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縁をもらって東へ西へ  作者: 赤雪トナ
11/224

11 不調

 予定は変えずシャーミーズを出てパレグイナを目指す。

 出発初日は問題なく目的の村に到着することができた。ただし宿のない村で、少しばかりのお金で空き家を借りる。魔物の警戒をせずにゆっくり眠れるというだけでもありがたいとシャーレと話す。

 まずは寝床の軽い掃除だとシャーレが一人でやろうとしたのを止めて二人で動いた。そのあとは体の汚れを落とそうと、魔法で出した水を沸かして布で体をふく。シャーレが俺の体をふこうと提案してきたが、それは断る。残念そうだったが、体を洗うくらい自分でできるのだ。ファーネンさんに張り切りすぎないように言われたこと忘れてないか?

 自身もささっと体をふいたシャーレは道中で狩った鳥を調理していく。

 シャーレが調理している間に、洗濯でもしとくかなと思ったが、それは私の仕事だと止められる。しかし簡単な洗濯なら魔法で可能なのだし、やることがない今のうちにささっとやってしまった方がいいと思ったのだが、自分の仕事と譲らないシャーレに負けた。

 表に出て、迷惑にならない程度に魔法の鍛錬をやる。シャーミーズでもそうだけど、夜にやることなくて魔法の鍛錬で暇つぶししていた。おかげで水属性以外の属性魔法も習得している。

 楽器を購入して新しい趣味でももとうかと思っていると夕食だと呼ばれる。

 シンプルな串焼きだが、相変わらずの出来栄えで不満などない夕食だった。

 あとかたづけを終えて、シャーレがなにかやることはないか聞いてくる。それは俺も聞きたい。奉納殿では夕食後になにをしていたのか聞く。

 いろいろなことをしていたらしい。子供たちでおしゃべりやゲームをしたり、本を読んだり、繕い物の手伝いをしたり。

 できるのはおしゃべりくらいかな。本も玩具もないし、服も破れたりしていない。

 なにか俺に聞きたいことはあるかと聞くと、シャーレは考え込む。そしてこれまでどこを旅してきたのかと聞かれた。

 うん、聞かれて困る質問だ。どう答えるかな。少し考えて、交通事故にあって、管理者にあって、山に出現しシャーミーズに着くまでを脚色して話す。

 旅の途中で子供をかばい死にかけるような怪我をして、治療してもらい、再び旅にでて、なんとなく気になった山の川で大精霊に出会ったといった感じの内容だ。

 一番インパクトに残ったのは死にかけたというところらしく、今は大丈夫なのか心配される。

 なんともないと返すとほっと安心したようで、ついでに眠気もでてきたらしくシャーレが小さく欠伸をする。

 おしゃべりはここまでにして、浮かべていた明かり用の光を消した。

 

 町に着くまでは初日と似たような感じだった。

 けれど一つ違うこともあった。

 二日目に寄った村が嫌な感じだったのだ。大精霊やシャーレのような気になるというものではなく、近寄りたくないという雰囲気が村を包んでいた。

 今日の宿はそこにしようと直前まで話していた俺が村の門番に、補給のみと答えたことでシャーレは驚いたが、それ以上なにか言うことはなかった。シャーレは黙って買い物をすませて村を出る俺についてきた。

 十分に村を離れたところで野宿になったことを謝る俺に、シャーレはどうしてあそこで宿をとらなかったのか尋ねてくる。

 嫌な予感がしたと正直に答える。村全体を包む雰囲気からあそこへの滞在はやめておいた方がいいと思えたのだという返答に、シャーレは少し不思議そうにしながら村の方向を振り返った。

 俺が感じたものを自身も感じようとしているのだろう。しかし俺のこれは管理者からもらったものなので、シャーレには感じられないはずで、ただの勘だからと言い、キャンプ地探しに集中させた。

