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縁をもらって東へ西へ  作者: 赤雪トナ
20/224

20 情報収集

 指示を出し終えたブレンドンが俺たちに頭を下げる。


「警備の者が色々と迷惑をかけた。ほぼ間違いなくお金を盗んだのは奴らだろう。あいつらに借金をさせて返済させる」

「返ってくるならそれでいいよ。それにしてもあんたは何者なんだ? 警備のトップというには若い」

「俺は警備のトップで間違いない。あと代官の息子だ」


 ああ、それでミーレンが隣にいるのか。お見合い相手ならその距離感は納得できる。


「では行こう。俺の家に案内する」

「怪しまれているよそ者が代官の家に滞在するっていいのかな」

「問題ない。迷惑をかけた詫びでもあるしな。それに先ほども言ったが、近くで監視するためでもある」


 詰所から出て、ミーレンに改めて礼を言われたり、牢屋から出すことができてよかったと言われつつ歩く。

 ミーレンがどこで俺たちのことを知ったのか聞くと、今朝自分の襲撃計画があったと報告を受けたとのことだ。その話の中で、男二人にメイド姿の幼女という目立つ三人組の話が出てきてもしやと思い確認すると俺たちのことだと判明した。襲撃計画の関係者というのはなんらかの間違いだろうとブレンドンに主張して、ブレンドンも昨日の詐欺師捕獲のことを思い出して、確かめてみようという考えになった。そして詰所に来たという流れだ。

 つまりはミーレンが動いたおかげで、牢屋から出ることができたということだな。三人で礼を言うと、恩を返せたとミーレンは微笑んだ。

 代官の屋敷に到着し、建物に入るとミーレンに森で一緒だったメイドが近寄ってくる。その人から嫌な感じがする。ということは森で感じたものは、ミーレンからじゃなくてこのメイドからってことか。

 ブレンドンを引っ張って、少し離れてメイドについて尋ねてみる。


「あのメイドさんはどういった人なんだ?」

「メイド好きだからって興味を持つのが早くないか?」


 ブレンドンの呆れの視線が俺に刺さる。


「いやメイド好きってなんでだよ」

「こんな子供を奴隷にしてメイド服着させてるじゃないか」


 ま・た・か。


「違うから。メイド服はシャーレの趣味だから。あのメイドから嫌な感じがするんだ。詐欺師に感じたものに近い」

「……あのメイドになにかあると」

「勘だから断定はできない。でも勘がまったくの的外れでもないことは知っているだろ」


 詐欺師を捕まえたからこそ、信じてもらえる可能性がある。

 ブレンドンは真剣な顔で考え込む。そして首を振った。


「詳しいことはわからない。ミーレン嬢の側付きということ、何年か前からそれになったということくらいだ。怪しいところに心当たりはないな。だが勘がいいというのも知っている。少し警戒することにする」


 勘ということ以外になんの情報も出せていないから、その判断が妥当か。

 ブレンドンは屋敷のメイドに指示を出して、客室を準備させる。その間に俺たちは水浴びをさせてもらう。牢屋から出たままなんで、清潔とは言い難いのだ。

 さっぱりして与えられた部屋に入る。四人部屋で、急いで準備されたわりには綺麗だった。俺とダイオンは着替えているが、シャーレは水浴びついでにメイド服を洗濯して急いで乾かしたらしく、いつものメイド服のままだった。

