102 乗船
俺からも質問をしよう。騒ぎに全く関係ない好奇心からのものを。
「初めて砂船に乗るんだけど、どうやって動かしているんだ? 話せるところだけでいいんで聞きたいんだけど」
「他国出身の方であれば不思議に思えるかもしれませんね。砂船は三つの要素で動くことになります。魔法で起こした風を帆に当てる。念動力の魔法で引っ張る。最後に船底に砂との摩擦が減る特殊金属板を張り付ける。風の魔法で進み、念動力で方向を決めるんですよ。ただし水に浮かぶ船ほど小回りは利きませんね。やはり砂上と水上では動きやすさに違いがあります」
「じゃあ砂船の利点は?」
「壊れて進めなくなっても、沈まず荷物の回収が可能ということでしょうか。あとは歩いて町を目指すことができますね。ほかには揺れが小さいから船酔いをしないなどでしょうか」
荷物の回収が容易いのはたしかに利点ともいえるな。海だと沈んでしまったら回収を諦めないといけないだろうし。
「ラクダとか使ってキャラバンを組まずに船で進むのはなにか理由があるんですか?」
「昔砂漠に銀砂鯨という魔物がいたんです。その大きさは人間など一度に何人も一飲みにできるほどで、キャラバンだと餌にしかならず、どうにか対抗しようと砂上を移動する軍艦ができたことが始まりです。銀砂鯨は倒されましたが、船で移動するということは残り、現在にまで続いています」
「キャラバンより有用だったんでしょうかねー」
「大きな船を警戒して魔物が近寄ってこないということがあるそうですよ。ちなみに廃棄領域への旅で、銀砂鯨の骨を見ることができますよ」
ほー、それはちょっと興味がある。近くを通ると船員が教えてくれるそうなので見てみよう。
このほかには聞くことはなく礼を言って離れる。
宿を探しながらこの国の特徴でもつかめないかとあちこちに視線を向ける。ラムヌと同じで野菜が高め、肉は困ってないのか高いということはない。ただなんの肉なんだろうか? 砂漠で狩れる獲物だよな。あとは当然というのか綺麗な水が有料で売られている。ということは無料の水は汚いのか? ダイオンに思ったことを聞いてみる。
「税を払えない貧民層は汚れた水を飲んでいるようだよ。普通に税を払っている人はある程度綺麗なものを。ただしこの国以外の人間が飲むと腹を下す。だから飲み水はケチらない方がいい」
「自分で飲み水を出すのは違法だったりする? 商売の邪魔をしたとかで」
「自分や仲間内で消費する分には問題ない。無料で配って回ったら罰せられる」
「貧民に同情して水を配った人が罰を受けたこともあるようだから気を付けてね。罰金さえ払えば、それくらいはやってもいいってことでもあるんだけど」
フロスが付け加えるように言ってくる。
わざわざそこまでして水を配ろうとは思わないな。
貧民と役人が組んで、同情を引いてわざと罰金を払ってまで水を提供させようとした事件とかありそうだ。
ここには一日もいないし、貧民がいそうなところや嫌な感じがするところに寄らなきゃ大丈夫だろう。フラグにならないよう、ほんと気を付ける。
宿に荷物を置いて、買い物に出たその帰り道に警備兵が誰かを連れていくのが見えた。捕まっていたのはヒューマ種の二十歳後半の男でこざっぱりとした服装だった。聞こえてきた噂話によると、貧民たちに水を分け与えた人が捕まったようだった。
捕まる人がでちゃったかー。罰金の支払い大変だろうなぁ。
そんなことを思いつつ宿に帰る。同じことにならないよう、今日はもう宿から出なかった。
翌日、買い忘れたものがないかの確認をして、馬車に荷物を運び、早めの昼食をとって馬車で港に向かう。港に続く馬車専用の道が町の外側を迂回するようにある。港入口に立つ警備兵に、昨日もらった書類を見せると乗船予定のプリンスヘイリー号の特徴を教えてくれた。
