27 発見
宿から離れると数人の男たちを連れたダイオンと遭遇する。酒盛りといった楽しそうな雰囲気ではない。
「ダイオン、真剣な雰囲気だけどなにがあったんだ?」
「そっちもあまり良い表情じゃないが」
シャーレの表情を見て、なにがあったのかとダイオンも聞いてくる。
「こっちはレイレーンがいまだに帰ってこないから探している最中なんだ」
「行方不明者がこっちでも出たのか!?」
驚き方がなんかおかしいな。どこかではすでに何度か起きてたような言い方じゃない? いや噂でいなくなっているって言ってたな。本当に行方不明者がでていたってことか。
「どこらへんでさらわれたのか教えてくれないか」
「さらわれたかどうかもわからないんだけど」
「それでもだ」
俺たちもここだとわかるところはないので、おつかいのコースと籠が落ちていたという場所を伝える。
ダイオンたちは地図を広げて確認していく。
今気づいたけど、本を貸してくれたコーダーがいるじゃないか。
「こんばんは。どうしてうちのダイオンと一緒に行動を?」
「こっちの事情を教えていいのかわからん」
ダイオンから許可が出たら聞けるかと思い、ダイオンに声をかける。
「事情か? レイレーンがさらわれたかもしれないとなると無関係じゃないな。説明を頼む」
ダイオンはコーダーにそう言い、男たちと話し合いに戻る。
「というわけなんでお願いします」
「この町では以前から人がさらわれていた。その犯人を俺たちは追っているということになる。これがただの誘拐なら俺はここにいないのだが、先日町の外でみつかった魔物が関連している」
「ダイオンが戦ったっていう人型の魔物のこと?」
「それだ。町のトップから錬金術師に調査を依頼され、俺も呼ばれた。それでわかったことは、あれは魔物ではないということ。人間の死体を改造して、いいように使えるようにしたということ。錬金術師の仕業ということ。そして錬金術を使う際の癖というのか、そういうものが俺の師匠のものと酷似していたということ」
「身内の犯行だから、ダイオンたちに同行しているのか」
「そんな感じだ。実のところ師匠は十年くらい前に姿を消しているんだ。消える一年くらい前から狂気ともいえるほどに研究に打ち込んでいて、心配していた。消えたときはあちこちと探したが、こんな形で再会するかもしれんとは」
「姿を消した理由なんかはわかるのか?」
コーダーは一瞬詰まり、口を開く。
「娘さんの死が原因だろう。彼女の死後すぐに死者蘇生を目指している節があった。研究のかたわら、墓を荒らしたり、死を間近にした病人に接近したりとおかしな行動をとり始めて、町にいられなくなった」
死者蘇生か。管理者もそれっぽいことを俺にやったわけだが。あの存在でも蘇生そのものはできなかったということから、人間ができることではないと考えていいはずだ。
「その娘さんの蘇生に関するなにかのため、ここに戻ってきたかもしれないってことか」
「ああ、俺もそう考えている」
「レイレーンがそんな奴にさらわれていたとしたら、なにされるかわかったもんじゃないな」
「レイレーンというのはどういった子だ」
「宿の子で、年は十二歳くらいの少女。赤茶の髪を持った活発的な性格」
俺にわかるのはこれくらいで、シャーレから補足してもらう。
それにコーダーは似ているところがあると呟いた。
「亡くなった娘さんと?」
「そうだ。本格的に蘇生に関して進展があったのかもしれない。これまでさらわれていたのは老若男女問わずだった。被害がばれにくくさせるためなのか、貧民街での誘拐だった。だが今回は一般人の区画で、いなくなると騒ぎになるであろう少女をさらっている。嫌な予感しかしない」
コーダーはダイオンたちに自身の考えを伝え急ぐぞと声をかける。
「ダイオン、俺たちも行った方がいいのか?」
ダイオンは少し考えて、来てくれと言ってくる。
「リョウジの勘の鋭さで俺たちが見逃すなにかを見つけるかもしれない」
