100 休暇と準備期間
床に就いて夢の中でローズリットにシャーレとダイオンの夢を繋げることができるか尋ねる。可能ということなので、早速繋いでもらった。
最初は自分の見ている夢だと思っていた二人も、ローズリットによっていろいろな場面に周囲の光景が変えられたことで、夢の中で意識がはっきりしている状態と理解してくれた。
「どうして夢を繋いだんですか、主様」
「あとイリーナがいない理由もだな」
「二人にだけ話しておこうと思ったことがあるから。イリーナはまだそこまで信じてないというか、二人と違ってどこまでもついてくるっていう確信が持てないし」
仲間としては信じているけど、心底信頼できるかというとそうでもない。そこまで信じられるのなら誓約の魔法は解いている。
二人はそうかもしれないと理解を示してくれた。
「それで話したいことは?」
「神との会話を再現するから、それを見て」
映画館のような舞台に夢を変えて、スクリーンに大精霊たちから加護をもらったときの夢を映す。
二人は初めて見る管理者を珍しそうにしていたけど、神獣化で心底驚いていた。
このままシャーレについての会話も流そうと思ったけど、ライクだのラブだのが恥ずかしかったのでやめた。世界の敵認定も教えるには重かったし。
「見てもらったように、いつか神獣になるってことを伝えておこうと思ったんだよ」
二人はなにも言えずにこちらを見ている。
「……本当なんですか?」
「神が嘘を吐いてなかったら」
「い、いつ神獣になるんだ?」
それは俺にはわからないんだけど、ローズリットはどうなんだろう。
「十年二十年は大丈夫だと思うわ。それ以上はリョウジ自身の成長もあってわからないわね。百年後には確実になってるでしょうけど」
「百年後とか人間なら死んでる頃だし、変化してそうだってのは俺自身もわかる。仲間で生きてるのはシャーレくらいだろ」
「私もですか?」
「今のシャーレは精霊でもあるから、それくらいは生きる」
「主様と長くいられるのは嬉しいです」
本当に嬉しそうに笑顔を浮かべている。半ば人間じゃなくなっていると突きつけたのに、変化を恐れることもよりも長く一緒にいることを喜んでくれるのか、俺にはもったない子だよ。
「俺はそこまで生きられないが、できるだけ一緒にいよう」
「ありがとう。これまでも頼りにしていたけど、今後も頼りにしている」
「ああ、誓いにかけて期待に応えてみせよう」
「ついでだしヤラハンについての会話も見せようか。ローズリット、お願い」
いいわよと答えたローズリットが手を振ると、スクリーンにまた映像が映る。
この映像が終わると、火の大精霊に会いにいったときやアッツェンの神獣と話したことなど、二人が近くにいなかったときの映像を見たいというので映していった。
朝が来て起きると少しの気怠さがあった。そりゃ寝ていても意識はずっとはっきりしていたから精神的な疲れは取れにくいよね。シャーレもダイオンも似たような感じで、イリーナとレンシアが不思議そうにしていた。
村を出発し、領都に着くと、以前泊まっていた宿に向かう。そこでコードルたちと待ち合わせしているのだ。
「私は城に行きます。ここまでお世話になりました。またいつか会いましょう」
「またいつか」
そう返すと笑みを浮かべ、城へと歩いていった。
コードルたちは宿にいるかなと思いつつ、カウンターにいる従業員に話しかける。
◇
亮二たちと別れたレンシアはいまだ失恋のショックはあるものの、いつまでもへこんでいられないと考えつつ城に入り、領主の執務室に向かう。今日は謁見の客が少なかったか、執務室に領主がいた。
「ただいま帰りました。先に領都に戻ってきたコードル殿たちから報告書は受け取りましたか?」
「おかえり。受け取ったよ。無事バセルテルが再稼働したことは喜ばしいが、信じがたい話を二つ聞いたんだが」
「あ、そっちも話したんですね」
困惑の領主を見て、ヤラハンとシートビのことだと内容の予想がついたレンシアは仕方ないと頷く。レンシアも本当のことか今も測りかねているのだから。残党については知らないが、魔獣教団ならばやりかねないと思うのも事実だ。
「領主様は残党とやらについてなにか知っていますか?」
「アッツェンを荒した者たちがいて、その残りがそう呼ばれていると知っている。そしてそれらがアッツェンから各地へ出て行ったと連絡がきたことがある」
「出て行った者がヤラハンで魔獣教団と合流ですか」
ヤラハンではなく、ほかの場所で出会った可能性もあるが、ヤラハンで暴れるということにかわりない。
「その可能性はあるな。世界規模で混乱が起こるというのは言いすぎだとしても、廃棄領域の町が潰れるのは痛い。あそこが錬金術で生み出す物や技術は我らを支えるものになっているし、この先も有益なものが生まれてくるだろう。警告を促す文を出した方がいいな。リョウジ殿たちがいきなり行って伝えるよりも、多少の効果が望めよう」
