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縁をもらって東へ西へ  作者: 赤雪トナ
186/224

186 ちょっと休憩

 ダイオンたちから離れて、あちこち調べているシャーレを眺めながら、ローズリットと奇襲前の会話の続きをすることにした。


(魔獣教団の里に魔獣がいるかどうかを話しかけて止まっていたけど、その続きは?)

(里に入ってうんぬんだっけ。彼らの様子を見て回ったことがある。彼らはかつて存在したある魔獣を教主として崇めていた。基本的にすべての魔獣を崇める集団だけど、教主を最上として、ほかの魔獣はその下。そういった扱いを好む魔獣は少ないでしょうよ。少し前に会ったステシスのように自分のやりたいようにやる魔獣もいる。教団に所属したらいろいろと縛られて自由にできそうにないから、あそこに合う魔獣はほぼいないと思うわよ)

(教主が力で押さえつけて従わせている可能性は?)

(教主はもう死んでいるらしいわ。教団の人間がそれは認めていた)

(じゃあ力を集めているのは、それを使って教主を復活させようとしているかもしれないわけか)


 わりとありがちだなと思ったこの考えは否定される。


(復活できるのかしらね? 封印されているなら、集めた力でどうにかできるかもしれない。でも死んでるんだし無理じゃないかしら。体を保存していて、そこに力を注いでも復活はしないと思うし。そもそも教主を神聖視しすぎているように見えた。仮に復活したとしても崇める教主と実在する教主のズレを認められるのかしら)


 教主の死後、教団員たちの理想がどんどん高まっていっている可能性はあるか。こうだと想像する教主と実在した教主を見たら、否定まではいかないかもしれないけど、違和感はずっと感じることになって、それが破綻の原因になりそうだ。


(復活は無理。だったら自分たちに都合のいい魔獣を生み出すことは可能かな)

(復活よりもまだ可能性が高いと思う)


