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縁をもらって東へ西へ  作者: 赤雪トナ
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25 シャーレの友達

 宿にとった部屋に戻るとシャーレがいなかった。さすがにまだ庭にいるわけではないだろうと窓の外を見て、そこにいないことを確認する。

 あの女の子とおしゃべりでもしているんだろう。一応外に出ていないか店員に聞いてみようか。俺を探しにいった可能性がゼロではないだろうし。ロビーにいる店員に話しかけてシャーレの所在を知っているか聞くと、やはりあの少女と一緒にいるようだ。用事があるなら呼んでくると言われたが、居場所がわかればそれでいいので断る。

 部屋に戻って、借りてきた錬金術の本を読むとしよう。

 コップに水を入れて、椅子に腰かけて本を開く。最初の数ページは、この本にどのようなことが書かれているかまとめられたものが載っていた。

 あの男が言っていたように錬金術を習得する上で、最低限必要な知識を会得するための本だ。錬金術に必要な器具、器具の手入れ方法、錬金術に必要な魔法、錬金術を行うのに適した場所、素材の取り扱いと保存方法。こういったことが書かれているらしかった。

 なるほどなと頷き、本編に進む。

 器具に関したことを読み終えたタイミングで、シャーレが部屋に戻ってくる。


「おかえり」


 本を閉じてテーブルに置いて声をかける。

 

「ただいま帰りました」

「宿の子と仲良くなったの?」

「はい。あの駄目でしたか? 仕事を放り出しておしゃべりしてたし」


 少し申し訳なさそうに聞いてくる。


「いやいや、気にしてない。仕事を放り出したって言っても急いでやることもないし、休みだって必要だ。もう少し話しててもよかったんだぞ」

「レイレーンの休みが終わったから」

「ああ、そっか。レイレーンとのおしゃべりは楽しかった?」

「はい。いろいろとこの町について聞いたり、おすすめのお店とか聞けました」

「そっか、楽しかったのならよかった」


 旅をしていると同年代の子と話す機会も減るからな。俺やダイオンとは話題が合わないこともあるだろうし、こんな機会は貴重だろう。この町にいる間はレイレーンと楽しく過ごしてほしい。


「どんなことを話したんだ? 話せることだけでいいから教えてくれ」

「ええと、祭りが近いのは知ってますよね。これから人が少しずつ多くなってきて、人と人のトラブルが多くなっていくから気をつけてとか、祭り期間中はいろいろな露店が

あって楽しいとかです」


 そこらへんは予想できたことではあるなぁ。これといった特別な情報はなかったらしい。なにかしらの情報を必要としているわけじゃないから、なくていいんだけど。


「あと噂で、人がいなくなるとか」

「誘拐? シャーレも気をつけないとね。可愛いから狙われるかもしれない」


 可愛いという評価に頬を赤らめ照れたシャーレだが、ふるふると首を振る。


「えっと可愛いから狙われるとかじゃなくて、町の外から来た人がいなくなるらしくて」

「それは急に旅立ったんじゃなかろうか」

「そうかもしれないです。そういった噂があるってだけだから」


 もし旅立ったのでなければ、なにかしらの事件が起きている可能性もあるのか。詳しく知りたいなら役所にでも行けばわかるかもしれない……まあ首を突っ込むことじゃないか。役所とかだって、勝手に動かれても迷惑だろう。

 人通りの少ないところにいかない、夜に出歩かない。こんな感じで注意しておこう。

 シャーレにも注意を促すと、頷きが返ってきた。

 話したことはこれくらいだと言ってシャーレは荷物から裁縫道具を取り出して、繕い物の練習を始める。

 俺も読みかけの本を開く。なんの本を読んでいるのかとシャーレに聞かれ、答える。興味があるならシャーレも読んでいいと許可を出すと、少し興味を抱いたようであとで読むらしい。

