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縁をもらって東へ西へ  作者: 赤雪トナ
144/224

144 都市の長との話

 子供姿のショアリーを少しだけ驚いた顔で見たヘブーゼ様は、表情を引き締めて頭を下げる。コードルたちにショアリーのことを聞いていたんだろう。


「お初にお目にかかる。ヤラハンにある故郷から派遣された錬金術師たちのまとめ役ショアリーと申す」

「遠くから支援に来てくださり、ありがたく思っています。私はこの都市で文官を勤めているヘブーゼと申します」


 二人は軽い挨拶をして、俺たちにも話をふってくる。

 それによると明日城で都市の長を交えて話し合いたいということらしい。


「俺はあまりそういった場では役に立たないのですが」

「ああ、コードルたちから聞いている。だから怪我人を動かすのは申し訳ないが、ダイオン殿も話し合いの場に参加してもらうつもりだ」


 それはありがたいけど、ダイオンは大丈夫かな。いや本人は毎日ベッドからあまり動けず暇だと言っていたけど。

 かと言ってシャーレに任せるのはな。奴隷だから話し合いにまでは参加できないとか決まりがありそうだ。イリーナもそういった場は得意ではなさそうだし、今回は敵側だったしあまり強い主張はできなさそうだ。敵側って言うなら都市の長たちもそうだったから、あまり関係ないか?

 たまには医務室以外の風景を見られるってことで、気分転換になると思っておこうか。

 話し合いの前準備といった夕食の最後に、船旅や冬の移動についてヘブーゼ様に聞く。


「スフェルノ大陸に向かうのか」

「はい。それで冬が本格化する前に移動したいけどできるのか、船の乗船費はいくらくらいなのかといったこと教えていただきたいのです」

「冬の移動はたしかに大変なものがあるからな。大陸行きの船に乗ろうと思ったら、十五日後にはここを発った方がいい。その時期には雪が降り始めている。気温もどんどん下がっていくぞ」


 十五日後はだいたい十一月に入ったくらいか。北海道辺りと似たような感じで雪が降るのかねぇ。ロシアよりもましな寒さなのかもしれない。

 それに十五日後なら、ダイオンが移動できるかどうか結果がでてるな。それまでに出発しようか。


「船賃に関してはどうだったか……三つにわけられたはずだ。金持ち部屋、一般的な部屋、雑魚寝部屋。こんな感じだろう」


 金持ち部屋はちょっと手を出しづらい金額だった。雑魚寝部屋はシャーレをそんなところで寝かせたくないからなしで。とるのは一般的な部屋になるだろう。

 一般的な部屋でもお金を少し多めに出せば、十分すごしやすそうな部屋を使うことができそうだった。港に着くまでにちょっと気合を入れて、魔物を狩ろうかな。

 魔獣討伐の報酬をお金でもらえるなら、なにも問題なさそうなんだけど、ここも再建にいろいろと入用っぽくてなぁ。聞いてみるか。


「魔獣討伐の報酬ってもらえるんでしょうか」

「もちろん。さすがにそこを渋る気はないし、渋ってはいけないところだろう」

「でもあちこちから力を借りているから、そのお返しで財政が厳しいことになっていますよね」

「それは否定できないな。称号の全土通達や地位を報酬として渡せるのなら、こちらとしては助かるのだが」

「俺個人としてはそれをもらってもどうしようもないので、ダイオンと相談の上でですかね」


 乗り気ではない俺の様子を見て、ヘブーゼ様は小さく溜息を吐く。

 申し訳ないが、成り上がりとかには興味ないんだ。


「希望を聞いておきたい」

「お金か物ですね」

「両方とも厳しいな。魔獣討伐など途方もないことだ。それに対し金銭で報いるとなると大金を渡さなければならぬ。品物でも報酬に値するものを宝物庫から多く放出することになる。今回宝物庫からいくらか売り払い、財政を補填しようということになっていてな」

「一括じゃなくて分割でどうでしょう。五年十年かけて渡すといったことでもこちらとしては問題ありませんよ」

「それでいいなら、今のところそれが最有力候補だな」

「宝物庫の目録も見せてください。旅や狩りで役立つものがあるかもしれませんし」

「わかった。準備するように伝えておく」


 要望を伝えて、解散になる。

 ヘブーゼ様が頭痛でもしてそうな表情で部屋に戻っていくのが印象的だった。俺の思っている以上に財政状態は厳しいのかねぇ。

 そして翌朝、朝食後にヘブーゼ様と一緒に登城する。

 ショアリーが二十歳半ばの成人女性としての姿をとっていて、ヘブーゼ様が驚いていた。

 なぜその姿をとっているのかと聞いたら、代表として都市の長に会うのならこちらの方がスムーズに話が進むだろうということだった。

 城に入っていっきに顔色を悪くした俺を見て、ヘブーゼ様はまた驚いたように目を見開いていた。


「話には聞いていたが、そこまでいっきに変化するものなのだな」

「どうもこういった場所とは相性が悪くて」


 それでもアッツェンの宮殿で初めて気分が悪くなったときよりはましだ。あのときは不意打ちを受けたような形で、話すことも困難だったから。あらかじめ気分が悪くなるとわかっていれば、耐えようと身構えて消耗もましになる。