 可能性が高いだけで簡単とはいかないでしょうね、と続けたローズリット。

 魔獣教団が魔獣を生み出すことに成功しても、育てること自体大変だろうし、思った通りに育てるのはそうとうに苦労しそうだ。


「ラド。地面よ、砕けろ」


 魔法陣を書き写したクライヴが、魔法陣の描かれた地面を念入りに砕く。

 そして砕いた地面の一部を回収し、残りは魔法で開けた地面に放り込み、さらに地下深くへと捨てている。

 魔法陣の描かれた地面を回収されて、今回使用された素材を再利用されないようにかな。

 クライヴは作業を終えて、調査に加わる。俺もまた探してみよう。

 隠し金庫などが見つかることもなく、調査が終わる。確保したものを持って洞窟を出る。外に出ると日が暮れていた。


「レペンたちちょっといいか。この洞窟から誰か出てきたか?」


 カイソーンさんが留守番をしていた三人に聞く。こっそり逃げ出した教団員がいたかの確認だ。


「いえ、出てきていません。だよな」

「はい。見かけなかったです」

「私も一緒に見てましたが、出入りする人は見なかったです。戻ってくるのが遅かったように思えますが、なにがあったんですか?」


 メリエッタが聞く。


「魔獣教団がいたんだ」


 三人とも驚いた表情になる。


「そんな奴らがここに? 今回の騒ぎは魔獣教団の仕業ということなのでしょうか」

「わからない。今はその可能性があるというだけだな」

「ここにまた魔獣教団がやってくるかもしれません。見張りを置きますか?」


 提案するのはフルガナだ。

 それは俺たちも帰りに話し合った。現状見張りを置くには人手が足りないということでなしになった。

 輝星樹の力を吸い取っている奴らを探すことが第一で、そいつらに繋がるヒントも得られていないため、ここに見張りを置く余裕がない。

 カイソーンがそう説明すると、レペンは放置するのかと返す。


「俺たちには無理だから、警備の騎士や兵たちに見張ってもらうことにした。このあとダイオンとイリーナとゼルが彼らのところに行き、支援を頼むことになっている」


 村人に見張りを頼むという提案もあったが、荒事専門ではない彼らだと捕まりかねないということで騎士たちに頼むのだ。

 納得した三人と野営の準備を整えていく。簡単にだが作業を進めていてくれたので、やることはそうなかった。

 その間に騎士たちに会いに行くダイオンたちは、クライヴたちの馬車で出発していった。

 野営準備の間にペリウィンクルに頼んで、上空から誰かいるか見てもらう。暗いから隠れられたら見つけられないだろうけど、焚火を使っている可能性もあるしね。

 一時間くらいで戻ってきたペリウィンクルによると、ここらには焚火などはなかったようだ。

 交代で夜番をして、なにもなく朝が来る。もう一度ペリウィンクルに飛んでもらった後、村へと帰る。

 村は悪い力が通常通りこっちに留まるようになったらしく、昨日よりも若干過ごしにくさがあった。ただちに体に悪影響はでないと断言できるけど、これがどんどん増していったら、一般人でも過ごしにくくなるだろう。

 もっともそうなる前に輝星樹が枯れて次世代に交代して、また清浄化されるだろうとローズリットが言っていた。

 村に帰り、洗濯など俺たちが雑用をやり始めると、クライヴはワシャンさんに報告に行く。俺とブルゼンとカイソーンとレペンは狩ってきたものを倉庫に持っていく。

 残る雑用はのんびりとやればいい、明日は休暇にしてある。輝星樹のためには急いだ方がいいのだけど、無理して体調を崩しては駄目だということで休暇になったのだ。

 明後日残っているメンバーで三つの洞窟の一つに向かう予定だ。ダイオンたちが戻って来るかわからないし、戻ってきても移動の疲れがあって動かしにくい。ならば先に一つでも調べておこうということになった。

 倉庫の管理をしている老人に、カイソーンが声をかけて、狩ってきたものを入れることを伝える。老人は礼を言って、入れる前にまずは並べてくれと頼んでくる。種類と大きさを書類に残すらしい。保存のため血を抜いて冷やしたものを並べ、記入が終わると指定された場所に置く。

 倉庫に行くならとシャーレに頼まれた食材を老人にもらって借家に帰る。

 翌日はそれぞれが思い思いに過ごす。俺とシャーレは午前中に軽くトレーニングと勉強を行う。勉強のときはメリエッタも参加し、算数の課題を出して計算が間違っていないか確認しながら、俺たちはポーションの勉強を行った。

 昼食後は散歩に出る。メリエッタもついてくるということで三人で借家を出る。


「おや、こんにちは」


 椅子に座って、お茶を飲んでいた三十歳ほどの女に声をかけられる。彼女の名前はハイム、この村の錬金術師だ。


「こんにちは、食後のお休みですか」

「ええ。ああ、そうだ。本を貸してくれてありがとうね。私だとこの国の本くらいしか手に入らなくて、よその大陸の技術まで学ぶ機会はなかったのよ」

「ポーション中心ですが役に立ちました?」

「参考になるわ。たしかにポーション中心だけど、少しはほかの薬についても書かれているし、使われている技術は応用できそうだしね。コートレックなんか睡眠時間を削って読み込んでいるのよ」


