101 ヤラハン入国
ゆっくりと休んだ温泉地から出発し、狩りをしながら強さなどの確認をして日々を過ごす。
俺も肉体スペックや使える魔法の確認などきちんと把握していった。肉体スペックは管理者の言った通りで、リザリガよりも少し上の魔物でも魔法を使わず楽に倒すことができた。
強さが上がっているおかげで本の方のローズリットの使い勝手も良くなっている。おかげで使える魔法も増えていっている。ただし使う機会はそうそうない。威力の高い攻撃魔法は、詠唱なく無尽蔵に放たれる初歩の魔法によって出番を潰されるのだ。しかも強化されたダイオンとシャーレがいるから、そういった魔法の出番すらなかったりする。
魔法の出番はむしろ戦闘よりも日常に多い。馬車での移動中、足場が悪ければマプルイの足元に空間魔法で透明な板をはり、夜は動物や魔物の接近を知らせるアラームの魔法を使い、風呂のお湯そのものの時間を遅くして冷めにくくしたり、集めた素材や食材の時間を遅くして保存期間を延ばしたりと活躍している。
おかげで快適な馬車暮らしができている。
そうしてそろそろ武具ができあがるという頃にバセルテルで武具を受け取り、微調整する。俺とダイオンは鎧、イリーナは籠手とレガースとサブウェポンの剣。シャーレは複合弓。フロスは胸当て。どれもきちんと仕上がっていた。
こういったことがあってヤラハンへと向かう時期が来る。
ラムヌもすっかり暖かくなっていて、コートも必要がない。高い山のてっぺんにのみ雪が少し見えるくらいに気温が上がっている。目に鮮やかな緑もそこかしこに見えて、そろそろこっちに来て一年なのだなとこの一年を懐かしむ。
ラムヌに来てうろついていた北部領地から南西にある領地に移動して、そこからヤラハンに入ることができる国境を目指す。
国境の町に来て、レンシアとはお別れかと思ったのだけど、俺たちが向こうに行く手続きするときに一緒に手続きしていた。
ダイオンたちと一緒に待ち合わせ場所にやってきたレンシアに帰らないのか聞く。
「バセルテルで領主様からの手紙を受け取ってね。廃棄領域に向かわせた文官の手伝いをしろと書かれていたのよ」
そこそこの付き合いもあって砕けた様子のレンシアが言う。失恋のショックからは抜け出している様子だ。ラブラブな恋人を見ると、食べる量が増えてしまうことはご愛敬というやつか。
「もう少し一緒なのか」
「さすがに廃棄領域の中まではついて行けないけどね。戦いに関しては役立たずだし」
「加護のおかげか地魔法は使いこなせてるし、役立たずってことはないんじゃない?」
「魔法に関してはあなたとシャーレがすごすぎて、役立ってる気がしないんだけど」
「壁を作って魔物の邪魔してるから十分だと思うよ」
ほかに風呂作りのとき穴を開けたり、調理時に炉を作ったりして日常的に役立っているし。
今のメンバー、火力は足りてるからサポートに回るのは間違いじゃない。
そうなのかしらと首を傾げているけど、ダイオンとかから控えててくれとも言われてないしな。邪魔ならそう伝えるだろう。
そもそも本業は文官なんだし、戦闘で役立つ必要もない。文官としての仕事がないから、少しでもやれることをやろうとしているんだろう。
こういったことを話しつつ砂漠を旅する準備を整えて、ヤラハンに入る。途端に小さく嫌な予感が感じられた。獣胎母の影響なんだろう。まだ遠いから小さく感じるだけですんでいるのか。
変化したのは気温もだ。アッツェンとはまた違った湿度を含まない暑さが感じられる。毛皮を着込んだ状態のマプルイは辛かろうと魔法で気温を下げる。馬車の方も少しだけ下げた。暑いけど耐えられないほどではない暑さだ。コードルたちが乗っている魔物はフロスが対処していたので魔法は使わなかった。
これまでの国のように、町には特定の種族が多いということはなかった。ヒューマ種、リアー種、ニール種が混ざって生活している。
