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縁をもらって東へ西へ  作者: 赤雪トナ
145/224

145 出発と出航

 報酬の話などが終わって、時間が流れた。雪がちらつくけど、積もるほどでもない、寒さが増し始めた時期になる。

 今日までにショアリーは話し合いを終えて、仲間の待つ国境へと去って行った。ポーション作りの準備は整えておくから、再会を楽しみにしているというのが別れの挨拶だった。

 寝たきりの副団長は少しだけ状態が改善している。ダイオンから副団長の話を聞いて、ローズリットにどうにかできないかと聞いてみたところ、少しはましにできるかもということで副団長に会いに行ったのだ。ローズリットが一瞬姿を現し、副団長の額に触れると虚ろな副団長の目に光が宿った。動きは鈍ったままで寝起きするのがやっとだ。騎士としてはもう働けないが、それでも受け答えができるようになる。そういった状態でもフロスたちにとっては嬉しかったようで、ローズリットがとても感謝されていた。

 さらに医者によるダイオンの診察も終わり、安静にしているなら旅をしても大丈夫だとお墨付きをもらう。これによってダイオンとイリーナもスフェルノ大陸行きが決定した。

 雪が積もらないうちにと一回目の分割払い報酬を使って旅支度を整える。ちなみに宝物庫の方は特に欲しいものはなかった。獣胎母戦の褒美でダイオンがもらった、ダメージ身代わりのプレートがあればほしかったけど、ここにはなかった。


 準備が整い、出発するということで、馬車を置いている牧場までコードルたちが見送りに来る。コードルとシバニアは都市の騎士と示すマントを身に着けている。


「本当にいろいろと世話になった。最初会ったときはここまで助けてもらうことになるとは思ってなかった」

「俺もここまで関わり合いになるとは想像もしてなかったよ」


 辺境伯の町で別れておしまい、そうなってもおかしくなかったしな。

 そう言うとコードルも頷いた。


「なにか困ったことがあったら頼ってくれ。必ず力になる。それだけの恩を受けた」

「そんなことにならないのが一番だけどね」


 そう返すとシバニアが笑う。


「お父さんのことありがとう。何度お礼を言っても言い足りない。お父さんもお母さんも感謝していたわ」

「ローズリットにそう伝えておくよ。ご両親を大事にね」

「ええ、無事にまた暮らせるんですもの、必ず大事にするわ」


 フロスの家を訪ねたときの憔悴した顔はなく、見慣れたいつものフロスが力強く頷く。


「ダイオンにあまり無理させないようにな。なにもなくていいから、近くに来たら会いに来てくれ。それから……良い旅を」


 別れを惜しむようにコードルは言い、シバニアたちも元気でと告げてくる。

 話すこともなくなり、出発することにした。無理をさせられないダイオンは馬車の中へ、イリーナが御者台に乗り、マプルイに合図を送る。

 開け放した後部ドアから見えるコードルたちは、都市から離れて行く俺たちをいつまでも見送っていた。

 やがて都市も遠くに小さくなって後部ドアを閉める。


「さてとダイオン、試してみたいことがあるから足を出して」

「なにをしたいんだ?」

「空間魔法で怪我したところを固定して、動きやすくなるようにできるかなって」


 イメージ的には隙間なくぴったりとくっつく透明なギプスだ。


「おお? そうすれば鍛錬とかできるか?」

「まだわからないね。とりあえずは日常生活に困らないようにって思ってるんだけど」


 出された足首はテーピングで固定された状態だ。

 脛の半分から足の指先までを覆う感じで固定する。


「どう? 使ってみたけど」

「ピクリとも動かないな。あのままだと常に動かさないようにって意識してないと駄目だったんだが、今は意識しなくていいから楽だ。それだけでも使ってもらえる価値があるな。よいしょっと」


