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縁をもらって東へ西へ  作者: 赤雪トナ
2/224

2 出現

「おっとと、調整終わったのか」


 目が覚めるとモニターのある空間ではなく、どこかの山頂に出た。周囲を見ると、そこまで高い山じゃないってわかる。すぐ隣にも山があって、ざあざあと水の流れる音も聞こえる。

 自然のみの風景で、日本で見た山のように送電塔が立っていたりしない。遠くにアスファルトの道路があったりもしない。


「おー異世界っぽい。いやどこぞの秘境に行けば見られるかな?」


 風景を見るのをやめて、自身の周りを見る。すぐ近くにリュックがあり、これが管理者のくれた物資なのだろう。さらに地蔵サイズの石像がある。


「これが管理者を模したものなのかな。お礼を言っておこう」


 生き返らせてもらえたこと、物資をもらえたこと、頑丈な肉体をもらえたこと、そういったことに礼を言いつつ手を合わせて拝む。

 

「じゃあ次にいろいろと自分の確認だな」


 肉体のあちこちを触ってみる。さほど鍛えてなかった体が引き締まってる。事故で強く打ったはずの頭にも怪我はない。その場で軽く動いてみると、体が軽く感じられた。今ならスポーツですごい記録を出せるかもというくらいに軽快だった。

 着ているものもこちらのもののようで、チョコレート色の革のベスト、白シャツ、モスグリーンのチノパンのようなもの、ロングブーツ。ほかに首に巻き付けるマントと手袋が荷物と一緒に置かれていた。そして腰には大振りのナイフもある。魔物がいるっていうし護身用なのだろう。


「服はこれだけなんだろうか。替えがリュックに入っていればいいけど」


 リュックを漁る。財布と保存食と着替え、野宿に必要な細々としたものが入っている。

 よかったと思いつつ漁るのをやめて、知識に関して思い浮かべてみる。

 この世界の貨幣や宗教、国、文化形態そういったものが思い浮かんでは消えていく。

 地球との明確な違いは国境線だろう。基本的に自由に行き来できない。国境線を超えようとしても見えない壁があって通れない。今いる大陸はポリジーアという名で、国は五つある。隣接する国を行き来するには、一つの国の四方に一つずつある出入口を通るしかない。

 ほかに違いは、国ごとで明確に気候や地形が違うということか。例えば今俺がいる国は平原の国パーレ。平原が多く、農業と畜産が盛ん。しかし隣のアッツェンは熱帯雨林で国境線では木々が延々と生えている様子が見れるらしい。温度や湿度も明確に違うようだ。

 この国境線は神が世界を作ったときに決めたもののようで、これまで一度も破られることなく存在し続けている。

 あとは種族だろう。

 俺のような人間はヒューマと呼ばれていて、動物の特徴を持つ人間のニールというのもいる。目が宝石で、体の一部から角のように鉱石を生やす人間のリアーもいる。この三種族が国を作って大陸各地で暮らしているらしい。


「知識の確認はひとまずこれくらいで、山を下りよう」


 必要になったならまた再確認すればいいと畳んだマントをリュックの上部に結び付けて固定し、リュックを背負い、手袋ははめる。

 与えられた知識に、下流に人が住んでいるとあるのでそちらへ向かえばいい。

 山道を下りていく。魔物がいる世界っていうから、人里離れた場所では襲われるかもと思ってたけどそうでもないな。この山は安全な場所なんだろうか。

 魔物や猛獣を警戒する際に目に入る草や木の名前はわかるけど、その効能まではわからない。そこは薬師などの知識であって一般的ではないのだろう。

 そんなことを思って歩いていると、不意に道からそれた方向が気になった。そっちに行きたいという感覚だ。


「もしかしてこれが頼んだ縁の力?」


 立ち止まりそちらを見る。木々が見えるだけで明確になにかがあるというわけではない。

 いつまでも行きたいという感覚はなくならない。強制力はないので無視もできる。


「いっちょ行ってみるかな。もらったものが作用しているなら悪いことにはならないはず」


 道をそれて進む。草などが邪魔して歩きにくく、こけないようにゆっくりと慎重に。体の性能が良いおかげで、一度もバランスを崩すことなく緩い斜面を移動できる。

 そうして木々の向こうに川が見えた。山頂で見たものよりも立派な祠も見える。川の水は少し濁っている。

 河原に降りて、周囲を見渡す。ここに来たいという感覚はまだ続いているから、なにかあるはずなんだけど。

 そう思っていると川の水が盛り上がっていく。


「お、おお!?」


 なんだと数歩下がって見ているうちに、水は大蛇の姿をとって、顔をこちらに向けてくる。目は穏やかであり、敵意をまとってはいないため、逃げ出すことなく驚くだけですんだ。