 夕方頃になると、髪を湿らせたダイオンが部屋に入ってきた。


「おかえりー。風呂に入ったんだ?」

「ああ、少しばかり匂いがな。下水道から出てきたらしい魔物と戦って、匂いが移ったんだ」

「へー、ここじゃそんな魔物もいるんだな」

「いや珍しいようだぞ。役所の人間も初めてだと言っていた。あれが住み着いて増えてなければいいんだが」

「厄介な魔物だった?」

「強さでいえばそうでもない。厄介な攻撃をするわけでもないし、意表を突かれた駆け出しの傭兵が数人で倒せるくらいだ。シャーレだって魔法で倒せるだろう。ただし増えていると下水道から出てきて、一般人にも被害がいきそうでな」

「……それって人を食べる魔物かな」


 ふと思うことがあってダイオンに聞いてみる。


「顔がないんだ。食べる口がないから無理だろう」

「じゃあ違うか」

「違うってなにがだ」

「シャーレから人がいなくなる噂があるって聞いたんだよ。その魔物が人を襲って食べているのかなと思ったけど、顔がないなら無理だなって」

「そんな噂があったのか」


 ダイオンがシャーレを見て、シャーレは頷いた。


「少し調べてみるか」

「役所や警備が動いているんじゃない? 余所者が動いても邪魔になるだけだと思うぞ」

「そうなんだが、この町には伝手があってその人に話を聞いてみるだけ聞いてみようってな。ちょっと出かけてくるよ」

「帰りは遅くなる?」

「忙しい人だからまずは予定を空けてもらうことになる。だから遅くはならないはずだ」


 それなら夕食を先に食べずに待っておこうか。

 ダイオンが再び出かけていき、俺たちはのんびりと過ごす。

 ダイオンは一時間ほどで帰ってきて、アポイントを取ってきたと言う。明日か明後日にはその人と会えるらしい。


 翌日は魔法の練習のため町の外へ。ついでに狩りも行って路銀も稼ぐ。向かう先は西の荒地だ。一日で行って帰れる距離だけど、それだと狩りの時間が少ないのでに二三日泊まり込みで狩る人もいるようだ。向こうにも解体業者はいて、その人たちに狩ったものを売ることもできるらしい。ただし出張料金などで、町で売るよりも安くなるとのこと。

 朝早くに出て、適度に休憩を入れて歩き続け、太陽の位置や感覚的に十一時前に到着した。

 大きな岩がごろごろとある緑の少ない場所で、空には鷲のような魔物がいて、地表にはちらほらと大トカゲやら犬の魔物が見える。


「森で馬車を襲っていた熊より下の魔物ばかりかな」


 俺の感想にダイオンが頷いた。


「だいたいそんなところだろう。もっと奥にいけば大物が縄張りを持ってると思うが、今回はそこまで行く必要もない」

「うん、じゃあ狩りを始めよう」


 狩場に足を踏み入れて、獲物を探していく。

 狙い目は空の魔物だ。肉と羽がそれなりの値段で売ることができる。逆に不味い魔物はロックスライムという魔物らしい。粘液で岩や石をまとって頑丈で倒しにくいくせにお金にはならない厄介なだけな魔物。ただしロックスライムには遠慮なく魔法が打ち込めるので、俺たちには倒しやすい。