 シャーレに支えられながら会議室に入ると、体に負担をかけないためか座り心地のよさげな椅子に座ったダイオンがいた。

 顔色の悪い俺を見て、苦笑を向けてくる。それに弱い笑みを返して、椅子に座り、テーブルに突っ伏す。

 少ししてコードルとシバニアが三人の男たちと会議室に入ってくる。

 立ち上がろうとしたけど、大丈夫だとコードルが伝えてきた。俺がこうなると向こうに言っておいてくれたんだろう。ありがとう。

 コードルたちも椅子に座り、四十歳後半の男が口を開く。戸惑ったような表情だ。


「あー、この都市で長をしているゴグムガルだ。この度は魔獣討伐まことに助かった。あのまま支配されていては、周辺の町に甚大な被害が生まれただろう。この都市もろくでもないことになっていたはずだ」


 そこまで言ってゴグムガル様は一度話すのを止めて、言いづらそうに再度話し出す。


「……こう言っては失礼なんだろうが、本当にリョウジ殿とその奴隷が魔獣を討伐したのだろうか? もっと威厳というか凄みを感じさせる傭兵を想像していて、どうもその想像とずれがあるというか。若いとは聞いていたが、若すぎないか」


 ゴグムガル様の両隣にいる男たちも頷いた。顔色が悪いこともその考えに拍車をかけているんだろうね。


「それは俺とシバニアが保証します。あの二人がいなければ、今もまだこの都市は魔獣に支配されたままでした。彼らがそれを成し遂げられるだけの実力を持つことは、廃棄領域から来ていただいたショアリー殿が認めてくださることでしょう」

「うむ。彼らの強さ、成し遂げたこと、どちらもわしが保証しよう。見た目で侮ることのできぬ者たちじゃ。廃棄領域でもかなりの功績を上げているのでな。今回の活躍も嘘ではなかろ。聞いた話では力押しではなく、特殊な能力を持った魔獣ということ。ならば極めた強さがなくとも、魔獣と戦うことはできよう」


 ショアリーの言葉にゴグムガル様は頷いて、俺とシャーレに深々と頭を下げた。


「疑ったことを詫びよう。改めて感謝を」


 頷きを返すとゴグムガル様はほっとしたように少しだけ緊張を解く。


「この度の偉業、我が都市が責任をもって各国に伝えると約束しよう」

「ぅえ゛っ? そこまでする必要あります?」


 驚きから変な声が出た。それされるとすっごい目立つんじゃ。

 俺の疑問にはダイオンが答えてくれる。


「この都市のためにもしなければならないんだ。魔獣に関してはコードルたちが知らせて回っているし、そのために支援も受けた。魔獣に関しての話は少なくとも支援をしてくれたところにはきちんと報告する義務がある。魔獣の件を報告しないなら、嘘だったのかとこの都市は信を失う」

「そのとおりだ」


 スフェルノ大陸から帰ってきたら、こっちで俺たちの名前が広まっているのか。写真がないだけ、まだましかなぁ。

 シャーレの名前も広まるだろうし、ファーネンさんが驚くかもしれないな。さすがに魔獣の前に連れ出したとなると怒られそうで会うのがちょっと怖い。


「次に礼に関してだが、ヘブーゼから早朝に送られてきた書類では、金銭を分割で渡すということだが」

「はい。いろいろと大変でしょうから、すぐに全額くれとは言いません。ダイオン、俺はこんな感じで提案したんだけど、どうだろう、あとは宝物庫の目録を見せてもらおうと思っているよ」


 ダイオンは少し考えて頷いた。


「それでいいと思うよ」

「ではそのように。後日その旨を書いた書類を作るので、それを今後報酬を渡す際に持ってくるということでいいかな」

「はい」


 金額や何回払いかなどを話して、俺たちに関した話は一度終わる。

 次に支援をしてもらったところの話になり、ショアリーがメインで話していく。

 俺たちの話が終わったなら、城から出れないかなーと思いながら聞いていく。その後、昼食に誘われたけど、この気持ち悪さで食べるのは無理だったから遠慮させてもらった。ダイオンとイリーナにゴグムガル様たちとの昼食を任せて、俺とシャーレは城から出る。

