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縁をもらって東へ西へ  作者: 赤雪トナ
29/224

29 報酬

「得られた資料などから推測した話だが、おおむね間違いはないはずだ」


 ダイオンがそう締めくくる。


「レイレーンを探しにでたときは誘拐だと思ってたのに、騒動が終わってみればわりと大事だったな」

「情報をまとめてみて俺たちもその規模に驚いた」


 住人の生命がいつのまにか脅かされていたんだから驚くなって方が無理だな。

 あれ? そんなことになっていたんなら、この町からもっと嫌な感じがしててもおかしくなかったんだけどな。うーん……もしかして俺が生命力を取られても、そこまでの被害がでないから嫌な感じがしなかったとか? そうだとしたら今後も自分だけは安全で事件に突っ込んでいくことになるかもしれない。


「そういったわけなんで、お礼をという話になったんだ」

「なるほど」

「まずは夕食をご馳走したいそうだから、これから行かないか?」

「マナーとか知らないんだけど」

「大丈夫。普通の食事で、よほど汚い食べ方をしないかぎりは流してくれる」

「ふーん、貴族の食事ってどんなのか気になるし一度くらいはいいかな」


 普通っていうんだし正装も必要ないだろう。だからシャーレは少しでも着飾らせようと俺の服からきっちりとしたものを探さなくていい。むしろシャーレはメイド服じゃない方がいいのではなかろうか。

 ダイオンにそこらへんを聞いてみると、簡単に事情を話してあるからそのままでいいということだった。

 宿を出て、辺境伯の屋敷へと向かう。


「あ、そうだ。馬車に関して話を聞いていたんだけどさ。馬じゃなくて魔物でもいい?」

「魔物か、急ぎの旅でもないということだし、それもありだな」

「私は主様がそちらがいいならそちらで」

「じゃあ今度魔物の牧場に行こうか。俺は見てきたけど、二人もどういった子がいいか見てほしい」


 見てきた四匹の魔物について話しているうちに屋敷に到着した。

 ダイオンが門番に声をかけて、中に入れてもらう。

 門を通り、長めのアプローチを歩いて玄関から屋敷に入る。そのままダイオンの案内で、食堂に入る。

 真っ白なテーブルクロスのかけられた長いテーブルがあり、椅子が十個置かれている。

 ダイオンにそこにと示されたテーブル左側の真ん中の椅子に座る。上座とか下座とかはダイオンが知っているだろうから従えばいいな。左にダイオンが座り、右にシャーレが座る。

 すぐに飲み物が運ばれてきた。俺とシャーレは果汁の入った水で、ダイオンは度の低いワインだ。

 シャーレは本物のメイドに興味が引かれているようで視線がそちらに向いている。ブレンドンのところにもメイドはいたけど、こちらのメイドの方が動作は洗練されていて、関心が湧いたのだろう。

 五分ほど待って、二人の男が入ってくる。ダイオンが先代辺境伯と現在の辺境伯だと教えてくれた。

 ダイオンが立ち上がり礼をするのに合わせて礼をすると、座っていいと声をかけられる。

 二人は俺たちと対面する形で椅子に座る。


「お客人、今日は招待を受けてくれてありがとう。私はフェルス、こちらは父のパローンだ。よろしく頼む。料理人に腕を振るうよう頼んでおいたから、食事を楽しんでほしい」

「旅人の亮二と言います。こっちは奴隷のシャーレです。料理楽しみにさせていただきます」


 一瞬だけメイドとして紹介しようと思ったけど、嘘を吐くことになるかもと正直に紹介する。

 二人はこの紹介に頷きだけ示し、特になにかしらの反応を示すことはなかった。彼らほどの地位だとこの年齢の奴隷は珍しくもないのかな。

 挨拶が終わると早速前菜から運ばれてくる。カプレーゼかな、これは。日本で食べた似たものはそれだ。ナイフとフォークを使って、口に入れる。うん、トマトとチーズは合うよね。

 ナイフとかの扱いは洗練されていないけど辺境伯たちはなにも言わなかった。これなら安心して美味しく食べることができそうだ。

 二品目はコンソメスープだ。皿の底まで見える透き通った琥珀色、立ち上がる湯気と一緒に良い匂いが鼻に届く。スプーンですくって口に含むと凝縮された濃厚な旨味が舌を喜ばせてくれる。

 スープが終わると、鱈のような魚のムニエル、ハンバーグステーキと続いて、最後にベリーソースのスフレが届く。

 どれも美味かったな。感想を言う暇があるなら食べ進めたいといった感じだった。

 特にシャーレは味を盗むといった感じで、じっくりと味わっていた。今後この味の一部でも再現できるなら、楽しみが増える。

 こんな俺たちを見ながらフェルス様たちは嬉しそうに頷いていた。


「どうだっただろうか? 満足してもらえたかな」

「はい、美味しかったです。想像以上の美味でした」


 日本にいた頃もここまでの料理を食べたことはない。一流レストランに行けば食べられたのかもしれないけど、そういった機会はなかったからな。

 たぶんお金を払って食べようとしたら、わりと高額なんじゃないだろうか?