他国の代表の一人からの手紙に事実だと信じさせるほどの効果がないとは領主自身もわかっている。それでも一般人が知らせるよりはましだろうと思うのだ。
「ヤラハンにいる精霊が廃棄領域の町の住人に知らせてくれるのが一番なのだがな。精霊を魔物の材料にしているって話だから、報復目的で人間に協力してくれないものか」
「そうですね。そうしてくれるとリョウジさんたちも楽に動けるかと」
「廃棄領域の人間に精霊と交渉してみるよう手紙に書いておくか」
手紙に書くことを領主は頭の中でまとめていく。
「んで、廃棄領域が終わったら次はシートビの魔獣か。規模は廃棄領域の件よりは小さいとはいえ、放置もできん。今はヒューマの都市だけだが、リアー種ニール種の都市にまで支配を広めるようなことになれば厄介でしかない。一国を支配したノウハウを使い、他国もまた同じようなことになるかもしれん」
「どうするか決めているのですか?」
「副団長とやらに今から接触してみようと思っている。アッツェン王にもこのことを知らせるつもりだ」
接触して事実を確かめる。本当ならば支援はする。
ただし国境があり、さらにアッツェン国をまたいでいるので兵を送るのは困難だ。やれることは少数の実力者を送り出すことと資金援助になるだろう。
「ほかの領主にも情報を流して、一度集まって話し合わなければな。忙しくなる」
「私も微力ながらお手伝いさせていただきます」
「お前は疲れているだろう? どことなく元気がないように見えるからな。バセルテルの件が無事終わったことだし、休暇を何日かやろう。昨日も会っただろうが、また彼氏に会いに行ってくるといい」
地雷を踏んだ領主は笑顔で固まったレンシアを不思議そうに見る。
「……した」
「どうした?」
「……れました」
もしかすると駄目な話題だったかと思いつつ再度促す。
「もう少し大きな声で頼む」
「振られたんですぅ! 婚約者ができていましたぁ!」
領主のみならず、一緒にいた部下たちもあちゃーと手を顔に当てた。
レンシアは子供のようにわんわんと泣き始める。
「仮面で正体を隠して、演技している奴は無理だって! 正体を隠さずに会いに行けば受け入れてくれたって! 照れなんかで変装しなければよかったー!」
「ずっと正体隠していたのか。誰だって怪しむってわかるだろうに」
「だってー」
「与える休暇で仮面騎士が暴れまくりそうだな」
「それが原因で振られたのに、変装する気は湧かないもん!」
そりゃそうだなと領主は思い、どうすればレンシアの気が紛れるかと考え始める。仕事を与えて、失恋について考えさせないようにするかと決めた。休暇は取り消しだ。
「そんな状態ならろくな休暇にはならんだろう。仕事を与えるからそっちを頑張れ」
「なにを、すればいいんですかぁ」
レンシアは鼻をすすりながら聞き返す。
「あー……そうだな。リョウジ殿たちにつけ。国内でなにをしたか記録して、同行する際には多少の便宜を図ってやれ」
亮二たちを重要人物だと考え、動向を知りたいのも事実だった。亮二たちはまたバセルテルに行くだろうし、ほかのところにも足を延ばすかもしれない。レンシアにとっては旅行にもなって気分転換できるだろうと思ったのだ。
「あとでその旨を書いた手紙を渡すから、旅の準備をまた整えて部屋で休んでろ。部下に手紙をお前の部屋まで届けさせる。その手紙をお前が彼らに届けるように」
手紙を持って行かせるついでに、亮二たちにまた登城してもらいたいことも伝えてもらうことにする。
「わかりました」
レンシアがとぼとぼと出て行くと、執務室にほっとした雰囲気が漂った。
「振られていたとはなぁ。彼の周辺調査が無駄になったか」
「領主様はレンシア様をその者に嫁がせるつもりだったので?」
「候補の一人ではあったよ。ほかには領内の有望株をどうかと思っていたな」
本人に希望がなければ政治的に利用させてもらうつもりだったが、好意を向けた相手がいたので、その方針は考えていなかった。
レンシアは死んだ弟の残した子だ。弟には生前に助けられたこともあって、レンシアに望む結婚をさせてやることが恩返しになるだろうと思っていた。
「あの子が二十歳までに結婚する様子がなければ、こっちで進めるか」
「相手はいかがなさいますか」
「ろくでなしは除外だ」
承知いたしましたと部下は頷いて、手元の書類に視線を戻す。領主も仕事を再開し、それにひと段落ついたら、亮二たちへの手紙を書くことにする。
◇
宿を取り、そのときに待ち合わせしていると従業員に言ってコードルたちを呼んでもらう。
部屋の鍵を受け取って、少しその場で待っているとコードルたちがホールにやってきた。
