1 生き返り準備
新しい連載始めましたよろしくお願いします
<斎藤亮二は死んだ。
死因は病気や事件ではない、ドラマやアニメなどに出てきそうな死因だった。
大学が休みで急に入ってきたバイトの帰り、亮二が夕暮れの道路を歩いていると、公園で遊んでいた小学一年生くらいの少年がボールを追いかけて道路へと飛び出た。タイミング悪く走ってくるトラックがあり、それを見た途端亮二の体は動いていた。
迫るトラックを見て動きを止めた少年を突き飛ばし、その場に倒れこんでスローモーションで迫るトラックを見ながら亮二は自分自身になにやってるんだかとガラでもないことをやったと呆れ、強い衝撃と痛みを感じて意識を飛ばす。それを見ていた周囲の人間が救急車を呼ぶ。強く頭を打った亮二は救急車で運ばれたものの、そのまま死んでしまう。
もうじき二十歳になるという夏の日の出来事だった。>
「とまあ、こんな感じだったみたいだ」
管理者と名乗ったなにやらすごい感じの男が、俺の魂に残る記憶とやらを空中に投影して説明してくれた。
神々しいとはこういったことを言うんだなと魂で理解できるくらい、目の前の存在は存在感が人間とはかけ離れていた。
こうやって動画のようにして教えてもらえたら、ああそうだったと死因を思い出せる。いやほんと善人ってわけでもないのに、命がけで子供を助けるとかよくやったわ。
命をかけたんだから、あの子供には今後腐ることなくまっとうに生きてほしい。偉い人になれとは言わないから、人生を悔いなく生きてくれ。
「で、死んだあとは肉体から離れた魂が、あの世という魂を管理するところへ行くはずだったんだ。だけどなんの偶然か空間に入った亀裂に魂が吸い込まれて、異空間を泳いで、ここに繋がる亀裂にまた吸い込まれ、ここにたどり着いたってわけだな。納得できた?」
「まあ、なんとなく」
ふと気づいたらたくさんのモニターがある空間にいて、どこだここはと思っている俺に管理者が気づいた。あっちも驚いたようでどこからやってきたのか尋ねられたが、答えることなんてできるわけもなく、管理者が調べてみようと提案し、わけがわからないままに俺も頷いた。
そして記憶の再現が行われて状況が把握できたのだった。
死んだっていうのはすぐに納得できた。だって自分の体に触れられないで意識のみって状況だ。夢の可能性もあるけど、そうじゃないとなんとなくわかる。すでに死んでいる状態だからなのか、恐怖とか混乱はなかったな。当たり前のように受け入れた。そうなるよう管理者がなにかしたかもしれないけど。
「俺はどうなるんだろう」
「向こうに帰すのはできないね。空間の亀裂が残っていれば確実に帰せるんだけど、亀裂はなくなっていたよ。だからこっちのあの世に相当する場所に放り込む」
「そっかー。それって苦しい?」
管理者は首を横に振る。
苦しむことはないみたいで安心した。
「じゃあお願いします」
「その前に一つこっちの提案を聞かないかい」
なんだろう? 俺にできそうなことはこの人ならできるだろうし、わざわざ頼まなくてもいいと思うけど。
「その魂を調べさせてほしい。報酬はサービス付きの生き返りだ」
「生き返りって、そんなことできないっしょ」
「君そのままを生き返らせることはできないね。でも君にそっくりな肉体を創って、そこに君を入れて疑似的な復活は可能なんだ。副作用もない」
「できちゃうのか。その提案は魅力的なんだけど、魂を調べるって具体的にどんなことをやるのさ。痛いとか苦しいとかは勘弁」
死に際を思い出して、あのときの痛みも全部ではないけど思い出した。あんな痛みをまた感じろってのは嫌だな。
「大丈夫。眠らせている間に調べるから。気持ち悪さは生じるけど、眠ってて気にならない」
「ほんとに?」
「ほんとほんと。何度かこういったことはやってるけど、不満がでたことはない」
「じゃあいいかな。でもなにを調べたいんだ?」
「いろいろだね。異世界からの魂なんて初めてだ。こっちの魂との違いを調べて、良いところは取り入れたい」
魂に違いなんてあるのかねぇ。そこらへんはさっぱりなんで、説明されてもわからないだろうから聞かないでおこう。
どうぞと管理者に了承を告げると、管理者は光のようなものを俺の全身に注ぐ。それがあまりに心地よくて意識がすぐに落ちていった。
「うん、眠ったね。念のため触れてっと……反応なし、大丈夫だ。じゃあいよいよ調査開始だ。よその管理者が作った魂を調べる機会なんてそうそうないから楽しみだ」
意識が浮き上がる。心地よい眠りから覚める。もう少し寝ていたいけど、起きろと呼ぶ声がする。
起きると目の前に管理者がいた。
「やあ、気分はどうだい」
「清々しい目覚めだ。気持ち悪さとかないけど、本当に調べたの?」
「たっぷりと時間をかけたよ」
どれくらい時間をかけたんだろうか。俺の意識的には一時間もすぎていないんだけど。
聞いてみると、五十年という返事が返ってきた。