 腹は減っているけど、今は体調を戻すのが先ということで、ベンチに座って休む。


 ◇


 亮二とシャーレが会議室から離れて行く姿を見送り、ゴグムガルはダイオンへと顔を向ける。


「彼は大丈夫だろうか?」

「城といった場所で体調を崩すのはいつものことなので、外に出たら治りますよ」

「コードルたちから聞いてはいたが、本当に体調を崩すとはな。城へ潜入して魔獣と対決するという手段がとれなかったという話が納得できた」

「それをすると、支配されることはありませんが、体調不良で負けるのがわかっていましたらね。ただでさえ戦力不足な状態で、リョウジまで脱落というのは避けたかった。だから尖塔を破壊して魔獣を引きずり出すという力技になったのです」

「こちらとしてはなんという手段をとってくれたのかと思わないでもないが、そういった事情だと仕方ないなと思う」


 最初コードルたちから魔獣戦の経緯を聞いたときは、もっと穏便にやれないのかと思ったのだ。しかし今日やってきたリョウジが本当に辛そうにしているのを見て、あの状態で戦うのは無理だと理解することができた。敵の本拠地で戦うのに、主力の一人が使えないのでは状況が厳しいどころの話ではない。ゴグムガルが正気だったら、どうにか主力を使えるように策を考えるだろうし、尖塔破壊は有効だろうと思えた。


「魔獣との戦いで被害が尖塔と小火と兵の怪我のみというのは、被害が小さい方なのだろうな」


 ゴグムガルの言葉に皆が頷いた。演劇になっている四英雄の話では、多くの傭兵が死んでいるのだ。それと比べたら被害の少なさが圧倒的だ。魔獣が暗躍しているときからの被害を含めるとどっこいどっこいなのだが。


「被害といえば、南の町を包囲したときの被害はどうなったのですか?」


 ダイオンに聞かれて、ゴグムガルは魔獣の指示や送られてきた報告書を思い出す


「あれはお主たちを町から追いだすためだけの動きでな。もとから包囲だけですませるというものだった。副団長にもその話は通っていて、むやみに兵を動かすことはなかった。だから兵に死者はでていない。小さな怪我をした者がちらほらとといった感じだな。一番の重症は副団長だろう」


 どうしたのだろうかとダイオンは静かに先を聞く。


「魔獣の影響を一番受けた者でな。それゆえに魔獣が死んだことで、人形のようになっておる。生きてはいるが、それだけだ。娘であるフロスの声にも反応せずに、寝たきりだ。こっちの都市に連れ帰って、自宅療養をさせている」

「同じように支配されていたあなた方はこうして解放されたのに、副団長だけそんな状態なのですか」

「魔獣から離れて活動させるため念入りに支配しているようだったからな。精神が蝕まれていたのだろう」


 手厚い看護ができるように手配しているとゴグムガルは言う。

 少し暗い雰囲気の会議室に、昼食が運ばれてくる。

 こんな雰囲気で食べても美味くないだろうと、ゴグムガルは話題を変えることにした。


「リョウジ殿には最初地位を褒美にとヘブーゼが言ったそうだが、あっさりと断られたようだ。彼はそういったものに興味がないのだろうか」

「ええ、関心を向けませんね。あまり目立つことは好きではないようで、自由気ままに旅することを好んでいます」

「魔獣討伐を各国に知らせると言ったときも、嬉しそうな顔はしていなかったからな」

「この者たちのやってきたことを思えば、もっと名を知られていてもおかしくはないのじゃがな」


 そう言うショアリーに、ゴグムガルは頷いた。コードルたちから亮二たちの旅路を聞いているのだ。大精霊の加護持ちといったことはコードルたちも話してはいないが、やったことは大きいのだ。

 アッツェンとラムヌとヤラハン。この三つで大事件を解決している。亮二たちのみの功績ではないとはいえ、中枢にいたことは間違いない。


「これまでの功績と今回の偉業でもって、いっきに名を知られるでしょうな」

「あまり騒がれるとスフェルノ大陸を活動の中心にしそうですね」


 ダイオンが苦笑しながら言う。


「パーレならば動きやすいのではないかの?」

「パーレでもそれなりのことをやっていますよ」


 思い出すのは、魔獣になりかけた霊獣の撃退や魔獣教団の企て阻止や漁港の救出。辺境伯の町の傭兵には大精霊の加護持ちということも知られている。加護に関しては本人がいないため、勘違いじゃないかと話を聞いた者たちは言っているという状態だ。

 名前が広まれば、あのときの旅人かと思い出せる程度には知名度があるのだ。


「本当は目立ちたがり屋ではないのか? 行く先々でなにかしらの事件に遭遇して解決して回っておるじゃろ」

「トラブルがついて回るって感じだと思いますね」


 嫌なものは避けられるのになとダイオンは内心で笑ってしまう。避けてなおトラブルに遭遇するのだから、トラブルに好かれているのではと思えた。


「スフェルノ大陸でもなにかありそうじゃの」

「その可能性が高いですね」


 ダイオンもイリーナも否定しきれなかった。願わくは穏やかな旅をしたいものだと昼食を口に運びながら二人は思う。

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[一言] 小さなメイドを連れているのが目印(ボソッ
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