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縁をもらって東へ西へ  作者: 赤雪トナ
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28 未実行の蘇生

 宿に帰る途中で、風の魔法を使って臭いをできるだけ散らし、宿に入る。


「見つかったよ!」


 暗い表情だった宿の主人たちが勢いよくこちらを見てくる。


「どこだ!?」

「知り合いの錬金術師が病院に送っていっている」


 場所を伝えるとその場所を知っていたのだろう。レイレーンの両親はそこへ走っていった。

 残った従業員は安堵した様子で椅子に座る。そして事情を聞いてくる。


「あの子になにがあったんだ?」

「詳しい事情は俺たちもよくわかっていないんだ。警備と一緒に下水道に作られていた隠れ家で見つけた。詳しいことは警備とかが調べている最中だろうな」

「下水道? なんでそんなところに隠れていたんだろう」

「町中よりは、そっちの方が確実に隠れられるからとかだと思う」


 シャーレが少し眠たそうなんで、ここらで質問を切り上げてもらう。

 部屋に戻り、匂いのしみついた服はとりあえず袋に詰めて、匂いを遮断する。消臭剤がほしいなと思いつつ、体に付着した匂いは体をふいてどうにかして、かすかに匂う程度に押さえられた。


 朝になり、匂いのためか普段着のままのシャーレに起こされる。

 軽く身支度を整えて、食堂に入るといつもどおりな宿の主人たちの姿が見えた。ずっと医者のところにいるかもと思ったのだけど、無事を確認し安心して帰ってきたのだろう。

 料理をもらう際に聞いた奥さんの話では、今日改めて診察して帰ってくるらしい。

 朝食を終えて、シャーレは気合を入れた様子で洗濯物を持って部屋を出ていった。

 俺はダイオンが帰ってきているなら話を聞いてみようと思ったのだけど、ダイオンの部屋は留守だった。

 部屋に戻りなにをしようかと、窓からシャーレの洗濯風景を眺めつつ考える。

 洗濯を終えて戻ってきたシャーレになにをしようか聞いてみると、レイレーンのことが気になるようで出かけるのは気が進まない様子だった。


「じゃあ仕事はなしってことでいいか」

「わがまま言ってごめんなさい」

「いいよいいよ。友達のことを心配するのは当然だ。じゃあ俺は散歩でもしてくるかな。なにか甘いものでも見かけたらレイレーンの分もお土産に買ってくる。シャーレはすることがなければ錬金術の本とか読んでいるといい」


 そうすると頷くシャーレに見送られて部屋を出る。

 目的地を決めずに町を大きく一周するつもりで歩く。途中で下水道の入口らしきところを見かけた。そこは現在封鎖されていて、警備が見張りに立っていた。事情を知らない町人は不思議そうにしつつも関わることなく通り過ぎていった。

 このままぶらつくのもいいけど、昼も同じことをやるのはちょっとな。なにかやることでもないかな。


「あ、馬車について話を聞きに行ってみるか。今日決めずに、どういったものがあるかだけでも聞いておこう」


 午後からのスケジュールを決めて、散歩を再開する。

 焼きあがったフルーツパウンドケーキを見かけたので、それをお土産に決めて宿に帰る。

 食堂からレイレーンの声がして、そこに行ってみるとシャーレと話していた。

 近づき退院おめでとうと声をかける。


「ありがとうございます。シャーレから聞きました。私を見つけてくれたのはあなただと」

「俺一人の力じゃない。警備の人たちの情報があったおかげでもある。お礼は彼らにもね」

「はい」

「退院祝いだ。シャーレと一緒に食べるといい」


 開いた紙袋から甘い香りが鼻に届いたようで、レイレーンは表情を綻ばせる。

 二人はケーキをつつきながら、おしゃべりを再開する。

 あの様子なら誘拐のショックは深刻なものではなさそうだ。

 そろそろ昼食なので、俺もこのまま食堂にいることにして、二人の話を聞きながらのんびりと料理のできあがりを待つ。

 昼食後もシャーレはレイレーンと一緒にいるということで、一人で馬車を扱う店に向かう。


「いらっしゃいませ」

「今日は購入を決めるんじゃなくて、どういったものがあるかを聞くだけなんですが大丈夫ですか?」


 大丈夫ですよと女性従業員が言い、椅子を勧められる。


「馬車と一口に言いましても種類は様々です。町の中や外を走るもの、行商人が使うもの、人を運ぶためのもの、大型小型といった感じですね。おおまかにでも必要とされているものの説明は可能でしょうか」