実際は勘というわけじゃないのだけど、今ここで説明することでもない。
シャーレは帰るように言ったが、ついてくるというので同行を許可する。コーダーが急かしてくるので説得する暇がなかったのだ。
小走りで町を進みつつ、どこに向かっているのか教えてもらう。下水道だそうだ。少し同行したことを後悔した。
町はずれの小屋に入り、地下への鍵付き石蓋を開けると、臭い空気がじわりと広がる。
我慢して地下に降りると丸い通路に出る。縦横三メートルくらいで、足元には水が流れている。あまりその水を踏みたくないな。
「水除の魔法を使うけど全員分いる?」
「できるなら頼む」
ダイオンが答え、ほかも者たちも頷いた。
俺自身を含めて七人分の魔法を使い、魔法の明かりに照らされ下水道を進み始める。
下水道に入ったはいいが、これといった目的地はないらしい。傭兵が探してみたが、怪しいものはなかったそうなのだ。じゃあなんでまた下水道にということなんだが、改造された死体の足跡や移動の痕跡を探すためだそうだ。傭兵たちは何となく探したが、こっちは探すものがはっきりしているので新たな発見があるのではということだった。
そういった痕跡はダイオンたちが探すので、俺とシャーレは傭兵たちと同じく怪しいものを探してくれということなので、周囲を見ながら進む。
探そうと意識的になったせいか、良い悪いはなくひっかかるものが感じられた。
「ダイオン。本当に勘なんだけど、向こうがなにか気になる」
「行こう」
ダイオンたちも現状めぼしい情報が見つかっていないため、俺の意見を優先しようと示した方向へ動く。
感覚に従い、ダイオンたちに指示を出して進む。周囲に変化がないため時間感覚が微妙だが、下水道に入って一時間はたっていないはず。
そんな感じで行き止まりについた。
「勘はここだって」
「行き止まりで、なにかあるようには見えないな」
探せばなにか見つかるかもしれない、そう考えたらしいダイオンが剣を抜いて、周囲を探ってみる。
右の壁にダイオンの剣がすっと刺さる。剣をさらに動かすと、何の抵抗もなく剣は動く。
「壁がないぞ」
「幻をかぶせているんだ。そういった錬金術の道具があると本で読んだことがある」
コーダーが壁に手を伸ばし確認しながら言う。
ということはここにコーダーの師匠がいる可能性があるのか。
ダイオンはこのことを知らせるため一人を地上に帰す。
先に進むぞとダイオンが壁を通り抜ける。続々と入っていき、俺とシャーレも幻を通り抜ける。向こう側はさらに地下へと続く道だった。
壁は露出した土で、崩落を防ぐため錬金術で固めてあるのか手で触れても掘れそうにはない。
緩く下る坂を慎重に進む。やがて坂の向こうに明かりが見えた。
「こいつらは」
ダイオンが呟く。
明かりのもとにつくと、そこは広めの空間であり、壁際にのっぺらぼうのようななにかが何体も座り込んでいた。これが改造された死体なんだろう。なんの反応もせずにじっと座り込んでいる。
周囲を見渡すと、手術台のようなものや何本もの瓶が置かれた棚状の土壁も見える。
さらに奥へと続く通路があり、俺たちはそこに進む。薄暗い通路の向こうにも明かりは見える。
誰かが話しているような声が聞こえてくる。内容はわからないけど、声は一人だけだ。
「おそらく師匠の声だ」
コーダーが言う。その表情は苦しげなものだった。
「おとなしく捕まらないなら斬ることになるかもしれない。見たくないならここに残っているか?」
ダイオンに小声で聞かれ、コーダーは首を横に振ってついていくことを主張した。
まずは様子見だと入口からこっそり中を覗く。中は先ほどの部屋よりも広く、棚がいくつもあり、瓶や書物が置かれていた。
目立つのは二つ。液体の詰まったガラスの筒のようなものの中にいる子供と四本腕の女。そしてその女はベッドに寝かせた誰かに魔法を使っているらしかった。ベッドにいるのは状況的にレイレーンか?