部屋に戻りながら、領主に報告するときなにを話したのか聞いていく。
報告書を渡して、ヤラハンとシートビについても話した。んでその件はまた後日俺たちも交えて詳細を聞きたいと言っていたのか。話し合いは城であるんだろうし、ダイオンに任せよう。
コードルたちの話が終わり、こっちも無事呪いが解けたことを話し、ダイオンが祝われていた。
話が一通り終わって、部屋の窓を開けて、入ってきたペリウィンクルをかまいながらのんびりと過ごし、夕食後にレンシアがやってきた。
「こんばんは」
「こんばんは。なにか用事でもあるの?」
ずいぶん早い再会だったな。
「領主様がこれをあなたたちにと。あと明日の朝に登城してくれと領主様が言っていたわ」
手紙ね。開かずダイオンに渡す。
受け取ったものをダイオンが開いて読み始める。
「この国にいる間はレンシアを連れて行ってくれというものだな。旅費のいくらかを領主が負担するとも書かれている」
返された手紙に目を通す。文章の最後に失恋の気晴らしになるから頼むと書かれていた。ま、まあ気晴らしになるなら仕方ないよね。
手紙を気にしているシャーレにも渡して、了承したことをレンシアに伝える。
「領都はいつ出ますか? そしてどこに行きますか?」
「とりあえずバセルテルに向かうつもり。作ってもらっているものの調整が必要かもしれないし。その後は人が少ないところか、温泉にでも浸かって忙しくなる前に体を休めようかな」
「人が少ないところに行くのはどうしてだ?」
ダイオンが聞いてくる。
「シャーレの本気を一度見ておきたいなって。人の多いところでやったらあかんことになるだろうし」
「たしかにどれくらいやれるのかは確かめておきたいな」
「だったら秘湯の情報がないか城で探してきましょう。人の少ない温泉地なら、両方の条件を満たせますし。この領内でできるだけ魔物が強くない場所でいいですね。なにかトラブルがあれば領主様の権限で対処できますし、魔法に驚いた魔物が暴れて被害が広がることもありませんし」
「お願いします」
いくつか条件がついて探すの大変だろうに、レンシアはお任せくださいと請け負って帰っていった。
翌日、登城したダイオンたちと一緒に旅支度を整えたレンシアが戻ってきて、条件にあった温泉地を見つけ出していた。
ダイオンたちが出ている間に補充などはすませていたため、昼食後に領都を出発する。最初の目的地であるバセルテルで武具の確認をして、職人たちによろしく頼んだあと、バセルテルから南西にある山中の温泉地へと向かう。
その温泉地でもいくつか出来事があった。家族風呂の予約を嬉々として取るシャーレたちに、フロスとレンシアが驚くのはまだおとなしい方だった。
仮面騎士でのストレス解消を控えたことで、食道楽にはしったレンシアの体重が増えたことも、本人には悪いが笑ってしまうことだった。ダイエットの運動には付き合ったんで許してほしい。
驚いたのは、俺を優先するダイオンに独占欲をこじらせてイリーナがダイオンを押し倒したこと。
夜中に騒がしいので部屋を覗いたら、酔った感じのイリーナに馬乗りされたダイオンが押し相撲のごとく抵抗していた。情事ならもっと色気があるだろうから、違うと判断し何事か尋ねると俺から取り返すのだと言われて戸惑った。別にイリーナから取り上げたつもりはないし、そもそもイリーナのものでもないだろうと、ダイオンとシャーレも加えて説教し、力尽くは駄目だと納得させた。二人の恋愛にまで干渉はしないからもっとおとなしくやれと言ってあとは放置だ。
その後、イリーナが特に落ち込んだ様子はなかったんで、ダイオンが上手く対処したんだろう。
ほかにはシャーレの魔法が神の行いだと勘違いされた。
温泉のある山中の村から山頂へと移動し、そこで魔法を使おうとしたらタイミング悪く、魔物と遭遇したのだ。見た目は始祖鳥っぽい魔物で、ワゴン車なら軽く掴んで持っていけそうだった。こっちに襲いかかってきたので、精霊としての姿を取ったシャーレの魔法で対応し、それが一撃で消し飛んだ。その一撃はまっすぐ天に昇る炎の柱で、雲に届き蒸発させた。火柱はバスくらいなら軽く飲み込む範囲で、地面は黒く焼け焦げていた。
村からもこの炎の柱と魔物は見えていて、村に襲いかかる魔物を神が撃退してくれたと思ったようだった。俺たちが山頂に向かったのは知っていたけど、あんな炎は人間が起こせるものではないと判断したらしい。最初神が助けてくれてよかったなと言ってくる村人がなにを言っているのかわからなかったけど、情報を集めて誤解を解かずそのままにしておこうということになり、この村には神が起こした火柱が言い伝えられていくことになったようだ。
感想と誤字指摘ありがとうございます