 コートレックは息子さんだ。今十二歳で母の仕事を継ぐのだと錬金術の勉強を熱心にしているそうだ。


「熱心ですね」

「熱心なのはいいけど、親としてはもう少し遊んでくれてもと思うのよね。楽しそうに勉強しているから止めるのも悪い気がするし」


 楽しそうなら止めづらいわな。


「遊びに誘う友達はいるんです?」

「いるわ。何度か断られると、無理矢理連れ出されるのが日常になっているのよ」


 助かっているわとありがたそうに言う。

 何度断られても再度誘ってくれる友達はいい奴だな。


「ついでに聞くんだけど、洞窟の件どうなったの?」

「怪しい奴らがいて、それはどうにかしたんですけどね。本命に繋がる情報はなかったんですよ。なので明日からまた別の洞窟に行ってきます」

「怪しい奴はいたのね」

「いたんですよ。そこでは最悪の事態といったことになりませんでした。ほっとしてますね」

「本命の方も最悪といったことにならないといいのだけど」

「そのためにはさっさと見つけて止めるのがいいんですけどね」

「私にできることは薬を作ることくらい。必要になったらいつでも言ってね」

「頼りにさせてもらいます」


 ハイムさんと別れて、村の散歩を続行する。


「少し滞在しただけですけど、落ち着く村ですよね」


 周りを見ながらメリエッタが言う。

 シャーレが故郷に似てたりするのかと聞く。


「なんの変哲もないところでしたけど、ここの長閑さは似てるかもしれない」

「落ち着くのは輝星樹が次世代のために整えた環境のおかげでもあるかもしれないね」

「あー、そう言われるとなんとなく住んでる人にとっても良さげな環境な気もしますね。王都で働くんじゃなくて、ここで農作業を手伝うのもありな気がしてきた」

「農作業は体力を使うって聞くよ」

「傭兵として鍛えていましたから、体力は大丈夫かと」


 それならちょっとワシャンさんに聞きに行ってみるかということになり、足をそちらへと向ける。

 家の近くまで行くと洗濯物を取り込んでいるワシャンさんがいた。


「こんにちは」

「あら、こんにちは。なにか御用でしょうか?」


 手に持っていた洗濯物を籠に入れて、背筋を伸ばしこちらを見てくる。霊人と知ってるから敬意があるなー。


「輝星樹様のこととはまったく別のことを聞いてみたくて寄らせてもらいました」

「そうですか。どうぞ中へ」


 ワシャンさんと一緒に屋内に入る。

 人数分のお茶を出したワシャンさんが椅子に座り、なにを聞きたいのかと促してくる。

 用事があるのはメリエッタなので、彼女から聞いてくれと言うとワシャンさんは視線を彼女に向けた。


「初めましてメリエッタと言います」

「初めまして」

「あの、ここって移住者を募集していますか?」


 きりだしたメリエッタに、ワシャンさんは困った表情になる。募集はしていない反応っぽい。


「移住者ですか。たまにそれを望む人はいます。多くの人はここで採れる植物などが目当てで、横流し目的だったり、家族のために目的のものを持ち出そうとしたりなんですが。そのせいで移住者は厳しく制限しているというのが現状なんです」


 そういった人いるだろうな。ここは安全な天然の宝物庫だろうし、比較的楽に持ち出せると思うんだろう。実際は長年の経験でそこらへんしっかりとしてそうだけど。


「ということは飛び入りの私では無理ですね。返答ありがとうございます」

「いえ、そうでもないです」

「え?」

「あなたならば、霊人であるリョウジ様と大精霊の加護を持つクライヴ様の同行者というだけで制限はほとんどクリアです。クライヴ様は聞こえてくる噂と実際に接して言葉を交わしたことから信じられる人だとわかります。リョウジ様は輝星樹様を助けに来てくださった霊人ということで無条件で信用信頼に値します。そのお二人に連れられてきたあなたならば、馬鹿はやらないだろうと信が生じているのです」


 若干メリエッタがひいている。俺も同じ気持ちだよ。


(霊人ってだけで全面的に信じられるとこっちも困るんだけどな!)

(それだけワーミアーズへの信頼が高いのでしょうね)


 霊人って言っても別人なんだから警戒した方がいいと思うんだけど。シャーレたちはこれまでの付き合いがあるから信じてくれているわけで、それに近いものを数日に付き合いで見せられても動揺するんだ。


「さすがに即採用はこちらとしても困るというか、その信に応えられそうにないので、もう少し様子を見てから判断してください」

「わかりました」


 メリエッタからの頼みに、ワシャンさんは頷く。


「そう言うってことはここに移住を決めたってこと?」


 メリエッタは少し考えて頷いた。


「今はトラブルが起きていますけど、それが解決すれば落ち着いた場所に戻ると思います。荒事から離れたいと思った私にはぴったりの場所だと思いますから」

「王都は賑やかですが、もめごとも多そうですからね。あっちよりこちらを選ぶ気持ちはわかります」


 シャーレも王都よりはこっちなのか。故郷も大きなところじゃなかったから、住むとしたらここのような村の方がいいんだろうな。

 腰を据える場所の候補地にしようかね。管理者からあちこち行けって言われるだろうから、ずっとここにいるわけじゃないだろうけど。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔獣教団がいると聞いて 恐れより輝星樹様を苦しめているなんて 許さない、と村人が全員が包丁と鉈持って 魔獣教団に襲いかかりそうな信仰心だったりして、、、、。
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