執務室に向かう。

 執務室に入ると、仕事の準備をしているといった感じのフェルス様が作業を止めて、こちらを見てくる。そばには部下がいて作業を手伝っていた。


「おはよう。リョウジ君も無事帰ってきたんだね。よかった」

「おはようございます」


 ダイオンと合わせて挨拶を返す。

 ソファを勧められ、座るとフェルス様はこちらを見て、早速断崖地帯がどうだったか尋ねてきた。


「あー、えと」


 いざ話そうとするとどこかどのように話せばいいんだろうな。ここに来るまでにある程度まとめておけばよかった。

 それを察したのかダイオンが助け舟を出してくれる。


「まずはなにをしにいったかを話して、次にいつ出発していつ到着したかでいいと思うよ」

「ありがと。調教された魔物が病気でその薬の材料が断崖地帯にあるけど、あそこは毒で近寄れないから力を貸してくれと頼まれて行ってきました」

「毒があると言ったのは風の大精霊らしいね」

「はい。以前知り合った大精霊ですね。毒は本当にありました。それはあとで話すとして、出発は一昨日の朝。馬車に乗って林まで移動して、そこから林を突っ切って断崖地帯へ。夕方くらいに到着しました。そして翌日断崖地帯に入り、目的の苔を入手して昨日の夜に町に到着という流れです」


 フェルス様は頷きながら、手元の紙になにか書き込んでいた。


「じゃあ断崖地帯の様子を頼む」

「はい。あそこは少し近づくとすぐに変化がわかりました。肌がちりちりする感じでしたね。同行者の三人も体の変調を感じ取ってました。大精霊の助言どおりに魔法を使うと毒は遮断できました。あと目を閉じて息を止めれば短時間毒を無視できます」

「実際にやったのかい?」

「やりました」


 ロックワームのことを話す。どうしてロックワームが暴れていたかも推測のままではあるが話した。


「ロックワームのことは報告されていたが、主といえるものもいたんだな。突如現れて暴れられると厄介そうだ」


 断崖地帯の様子を話していき、フェルス様が疑問に思ったことを口に出し、それに答える。

 フェルス様は書類をまとめ、部下にそれを渡す。


「貴重な情報をありがとう。あとはこちらの仕事だ。ゆっくりと休んで疲れをとるといい」


 これで用件は終わりということなので、ダイオンと一緒に部屋を出て、兵の指導に向かうダイオンとも玄関先で別れて屋敷を出る。

 シャーレの様子を見ようかなとも思ったのだけど、邪魔になりそうだからやめた。このまま散歩がてら本を探そうと歩き出す。


 ◇


 リョウジ君たちが部屋を出ていき、静かだったクランスが渡した書類を確認するのを止めて口を開く。


「彼を勧誘しないのですか? 二つの加護持ち、それも大精霊の加護という逸材ですよ。国の上層部が存在を把握すると強引な手を使っても手に入れようとするかもしれません」


 大精霊の加護持ちであるリョウジ君のことは俺たちの耳にも届いていた。大精霊からの証言もあったそうだから、リョウジ君が見栄を張ったというわけじゃないんだろう。


「ほしい人材ではある。魔物討伐以外に活かしどころがわからないけど」

「河川工事など水を操作する場、声を各地に届ける。すぐ思いつくだけでもこの二つで活躍できますね。作業を長く正確に行えるのはありがたいです」


 父上ほど有能ではない俺を馬鹿にした様子もなく、教えてくれるクランスたちには感謝だ。


「いたらとても役立ちそうだね」

「でしたら」

「でも誘うとしてももう少し様子を見てからかな」


 なにか理由のがあるのかとクランスが視線で問うてくる。


「ダイオン殿から彼のことを少し聞いている。もしかすると故郷で加護に関してなにかあったのかもしれないと」

「トラブルですか」

「ダイオン殿が彼と出会ったばかりの頃、霊熱病のことを話したが彼から霊水について話してもらえなかったらしい。その後少ししてどうして霊水をもらえなかったか聞いたところ、ダイオン殿がなにかしらの厄介事を背負っているかもしれず巻き込まれることを避けるため隠していたと話していたそうだよ」

「故郷であったなにかに飽き飽きして、新たなトラブルに巻き込まれることを避けたということですか」

「そうだね。だから加護関連で彼になにかさせようとすると断られると思ったんだ。旅人なんてやっているのも、一ヶ所に留まらず人との関係を深めないためかもしれないね。推測でしかないのだけど」


 でも加護持ちということを隠し通す気もないようだ。それは霊水を売っていることからもわかる。旅人だから厄介事に巻き込まれそうになったら、いつでも移動できる。だから霊水を売るくらいは大丈夫と思っているのかもしれない。


「ともかく彼を誘うとしたら、信頼を得ないことには無理だろう。現状、王が誘ってもさっさとよその国に逃げる可能性だってある」

「さすがに国からの勧誘は頷くのでは?」

「国に保護を求めたり、権力を欲するなら、とっくにやってそうなんだよね。大精霊の加護一つだけでも王宮魔法使いになれる。それをせずに旅人っていう権力はないけど、自由だけはありあまるものをやってるってことは保護も権力も欲してないってことじゃないかな」

「……そうかもしれませんね」

「今は旅人を満喫していそうだし、邪魔するような提案は避けたいね。今は友好を深められたら御の字だろうさ」


 いつまでも旅人というのはさすがに厳しいだろう。いつかどこかで腰を落ち着けることを考えるはずだ。それがここの町だとラッキーだな。

 そのきっかけになるかどうかわからないけど、祭りでいい席を準備してみようか。地下の件や断崖地帯の件での礼っていうちょうどいい理由があるしね。


「友好を深めるのなら彼の奴隷に厳しく指導するのはいかがなものかと」

「ショールアがあの子を気に入っちゃってるからね。あの子が辛そうなら注意するんだけど、あの子もあの子でやる気が高い。ダイオン殿がリョウジ君に彼女の指導に関して話したとき、心配そうにはしていたけど不快そうな様子はなかったらしいし、無茶をさせなければ大丈夫だろう」


 ショールアもそこらへんはわかっているはずだ。これまで何人もメイドを育ててきた彼女なら無茶を超えるラインはきちんと把握できている。あの子が疲労で倒れることを心配しなくていいだろう。

 あの子もほしい人材なんだよね。ショールアがメイド長である自分の跡を継げると断言するなんて初めてだ。

 リョウジ君から取り上げるなんてできないから諦めるしかないのだけど。

誤字指摘ありがとうございます

今日は短めでした

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