 のちにわかることだが、あそこの村は共用の井戸水が原因で病が流行ったのだそうだ。それを感じ取って、滞在を避けようとしたのだろう。


 こういった感じで旅は進み、パレグイナの町に到着する。

 結局タイミングが合わず馬車にはのらないままシャーミーズまで歩きどおしだった。

 そのことで少し問題が出ている。シャーレの顔色が悪いのだ。昼食も残していた。ここまでゆっくりとしたペースだったが、野宿もしたしきつかったはずだ。


「医者に診てもらおうな」

「いえ大丈夫です。これくらいしっかりとした宿で休めば治ります」

「ずっと歩きで野宿もしたんだから、疲れは溜まって当然だ。疲労以外にもなにか異常はないか、診てもらった方がいい」

「大丈夫なのに」


 そうは言うけど本当に顔色が悪いからな。発言を信じられんよ。

 宿で、二人部屋をとり、部屋に入るとシャーレがふらついた。


「おっと」

「ぁぅ、すみません」


 きちんと休めるところについて気が抜けたんだろう。そのまま抱っこしてベッドに座らせる。


「ベッドに横になってろ。医者を連れてくるから。ふらついたのに大丈夫ってのは無理があるからな」

「……はい」


 落ち込んだ様子でシャーレは頷いた。


「自分で着替えることはできるか?」

「それくらいなら」


 パジャマに着替えたら横になっているように言い、フロントに向かい医者のいるところを聞く。

 医者の家を訪ねて、一緒に来てもらう。宿に戻ると、シャーレは寝息を立てていた。

 休んでいるところに気が引けたが、起きてもらい医者に診てもらう。

 問診や触診が終わり、医者の診断を待つ。


「疲労だね。あとは気を張り詰めていた感じかな。それが合わさっていっきに表に出てきたといったところか」

「なにか病気とかは?」

「霊熱病にかかっていると言っていたね? それ以外の症状はないよ。このまま一日ベッドで休んでいれば大丈夫」


 診察費とともにありがとうございますと礼を言い、医者を宿の玄関まで見送る。

 気を張り詰めていたってのはあれだな。俺の世話をしようと張り切りすぎていたことだ。ファーネンさんに注意されていたのになんでだ?

 部屋に戻ると、横になっているシャーレがお帰りなさいと言ってくる。起きてるならちょうどいい。注意されてもなお張り切っていた理由を聞こうか。


「新たな病気にならずにすんでよかったよ」

「ご迷惑をおかけしました」

「馬車の予定を歩きに変えた俺にも責任はある」


 俺がそう言うとシャーレは首を横に振る。


「違います。私が未熟だから。次はこのようなことがないように頑張ります」

「……出発前にファーネンさんが張り切りすぎないようにって言ったのを覚えている?」

「はい」

「俺からしたらあの言葉を守っていないように見えたけどな。どうしてそんなに頑張ろうとするんだ? そこまでしなくとも十分に助かっているよ」

「……私はそうすることが生きがいだから」

「生きがいを持つことはいいことだと思う。でも無理して体調を崩したら、今みたいにやりたいこともできなくなる。まずは自分がどれだけやれるか確かめて少しずつできることを増やしていくって感じでいいんじゃないか?」

「でもできることをやらないと、役立たずだから」


 その価値観は親に植え付けられたものかな。自分自身で俺に仕えることを選んだと言っていた。でも昔のままの価値観が根底にあって、それをもとに動いたら自分で決めたことと言っても意味はないと思う。

 親の教えというものを否定する気はない。俺だって両親に教わったことは今でも自分を作る大事なものだと思っている。でも明らかに歪んだ教えを許容する気もない。


「俺はシャーレを役立たずとは思っていない。さっき助かっているって言ったのは嘘じゃない。でも無理をされるのは迷惑だと思う」


 迷惑という言葉にシャーレの表情は歪む。そして唇を震わせて聞いてくる。


「……私を捨てますか?」

「捨てはしないよ。でも捨ててほしいものもある。俺を主と定めた、それは確かだよね」

「はい。魂に誓って」

「だったら親の教えじゃなくて、俺の言葉を優先してほしい。急いでなにもかもやろうとしなくていい。多少の失敗は笑って流すよ。俺だってなんでもできるわけじゃない。無理せず少しずつ成長していってほしい。その方が俺としても喜べる」