見つけたプリンスヘイリー号であろう砂船は、荷物の積み込みをしていた。船の側面の一部を波止場に下ろして、壁を橋にしている。
船そのものは全長百メートルくらいで、馬車が二十台くらい入るかなといった大きさだ。ほかに入れる荷物とかもあるから入れる馬車はもっと少ないんだろう。高さは四階建ての建物と同じくらいか。
砂船を見ている間に、コードルが指示を出している船員に書類を持って話しかける。
「この船に乗る予定なんだが、馬車を入れても大丈夫かい」
「書類を見せてくれるか?」
渡された書類を船員はチェックして、俺たちを見てくる。
「馬車を確認していいか? まれに人数を偽るやつもいるんだ」
コードルがいいかと聞いてきたんで頷く。
船員が書類を持ったまま、馬車の後部ドアを開けた。首を傾げる。
「なんか広くないか? 錬金術の道具を使ってるのか?」
そうだと外に出てきたダイオンが返事をする。
「あまり驚いたふうに見えないな」
「錬金術が盛んな町が近いからな。たまに見ることがある。それでもただの旅人がこういった馬車を持っているのは珍しいが」
「いろいろと縁があって手に入ったんだ。それでなにか問題はあるか」
「ないな。もう少し待っててくれ、そうすれば荷物の積み込みが終わる。そのあとに馬車を入れてくれ。んで中にいる船員に書類を渡せば部屋とか仕事とかの話を聞かせてくれる」
「わかった」
船員はダイオンに書類を渡し、もといたところに戻り指示出しを再開する。
三十分ほどそこから周囲を見て時間を潰す。
昨日聞いたように砂船の下部は金属板でおおわれていた。長く使われているのか、砂との摩擦でできたらしい細かな傷が金属板には見える。船底は平らかな。水に浮かべる形と同じにするとバランスが悪いのかもしれない。
砂船から目を放すと、波止場で仕事の邪魔にならない位置に釣り竿を持った人がいる。
「シャーレ、竿を持った人がいるよ」
「本当ですね。釣れるんでしょうか」
二人で釣れるのかとじっと見ていたら、蛇っぽいものを釣りあげていた。
「おお、釣れた」
釣ったものを手慣れたように首を落として、首は砂へと蹴り捨てていた。屋台とかに出ていた肉は蛇もあったんだろうな。蛇は食べたことないし、向かう先にある町で食べてみよう。美味いとも聞くし、興味ある。
ほかに気になったのは一隻だけ一際騒がしい砂船があったことだ。なにかのトラブルだろうか。
シャーレが言うには誰かが乗り遅れていると聞こえたようだ。寝坊でもしたのかねぇ。
そうして乗船の時間が来た。船員の誘導でゆっくりと橋を移動して、船内に入る。ほかの馬車の誘導もするってことで、しばらくここで待ってくれと言われた。
駐車場は馬車が九台くらい置ける広さで、すぐそばに馬房がある。
合計で馬車が七台に、馬のみの旅人が二人入って、壁が上げられる。
「お待たせしました。今から馬などを馬房に移すので、馬車から放してください」
十代半ばくらいの船員が全員に指示を出す。
マプルイを馬車から放すと、まずは馬からの移動になり、その移動が終わり、俺たちもマプルイたちを指示に従って馬房に入れる。
「これから約七日間、馬たちは馬房のみで過ごすことになるので、ストレスが溜まります。それを解消してやるため、頻繁に世話をしてやってください。では次に部屋の鍵を渡すので、名前を呼ばれた方はこちらへ」
船員は予約した順に名前を読んでいき、俺たちも呼ばれる。
「水の魔法を使う方はこの場に残り、ほかの方は部屋へ移動してくださってかまいません。では解散」
手荷物を持った人たちがぞろぞろと移動していき、俺とシャーレとフロス以外は先に部屋に行ってもらう。
この場に残った水の魔法を使う者は俺たち以外に二人だ。
客が移動すると船員たちが、馬車の車輪を床に固定していく。それを邪魔しないように若い船員のところまで移動する。
