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縁をもらって東へ西へ  作者: 赤雪トナ
103/224

103 船旅

 部屋の中は鉄格子のはまった窓と、二段ベッドが二つ、クローゼットに、机と四つ椅子がある。掃除はされているけど、飾り気はない。

 シャーレは掃除の甘さが気になるようで、クローゼットに入っていた小さな箒を取り出し、掃除を始める。

 姿を消していたローズリットとペリウィンクルが姿を見せて、ローズリットは俺の肩に座ったままで、ペリウィンクルは窓から外に出ていいか意思を伝えてくる。

 あまり遠くに行かないように言うと頷いて、鉄格子を通り抜けて外へと飛び出していった。


「自由に動き回れて羨ましい」


 ペリウィンクルを見てイリーナが言う。イリーナにとっては行動が制限される船旅はあまり楽しくないものなんだろう。

 甲板で素振りとかもできないだろうし、できるとしたら筋トレくらいか。


「すぐに終わるかもしれないけど、船内の探検でも行って来たら? 歩き回るくらいなら止められないだろうし」

「ダイオンが一緒じゃないとやだー」

「俺はこの本を読みたい」


 なにを読んでいるんだろう。表紙に見覚えはないから、こっちに来て買ったものだと思う。

 聞くとダイオンはこの国について書かれた本だと教えてくれた。


「歴史書や地図といった本格的なものではないけど、どこになにがあって、どんな出来事があったかある程度は知れるものだ」

「これから行く町のことはなんて書いてあった?」


 寝転んだままのイリーナが聞く。


「特徴は錬金術が盛んなこと、傭兵が多く集まること。これらは事前にわかっていたことだな。傭兵が昔暴れ回ったことがあったそうで、傭兵に対する特別法がある。たとえば住民同士の喧嘩は警備兵からの説教で終わるが、傭兵同士の喧嘩だと罰金。傭兵と住民の喧嘩は傭兵が牢へ入れられる」

「住民から喧嘩をふっかけてきた場合でも?」

「その場合は住民にも重い罰金が適用される。ほかには傭兵が入れない区画があったりする。こういった法を嫌う傭兵もいて、そんな奴らは町の外にテントを張ってそこで暮らしているそうだよ。そこは基本的に町は不干渉だから、近づかないようにな。犯罪率が高いそうだ。違法な品やレア物も集まるようだが、とんでもなく高額だろう」


 闇市って奴か。そこを取り締まる裏顔とかいるんだろう。近づいたら厄介事しか起きないだろうな。


「ほかには研究所と呼ばれる、錬金術師が集まる施設がある。腕のいい錬金術師が集まっているんだそうだ。錬金術師になりたい者を集めて、基礎を教え育ててもいると書かれているな。ただしやる気と根気がなければ容赦なく切り捨てられるとも書いてある。そこに通ったという名声が欲しいだけの者はすぐに放り出されるんだろう。過去子供を通わせることで箔をつけて政治利用しようとした貴族に対して、政治ごっこはよそでやれと追い返したそうだ。独自運営できているからこその発言だろうな」


 すごいな。本気で錬金術に取り組みたい者、錬金術の発展を望む者だけが通い続けるのか。才能がない場合はどうなんだろう。聞いてみたら、それに関しては載ってないということだった。

 町に関してはそれくらいで、ダイオンはまた本に視線を戻した。

 シャーレの掃除は本格化し、手伝えそうにないし俺は散歩してくると言って部屋を出る。イリーナも誘ってみたけど、部屋でゴロゴロしているらしい。

 廊下に出て目的地なく歩き出す。肩のローズリットはまた消えていた。

 客が動き回れるところは船員の部屋がある二階と甲板の一部以外だ。客が主に過ごすのは今いる階だろう。食堂と遊戯室と談話室とシャワー室がある。シャワー室の前に注意書きがあって、長時間使うのは駄目なようだ。ただし自分で水を出せるのなら時間制限はないらしい。うちは男女で水魔法を扱えるんで、時間は気にしないでいいな。

 遊戯室にはギャンブラー用の区画があった。まだ準備ができていないようでディーラーはいなかった。できるのはルーレットとカードの二種類のみなようだ。機会があれば一度くらいやってみるのもいいかな。適度に遊びたいと伝えたらディーラーも少し負けるくらいに手加減してくれないかな。あとでわかったことだけど、水を多く提供しているから、お金無用でプロが遊びに付き合ってくれるということでシャーレたちと一緒に楽しむことになる。手品なんかも披露してもらえた。