傭兵も少し特徴がある。金属鎧姿の傭兵は少なく、白っぽい革鎧を身に着けた人が多かった。白なのはわかる。熱を吸収しないようにだろう。でも革鎧の理由はわからない。熱くなったり冷え切った金属鎧は危険だと聞いたことがあるし、それを避けているのかなと推測してみる。
そのまま馬車を降りずに、見物しつつゆっくり進んで町を出る。
ヤラハンは中央が砂の砂漠で、その外が礫砂漠や岩石砂漠、もっとも外縁が土の地面だそうだ。土の量は少なく、ほぼすべて畑に使っているといった状態らしい。町の外に出ると左右どこまでも畑のみという聞いたとおりの風景が広がっていた。前方に見える礫砂漠も広大というわけではないようで、ヤラハンのほとんどは砂が占めるということなんだろう。
流砂地帯があったり、常に砂嵐で荒れて近づきにくい場所があったりと、人が足を踏み入れにくい場所があるそうだ。一番の危険地帯は今から向かう廃棄領域らしいが。
このまま馬車で礫砂漠を進んで、三日目くらいの場所にある港から馬車ごと砂船に乗り込んで廃棄領域へというルートだ。
周囲は地球で写真で見たことのある礫砂漠の風景と同じだ。ほんの少しの草とあとは岩石と砂。道は整備されているけどたまに小石を踏んで馬車がガタンと揺れる。
俺たちのほかにも馬車はあって、この道を行くということは彼らも港目当てだろうか。
御者台から視線を上に向けるとペリウィンクルが砂漠の空を楽しんでいる。今のところは危険などないようだった。
俺が気になり近づいてきた姿を見せない小さな精霊たちも危険があれば教えてくれるはずだ。
肩に座るローズリットから魔法の授業を受けつつ手綱を握り、道を進む。
順調に進んで日が落ちる。野営で風呂を作ることにすっかりなれたレンシアやコードルたちはありがたそうだ。砂混じりの風を受けて砂まみれだったのだ。
先に女性陣が入っている。俺たちが風呂に入っている間に、夕食を作るという手筈だ。
俺たちは魔物の世話をしつつ、順番を待っている。
「今回の旅は快適で助かる」
「そうだな。前はフロスが水を出せるとはいえ、ここまで自由に水は使えなかった」
「シャーレの作る料理は美味いし、自由に水が使えるし、気候に耐え切れなくなったら涼しい馬車の中に避難もできる。ほかの馬車の奴らが知ったら絶対羨むぞ」
以前の旅との違いにコードルたちは本当に嬉しそうだ。
「水を気にしなくていいから、フロスも魔物たちに惜しみなく温度を保つ魔法を使ってやってるしな。おかげで旅の進みも早い」
「そんなに早い?」
「前は人も魔物も暑さでダウンしないようこまめに休憩を入れていたからね」
「何度か馬車を追い越しただろ? あっちが本来の速度だぞ」
そうだったのか。
「砂漠は過酷な場所ということを忘れないようにな。魔法が使えるからってのんきに構えているとその油断を突いて容赦なく牙をむく」
ヤラハンを旅したことのあるダイオンが警告してくる。
それにわかったと返し、マプルイの毛ときのため手を動かす。
女性陣が上がってきて、男たちが風呂に入る。念入りに砂を落としてさっぱりして上がると、そろそろ夕飯ができあがるといった時間だった。
夕食後、それぞれ思い思いに過ごす。シャーレとレンシアとフロスは残った風呂水で洗濯をして、イリーナと男性陣は鍛錬。俺はローズリットとのんびりしながら砂漠の夜の風景を楽しんでいた。
これといった問題なく港のある町に到着する。
砂地帯と岩石地帯の堺にある町で、規模はそこまで大きくはない。人が住むための町ではなく、都市と都市を繋ぐ場所だからか。人の通りは多いけど、留まる人は少ないから規模を大きくはしてないんだろう。
国境の町とは違い、様々なお香の香りが町を包んでいた。
「不快とは言わないけど、終始これはちょっと気になるな。なんでこんなになってるんだろ」
