105 生み出された魔物
錬金術が盛んな町ともなると、品質の良い薬や錬金術で作られた道具がずらりと並ぶ。種類も様々で、廃棄領域探索に役立ちそうなものばかりだ。ほかの土地でも販売できていたら、傭兵たちはもっと楽に狩りを行っているだろうね。輸送費とかの分だけ割高になって気軽には使えそうにないけど。
錬金術や医学の本もこれまで行った町で一番多くみかけた。コーダーのメモに書かれていない本が多いけど、全部買っていたら出費がすごいことになる。とりあえず薬関連の本一冊とポーション作りの本を一冊買って本屋から離れた。
ちょこちょこと買い物を続けて、町を歩く。傭兵たちが集まるテント村には行く理由がないから近づくことすらしなかった。
町中にいる傭兵はルールを受け入れた者たちなので、顔が厳つくても過剰に荒々しい雰囲気はない。それを一般人もわかっているようで、穏やかに接している姿が見られた。
買い物などを終えて宿に帰り、明日からの廃棄領域探索に備えて、ゆったりしているとレンシアも帰ってきた。
なにか話があるようで、コードルたちも一緒に部屋に入ってくる。
「それで話って?」
「まずは私が知った情報を話すわね」
外交官から聞いたという話をして、その最後に付け加える。
「この町のトップがあなたたちの到着を知らせてほしいとうちの外交官に頼んでいたそうなの。でもあなたたちの許可もなく知らせるのもどうかと思って止めてある。それでこのまま止めておく?」
俺は特に止めておく理由は思いつかない。ダイオンたちはどうだろうと聞く。
「知らせない理由もないから、外交官に許可を出していいと思うが」
ダイオンに賛成だとコードルたちも頷く。
皆が承諾し、そうするとレンシアも頷いた。
「今から外交官に会ってくる。ついでに研究所が作ったっていう武器も見てくるけど、一緒に行く?」
「もう見てきたよ」
「あ、そうなんだ。皆はその武器をどう思った? 私は話に聞いただけじゃ、どうやって攻撃するかもわからなかったんだけど」
「たくさんの人数で力を込めて、それをいっきに放出して攻撃するって感じだと思う」
ビーム砲台ってイメージだから、まっさきに思いついた攻撃はそれだ。
そんな俺の意見をローズリットが肯定する。
「設計図を見たかぎりでは、それであってるわよ」
「ローズリットはあれを知ってるの?」
「昔にあれとよく似たものが描かれた設計図を見たことがあるってだけで、実物は見たことはない。書いている本人がまだ作れないと言っていたしね」
「役立つと思う?」
「さてね。設計図を見ただけじゃ、なんとも言えないわ。今言えるとしたら、そこらの魔物一匹に使うのはもったいないってことかしらね。威力を求めて作られたものだから、使う相手もそれなりに強いことを想定しているはず。それと私が知っているのは今回作り上げられたものじゃないから、私の意見が正しいとは限らないわ」
なるほどとレンシアは頷いて、席を立ち部屋を出て行った。
翌日、武具を身に着けて俺たちは宿を出る。今日は獣胎母に生み出された魔物を見つけて、戦ってみることが目的だ。
廃棄領域に向かう傭兵たちと一緒に大通りを歩く。その流れの中には、タンクを引いた馬車が何台もある。雪回収のみを目的とした駆け出しの傭兵が付き添っていて、彼らと馬車を守るための傭兵も一緒だった。
そんな傭兵の中で、メイド服姿の小柄なシャーレは目立っていた。連れて行って大丈夫なのかという心配そうな視線、危険な場所に連れていくことへの疑問、子供の遊びじゃないんだぞという不快感。そういった感情が周囲から発せられていた。ただし大人が七人そばにいるためか、なにかしらの言葉をかけられることはなかった。
廃棄領域に入ると、馬車の群れは雪原へと向かっていき、それ以外は目的の場所へと散っていく。