 客用の階は見て回ったんで、甲板に上がろう。どれくらいの速さで進んでるのか気になる。

 階段を上がってまた甲板に出る。帆に強風が吹き続けていて、その余波が甲板を吹き抜けている。シャーレたちスカートをはいた女性陣に教えておかないとめくれてしまうかもしれん。

 船縁に寄って、ザァーッと聞こえてくる下を見る。船に当たった砂が砂煙を上げていてた。後方を見ると、船が移動した跡が残っている。


「どれくらいの速さなのかな、自転車より遅い気がする」

(砂船の速さは海の船と同じみたいよ)

「こっちの船だよね? 地球のフェリーとかタンカーとかじゃなくて」

(ええ、こっちの帆船)


 水の上と砂の上という違いがあるのに、同じくらいの速度が出せている時点ですごいんだろうなぁ。

 下ではなく、視線を周囲に向ける。遠目に船が止まっていて、船員たちが釣りをしていた。何人か釣り上げている人もいる。釣ったものは波止場で見た蛇ではなく、おそらくだけど小型のサメだと思う。一メートルもないサメばかりが釣れていた。


「サメをあんなに釣ってどうするんだろ」

「お客さんはヤラハンが初めてなんだな」


 近くで甲板掃除をしていた船員が少し休憩するかと言って、話しかけてきた。


「初めてですよ」

「だったら知らないのも無理はない。あのサメはザッシャーって魔物で、この国ではああして一本釣り漁をする光景は珍しいものじゃないんだ」

「へー。あれをメインに取ってるんだ」


 砂漠で漁ってのもなんだか違和感あるけど、ヤラハンでは当たり前なんだな。


「美味いんですか?」

「不味い。ただ使い道が多いんだよ。革は繋げてテントにできるし、重ねると鎧になる。肉は油がとれて、搾りかすは着火剤にできる。骨は特定の作物の肥料になったり、鏃にしたり。ヒレは打ち身といった軟膏の材料になる。内臓も薬にできるはずだ」

「全身余すところなく使えるんですね」


 町で見かけた革鎧はザッシャーの皮を使ったものだったんだろう。


「実際は数が多いから、どうにか使い道を探したって感じだろうな。これで美味ければ文句はなかったが、そうすると神聖視する奴が勢いづいて捕獲に制限がかかったかもしれん」

「魔物を神聖視する人なんているんです?」


 荒神を鎮めるために祀るって方向なのかな。


「使い道が多いから、神からの贈り物って考える奴が少しいるんだよ。でも魔物だから人を襲う。毎年ザッシャーによる死者も出てる。だから神の贈り物っていうにはちょっとなと俺は思うし、同じように考える奴は多い」

「俺も贈り物とは思えないですねー」


 それに管理者がわざわざ人間のためにザッシャーを作って贈るかというとないだろうなって思えた。


「面白い話をありがとうございます。お礼にどうぞ」


 魔法でオレンジくらいの大きさの水を出して、そのまま船員にゆっくりと近づける。


「コップがないんで、そのまま吸って飲んでください」

「ありがとよ」


 ある程度冷やしてあることに気づき、船員は美味そうに飲んでいった。


「冷えた水なんて贅沢品だ。いい休憩になったよ」


 そう言って気合を入れた様子で掃除に戻っていった。

 俺も部屋に戻ることにして、甲板から船内に入る。

 部屋に戻ると、掃除を粗方終えたシャーレが繕いものを始めていた。ダイオンは変わらず本を読み、イリーナは昼寝だ。


「おかえりなさい、主様」

「ただいま」


 シャーレが暇そうならゲームの相手でもしてもらうけど作業中だしな。俺はローズリットと空間魔法や時間魔法の練習をするか。

 そのまま時間を過ごして、食事の時間だと知らせる鐘が廊下から聞こえてくる。

 その音でイリーナが起きて、皆と廊下に出る。コードルたちも同じように出ていた。

 午後からはなにをしようかと話しながら客用の食堂に入る。メニューはコックが決めて皆同じものを食べるようになっているそうだ。トレーを受け取って、水の入ったコップや料理を入れられた器を受け取って、テーブルに向かう。水のお替りは有料らしい。