「そうですね……三人から四人用の頑丈なものですかね。商人ではなく旅人なので、町の外を移動するためのものがいいです」

「なるほどなるほど。その条件だと安いもので輝金硬貨四枚と少々、高いと十枚といった感じですね。さらに値段を押さえることも可能ではありますが、中古品で故障しやすくなるでしょう。馬もあまりいいものは準備できません」

「中古品は勘弁ですかね。旅の途中で故障は困る。あと予算は輝金硬貨七枚です」

「七枚ですか、それならそれなりのものを準備できますね。ああ、そうだ。旅人ということですが、急ぎの旅ですか?」

「いえ、余裕をもって移動するようにしているので」


 管理者も急かすようなスケジュールにはしなかったしな。


「でしたら馬ではなく、調教された魔物も選択に入りますね」

「あー、たまに見かけますね。馬とどう違うんですか?」


 町中だと馬が多いが、外だと魔物が馬車を引いている姿を見かけることが多かった。馬っぽい魔物、二足歩行の魔物、蜘蛛の魔物などが馬車を引いていた。


「馬は整備された道を速くスムーズに進むといった感じです。あとは魔物はやはり不安だという人が馬を選びます。魔物の方は馬に速度は劣りますが、力強さで悪路も問題なく踏破し、魔物自身の頑丈さで多少の無理もききます」

「へー、魔物もありだな。でもやはり人を襲わないかと心配な部分もありますね」

「でしたら一度魔物たちを見てみますか? 実際に接して様子を見て決めるというものありだと思います」


 頷くと牧場の場所を紹介状を書いてもらうことができた。

 それをポケットにしまい、礼を言って店を出る。馬車を買うときはここでいいかな。特に問題があるように思えなかったし。

 宿に帰るには早いし、牧場に行ってこようか。町の外へと向かい、少しばかり歩いて声をかけられる。

 そちらを見ると、鎧姿の男二人と、ローブ姿の女がいた。三人とも二十代前半くらいだろう。傭兵かと思ったけど、なんとなく品を感じられた。ダイオンも似たようなもので、ただの傭兵ではないのだろうと思わせるものがある。

 引き寄せられるものも感じられるから、なにかしらの縁があるんだろうな。


「少しいいだろうか?」

「はい、なんでしょう」

「行きたいところがあって場所を聞きたいんだ」

「あー、俺もこの町には数日前に来たばかりなんでわからないと思うんですけど、一応どこに行きたいのか教えてくださいな」

「この町の住人じゃなかったのか」


 すまなかったと謝り、男は行きたい場所を口に出す。そこは馬車や馬を扱う店だった。それならさっきの店でいいな。


「すぐそこに馬車を扱う店があるんで、案内しますよ」

「いいのか? ありがとう」


 男が頭を下げて、ほかの二人も同じように頭を下げた。


「本当にすぐそこなんで礼なんていいですよ」


 こっちだと先導し、五分もせずに到着する。


「本当に近かったな」

「俺もついさっき利用したばかりなんですよ。それじゃ俺は行きます」


 軽く手を振って別れると、三人も応えるように手を振り、店に入っていった。

 そのまま町を出て、教えてもらった牧場を探す。

 馬の世話をしている人に聞いて、教えてもらった方向に歩くと馬などを囲む柵より頑丈そうな柵のある牧場を見つけることができた。

 柵の隙間からはいろいろな魔物が見えた。角の立派なバッファロー、馬サイズの山羊、恐竜みたいなもの。それぞれがのんびりと過ごしている。

 入口を探して、そこにいる飼育員らしき女に声をかける。


「見学大丈夫ですか? 紹介状はあります」


 もらった手紙を差し出しながら聞く。

 それを受け取った飼育員は内容を読んで頷いた。


「こちらへどうぞ。特に人に慣れた子たちのところに行きましょう」


 飼育員についていき、先ほど見ていた柵の中へ入る。


「現状売れるほどに調教できているのは、ここの子たちです。バッファローと山羊は運搬に優れ、爬虫類タイプは戦闘にも向いてますね」

「近づいても大丈夫ですか?」


 飼育員は頷き、二足歩行の恐竜に近づき、首筋をなでる。

 触っても大丈夫だと許可をもらえたので、背中に手を置く。ざらりとした質感の肌で、その下に硬い筋肉がある。触れられたことを気にした様子なく、飼育員と俺を交互に見ている。