「体臭を誤魔化すのためのものだよ。水が貴重だから風呂に頻繁に入れない。軽くシャワーを浴びるくらいで、残る体臭は香水とかお香で誤魔化すそうだ」
ダイオンが教えてくれる。
昔のヨーロッパも似た理由で香水を使ってたんだっけ。国境の町では香りは普通だったけど、水が手に入りやすかったからか。
ひとまず馬車を預けて、砂船の乗船予約を取るため港に向かう。
以前砂船を使ったコードルたちに案内してもらって、乗船場のある区画に足を踏み入れる。
そこは海の港と同じように波止場があり、帆船が縦付けされていた。縦付けで側面から荷下ろしできるようにいくつも通路が飛び出している。櫛型波止場とでも言うんだろうか? 漁船サイズのものから大型までそろっている。大型といってもタンカーやクルーズ船といった規模のものはない。そこまでのものだと砂漠を進めないといった理由なんだろうか。あと船の形状はどれも同じだ。船首と船尾が同じ形。カヌーが大きくなったような感じというんだろうか。船尾にスクリューがついていないのは間違いない。
賑やかな波止場を眺めつつ、事務所に入る。
コードルたちがリアー種の受付嬢に話しかけて、書類に必要事項を書き込んでいく。水の魔法使いがいるということも話して、俺が呼ばれた。
「この二人が水の魔法を使える」
「では質を調べますので、コップに水を入れてください」
俺は小声で詠唱を使ったように見せる。詠唱付きで出すと質が高すぎるものが出るし、詠唱しないと騒がれるかもしれないので聞き取れないくらいの小声ということにしたのだ。
でもそれは心配無用だった。話を聞くと、質の高さを調べるのではなく低さを調べるということだった。飲むことができない水を提供する人への優遇をなくすための検査のようだった。検査は無事クリアで、契約として最低限どれくらいの量を提供するというものも結ぶ。提供する水が多いほど、乗船中のサービスの質があがるそうだ。
「出発はいつになさいますか? 明日出る砂船に乗ることもできますし、希望の日時でも大丈夫です。到着は七日後ですね」
「明日でいいかしら?」
フロスに聞かれて頷く。この港でやることは砂船に乗ること以外にないしね。
「では明日の昼過ぎに『プリンスヘイリー号』という船が出発しますので、それに乗船でよろしいですか」
「はい」
「再確認します。八名で馬車と騎乗用の魔物。明日出発で間違いありませんね?」
もう一度肯定すると、受付嬢は書類に書き込んでいく。もう一枚の書類に同じことを書き込み、二枚の書類にハンコを押した。
乗船費を求められ、俺とフロスとレンシアがお金をカウンターに置く。求められた金額は二名の水の魔法使いがいることで既に割引されていた。
受付嬢はお金を確認して、書類の一枚をこちらに渡してくる。
「その書類をなくさず、プリンスヘイリー号の船員に渡してください。なにかご質問はありますか?」
「港が騒がしかったようだが、なにか騒ぎでもあったのか?」
コードルが聞く。賑やかとは思ったけど、いつもああではないんだろうか。
「廃棄領域に大事なものを運ぶということで一時的に騒がしくなっていますね」
「そうか」
大事なものはなにか聞かずにコードルはあっさりと退いた。聞いても答えてくれないとわかっているんだろう。
感想と誤字指摘ありがとうございます
たまには話について
ラムヌ国終了、一番最初に決めたプロットだと神獣化とか影も形もなかったのに、書いてみると想像以上にパワーアップする国だった
原因は、アッツェン国でフーインと出会い一緒に行動したこと
すぐパーレ国に帰るのもつまらないし、もうちょっと滞在とか思って軽い気持ちでフーインを出したら、あれよあれよとアッツェン国一周とかやることに
おかげで珍品ショップルートが潰れて、神獣化ルートが生えた