「そう言ってもらえるともてなした側としても嬉しい。さてダイオン殿から聞いているかもしれないが、改めて礼を言わせてほしい。君が同行してくれたことで、蘇生が阻止され、大きな被害が生じることもなかった。町を治める者としても、町に住む者としても礼を言う」

「はい。たしかに礼を受け取りました」

「言葉だけではなく形としてもなにか礼をしたい。ほしいものはあるかな。そちらのお嬢さんもなにかあれば言ってくれてかまわんよ」

「私は主様の奴隷ですので、私の分も主様に」

「そこらへんはダイオン殿からリョウジ君は君をないがしろにしないと聞いているから気にしなくていい」


 シャーレがいいのだろうかとこっちを見てきたから頷きを返しておく。フェルス様がいいと言っているのだから、素直にほしいものを言えばいいと思う。

 シャーレは少し考えてフェルス様に希望を伝える。


「この町にいる間でいいので、メイドとしての教育を受けさせていただけませんか」


 フェルス様とパローン様は予想外といった感じに少し驚きの表情を浮かべていた。俺もその願いは予想外だ。

 

「シャーレ。俺は別に本格的なメイドを欲してはないよ。今のままでも助かってるし」

「私自身が精進したいと思い、学びたいと思ったのです。駄目ですか?」


 こちらを見てくる目にはしっかりとした意思が宿っている。両親の教育故の言動ではなく、自分自身がやりたいと思っての願いなら、俺は止められないかな。

 了承の意味を込めて頷くと、シャーレは笑顔になった。


「どれくらいこの町にいるのかな?」

「旅に出るとしても祭りを見物してからと思っていたので一ヶ月くらいは滞在します」

「ではそのつもりでうちのメイド長に話を通しておくよ」

「ありがとうございます」


 シャーレの礼にフェルス様は頷いて、俺に視線を向ける。

 俺は現状これといった欲しいものはないんだよな。だからお金でもいいんだけど……抽象的な感じでもいいのかな。


「なにか旅に役立つ道具とかご存じでしょうか? 馬車を買おうと思っているのですけど、馬車旅が快適になったりすると助かるのですが」

「私はあまり旅になじみはないからわからないな。父上はどうです?」


 フェルス様に話をふられて、パローン様は少し考え込んだ。


「そうだな……いくつか心当たりはある。馬車の揺れを大きく減らす絨毯やたくさんの物をしまえる箱や馬の疲労を押さえる飾りといったものだ」

「馬の疲労を押さえる飾りは魔物にも使えるのでしょうか? 魔物に馬車を引いてもらおうと思っているんですが」

「魔物には効果は薄かったと思う。馬用に開発されたものだからな」

「だったら絨毯か箱のどちらかにしましょう」


 どちらがいいか悩む俺にパローン様は両方渡すと言う。


「いいんですか?」

「かまわんよ。予備がいくつか倉庫にあったはずだ」


 いいだろうとパローン様はフェルス様に同意を求め、フェルス様ももったいぶることなく頷いた。太っ腹だな。ありがたくもらおう。

 礼に関しての話は終わり、もう少し話そうということで雑談が続く。

 これまでの旅に関してやこの町の感想などを話していき、屋敷に来て三時間弱といったところでお開きになった。

 お礼の道具は馬車を買ったら渡すということで、今日のところは手ぶらで宿に帰る。


 翌朝、朝食を食べてシャーレとダイオンは辺境伯の屋敷に向かうため身だしなみを整えている。

 シャーレは今日からメイド教育を受けることになり、夕方頃に帰ってくるらしい。ダイオンは辺境伯に短期間の教官として雇われたらしい。

 ダイオンに俺も一緒に行くかと聞かれたけど、行ってなにをすればいいんだろうか。これといった用事もないし遠慮しておいた。


「しっかり学んできます!」

「頑張って」


 気合を入れすぎないようにと付け加えてシャーレの頭を軽く叩く。


「ダイオン、シャーレの送り迎えよろしく」

「うん、任せてくれ」


 宿から出ていった二人を見送り、俺は一度宿に戻る。

 シャーレが頑張っている間、遊び惚けるってのもあれだし、無理しない程度に仕事でもやっておこうと鎧を身に着けて宿を出る。