 ダイオンは立ち上がる。軽く体を動かしていく。跳ねると少しだけ顔を顰めたかな。


「普通に歩く分には問題なさそうだ。走ったり跳ねたりしたら、その振動が骨折部分にまで響く。だが無理をすれば激しく動けるってことだ」

「いや無理はしちゃだめでしょ」


 シャーレも頷き、小窓の向こうからイリーナも駄目だと言ってくる。


「俺もやる気はないが、どこまで動けるのか知っておかないとな。これならゆっくりとしたトレーニングならやれるから、鈍った体を鍛え直すことからやるかね」


 早速腕立てだと嬉々としてトレーニングをやり始める。

 やりすぎは駄目だからねとイリーナが注意してきて、ダイオンはわかっていると返す。

 ダイオン自身無理は禁物ときちんと理解しているようで、こちらが止める必要もなくこまめに休んでトレーニングをしていた。


 ヒューマの都市を出発し、魔物をいつもより多く狩りながら北上する。兵が魔物討伐を再開したそうだけど、放置していた時期が長かったからまだまだ魔物は多くみかけて、探す手間もなかった。

 狩ったものの売却はどこでも喜ばれた。激しい吹雪で動けないときのため保存食に加工するんだそうだ。皮も防寒具として使える。

 際限なく買ってくれるのは、こちらとしても懐が温かくなってありがたい。この稼ぎだけで船賃は稼げただろうとダイオンが言っていた。

 野営もたまにやって、そのときにはイリーナが調理の手伝いをしていた。味付けはまだ任されず、切り方や焼き加減などをシャーレに教わっていた。切り方は手慣れた感じだったけど、焼き加減は要練習だとシャーレが言う。

 そんな感じで少し急ぎ足で進み、出発時はちらついていた雪も、近頃は積もり始めて、かなり寒くなってきた。

 もうすぐそこに本格的な冬が迫っていると感じた頃、俺たちはスフェルノ大陸へと船の出る港町に到着する。

 以前行った漁港とは規模が違う大きさの町だ。魔獣関連が落ち着き始めたヒューマ都市よりも活気が感じられた。交易の中心地だろうし、栄えていて当然か。

 馬車を預けて、町に入る。まずは船の予約を取ろうということで、管理している事務所に向かう。そこにはイリーナが案内してくれた。ダイオンを探すため大陸を渡ったときにこの町を使ったんだそうだ。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか」


 受付にいる男が前に立つイリーナに聞く。


「スフェルノ大陸行きに四人で乗船。馬車があって、四人部屋でお願い。部屋は一般的な中で上等な方で」

「少々お待ちください」


 男は手元のファイルを開いて、イリーナが言った条件にあてはまるものを探していく。


「三日後と四日後に出発する船で条件に当てはまるものがありますね。そのほかだと八日後になります」

「どうしよっか?」

「三日後でいいと思うが」


 船に乗ったことのあるダイオンが言い、イリーナに確認の視線を向けると異論はないようで頷く。


「じゃあ三日後で」


 そういうことになったとイリーナが男に告げる。

 砂船のときと違い、水魔法がどうとかは話題にでないし、それ関連で割引はされないんだろうな。と思ったけど、割引はあったらしい。


「傭兵でしたら、船旅の間に海の魔物と戦う契約をすれば割引がききますが、いかがなさいますか」

「私は契約なしでいいと思うけど」

「そうだな」


 狩りで十分にお金を稼いでいるから割引しなくていいだろうとダイオンとイリーナが言う。

 俺とシャーレもそれでいいと頷くと、契約なしでの乗船賃を男が告げる。

 一家族が三ヶ月にかける生活費と同じくらいのお金を求められ、イリーナとダイオンは特に不平不満を感じさせず、当たり前の顔で頷く。

 イリーナが乗船賃をカウンターに置いて、男は書類を作りながらなにか質問があるか聞いてくる。


「ここから大陸までどれくらい日数がかかるんです?」

「だいたい一ヶ月、風に恵まれれば五日ほど短縮と考えてください」

「乗る船はどれくらいの大きさなんでしょう」

「ええと、中型の客船で船員は五十人、客百人ほどだったかと。荷物も少しばかり運びますが、人を乗せて運ぶことがメインですね。そういう船ですから、船旅の間暇にならないよう施設が整えられていますし、楽師なども乗っています」