「もうすぐ、あとすぐだからね、待っててちょうだいオローネ」
「あれは師匠だ。オローネという娘がいたからな」
師匠だと確定しコーダーは溜息を吐いた。そして隠れるのを止めて中に入る。ダイオンが止めようとしたが、間に合わなかった。
「師匠」
「誰だ!? コーダーじゃない。久しぶりだね」
女は警戒した様子で振り返ったけど、コーダーを見て少しだけ表情を和らげた。
「久しぶりです。十年ぶりくらいですか。姿を消して蘇生の研究を続けていたのですね」
「ああ、そうさ。オローネを生き返らせるために、必死に研究を続けてきた。その成果がすぐ現れる。生き返ったオローネをお前も出迎えてやってちょうだい」
「それはできない。オローネが復活したら俺だって嬉しい。でも人は死んだら生き返らない。以前蘇生は可能かと質問されたな。そのときと俺の考えは同じだ。死んだままにさせてやってくれ。そしてさらった子供を返してほしい」
「なにを言っているの? やっとオローネが帰ってくるのに。これを返すなんてできるわけない!」
怒りの表情を向けられてコーダーは悲しそうな表情をした。
「おそらくこの魔法で、その子は死ぬんじゃないか? そしたら師匠と同じようにその子の親が悲しむんだぞ? オローネは優しい子だった。誰かを悲しませてまで、復活したいとは言わないはずだ」
「そうよ、あの子は優しい子だった。誰かの悲しみを共有できる子だった。そんなあの子が死ぬなんて、ありえない! 死んだなんて間違いなの! 生き返って、また幸せな人生を送らないといけないのよ!」
悲しみのあまり正気を失っているのか。起きたことを認められず、心の時を止めてこれまでやってきた彼女に同情する思いはある。でもレイレーンを犠牲することを認めるわけにはいかない。
それはコーダーも同じ考えなのだろう説得を止める様子はない。
「人を助けるあなたをオローネは誇りに思っていた! 今のあなたの姿はあの子を悲しませるだけだ!」
「あの子を救うためにはこうするしかなかった。わかってくれるわ、あの子なら。きっと!」
「あの子は聖人じゃない。人よりも優しいところはあったが、それでも人の内に収まるものだ。今のあなたを受け入れられないだろうさ!」
「違う! あの子ならきっと生き返って、一緒に過ごせることを喜んでくれる!」
「もう一度言う。死んだ人は生き返らない。もし生き返ったのならそれは人ではないなにかだ。オローネを人のままにしておくため、あなたを止めるっ」
「邪魔なんてさせないわ! もうすぐなのに。もうすぐ会えるの! またお母さんって呼んでもらうの!」
蘇生したような感じの俺はコーダーからすれば人ではないのか。じゃあなんなんだろう。
おっと、そんなことを考えている場合じゃないか。進んできた通路から重い足音がする。改造された死体が動き始めたんだろう。
「ダイオン。俺とシャーレで背後を止める。そっちは任せた」
「頼んだよ」
ダイオンたちもコーダーのいるの空間に入っていき、俺とシャーレはあっちの空間へと向かう。
戦闘と呼べるものでもない戦闘は俺とシャーレの勝ちで終わる。俺が風で改造された死体を転ばせて、シャーレが炎の牙という新しい魔法で貫いて燃やした。
ダイオンたちの方も苦戦はしなかったようだ。ただコーダーの師匠の悲痛な悲鳴が通路に響いていた。攻撃された痛みよりも、邪魔される悔しさからだした声のようだった。
。ダイオンたちのところに戻ると、コーダーの師匠は娘へと手を伸ばした形で事切れていた。
「レイレーンは無事ですか?」
レイレーンを診察しているらしいコーダーにシャーレが聞く。
「大丈夫だろう。薬で眠らされているだけだ。師匠がなにかする前だったらしい」
ほっとしたようにコーダーは言い、似た様子でシャーレはレイレーンを覗きこんだ。
「あの人がなにをしようとしたのかわかる? というか本当に師匠だったの?」
俺の問いにコーダーは首を横に振る。
「資料があるはずだ。それを読めばわかるだろうさ。あと本人だろう。魔獣教団の力を借りてああなったのだろうな。体の変形などは魔獣教団の得意とするところと聞いたことがある」
また魔獣教団か。ここらへんで幅を利かせているのだろうか。あまり遭遇したくない集団だ。
事情がわかりそうな資料を集めたダイオンたちが帰ろうと声をかけてくる。それに頷き、俺がレイレーンを背負い、コーダーがすぐ近くで異常がでないか見ながら歩く。
一度コーダーは師匠を振り返る。
「せめて師匠とオローネは一緒の墓に入れてやらねば」
「ああいったふうに体を改造した人を墓に入れてくれる? 不浄だとか言って、燃やして終わりとか言われそうだけど」
「そうだな。共同墓地には嫌がられるだろう。うちの庭に簡単な墓を作って入れてやるつもりだ」
いいと思う、コーダーの感傷かもしれないけど。このまま野ざらしよりは喜んでくれると思う。
下水道を出た俺たちは、三つに分かれる。ダイオンたちは資料を持ってお偉いさんのところへ、コーダーは知り合いの医者にレイレーンを診察してもらいに、俺とシャーレは宿に戻って無事を知らせにという感じだ。
コーダーから医者の住所を聞いて宿へと急ぐ。夕食の時間も過ぎた町からは賑わいが消えて静かになっていた。
誤字指摘ありがとうございます