肩に乗っていたペリウィンクルが飛び立っていき、俺たちもとりあえずまっすぐ進むことにする。
「遠くに見える山までは昼前には着くかな」
「だいたいそれくらいだろう。ここら辺には獣胎母の反応はないかい?」
「ないね」
ダイオンに聞かれ首を振り答える。獣胎母の反応もなければ、魔物の姿も見えない。
ここらへんは視界を遮るものはないので、俺でも魔物の接近を見逃すことがない。
「ここに入る傭兵って素材目的なんだよね。魔物を倒す以外にどんなふうに手に入るのかな。まさか宝箱がぽつんとあって、それに入れられてるとか」
誰に向けたものでもない疑問にはシバニアが答えてくれた。
「さすがにそれはないな。なんらかの部品や破片がそこらに落ちている。魔物の腹の中から出てくることもある。誰かが置いているんじゃなくて、突然そこに音もなく現れるそうだ」
自然発生って感じなんだな。素材そのものは自然じゃないけど。
「破片なら、そこらに落ちている小石と見分けがつかなかったりしそうだね」
「あるだろうな」
話しながら進み、入って一時間ほどでペリウィンクルが降りてきた。魔物接近の警告をしてくれたようだ。
同時にシャーレたちが魔物だと声を出して、斜め右を指差す。
その方向には三体の角がいくつもある猪がいた。空にはサソリの尾を持つ巨大蜂もいる。どちらも白っぽい。獣胎母の生み出した魔物だろう。
ダイオンとイリーナとシバニアが猪へと向かい、蜂にはフロスが氷の欠片を飛ばす。俺とシャーレとコードルは待機だ。
ダイオンとイリーナはすぐに倒して、シバニアも遅れはしたもののダメージを受けることはなかった。
フロスはまずは蜂の機動力を落とし、動きが鈍ったところで氷の塊を落として潰していた。
倒したものは不自然に消えることなく、その場に残っている。
「強さ的にはどんなものだった?」
「そうだな……ラムヌにリザリガっていただろう。あれと同じくらいか、ちょいと上? 話に聞いていたように駆け出しにはきつい相手だな」
一番弱くて中級の最下位と同じか。改めて大量に生み出されるとやばいってわかるな。
蜂の方はどうだったんだろう。
「こっちも特別強いわけではなかったわね。頑丈さでいうと猪よりも下じゃないかしら。ただし空を飛べるのと、おそらく尾の針に毒があるから、厄介さは上」
自由に空を飛び回られるだけで厄介だしな。そこに毒もあるんだから、なめてかかれる相手じゃないのはわかる。
この二体がどんな感じかわかったし、ほかのやつとも戦って評価を出したいね。あとは鳥と虎と蟻と人型か。
「これらの死体はどうすればいいだろう。持って帰るにはかさばるし」
「放っておいてこれを食べたほかの魔物がおかしくなるのも困る。焼き尽くしてしまおう」
ダイオンの提案にそれがいいなと思ったので、イリーナがぱぱっとばらした魔物をシャーレと焼いていく。蜂の尾だけは解毒剤の材料になるかもと回収する。
再び山を目指して、移動を始める。
山の近くまで行くと、事前に聞いていた魔物とは全部戦うことができた。
一番強かったのは虎だ。動きが素早く、爪と牙の攻撃も強力。そして尾についている目で死角をなくすことで隙も少なかった。
イリーナにとっては雑魚だったのだけど、駆け出しの傭兵が五人くらいで戦っても負けるだろうと思えた。
鳥と蟻は蹴爪と大顎に気を付けるだけだった。
人型は油断すると危ないだろう。発達した上半身から繰り出されるパンチは少しだけど地面を陥没させた。動きも鈍くはないので、接近されると誰でも一発で伸されてしまう可能性がある。弱点は下半身で、足を引っかけるとすぐにこける。こっちがなにもしなくても、小さな穴に躓いたり、石を踏んでバランスを崩すこともある。