 本当におとなしいもんだな。戦闘もできるらしいから、戦いになると獰猛になるんだろうか。ここで見せてくれとはいえないから、想像するしかない。

 次は四足歩行の恐竜。その後に山羊とバッファローと続いた。

 どこの子もしっかりと躾けられていて、いきなり襲いかかってくるといったことはないだろうと思えた。襲いかかられるとしたら、よほどぞんざいに扱った場合だろう。飼育員に確認すると同意された。扱いが多少厳しい程度ならば、嫌われる程度ですむらしいのだけど、意味なく虐待などやっていると襲われるのだそうだ。たまにそういった扱いをする人がいて、処分される魔物がいるのだとか。


「そんなことやった人が悪いのに、処分されるんですか?」

「一度人を襲った魔物は自分が強いと理解しちゃって言うことを聞かなくなるんだよ。そうなるともう殺さないと人を襲い続ける」


 飼育員は悲しそうだ。こういった仕事をしているってことは魔物たちに情があるはずだ。そんな末路を辿った魔物に悲しみを抱くのは当然なのだろう。


「この子たちには良い主に出会ってほしいものだよ」

「もし俺が買うなら大事にしたいですね」


 どの子も馬を見たときにはなかった、縁を感じられる。きっとこちらを買うことになると思う。


「そうしてくれると嬉しいよ」


 魔物たちを見ながら、旅に連れ出す場合の注意点などを聞いて、牧場から離れる。

 宿に帰るとダイオンも帰ってきていた。事情を話すということで、俺とシャーレの部屋で話を聞く。

 話の前に霊水を渡すと、ダイオンは嬉しそうに飲む。


「まずは礼を伝えないとな。辺境伯であるフェルス殿とその父親であるパローン殿が事件解決の協力に感謝していた。リョウジの勘がなければ、蘇生阻止が間に合わず町に被害が広がっていた可能性がある。なにかお礼がしたいとも言っていたぞ」

「被害ってなんだ。あの人が娘を生き返らせて終わりじゃなかったのか」

「あのとき使われようとしたのは、この町の全住人から力を抜き取る魔法だったみたいでな。赤子や弱った老人は死んでいたかもしれないんだそうだ」


 ダイオンは、コーダーの師匠の動きを最初から順序立てて話し始める。

 娘を蘇生しようと考えた彼女は、自力で研究していたけど、自分だけではどうにもならないと気づいた。コーダーに協力を頼もうかと考えたが、考え方の違いから邪魔される可能性が高いと思い、ほかの協力者を探すため町を出て、魔獣教団と接触する。

 知識や素材や器具を得る代わりに、魔獣教団に協力するという契約のもと、数年間を彼らと過ごして、一年半くらい前にこの町へと戻ってきた。

 彼女が確立した蘇生法は、足りないものを他から持ってきて注ぐというもの。娘に足りない生命力を町の住人から得て、注ぐというのだ。まずは蘇生の魔法陣を町の地下に作り、次に呼び水となる生命力を得るため貧民街の住人や旅人をさらい、生命力を抜き取る。その死体はほかの生贄をさらうために利用する。生命力が必要分集まったからといってすぐに蘇生できない。そのまま生命力を娘に注いでも意味はないと彼女は考えた。そこでレイレーンという変換器を探し出した。町から集める雑多な生命力を、レイレーンに通して娘に適した生命力に変化させるのだ。

 この町に戻ってきたのは、娘の生まれ育ったこの町の住人の生命力が、娘になじみやすいと考えたためだった。

 この蘇生法が実行されていれば、たしかに町中で被害が生じていただろうし、レイレーンも魂をずたずたにされて死んでいただろう。

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