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縁をもらって東へ西へ  作者: 赤雪トナ
168/224

168 大精霊の森までのこまごまとしたこと

 大会自体は大きな問題なく終わり、集まっていた客たちはそれぞれの村や町に帰っていく。

 町から人がいっきに減って静かになり、それが寂しさすら感じさせる。

 バノイたちは今回の問題で落ち着く暇がなかったということで、もう少しここに滞在しのんびりすることにしたそうだ。

 オリンズもメリエッタも大会の翌日には無事に目を覚ました。メリエッタの無事を喜んで、自分のせいで誘拐されたことを謝ったらしい。

 メリエッタは複雑そうだったけど許した。でもまた巻き込まれるかもと思うと、オリンズの近くや傭兵団にもいる気はせず、その日のうちに脱退をバノイとオリンズに告げたそうだ。

 大怪我やら誘拐で心折れたことは、バノイたちも理解できて、承諾した。

 ということを今馬車に揺られながらメリエッタ本人から聞いている。

 今メリエッタは俺たちと一緒に移動しているのだ。

 なんでこうなったかというと、前日のことになる。


 大会も終わったし、三箇日も終わる。移動を考えないとなと思っていると、クライブがやってきた。忙しかったんだろう、疲労が顔に現れている。


「やあ、おはよう」


 疲れはあるけど、相手を不快にさせないためか笑顔で挨拶してくる。


「おはようございます。疲れた感じだけど、大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。大会は終わったし、尋問も終わったから、忙しいのは今日までだから。これでしばらくのんびりできるよ。息子との再会が待ち遠しい」

「大変だっただろうし、ゆっくりしてくださいな。それでなにか用事があって来たの?」

「この町を出発するから、大精霊の森についてくるか聞きにきたんだ」


 あー、考えてなかった。良い予感はかわらずにある。精霊を預けたいし行くかな。

 そう考えていると、シャーレにちょいちょいと突かれた。


「どうした?」

「メリエッタが来ています」


 シャーレが指差す方向に、メリエッタが戸惑った感じで立ち尽くしていた。俺たちが見ていることに気づくと、頭を下げる。

 それにクライヴも気づいた。


「お客さんかな」


 クライヴがメリエッタに手招きして、先に用件を告げるよう勧める。


「いいのでしょうか? クライヴ様が先に話していたのに」

「気にしなくていいよ。俺の用事はすぐにすむし」


 メリエッタが困ったようにこちらを見てくる。


「本人がいいと言っているんだし、問題ないと思うよ」

「……では失礼して。改めてお礼に来ました。助けてくれてありがとうございます。誘拐されて不安しかなくて、二人が来てくれたときはすっごく嬉しかったです」


 クライヴが誘拐?と首を傾げる。

 メリエッタにあったことが、彼女自身の口から話されて、クライヴはそんなことが起きていたのかと驚いた。


「言ってくれれば俺も力になったのに」


 クライヴならそう言うだろうな。


「いや忙しそうだったし、それに大きく動くと誘拐犯がどんな行動を起こすかわからなかったから」

「……そうか。誘拐犯はどうなったんだい」

「わからない」


 リリンデにも話したことをクライヴに話すと、彼も魔物を操るということを重視した。

 女王陛下にそういった奴がいると伝えておくと言い、メリエッタを見る。


「誘拐のときに力になれなかった詫びというわけではないが、なにが困ったことがあれば力になるよ。なにかあるかな」

「いえ、その」


 とんでもないと両手を振って下がる。


「遠慮しなくていいんじゃない? 傭兵をやめるかもとか言っていたらしいし、働き先を紹介してもらうとかどうよ」

「店とかの紹介ならできるよ。なにができるかでどういった職を紹介するかはかわるけど」

「い、いきなり言われても」

「だったら一緒に王都に行くかい? 紹介するならそこの職になるし、それまでに考えて別のなにかやりたいことがあれば、それができるところまで送ろう」


 少し考え込んだメリエッタは頷いた。


「故郷に戻ってもあまりいい顔はされませんから、王都でどうにかしたいと思います」

「なにか故郷で問題でも?」

「食い扶持を減らすために家を出たので、帰ったところで歓迎されません」

「そうか。出発は明日だから準備するようにね。リョウジ君、移動の間は彼女を預かってもらえるかな。俺と一緒に行動すると緊張しそうだからね」


 シャーレたちにどうすると確認してみると、いいんじゃないかという反応だった。


 こういうわけでメリエッタが一緒にいるのだった。

 出発のときはバノイたちがメリエッタと一緒にやってきて、俺たちやクライヴによろしく頼むと頭を下げた。

 それに対しクライヴはしっかりと頷いて「悪いようにはしない、約束する」と答え、敬意の篭った視線を受けていた。

 町を出て大精霊のいる森へと移動する間、メリエッタは寝ている精霊を珍しそうに見たり、シャーレの手伝いをしたり、勉強したり、ゲームの相手になってもらったりして過ごしていた。

 勉強は、雑談で読み書き計算に自信がないということがわかり、働くならそこらを覚えて損はないということでダイオンが教師として教えていた。

 メリエッタ以外にも、騎士や兵とも少しは話したりした。

 仲良く話したというよりは、クライヴに迷惑をかけないように釘を刺されたのだ。クライヴは良い人だから、いろいろと頼る人がいる。それらにできるだけ応えようとするから忙しいんだそうだ。そんな人たちの中には利用して甘い汁を吸おうとする人もいるらしく、余計なトラブルが生じることもある。その対処にさらに忙しくなり、家族で過ごす時間が削れるということになっている。騎士たちとしてはクライヴのリラックスできる時間が削れることを良く思っていないので、俺たちに一言言っておこうということになったらしい。