 仕事を紹介する店に行く途中で、コーダーやその師匠のことが気になり、コーダーの家へと進路を変えた。

 玄関をノックすると少し間があって、玄関に向かってくる足音が聞こえてきた。


「お前か。なんのようだ」

「師匠さんの墓ができていたら一度墓参りでもって思って」

「まだできてないぞ……そうだな、手伝っていけ。報酬は出す」

「手伝うってなにを」

「墓作りだ」

「墓なんぞ作ったことないんだけど」

「俺もだ。心配いらん。棺が入るくらいの穴を掘ればいいだけだ」


 簡単に言う。でもやることは決まってないし、手伝うのもありか。

 頷くと早速二人で庭に移動する。そこまで広くはない庭だ、二十畳くらいかな。物は置かれていないし、草木もなくて殺風景だ。

 コーダーが庭の隅を指差し、ツルハシやらスコップやらを用意しようとするのを止めようとして、思い直す。

 風呂のために覚えた魔法で墓穴を掘ろうと思ったけど、コーダーには風と水の魔法を使っているところを見せている。土魔法もとなると怪しまれる。

 渡された道具で穴を掘っていく。こういった力仕事は得意ではないコーダーの穴を掘る速度は遅かったが、作業を放り出すことはなかった。

 昼前には作業は終わり、二つ分の棺が入る穴ができた。


「棺は?」

「役所が管理している。日が暮れて運び込んでもらうつもりだ」

「じゃあ埋めたあとは花を植えたり墓石を置いて終わりってところか」


 よくよく考えると土葬は棺が壊れたりしたら匂いがするんじゃ? 庭に埋めていいものかと思ったけど、そこらへんは俺がどうこう言わずとも棺とかに工夫されてそうだな。


「いや埋めて終わりのつもりだったんだが。そういったものを置いた方がいいんだろうか」

「花の一つでもあった方がいいかなとは思うけど、好きにすればいいんじゃない? ちなみに二人が好きな花とかは?」

「ファルカミネの花を綺麗と言って、あの子は気に入っていたが」

「それを飾ってやったら喜ぶかもしれんね」


 俺がそう言うとコーダーは少しばかり考えて頷いた。


「もう一つ依頼をしたい。東の林に行ってファルカミネの木から枝をとってきてくれ」

「町で手に入るものじゃないのか。東の林は行ったことないからなんともいえないな。役所とかで情報を調べて行けそうなら受けるってことで」

「ダイオンとかいう男がいれば大丈夫そうだが」


 ダイオンも一緒に行くと考えての依頼だったんだな。


「ああ、今ダイオンは辺境伯からの依頼を受けてるから」

「そうか。わかった、行けそうならまた連絡をくれ」

「あいよー」


 穴を掘った報酬をもらい、近くの食堂で昼をすませて役所に向かう。

 東の林などの資料はあるか職員に尋ねると資料庫の場所を教えてくれた。

 東の林についての文献をいくつか机に並べて、情報を抜き出していく。

 そこはさらに東にある断崖地帯から餌を求めた魔物が流れ込んでくる場所だ。主に蛇、大型猫、狸、イタチの魔物が出てくるようだ。魔物の危険度は西の荒地に出てくる魔物とそう変わらないらしい。足場の悪い断崖地帯で戦うならば厄介な魔物も、平地である林の中ならばいくぶんかましらしい。魔物の縄張りは断崖地帯であり、林では勝手が違うため動きも鈍るようだ。注意点は頭上や藪からの奇襲ということだ。

 ファルカミネの木はそこまで珍しいものではないらしく、林の東に群生しているということなので入手は楽そうだ。

 三時間ほど調べものをして過ごし役所を出る。

 次に向かうのは仕事を紹介している店だ。そこで傭兵に情報料を払って、東の林について聞くことにする。

 嫌な感じのする人を避けて、三十歳ほどの男の傭兵に話しかけて用件を伝えると快く頷いてくれた。

 それぞれの魔物たちが嫌がる匂い、魔物たちの行動範囲、魔物の戦闘時の行動、林を歩くときの注意点など彼が知ることを教えてもらうことができた。質の良い情報とわかるので、情報料も気持ちよく多めに渡せた。

 礼を言って男と別れ、話を聞いて厄介だと思った蛇の魔物が嫌う匂い袋を購入して宿に帰る。

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