一通り戦ってみた感想は、少数ならば対応もできるけど、大量に来られるとどれもやばいということか。
どいつの攻撃も一撃食らえば軽傷ではすまない。大量に来るということは、対応がいっきに難しくなるということ。そんな状況で一撃も食らわずにいられるのは困難だ。数は力を体現できる奴らだろう。
夕暮れ頃には町に戻れるよう山を出発したおかげで、予定通りの時間に廃棄領域を出ることができた。
俺たちのように暗くなる前に探索を終える傭兵は多く、彼らの中には獣胎母の生み出した魔物を持ち帰っている者もいる。部品や破片を回収できた傭兵もそれなりにいるようで、ほくほくとした顔だ。怪我をしている傭兵もそれなりにいる。
俺たちも一つだけ部品と思えるものを拾っていた。二十センチの金属の棒で、用途はわからない。
門の近くに買取所があるそうなので、そこに持っていく。
受付の列に並んで、順番が来たらダイオンが棒をカウンターに置く。
「これを頼む」
「鑑定いたしますので少々お待ちください」
受付嬢が背後にいる職員に棒を渡す。それを職員がどこかへ持っていった。
「番号札をお渡ししますので、呼ばれたら来てください」
札を受け取ったダイオンは回収した尾について尋ねる。
「サソリの尾を持つ蜂から尾を回収してきたんだが、これはどこか買い取るところはあるだろうか。解毒剤に使えるかもと持ってきたんだ」
「ここでは扱っていませんが、役所に持っていくと買い取ってくれますよ。毒の研究に必要なのだと聞いています」
「役所か、ありがとう」
カウンターから離れて、ここで鑑定を待つ者と役所に行く者に別れようと話し合う。ダイオンとイリーナが残り、ほかは役所へ向かうことにした。
傭兵たちは買い取りのことを知っていたのか、獣胎母の生み出した魔物を持って役所に向かっている者が何人かいて、彼らについて行く。
役所と思われる場所はあったけど、ちょっとした城っぽく見える。
その役所入口横に作られた臨時受付にいる受付嬢に尾を渡す。ついでに毒について聞く。
「これの毒ってどんな症状なんですか?」
「痺れです。手足が痺れることに特化したもののようで、内臓が止まって死ぬことはありません。ですが毒を受けると、一分もたたないうちに動けなくなってしまいますから注意してください」
動けなくして獣胎母の餌として運ぶんだろうな。
「解毒剤はできてますか?」
「まだですね。回復を促進する薬が完成したところです。毒を受けると四時間は動けなくなってしまいますが、薬を使えば十分で動けるようになります。魔物を相手した状態で十分間耐えきれるかという問題があるんですが」
「それでも四時間動けないよりはましですね。どこかで薬は買えますか?」
「部品などの買取所で売っています。ですが錬金術師たちが製作している真っ最中なので、まだ数がそろっておらず、値段は高めになると思います」
「手に入らなくて毒を受けてたら、即座に撤退するしかないですね」
「それがいいです」
聞きたいことは聞けたので、受付から離れる。
持ち込まれるものを見てみると、新種はいなさそうだ。あとどの魔物も今は買い取っているみたいだ。
尾だけじゃ全員分の宿賃には届かなかったし、明日からはもっと持ち帰るのがいいかな。
宿に帰って、二十分ほどでダイオンたちも帰ってきた。
金属の棒は宿賃三日分になった。あんな使い道のわからないものが、わりと高値で売れたな。俺だと鋳潰してから、なにかの材料するくらいしか思いつかない。
夕食前に、シャワーでも浴びようと宿の浴室を借りる。
自前でお湯を出してさっぱりして部屋に戻ると、廊下にレンシアと見知らぬ男がいた。男というより少年といった方がいい外見だ。十四歳ほどで、仕立ての良い服を着ている。
感想と誤字指摘ありがとうございます




