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縁をもらって東へ西へ  作者: 赤雪トナ
17/224

17 報酬

 シャーレの鍛錬は一度休憩になって、俺の鍛錬が始まる。身体能力でのごり押しができるとわかっているので、俺の鍛錬は体の動かし方以外に判断力や察知能力を鍛える方向になると説明を受ける。

 それに頷くと、今日のところはシャーレと同じく投石を避ける鍛錬が始まった。

 準備ができると色を塗った石とそうでない石を使った鍛錬をやるらしい。それらを次々に投げて、色を塗った石を受け止めて、塗っていない方を避けるという判断力を鍛える鍛錬だ。

 ダイオンには昼前まで俺たちの鍛錬に付き合ってもらい、昼食後はダイオン自身の鍛錬となった。

 ダイオンは病気の間も鍛錬を怠らなかったそうだが、鍛錬の質は下げざるをえず、鈍ってしまっているそうだ。病気前まで鍛え上げたものを取り戻すのだと楽しそうに言っていた。

 こんな感じで鍛錬と休暇で三日を過ごし、四日目の昼食頃に役所から使いがやってきた。


「谷の調査が終わりましたので、同行願えますでしょうか」

「安全になっていただろう?」


 ダイオンがそう聞くと頷きが返ってくる。

 ようやく解決した問題に役所もほかのところも湧いているらしい。一時間くらい前に邪魔な岩をどかす作業員を派遣したとのことだ。

 使いと一緒に役所に入り、そのまま応接室に案内される。

 そこで十分ほど待っていると、二人の男たちが入ってきた。


「どうもお待たせしました。所長を務めております、ハンダートと申します。こちらは事務の長です。このたびは町の問題を解決していただきまことにありがとうございます」


 こっちも名乗り返して互いに向かい合って座る。


「確認作業が遅れて申し訳ありません。精霊の仕業と思っていたところに魔獣なんてものがでてきて、どうしても慎重にならざるをえず」

「魔獣関連はどうしても大事になるというのはわかります」


 ダイオンが答えて、所長は頷いた。


「魔獣に関して疑う者もいまして。谷に大きな魔物がいることは確認できていましたが、それが魔獣ならすでに被害がでているはずだと」

「でしょうね。ですが魔獣ではなく魔物だとしてもあの大きさならば問題でしたでしょう?」

「はい。そこは間違いありません。暴れていたら谷が完全に潰れていた可能性もありえて、物流にどれだけ被害がでたことか」


 そうならずにすんでよかったと所長と事務の長が安堵の溜息を吐いた。

 あそこが使えなくなったら、この町が寂れる可能性もあるもんなぁ。


「ですが魔物もしくは魔獣は去り、風の異変もなくなりました。あなた方以外にあの日のうちに解決の報告をしてきた人や詳細を報告してきた人がいないことから、私どもはあなた方が解決したと受け入れました。こたびは本当にありがとうございました」


 所長たちが頭を下げて、報酬の話になる。


「かなりの大事だったため、報酬もそれに見合うものになります。どのようなものがふさわしいか判断がつきかねているところでして。なにか欲するものがあれば仰ってください。物でなくとも、貴族に紹介といったことや町に家を持ちたいといったことでも問題ありません」

「リョウジ、なにかあるかい」


 ダイオンに聞かれて深く考えずに口を開く。


「家や貴族への紹介はなしで。お金くらいしか思いつかないかな? ああ、馬車が欲しいなとは思ってたけど」

「馬車を報酬にすることは可能だろうか?」


 ダイオンの問いかけに所長は事務の長を見る。

 

「役所所有の馬車譲渡は難しいですが、馬車の購入代金を渡すというのは可能です」


 事務の長が答える。

 それでいいんじゃないかな。今すぐほしいというわけでもないしね。

 俺が頷くと、ダイオンが事務の長と交渉し、納得できるだけの報酬を得たらしい。馬車の価格は知らないから、金額を教えてもらってもわからないんだよ。民間用の品質の良い馬車を買えるだけの金額だそうだ。