 この狩場で一番活躍できるのはシャーレだ。弓で空の魔物を落とし、ロックスライムには炎の魔法でまとった岩の隙間を通して攻撃できる。

 俺も風の魔法で空の魔物は落とせる。ダイオンがあまり活躍できないが、本人も最初から護衛と警戒だとわりきっていた。

 三時間という短い狩りのわりには、成果は上々だったと思う。五日分の生活費を稼いで、成果の一部を売らずに凍らせ、日が暮れる前に町に着くよう狩場を出る。

 日が暮れる寸前に町に戻り、宿の厨房に顔を出す。宿の主人がコックと一緒に夕食を仕上げていた。


「これを使って料理お願いできますか」

「なんの肉なんだ?」


 宿の主人が作業の手を止めて聞いてくる。


「ファネスイーグルですよ。今日狩ってきたんです」

「へえ、いい肉じゃないか。でも今日はもう夕食完成しかけているから無理だぞ?」

「明日で大丈夫ですよ。俺たち三人だと多いんで、そちらの家族にもおすそ分けします。うちの子が世話になってるみたいなんで、今後もよろしくってことで」

「こういったことしなくても、勝手に仲良くやると思うんだけどな。ありがたくもらっておくよ」


 良い食材が手に入ったと楽しげに宿の主人とコックが笑う。これで何を作ろうかと話し出した。

 俺の用件は終わったんで部屋に戻る。

 銭湯で汚れを落として、宿の食堂で夕食を持ってテーブルにつく。


「一緒してもいい?」


 レイレーンが近づいてきて、夕食を持って聞いてくる。

 シャーレが俺とダイオンを期待して見てくる。問題ないとダイオンと一緒に頷き、楽しげに並んで話し出す二人を俺とダイオンは微笑んで見る。

 二人の話はとりとめのないことだった。主に今日の仕事についてで、それでも楽しそうだった。

 二人の声から、周囲の客に注意を移す。彼らの話題も仕事のことだったり、近づく祭りについてだったり、祭りに参加予定の牧場についてだ。今のところダイオンが倒したという魔物についての話題はないし、誘拐の話題も聞こえてこない。

 魔物もあの一体だけで、誘拐も噂だけですんでくれたらいいんだけどな。


 朝になり、昨日の狩りの疲れを考えて、町中でゆっくりできる仕事でもと朝食を食べながら話す。

 俺とダイオンは体力的に平気だが、シャーレのことを考えての提案だと察したのか、シャーレが申し訳なさそうにする。


「まだ子供だからな体力的な問題は仕方ない。それに村で体力づくりしていたときと比べたら断然に動けるようになってる」


 俺の言葉にダイオンも同意する。


「霊熱病で体力が削られるのは俺もよく知っている。そこからスタートして今くらいになったのは十分にすごいことだよ」

「焦らず少しずつ成長していけばいいさ」


 子供だから仕方ない部分もあるとダイオンと一緒に言い、シャーレは一応納得した様子だった。


「早く大きくなりたい」

「子供はそう言うよな。俺もそうだった」

「リョウジもか? 俺もだな。大人たちが自分より動けるのを見て、俺も早くあんなふうにって思ったもんだ」

「なりたいとかなりたくないとか言っても、いつかなるもんだし、今を大事にしてほしいね」


 それにしても成長したシャーレか……うん、美人に育ちそうだ。五年後くらいが楽しみだ。それくらい時間が流れたら美人のメイドさんに世話を焼かれるのか……いいな!

 いろいろな意味で成長したシャーレを楽しみにしよう。


「失礼、ダイオン様はいらっしゃいますか」


 食堂の入口からダイオンを呼ぶ声がして、そちらを見ると武装した男がいた。

 ダイオンが手を上げると、男は近寄ってくる。


「パローン様の予定が取れましたので、呼んでくるようにと」

「わかった。二人とも一緒にくるか?」

「行く行かない以前に、パローンって誰」

「あ、言ってなかったか。先代辺境伯だ。もう当主交代してたよな?」


 ダイオンが男に確認し、男は頷いた。

 辺境伯? 貴族ってことはわかるけど、爵位についてはよくわからないんだよな。もらった知識にも貴族ってことくらいしかないし。公爵が一番上らしくて、男爵が一番下だっけ?

 不思議そうな顔の俺を見て、よくわかっていないと察したダイオンが説明してくれた。

 辺境伯は王都から離れた地方の貴族をまとめている存在で、王の信が厚い者が任ぜられ、地位もそれなりの高さらしい。王都と距離があって連絡が取りづらいため、急ぎの処理が必要なときに備えてある程度の決定権ももっているそうだ。

 話を聞いていて一つ思い出したけど、他国に近いからそちらの対応もするんだっけ辺境伯って。でもここの国境は自由に行き来ができないから、その役割は優先度が低そうだ。

 地球の辺境伯はわからないけど、こちらの世界の辺境伯はそんな感じらしい。

 説明を終えて、もう一度一緒にくるか聞いてくる。偉そうな人の対応はできそうにないし行かなくていいか。


「行かないで仕事やってるよ」

「そうか。じゃあ行ってくる」


 案内の男と一緒にダイオンが宿を出ていき、俺とシャーレもそのあとに清掃の仕事をやるため宿を出た。

 掃除していると毎度のことながら、子供メイドを連れた男ということで注目を浴びることになったが、そろそろ流すこともできるようになった。

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