 こう言ったからには俺自身もこの子の主って自覚は持たないと駄目なんだろう。でないとこの子のあり方も揺らぐ。

 カウンセラーのようなことはできないって言ったのに、それに近いことやってないか俺。そしてこれが正しいのかもさっぱりだ。


「守ったらずっとそばに置いて必要としてくれますか」


 親の教えでこうなったんだろうけど、親に捨てられたこともトラウマの一つなんだろうなぁ。

 これに承諾すると依存されるような気がする。でも断るのは駄目な気もする。


「……約束しよう。シャーレが離れていかないかぎり、そばに置く」


 言ってしまった。いやでもシャーレに恋人ができて、その人と幸せになる未来もあるかもしれないし。いろいろなところに行くから出会いには期待できる、はず。

 俺の言葉を聞いて、シャーレは嬉しそうに笑う。


「今はゆっくり休め」

「はい。しっかり休んで、ゆっくりできることを増やしていきます」


 シャーレの頭をなでると、嬉しそうに目を細めてから目を閉じる。さて睡眠の邪魔しないよう町を散策してこよう。


「ちょっとでかけてくる」

「いってらっしゃい」


 そっと扉を閉めて、宿を出る。

 どこに行こうか。霊水を売れる場所を探そうかな。あとは役所を探すか。奴隷契約はしないでもいいと思うけど、シャーレは拘るかもしれない。

 まずは役所からかな。そこで霊水を売れる場所を聞けるかもしれないし。

 道行く人に役所の場所を聞いて、周囲を見つつそこを目指す。

 役所に入り、受付にいたヒューマ種の職員に用件を告げる。奴隷に関しては知っていたけど、改めて説明を受ける。その流れで魔法をかけるにも程度というものがあると知った。


「三種類の奴隷魔法があります。通常、犯罪、軽度。通常契約は一般的に知られているものです。犯罪契約は、なんらかの犯罪を犯した人に対して、契約できつく縛り、より自由を減らしたものです。貴族に仕える人物がなんらかの大きな失態を犯したときも、この魔法を使われることがありますね。軽度契約は、いつでも主が奴隷を解放できるものです。この契約は国が保護する場合にも使われます。なんらかの犯罪に巻き込まれて危険が迫った際、国預かりと示し守るのです」


 犯罪に関しては予想できたけど、軽度契約の方は意外な使い方だったな。

 映画で証人保護プログラムってのを聞いたことあるけど、それがイメージされる。あっちは戸籍とかも変えるんだっけ?


「軽度契約を使いたいんですけど、問題ないですか? 犯罪に巻き込まれているとかそういったわけじゃないんですが」

「ええ、大丈夫ですよ。体裁を取り繕うだけで、本格的に奴隷にする気がないという人はいます。そういった人が使います」

「俺もそういった感じだな。本人には知らせず、それの使用をお願いしたい」

「わかりました。書類を作成をお願いします。文字は書けますか?」

「ヒューマ文字で大丈夫ですかね」


 職員が頷き、書類を渡してくる。それに必要事項を書き込んで、最後にシャーレのサインが書き込まれれば完成となる。

 書類と魔法使用の代金を職員に渡す。


「はい。お預かりします」

「霊水を売りたいんですけど、酒造所か錬金術師の居場所を教えていただけませんか」

「加護持ちですか。酒屋はありますけど、お酒を造っているところはありませんね。ですので錬金術師の紹介になりますがよろしいでしょうか」

「はい、お願いします」


 紹介された錬金術師は三人。お金の支払いを考えて駆け出しは外したらしい。

 役所から一番近い家に住む錬金術師のところに向かい、その家の前で嫌な感じがした。関わることはやめた方がよさそうだと、ほかの家に行く。

 次の家ではなにも感じず、扉を叩く。出てきた初老の男性に霊水を売りたいこと、役所から紹介されたことを告げると承諾してもらえた。まずは確認ということで、小皿に霊水を出し、本物だと認めてもらえて指定された小さめの樽に霊水を入れ、報酬をもらう。

 三人目の錬金術師も問題なく、二番目と同じようなやりとりをして報酬をもらった。

 二件の報酬で、十日の生活費になった。二回魔法を使うだけでこの額になるんだから、割のいい仕事だ。それだけ加護持ちが少ないってことだろう。

 役所に行って、霊水も売った。これで用事は終わったし、なにか甘いものでもお土産に探そうかな。

 大通りを見ながら甘いものを探す。町ということで人が多い、これまであまり見かけなかったニールやリアーといった他種族も普通に見かける。

 三種族は特にいがみ合うようなこともなく、普通に接している。与えられた知識だと昔は異種族で戦争していた時期もあったらしい。争いの規模が大きくなると神獣から敵味方関係なく制裁されて止まっていたようだ。そういったことを何度か繰り返して、今の関係に落ち着いたということだ。

 ちなみに大陸中央左に位置するパーレ国がヒューマの最大勢力。大陸中央右に位置する熱帯雨林エリアのアッツェン国がニールの最大勢力。大陸南部右に位置する山脈エリアのラムヌがリアーの最大勢力になっている。

 大陸北部には寒冷地のシートビ国。大陸南部左には砂漠のヤラハン国がある。

 大陸図などを想像しつつ散歩をして、見つけた本屋で昔話集を買い、そのあと焼き菓子店でメープル入りのカップケーキを購入してから帰る。

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