 与えられた知識が目の前の存在は大精霊だと伝えてくる。

 精霊は属性の強い場所を好み、そこに留まることがある。火山には火の精霊が、常に風の吹く場所には風の精霊が、深い森や大きな山には土の精霊が、湖や海には水の精霊がという感じだ。

 ここも水の精霊が気に入るほどに水の属性が強い場所なんだろう。


『タイミングよく、人間が訪れてくれてよかった。そこな人間、頼みがある』

「俺のことですよね?」


 周囲に誰か隠れたりしないよな。


『うむ、おぬしだ。この川を下ったところに、シャーミーズという村がある。そこのファーネンという巫女にここまで来るように伝えてくれ。これを持っていけばわしからの使いだとわかるだろう』


 大蛇の体の一部が俺の目の前にゆっくりと飛んでくる。ほのかに空色の透明なビー玉っぽいものだ。手のひらで受け止めるとひんやりとしている。それをポケットにしまって大蛇を見る。


「偶然訪れた見知らぬ人間に頼むってことは急ぎの用事?」

『ああ。この川はそう遠くなく氾濫する。それを伝えてくれ。ファーネンが来るときに一緒に来てくれれば礼をしよう』

「わかりました。もとより近くの村には行くつもりだったんで」


 氾濫とか大変だ。急いで伝えないと。

 大蛇に別れを告げて、河原にそって急ぎ足で村を目指す。

 途中で河原がなくなり進みにくくなっている場所もあったけど、身体能力のおかげで平野に出ることができた。

 遠くに村のようなものが見える。あそこがシャーミーズなんだろう。

 

 村まで早足で進む。遠くの草むらに角の生えた犬やどでかい芋虫や同じくでかい蛙が見えた。あれらは魔物だ。雑魚といっていい強さで、襲い掛かられてもこの体ならば問題なく対処できるようだ。近づかなかったから戦いにはならなかったけど、あれらが腹を空かせていたら襲いかかられたのかもな。戦闘なんて経験ないから、体が優れてても苦戦したかもしれない。

 村に近づくと、入口と櫓に見張りが立っているのが見えた。

 入っても大丈夫か声をかけた方がいいよな。ついでにファーネンさんとやらの居場所も聞かないといけないし。


「こんにちは。入っても大丈夫?」

「ああ、いいぞ。暴れたりしないでくれよ」

「喧嘩吹っ掛けられたら対応するけどね。一つ聞きたいことがあるんだ。ここに精霊の巫女のファーネンという人がいるだろう? その人の家を教えてほしい」

「ファーネンさんの知り合いか?」

「会ったことはないよ。ここの川に大精霊がいるだろう? 偶然上流の祠に行ってね。大精霊からファーネンさんに伝言を言付かったんだ。これを見せれば信じてもらえると言っていたよ」


 ベストのポケットから玉を取り出し、見張りに見せる。


「それがなんだか俺には判断つかないが、大精霊様の名を出されると無視はできない。中に入って中央まで行って、左に進むと庭に大きな木の生えた黒屋根の建物がある。そこがファーネンさんの住んでいるところだ」