「あとほかには……進む予定の航路に海賊とかでたりします?」

「……以前は被害にあった船もありますね。今回どうなのかはさすがにわかりません」


 相手の動きを把握できてたらかなりの事情通か、海賊のスパイを疑うよね。

 ほかにはどこかの島で停泊するのかといった質問を終えて、書類をもらって事務所を出る。

 やらなくちゃいけないことは終わらせたし、宿をとって、ダイオンを医者に連れて行くか。


 乗船までの三日間は、狩りで路銀の補充をしたり、買い物をしたり、向かう先のワンキー国について調べたりして過ごした。

 ワンキーがヒューマ中心というのは、すでにわかっていることだったので、気候や地形や事件などについて調べた。

 気候はステップ気候に近いものだそうで、農業と牧畜が主産業というこっちのパーレ国みたいな国だ。王国であり、王がしっかりと権力を握って統治しているらしい。五年前に王が交代して、そのときはひと悶着あったけど、今は落ち着いているという。世継ぎも生まれて、順調に国家運営がなされているということだった。

 特徴としては大精霊の加護を受けた人が家臣としていて、その活躍が吟遊詩人に歌われているそうな。大精霊の加護を受ける人っているところにはいるもんだな。

 人気のある詩は、大精霊と出会って加護を受ける始まりの詩と呼ばれるもの。そんな大げさに語ることなんてあったかと、経験者は思うのだけど。俺は礼として加護をもらって、シャーレも似たようなものだ。いやシャーレに似た感じなら盛り上がるかな。大精霊の困りごとを解決しての礼だしな。俺は伝達した礼だからなぁ。

 そうして乗船する日が来て、馬車ごと船に乗る。


「シャーレ、どんな感じ?」

「故郷にいたときほどじゃないですけど、体が重くて感覚も鈍ってます」


 俺みたいに気分が悪くならないのは朗報だ。これから一ヶ月ずっと気分が悪いままというのはさすがに辛すぎる。


「あとで着替えような」

「……はい」


 戦闘用のメイド服なので、その重さは制限がかかっている現状辛かろうと提案すると、少しだけ渋った感じで了承する。防具としてのシャツとスパッツがあるんだから、渋らなくてもいいと思うんだけど。

 ウマなどを厩舎に動かせるまで待つようにと船員が指示を出してくる。

 ほかには戦闘契約をしている傭兵は出港後に甲板に集まるようにと指示を出していた。

 十五分くらい待つと、マプルイを移動させることができて、荷物を持って部屋に向かう。

 あてがわれた部屋は砂船のときの部屋より広かった。二段ベッドが二つということは同じだけど、小さいながらも窓があり、そこに格子はない。四人分の椅子とテーブルもある。ベッドの質もシャーレによると砂船のときよりは良いものだそうだ。

 着替えなどをクローゼットにしまい、暇つぶしに持ってきたものなどを部屋の隅に置く。そうしているとカーンカーンと鐘が鳴るのが聞こえて、船が動き出す。

 ダイオンは今日の分のトレーニングを始め、それにイリーナも付き合う。シャーレはささっと通常のメイド服に着替えたあと、気になる汚れを見つけたらしく雑巾でふきはじめた。

 俺は甲板に行こうかなと思ったけど、傭兵たちの話し合いの邪魔になるかもと思い直し、ローズリットと魔法勉強を始める。

 一時間を過ぎて、簡単な掃除を終えたシャーレと一緒に探索に出る。ダイオンたちはトレーニングを続けるそうだ。

感想ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 大精霊の加護の所有者と初面談。 相手はどんな奴かな? その前に海賊イベントかも、、、 イリーナのストレス発散相手に丁度いい。
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