 三人とも荒らされた荷の中を整理しているとブレンドンがやってくる。


「落ち着いたようだから、話を聞きにきたよ」


 ブレンドンは椅子に座り、俺とシャーレはベッドに隣合って座り、ダイオンは椅子に座る。


「あの宿に泊まっているときなんでもいいから異変はあった?」

「なかったよね?」


 ダイオンに聞くと頷きが返ってくる。観察力などは俺よりもダイオンの方が上で、そのダイオンが否定したなら俺たちが気づける範囲で異常はなかったということ。


「特に変わったところのない宿だった。俺たち以外に部屋に出入りした形跡もなかった」

「あの手紙に覚えは?」

「ないよ。手紙自体リュックにいれていなかった。あの捕まった警備が最初から持っていて入っていたように見せかけたと俺は思ってるけど」

「あいつが怪しい素振りを見せていなかったら、それを信じなかっただろうけど、かたくなに口を割らなかったからな。盗む以上のことをやらかしている可能性がある」

「あの警備少しだけミーレンさんを気にしていた」


 シャーレも気づいていたんだな。

 ブレンドンは気付いていなかったようで、そうなのかと確認し、俺とダイオンも頷く。


「ミーレン嬢の騒動に関わっていたから、口を割らなかった可能性もあるのか。取り調べを厳しくする必要があるな」

「こっちでなにかすることはあるの?」

「もう少ししたら警備と一緒に馬車で森に行ってほしい。ミーレン嬢が襲われてたところの検証をしたい。その護衛をかねて調べてもらいたい」

「ほかには?」

「今のところはそれだけ。こっちの調査結果でまた頼むことがでてくるはず」


 屋敷への出入りはこれを見せればある程度自由になるよう話を通してあると言ってブレンドンは、封筒を俺たちの方に差し出す。表にこの家の家紋らしき花の絵が描かれていた。

 受け取った封筒を俺がポケットにしまうところを見て、ブレンドンが立ち上がる。

 一緒に屋敷を出て、昼食を屋台で買ってから町入口に準備されていた馬車まで向かう。そこにいた警備にブレンドンが俺たちのことを説明する。警備のほかに道案内なのか、ミーレンを守っていた護衛もいた。俺たちは馬車に乗り込み、ブレンドンは副長などがいる詰所へと去っていった。

 馬車が動き出し、揺られること一時間と少しで、熊の魔物との戦いのあった場所に到着する。

 俺たちは魔物に警戒するように指示を出され、それに従う。俺の感覚だと魔物はいなさそうだ。シャーレも俺の隣で周囲を見ているが、なにかに気づいた様子はない。


「魔物いる?」


 ダイオンに聞くと近くにはいないと返された。


「静かなもんだよ。小物が潜んでいる可能性はあるけど、大物が潜んでいる可能性はない。これだけ静かなら接近にも気づきやすい」

「普段から静かなら昨日の熊は馬車の移動音がうるさくて気が立ったとかで暴れたんだろうか」

「それはないだろう。ここの道はそれなりに整備されている。轍も目立つしね。ということは人の行き来が多いってこと。普段から馬車は当たり前に通ってて、その音で怒るならミーレン嬢たちはもっと警戒して、熊が出てきても対応できていたはずだ」


 ダイオンの言葉を聞いて、ミーレンを護衛していた傭兵が頷き近づいてくる。


「道のある森の浅い部分に熊が出るとかここ数年聞いたことはなかった。だから俺たちも熊には驚かされた」

「熊って奥の方から出てこないんですか?」

「そうだぜ。この森で一二を争う強さだ。餌になる獲物はたくさんいて、ここまで出てくる必要がない。狩ろうと思ったら奥に行くしかないんだ。まれに出てくると大騒ぎだ。一般人にとっては死の象徴で、傭兵にとっても避けたい相手だ」


 戦えばほぼ確実に重症を負って傭兵稼業を続けられなくなるらしい。彼も熊の魔物と遭遇したとき正直死すら覚悟したという。


「森に強い魔物がいて、熊は縄張りを追い出されたかもと仲間と話したんですけど、そんな話は聞いたことありますか?」

「ねえな。俺はここらを中心に動いている傭兵だ。狩りに来るこの森の情報は日頃から集めている。だが魔物が暴れて森が騒がしくなったなんて情報は入ってきてない」

「そうですか」


 護衛も交えて話していると、警備がなにかを見つけたと声を上げた。

 なにが見つかったのか見るため、全員が集まる。

 警備の手には香炉なのかな、そんな感じのものがあった。その香炉はこぼれた灰で汚れたのか、薄汚れている。


「森に転がっているには少しばかりおかしいものだから、馬車から落ちたものだと思うんだが」


 その意見に警備たちは頷いているが、それが魔物襲撃に関係あるのかはわからないという意見も出る。

 護衛の男が見覚えがあると前置きして話し出す。


「魔物避けの香だと森に入る頃に馬車の外に出したものだと思う。効果が出たのかわからないが、たしかに熊以外の魔物と遭遇はなかった」


 ダイオンが発言いいだろうかと警備に聞いて、許諾を得て話す。


「魔物避けの香に関しては俺も聞いたことがある。そして特定の魔物を引き寄せる香もあると聞いた。香炉の中に残る灰を錬金術師に調べてもらったらどうだ?」


 ダイオンの提案に警備は頷いて、香炉を馬車の中に持っていく。

 ほかになにか見つかるだろうかと警備たちはまた探索に戻る。見つかったのはあのときの護衛が落とした予備の武器と熊の魔物が奥からやってきた形跡くらいだ。

 そのあとは皆で熊の魔物のような強い魔物がいないかパトロールしてから町へと帰る。

 森の様子は護衛の男が知る、いつもの様子だったようで、荒れている様子はないと断言された。

 町に戻った警備はすぐに町で名の知れた錬金術師へと香炉と灰を持っていく。

 俺たちは今日の仕事を終えたので代官の屋敷へと戻る道で食堂に入り、夕食を食べてから帰る。

 寝るまで時間があるので寛いでいると、ブレンドンがやってきて森のことを聞いてきた。香炉を見つけたこと、錬金術師に解析依頼をしたこと、森の様子について話す。警備から報告を受けて知っていたようだが、別視点での意見も必要としていたらしい。