思った以上の時間の流れに、さすがに驚く。俺が生きていた年数よりも長い時間を調べられるとは思っていなかった。なにをそんなに時間かけたのか。
「魂の調査と並行して、君の世界についての記憶を見ていたらさ、ドラマとか漫画とかが面白くてねぇ。繰り返し見てたりした。ほかの仕事もあったし、思ったより時間がかかったよ」
「……そうなんだ」
そうとしか言えない。面白いものを繰り返し見るってのは俺もやったことがあるからわかるけど、俺の記憶を見てそれをやられるのはなんともいえない。
「それだけ時間をかければ体の方もできてるよ。最終調整をしたら入れられる。なにかこういったものが欲しいという望みはある? 超能力とか無双できる強さとか設定できる。ただし一つだけね。あれこれとは入れられない。肉体的にも魂的にも無理があるから」
管理者は言いながら俺そっくりな死んだ年齢時の肉体を出現させる。
「欲しいものかー……」
強さとか憧れるなぁ。誰よりも速く、誰よりも強く。ビルからビルへと飛び回るとかやってみたい。両手から光線を放つとかも憧れる。
悩む……あ、そういやこっちがどういったところなのか知らないな。平和な時代に無双の強さとかあまり役立たないだろうし、聞いてから決めよう。
管理者のいる世界はどういったふうなのか尋ねる。
「うちの世界かい。そうだね、君にわかりやすく言うならファンタジー。銃器はなくて剣や弓や魔法が主流で、人間以外の種族もいて、魔獣や魔物っていう危険な生物もいる。肉体に一般的な知識を入れてあるから、詳しいことは生き返ったらわかる」
「ファンタジーかー」
それならある程度の強さは必要っぽいな。せっかく生き返ったのに魔物にやられて終わりは嫌だし。
「あ、そうそう。肉体の強さなんだけど、下級の魔物を蹴散らせる程度のものはある。魔物の強さは最下級のもので、大人一人で楽に倒せる強さだ。十歳くらいの子供だと怪我を覚悟してなんとかってとこか。俺が肉体を創ると手を抜いてもそれくらいにはなっちゃうんだよ」
「最初からある程度は強いんだ」
これはラッキーだ。魔物に追われても逃げることができるってことだろう。
「だな。でもどんな攻撃をしてくるかわからないと、最下級にも負けることがあるから注意は必要だ」
そう言われると知識系統の願いもしたくなる。
いろいろ考えて、地球にいた頃はどんなものがほしかったかという方向に考えが流れていく。
小さい頃は漫画などのキャラの真似していたっけ。どんどん成長していくにつれてそういったことをしなくなって、恋愛に興味が出たりして、大学受験にてんてこまいして、大学に入った。そして初めてのバイトをして……うげ、嫌なことを思い出した。
バイト先に嫌な先輩がいたんだよなぁ。人生でトップに入る嫌な出会いだった。説明がいい加減で面倒な仕事やミスを押し付けてきて、そのせいでバイトをやめるはめになった。その次にやり始めたファミレスのバイトは、そういった先輩がいなくて働きやすかった。
うん、決めた。せっかく生き返れるんだから、良い出会いをしたいし、嫌な人は避けたい。強くなっても嫌な人と関わるようになったら生きにくいだろう。
「縁がほしい。良い出会いをしやすくなって、悪い出会いは避けやすくなるってな感じで。これは大丈夫?」
強さとかわかりやすいものではないけどと不安に思っていたら、管理者は頷いた。
「運命関連の設定だな。問題ない。魂と肉体をなじませるのに。十年くらい時間かかる。時間がきたら、俺を祀る祠に出現させるぞ。近くに村か町があるだろうから旅人を名乗って入るといい。旅に必要なものも一緒に出現させる」
「わかった。いろいろとありがとう」
これだけ事前準備をしてもらえたら、平穏に楽しく過ごせそうだ。
「礼は必要ないさ。報酬だからな。あっとそうだ言い忘れた。もう一つ頼みがあるんだ」
「無茶なものじゃないことを願うよ」
「たまにどこへ行ってほしいと頼むことがある。行くだけでなにをしろとは言わない。そこに行って十日くらい滞在してくれればいい」
「どうしてそんなことを?」
「世界にはいろいろな流れがあって、たまに淀むことがあるんだ。君をそこに行かせることで、君を通じて淀みを晴らす。ここからでも淀みを晴らすことはやれるけど、俺に関係した存在が直接行った方が効率はいいんだ」
「危ない場所に行けって言われることは?」
「言う可能性はあるが、この世界に慣れたときに言うだろうな。そういった時期なら、危険な場所の片隅で安全を確保して滞在といったこともできるようになっているはずだ」
それならいいかな。いろいろと不慣れな時期に行けと言われるよりましだ。
頷くとありがとうと礼を言われた。そして俺と肉体がどんどん近寄っていく。すぐに一体化して、また眠りに落ちる。
「魂体融合開始。終了後に転移設定。物資転送も一緒に設定っと。これでよし。一仕事終えたし、コピーした記憶で漫画読むかな」
三週間くらいは毎日投稿できると思います