 谷は歩きなら通り抜けられるということなので、明日出発することにした。谷を抜けて次の村か町に着く頃に大精霊からお礼が届くって感じかな。

 事務の長から輝金硬貨七枚を受け取って、役所から出る。もらったお金は、こちらの一般家庭が二年と少し働かずに暮らせるくらいの額だ。

 ダイオンが馬車のお金を渡そうとしてきたけど、スリにあったら対処できないんでそのまま持ってもらった。宿に戻りながら出発のための準備を整えて、宿に戻ると渡されたお金をリュックの内ポケットにしまう。

 

 翌日、朝食を食べて町を出る。この時期ならば朝に出発し谷を通れば、歩きでも日暮れ直前くらいには谷向こうの村に到着できると教えてもらった。

 俺たちと同じように歩きで谷を通る人は何人かいた。

 谷では泊まり込みの作業員が岩の排除を頑張っていた。そして戦闘した場所には霊獣の姿はなく、精霊の姿もなかった。

 ダイオンが言うには、馬車が通れるようになるには三日くらいだそうだ。とりあえず馬車が通ることだけを考えるため、小石などを踏んで揺れがひどいことになるだろうとも言っていた。割れ物を積んだ馬車は要注意だな。

 魔物との戦闘や落石などなく谷を抜ける頃には日はずいぶんと傾いていた。


「少し急ぎ気味だったけど、シャーレ大丈夫か? きついようなら抱っこして進むけど」

「だ、大丈夫です」


 疲れてはいるようだけど、自身の足で動けないほどでもないようだ。


「村は遠目にだけど見えてるし、そこまで頑張って」

「はい」


 きついようならキャリーバッグを受け取ろうとも思ったけどなんとか大丈夫そうだ。

 ペースを少しだけ落として村を目指し、予定通り日が暮れる前に村に到着した。

 宿を取り、二十分ばかり休憩してから食堂に向かうことにする。

 宿には食堂はなかったので、村の食堂兼酒場で夕食をとる。聞こえてくる話し声だと、数日前に魔獣が谷にいると情報が入っていて村人は慌てたらしい。谷の異常はこの村でも把握していたため、嘘と切って捨てることはせず、とりあえず村にいた傭兵に大金を払って様子を見に行ってもらった。何事もないようにと祈って傭兵の帰りを待ち、報告を受けた村人は風はやんでいるし、魔物もいないということで安堵はしたものの、なにがなんだかわからず、情報提供した人が大げさに話したと結論付けた。

 嘘じゃないのに、そんな感じになった奴らは少し哀れだな。というか情報を提供した奴らってあの同行者たちだろうな。今後ここを通るときは肩身の狭い思いをするかもしれない。

 夕食を終えて、少しだけ酒を飲んでここら一帯の情報を集めておくというダイオンをおいて、シャーレと宿に帰る。

 シャーレは疲れからか動きが若干鈍い。また倒れては大変なので、早めに寝かせることにした。

 シャーレが着替えてベッドに腰掛けたときに、開けた窓から強めの風が入ってくる。その風は部屋の中で集まり透明な人の形となった。


『約束のお礼を持って来たわよ』


 俺へとゆっくり飛んできた青く透き通った指輪を受け取る。


「ありがと。霊獣は元気になった?」

『ええ、完全復活とまではいかないけどいつもの七割くらいには調子を戻しているわ。見つけた小さな湖の底でのんびりしている。元の住処に戻る頃には今回の影響もなくなっているでしょう。彼もお礼を言っていた』

「そりゃよかった」

『遊びに来たら歓迎するとも言っていたから、いつか行ってあげて』

「そう言われても場所を知らないから」


 精霊が住処の特徴を教えてくれる。北部で一番大きな湖ということと近くにパッジーナという町があるらしい。行く機会があるかはわからないけど、行ったら寄るのもいいかな。

 用件はすんだということで精霊は風となって窓から出ていった。


「お礼をもらったから普段から身に着けるといい」


 シャーレに渡して、シャーレが指にはめるところを見る。しかしサイズが大きいようで、指にはめても落ちてしまいそうだ。

 指に合うようになるまでは革紐でネックレスにすることにして、今はメイド服のポケットにしまう。

 目を閉じたシャーレの邪魔にならないよう、手元だけに魔法の明かりをつけて何度も読んだ本を開く。気に入っているわけではないけど、今暇を潰せるのはこれくらいしかない。大きな町ならともかく、こういった村で日が暮れて歩き回っても面白くもないし、不審者に間違われる可能性もある。