「ありがとう。早速行くよ」


 村に入って聞いたとおりに進む。

 それなりに大きな村のようでそこかしこから村人のにぎやかな声が聞こえてくる。川にはいくつか小舟も見えたから、よその村との交流も盛んなのかもしれない。

 村の中央では市が開かれていて、川魚や肉、革製品、木工雑貨が並ぶ。ほかにはナイフ研ぎや修理屋の姿もある。

 それらを見ながら歩き、黒屋根の建物に到着する。総石造りの建物で、入口からはたくさんの椅子が見えた。


「家ってよりは神殿っぽいな。巫女だから住んでる場所もそれっぽいのかな」


 中に入ると、正面奥の壁に山頂で見た石像と大精霊の石像が置かれた台があった。

 それの前に置かれた椅子に座ってじっとしている人がいる。

 ファーネンさんか、別人か。まあ声をかければわかるか。

 近づくと足音などで気づいたのか振り返る。四十歳くらいの女で、胸になんらかのシンボルらしきネックレスが揺れる。


「こんにちは」

「はい。こんにちは。見かけない顔ですが、旅人ですか」

「ええ、その通りです。大精霊の伝言をファーネンという方に言付かっています。あなたがファーネンさんですか」

「私がそうですが、大精霊様から伝言?」


 まずはこちらをと見張りにも見せた玉を渡す。

 それを見てファーネンさんは少し目を見開いて両手で包むように握る。


「たしかに大精霊様の気配です。伝言を聞かせていただけますか」

「そう遠くなく川が氾濫するそうで、それを伝えてあなたに大精霊のところまで来てほしいのだとか」

「先日の大雨から川が荒れ気味な気がしていましたが、氾濫するのですか。すぐに動かないといけませんね」

「大精霊から伝言の報酬がいただけるということで、俺も同行します。出発はいつになりますか」

「一時間ほどで」

「でしたらそれくらいにここに来ますね。宿をとらないといけないので」

「わかりました。近くにガボル亭という宿があります。評判がいいところなので、そこを宿にするといいと思いますよ」


 住人のおすすめなら問題ないかな。そこに泊まろう。

 ファーネンさんに別れを告げて建物を出る。

 教えてもらった宿は、酒場も兼ねたところで、掃除をしていた男に宿泊を告げると手続きをしてくれた。壁に何枚も紙が貼られたところがあって、仕事の依頼が貼られているらしい。

 とりあえず三日分のお金を男に払って、部屋の鍵をもらう。

 一泊三食ついて70デル。一杯だけなら酒もサービスされる。酒のサービス以外はこの値段が平均らしい。


 ちなみに管理者からもらった財布には二ヶ月くらい働かずに暮らせる硬貨が入っていた。シャーペンの芯の入れ物サイズの金の板、同サイズの銀の板と銅の板、五円玉くらいの銅貨が財布の中身だ。銅板一枚で30デル。銅板が八枚と銅貨十枚で銀板一つ。銀板が十枚で金板となる。

 だいたい金板一枚で一般家庭一ヶ月分の生活費らしい。

 10000デル分で一枚になる輝金硬貨というものもあるけど、それは貴族や商人とかが大きな商いで使うもので、庶民は使うことはない。

 この価値はこの国のもので、よその国だと貨幣の呼び名と貨幣価値が多少上下する。貨幣の形は同じのようだ。


 財布とナイフ以外を部屋の隅に置いて部屋を出る。鍵を閉めて、村の散策で時間を潰す。

 市をうろついていれば時間が過ぎるだろうと、そちらに向かう。

 小腹がすいたからなにかつまむか。川魚の塩焼き、肉の串焼き、川エビの炒め物などなど地球にもありそうな屋台料理がある。それらも美味しそうなんだけど、こっち特有の食べ物とかないかとあちこちを見る。魔物の肉を使った肉団子スープがあるとどこかから聞こえてくる。

 魔物の肉とか地球じゃ絶対ないし、あれにしよう。


「くださいな」

「いらっしゃい」

「なんの魔物の肉を使ってるんです?」

「ジャービスだよ」


 ジャービスという単語を聞いて脳裏に、イタチみたいな魔物の姿が思い浮かんだ。狸くらいの大きさらしい。川をテリトリーにするようだから、川に近いこの村だとよくとれるんだろうな。

 毒があるとかそういった注意事項は思い浮かばないから、食べても問題なさそうだ。


「はいよ。食べ終えたら器は返しておくれ」


 お金を渡して、近くのベンチに座る。見た目は赤く、ミネストローネのような匂いだ。スプーンでとろりとしたスープと一緒に肉団子をすくって口に入れる。肉からでた旨味とよく煮こまれた野菜からでた出汁が口の中に広がる。あっさりとした酸味で飲みやすく、スプーンが止まらない。地球で食べたものと比べても劣るものじゃないな。屋台料理がこれなら、食堂とかも不味いものはでてこないだろうし、食に関して今後不安はなさそうだ。

 食べ終えて器を返し、市を見て回る。出ているものは一般人相手の品で、魔物を相手にする狩人や傭兵が必要とする品はほとんどなかった。それらを欲するなら店か専用の市に行くしかないのかな。

 見て回るうちに時間は過ぎて、ファーネンさんのところに戻る。

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[気になる点] 一泊三食も確かに無いだろうが、それよりも面積関係で五つの国が有って、境界線云々の書き方では全ての国が四つの国と隣接出来てる、様に書かれてるけど、複数国空中か地中に国が無いと実現出来ない…
[気になる点] 宿で三食付きは無いだろーと思う。
[気になる点] 見張りの、ファーネンへの呼び方。 様か、さん、かどっちかにして欲しい
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