 部下に好かれてるなぁ。本人が良い人だから、周囲も気遣って動くんだろう。一年以上前の俺だったら、シャーレをクライヴに預けようと考えたかもしれない。きっと悪いようにしないだろうから。王族だから霊水の調達も比較的容易だろうし。

 

 道中、問題なく進んで、大精霊の森が見える村に到着する。といきたかったけど、二つ大きいとはいえないけどアクシデントがあった。

 一つはメリエッタが恥ずかしがって、それが普通の反応だと俺たちがズレを認識したことだ。

 着替えの際に、シャーレたちと一緒に着替えていて、メリエッタが恥ずかしそうにしていたことで、俺とダイオンがああっと気づいて馬車から出たのだ。


「あれが普通の反応だって忘れかけていたよ」


 メリエッタもそこらへんの感覚が雑になるのは、傭兵団で経験があるそうで仕方ないと言っていた。


「そうだな。シャーレもイリーナも平気な顔で着替えて今更恥ずかしがることはないし、その感覚で一緒に着替えようとしていたな」


 いかんいかんとダイオンが頬をかきつつ、反省した様子を見せている。

 メリエッタがいる間はきちんと配慮しようと二人で話したというのが、一つ目の小さなアクシデントだ。

 もう一つは鈴蘭の魔物が遺した種に関してだ。

 御者がダイオンで、イリーナはジョギングのため外にいたときのことだ。メリエッタの手も借りて車内の掃除をしていたとき、種を入れていたガラス瓶が不自然に揺れた。馬車自体が揺れたわけでもなく、ガラス瓶が置かれている棚に触れたわけでもない。

 ガラス瓶の揺れに気づいたシャーレが俺を呼ぶ。


「主様、種の様子が」


 その声につられるようにメリエッタもガラス瓶を見る。

 種が砕けて、不透明な琥珀色の液体で瓶が満たされていた。細かな殻の残骸が浮かんでいる。


「腐ったか?」

「どうなんでしょう。捨てましょうか」

「……この状態でもなんらかの薬の素材として使えるかもしれないし、捨てるのはまだ早いかな」


 錬金術師に鑑定してもらってから捨てるかどうか判断しようと、掃除を続ける。そして一時間もせずに掃除が終わり、メリエッタが首を傾げていた。


「あの、ガラス瓶の中身がちょっと変化しているんですけど」

「どれどれ」


 シャーレと一緒にガラス瓶を見てみると、液体の透明度がましていた。それでも半透明といった感じではあるんだけど。

 その液体の中に一センチくらいの塊の影が見えている。かわりに液体の中を漂っていた、砕けた殻がなくなっている。


「んー? なんからの変化が起きているのはたしかだけど、なにが起こっているのかさっぱりだな」


 わかるかとローズリットに心の中で尋ねてみると、わからないという返事があった。ローズリットも初めて見る現象なのか。

 いくつかあった種がこのままでは素材になるだけだと判断し、それぞれの種に残る力を一つにしようと動いた。そんなことを考えてみるけど、なんの根拠もないしな。

 俺たちにわかったことは、村に到着するまでに液体が少し減ったこと、影が少し大きくなったことだけだった。


 到着した村は割と最近大きくなったようで、建物や外壁に汚れが少ない。メリエッタが言うには、吟遊詩人の詩や大精霊という存在が近くにいることで知名度を上げて、ここに移り住んでくる人が多かったそうだ。

 クライヴが到着したと知ると、村人たちは歓声を上げて迎えた。

 クライヴと護衛は村長に挨拶に行くということで彼らと別れる。今日のところは挨拶などで時間が潰れるそうだ。明日は朝に森がある方の門で待ち合わせになった。

 俺たちは宿をとって明日の朝まで自由時間だ。細々としたものの補充ついでに、村の観光で歩き回る。

 少し歩き回ってみると、そこらを歩いている傭兵から加護がほしいという発言が聞けた。クライヴがいるなら一緒に森に行ったら加護がもらえるかもしれないとも聞こえてきた。

 ああいった声を聞いて、メリエッタがぽつりと漏らす。


「加護があれば、ラディアートや誘拐犯に抵抗できたんでしょうか」

「それほど加護は便利じゃないよ。魔法に関して便利にしてくれるだけで、勘が良くなるといった効果はないし」

「そうなんですか?」

「加護があるからなんでもどうにかなるのではなく、加護をもらってからどれだけ努力したかだな。クライヴ殿も加護を得て努力したと思うぞ」

「それに加護なしでも強い人は強いわよ」


 俺の説明にダイオンとイリーナが付け加えた。


「努力不足ということなんでしょうか」

「どちらの遭遇も事故みたいなものでしょうし、努力不足というわけではないと思います。さぼってたりしていたなら、オリンズさんたちと一緒に一人前への昇格試験に参加できなかったでしょうし」


 シャーレに事故と言われて、メリエッタはしみじみと「事故かぁ」と呟く。

 運が悪かったと言えてしまうんだよな。死ななかっただけ悪運は強かったとも言える。

 その悪運を信じて傭兵を続けたら、サバイバル能力に優れた傭兵になれたかもしれない。

 辞めることを決めた今は関係ないことだろうけど。

感想と誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 厄介事がダース単位で押し寄せて来るリョウジ 達に比べたら魔獣の1人や2人はちょっとした事故。 さて、大精霊はリョウジ達に気付くだろうけど、 どんな反応だろうか、、、。
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