「ではこれからあなたたちの仕事を説明します。といっても簡単ですけどね。指定した場所のタンクを毎日満タンにしてください。休憩などで一時的にタンクを離れるときは近くにいる船員にそのことを知らせてください。勝手に離れると仕事を放棄したとみなして、罰金が発生することもあります」
「急病でやむなく離れるときはどうしたら?」
三十歳くらいの男が聞く。
その場合は、船医の世話になるだろうから、そちらからフォローが入るということだった。
「ほかに質問はありませんね? では案内するのでついてきてください。最初はすぐそこです」
一分も歩かずに馬房近くにあった金属の箱に船員は触れる。トン単位で入りそうな貯水タンクだ。
「これがタンクです。そこのハシゴを上がって蓋を開けて、水を注いでください。ここの担当はパフナンさんです。ちょっと上がってみてください」
「あいよ」
質問をした男が短いハシゴを上がる。
「上部に重さを示す針があります。今は左端の青いところを指しているはずです。どうですか」
「ああ、言ったとおりだ」
「水を注ぐとその針が動いていき、右端の赤いところまでいったら満タンです」
わかったと言ってパフナンさんは水を注いでいく。
俺たちは次の場所に案内される。俺の仕事場は甲板に置かれたタンクで、フロスは三階のタンクだった。
案内した船員は仕事に戻ると言って、その場から離れていく。
「俺も早速やりますかね。シャーレ、少し待ってて」
ハシゴを上がって、蓋を開けて、水を勢いよく注ぐ。グングンと針が動いて行き、三十分ほどシャーレと話しながら周囲の風景を見ていると終わる。
「よっし終わった。あとは報告だったか」
少し離れたところで作業をしていた船員に声をかけて終わったと告げる。
「は? いやいや早すぎる。休憩をはさみながら三時間はかかる作業だぞ」
「でも針は赤い部分まで行ってますよ」
「確認させてもらう」
故障かとその船員は首を傾げハシゴを上がって、タンクの中身を見る。
「……本当に終わってんな。はー、たいしたもんだ」
「今日の仕事はこれで終わりなんですよね?」
「おう。と言いたいところだが、やれるならもう一仕事頼めるか?」
「大丈夫ですけど、どんなことです?」
「やることは同じだ。予備タンクに水を入れてもらう。タンクのどれかが壊れたときのためや船員がちょっと水を使いたいときのため、船員が水を入れるんだが、客にやってもらうこともあるんだ」
了承すると、まとめ役にこのことを報告するから一緒に来てくれと言われる。
まとめ役の船員にも今日の仕事が終わったことを驚かれたけど、確認した船員が証言してくれたので偽りと睨まれることもなかった。
そのまま確認した船員に連れられて、二階の船員たちの住居区画にあった予備タンクに水を入れる。
ここの作業も終わって、確認してもらい客室に向かう。このタイミングでコーンコーンと鐘の鳴る音が聞こえてきた。
「なんの音だろうね?」
「なんでしょうね」
二人で首を傾げていると、姿を消しているローズリットが出発の合図だろうと言う。
近くを通った船員が軽く揺れるので、念のためなにかに掴まってくださいと言ってくる。出発の合図で間違いなかったようだ。
シャーレと壁に移動して、壁に手を着く。すぐに振動が感じられた。その振動は続いているけど、大きく揺れることはないし歩いても大丈夫そうだ。
こけることはないだろうと部屋に向かう。取った部屋は四人部屋が二つだ。俺たちとコードルたち+レンシアで分かれている。
「今日の仕事は終わったよー」
「おかえり」
部屋に入ると本を読んでいたダイオンに出迎えられる。イリーナは暇そうにベッドに寝転がっていた。
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