 本を読み終わる頃にダイオンが帰ってくる。シャーレが寝ていると考えたのか、静かに扉を開けて入ってきた。

 そのまま寝るということで、俺も明かりを消してベッドに横になる。

 朝になり、昨日の疲れを残していないシャーレに起こされた。

 今日の予定を聞かれたので、午前中に買い物をすませて、村を出ると答える。もう少し大きな町で路銀を稼ぎたいんで、目的地はそこだ。一応まだ懐に余裕はあるんだけど、だからといって遊び惚けることが可能な金額でもない。いざとなったら馬車のお金を崩せばいいけど、それは最後にしておきたい。一度それをやるとまた次もいいよねとやってしまいそうなのだ。

 朝食後に荷物をまとめて、三人で買い物をすませて村をでる。目指す町の情報はダイオンが仕入れてきていたので、ナビゲートは任せている。

 忘れずに革紐も買ってあり、精霊からもらった指輪はシャーレの服の下で揺れていた。

 指輪を手に入れたことで、シャーレの火魔法使用を解禁し、昼食を作るとき使ってもらった。


「きゃあ!?」


 集めた枯れ葉や枯れ枝に火をつけようとして、大きな炎が生じた。

 シャーレが驚いた様子で尻もちをついている。

 もしかして加減が難しいのか?


「火傷してない?」


 すぐに冷やせるように水魔法の準備をしつつ聞く。シャーレは大丈夫だと答えた。


「いつもどおりに使ったら思った以上に大きな火が出て、驚いてしまいました」

「やっぱり加減がきかなかったのか。体調はどう? 霊水の効果を超えたりしていない?」

「大丈夫です。特になんともありません」


 奴隷の印に変化はないから本当のことだな。

 再度シャーレが魔法を使うと、今度は小さな火が出て枯れ葉を燃やす。そのまま調理を進めていった。


「一度大丈夫な範囲で、最大威力の火魔法を使ってもらった方がいいな。町で荒事に巻き込まれて大火事を引き起こすようなことにならないために」


 ダイオンの提案に賛成だ。そんな事態になれば相手が悪くとも、火事を起こしたこっちが責められかねない。事前の確認はしておいた方がいい。昼食後に移動しながら、火事にならないような開けた場所を探そう。

 そして燃え移るようなものがない開けた場所を見つけて、そこで実験を行う。

 家事で使える以外の火魔法を知らないということで、俺が手本として使ってみせる。


「レーメ。爆ぜろ焔」


 手を向けた五メートル先でドラム缶を飲み込む大きさの炎が生じて消えた。地面にはうっすらと焦げた跡が残る。


「こんな感じ。もう一度か二度くらいやってみせようか」

「大丈夫です」


 シャーレは両手を突き出して、真剣な表情で火魔法を使う。

 俺は不測の事態に備えて、いつでも水の壁を出せるように身構えている。


「レーメ。爆ぜろ炎」


 俺が使った魔法と同じくらいの位置に炎が生じる。だがその大きさは俺が使ったもの以上だ。熱風が俺たちの間を吹き抜けていった。


「今のが大丈夫な範囲での最大?」


 聞いてみるとシャーレは首を振る。威力を大きくしようとは思ったが、それでも最大まではいかなかったそうだ。どれだけの威力になるかわからないから、抑え気味になったらしい。

 もう一度使ってもらうと、仮設トイレ二つくらいを飲み込めるくらいの大きな炎が生じた。


「たぶんこれが大丈夫な範囲での最大だと思います」

「あの魔法はそれほど威力の高いものではない。でもシャーレが使うとあの威力だ。制御が上達するまで、高威力の火魔法は習得しない方がいいな」


 それがいいね。体調を無視すれば、あの魔法でももっと威力があがるんだろう? 高威力の火魔法だとどれくらいになるのか。使い場所を間違えたら大惨事だ。

 そもそも習得する予定もないんだけどね。それが必要とされる場所に行くつもりなんてないから。

 周囲に火の粉が飛び散っていないか確認してから、シャーレの体調の確認もして、その場を移動する。

 指輪はきちんと効果を発揮して、シャーレの体調に変化はなかった。

感想と誤字報告ありがとうございます

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