 豆を潰したコロッケ、ポタージュ、肉と豆の煮物、パンが昼食だ。


「煮物が辛いな」

「ちょっと苦手な辛さです」

「水がいるならいつでも注ぐよ」


 頷いたシャーレの様子を見つつ、食べ進めていく。シャーレは好き嫌いではなく、合う合わないといった感じなので残しても仕方ないと思う。合わない料理が続くようなら、馬車に置いてある保存食を使って食べなれたものを作るのもいいだろう。

 誰も残すことなく昼食を終えた。シャーレは煮物とポタージュを交互に食べることで、辛さを誤魔化していた。

 午後からはマプルイたちの様子を見に行くことにして、そのあとはダイオンたちは甲板で筋トレ、フロスはタンクに水入れに行った。残った俺とシャーレとレンシアはゲームをやったり、本を読んで過ごしていく。

 窓から夕陽が差し込む時間になって、風景を見ようと甲板に上がる。吹きつける風の温度が昼よりも下がっている。

 

「おーっ、なかなかの風景だ」


 砂の海に夕日が沈んでいくところだった。空も砂漠も夕暮れ色一色で、生まれて初めて見る風景だ。砂の盛り上がりでできた影さえも綺麗に思えた。

 キャラバンが移動していて逆光で影になっていたりしたら絵になる。

 シャーレとレンシアも初めて見る風景に目をキラキラとさせている。

 飽きることなく見続けるうちに夕日が完全に落ちて、夕暮れ色から淡いピンクに変化して、さらに夜闇へと風景が染まっていく。


「完全に暗くなる前に中に戻ろう。良い風景だったなぁ」

「はい。綺麗でした」

「砂漠ならではの良い景色だったわ」


 船内に戻ると、ふわりと調理の匂いが鼻に届く。夕食はなんだろうな。

 先にシャワーを浴びることにして、皆でシャワー室に向かう。

 シャワー室前で時間を計っていた船員に水は自分たちで出すと伝えて、時間制限をなくしてもらう。

 女性陣と別れて、ダイオンたちとシャワー室に入る。女用のシャワー室とは壁をはさんだ形になっていて、壁の上部が少し開いている。一つの大部屋の真ん中を壁で区切っている形だ。


「これなら俺がひとまとめに水をだせるけど、フロスどうする?」


 向こうにいるであろうフロスに声をかける。


「お願いできる?」

「りょーかい。ちなみにお湯でいい?」


 肯定の返事があって、強めの雨のようにお湯を降らせる。

 風に乗って細かな砂が髪や服の中に入っていたんだろう。水と一緒に砂が床に落ちていく。

 念入りに頭を洗って砂を落とし、さっぱりしてシャワー室を出る。女性陣はもう少しかかるそうだけど、あとはフロスが魔法を使うということで先に出ることができた。

 のんびりと着替えたりして十五分ほど待って女性陣が出てきた。

 そのまま食堂に向かい、夕食を食べる。今回も一品辛めの料理があった。毎食一品は辛い料理がでるのかな。

 夕食を終えて部屋に戻ると、ペリウィンクルが部屋に戻ってきていた。シャーレが使う下段のベッドに腰掛けると、足にペリウィンクルが乗ってくる。その背を撫でて、隣に座ったシャーレや椅子に座ったダイオンとイリーナとローズリットも加えて雑談していく。

 穏やかに時間を過ごし、寝る前に夜の砂漠を見てみようと甲板に上がる。冷たい風が吹きつけて来て薄着では寒すぎた。シャーレも同じ様子だったので、風の魔法で風を遮って、少しだけ風景を眺めて船内に入る。


「月明りに照らされた砂漠もいいものだったね」

「はい。幻想的と言うんでしょうか。昼とは違った雰囲気が素敵でした。寒かったですけど」

「だね。夜に行動するなら防寒具が必要だ」

 

 そういったことを話しながら暗めの廊下を歩いて部屋に戻る。

 部屋は明るかったけど、ダイオンとイリーナはベッドに寝転び話をしていた。

 俺たちもベッドに入る。俺が使う上のベッドに移動すると、ペリウィンクルも上のベッドに飛んできて座り込んで目を閉じた。

 俺たちが寝るならとダイオンは明かるさを落とす。

 目を閉じて、ダイオンたちの会話や遠くから聞こえてくる砂の滑る音や風の音を聞いているうちに意識は落ちていった。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 20年以上前でしょうか、旅行で米国行った時の 空港の機内食がチキンorフィッシュで 席が後ろのせいかフィッシュしか無かった記憶が(苦笑) 長期移動中の楽しみに食事の嬉しさをあの時思い知りまし…
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