 夜が明けて、メイドが持ってきた朝食を食べていると遠くからなにか騒ぐような声が聞こえてきた。

 なんだろうかと思い、三人で部屋を出て、そちらに歩いていく。

 騒がしかったのは食堂で、ブレンドンやミーレン、ブレンドンに似た壮年の男などがいた。

 ブレンドンにおはようと声をかける前に、ミーレンが伴っている嫌な感じのメイドがダイオンを指差した。


「ちょうどあの人くらいだったかと。髪型もそれらしかったです」


 いったいなんの話だろうかとダイオンと顔を見合わせる。

 途中から来た俺たちにはわけがわからないだろうとブレンドンが説明してくれた。

 夜中に代官の執務室が荒らされたらしい。それに代官が今朝気付き、なにか知らないかと聞いて騒がしくなったと。

 そして夜中トイレに起きたミーレンのメイドがダイオンに似た人影が代官の執務室に行くのを見たということだった。

 それはダイオンじゃないだろう。夜中に起きていないと思う。

 ダイオン自身も部屋から出ていないと言った。


「とりあえず君たちは部屋に戻って。そこから動かないで。あとで俺が尋問に行く」


 ブレンドンが俺たちに指示を出す。おとなしく従おうか、ミーレンを除いたほかの人たちに睨まれていることだし。

 部屋に戻ってすることがなく、暇な時間を過ごしているとブレンドンが警備を伴って入ってきた。


「窮屈な思いをさせてすまないね。あの場で君たちをかばうのは得策じゃないと思ったんだ」

「なにかしらの考えがあってか?」


 ダイオンが確認するように問い、ブレンドンは頷いた。


「ミーレン嬢のメイド、名前をファポアというのだけど、彼女の証言はでたらめだ。君たちには監視をつけてあって、部屋を出たらわかるんだ。監視から夜中に出ていないと報告を受けている。なのに彼女はダイオンを見たと言った。どういう考えで言ったのかわからないけど、あの場はそれに乗ってみて反応をうかがうことにした」


 なるほど。ファポアは自分が疑われていると知らないから、自身の証言にブレンドンが乗ったことで安堵しなにかしらの動きを見せるかもしれないということか。

 この考えを確認してみると頷きが返ってくる。


「しばらく君たちにつかずはなれずの位置で警備がつく。君たちに注意が集まっていると思わせるため協力を頼む」

「わかった。ちなみに今日の俺たちの予定は?」

「今のところはないかな。錬金術師からも報告はないし、俺たちにやれるのは執務室の調査とファポアの監視と副長たちの尋問の続きくらいだ」

「ファポアが代官になにかしらの恨みとか持っているってことは?」

「ないと言いたいけれど、正直わからない」


 あとは庭に出ていいか尋ねる。ずっと部屋にいるのは息が詰まるのだ。

 許可を出したブレンドンは、尋問を行ったという体裁で部屋を出ていく。


「俺たちにできることはあると思う?」

「ない。おとなしくしていることが正解だろう」

「では暇な時間に洗濯してしまいます。お洋服を出してください」


 庭で洗濯をするというシャーレに洗濯物を渡して、一緒に庭に出る。

 ブレンドンが言ったように警備の姿が見えた。最初からいるとわかっていれば気にする必要もなく、庭で思い思いに過ごす。シャーレは洗濯、俺は簡単な魔法の鍛錬、ダイオンは筋トレといった感じだ。

 その日は屋敷から出ることなく過ごす。宿賃がかからないのは助かるけど、いつまでもここに拘束は嫌だな。そう思ってはいたけど、状況が動くことはなく翌日も似たような感じだった。

 暇なのは俺たちだけだったようで、ブレンドン側では錬金術師からの報告が入ってきたり、口を割らなかった警備の男が毒殺されたりで慌ただしかったのだとあとで聞いた。

 そういった動きの中からブレンドンたちは騒ぎを起こしている者たちの情報を集めていく。

 屋敷で寝泊まりして五日目、俺たちに一つの依頼があった。それは夜中の敷地内警備に参加することだった。

 ファポアが動きを見せるならば、その夜だろうというのがブレンドンの考えだ。お見合いが終わり、ミーレンがこの屋敷にいられるのは今夜までだ。屋敷内でなにかするなら制限時間が迫っているということだった。

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[一言] メイド服姿の幼女を連れている、 と言う点で良くも悪くも印象には残るのか。
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