0060 セクスエルム・シスターズの家
「冒険者パーティー、セクスエルム・シスターズの家へようこそ!」
その声で俺はスイカップから視線を引き剥がして彼女の顔を見る。
あぁ、美しい。想像以上、期待以上だ。
頭の後ろ半分を覆うヴェールから薄紅色で少しクセのある髪が胸元までこぼれていた。
控えめな鼻と口により聖職者らしい慎ましさを感じさせるが、パープルアイの両眼は意志の強さと知性の光を宿しており、見る者に一種の緊張感を与える。
あの目で睨まれながら揉み揉みしたいなぁ。ムフフ
「この方が婿となられるアレー・ド・イクゾー様です」
ハッ、またスイカップ・ファンタジーに没頭してしまってた。
気づいたら村長が俺の着替えと手土産の酒を持って隣に立ってたわ。
「ド・イクゾー様ってことは貴族様なの!?」
「まぁ」
「ギルマスも意外にやるじゃない」
「詐称疑惑ゥゥゥ」
「正真正銘、東の島国ジャパンの貴族なんですなぁこれが。皆さんどうか丁重にもてなしのほどよろしくです」
ありゃ、先に貴族として紹介されてしまったな。
もうこの設定で突き進むしかないか。
「荒井戸幾蔵です。どうか宜しくお願いします」
「はい、こちらこそ宜しくお願い致しますわ。ワタクシたちセクスエルム・シスターズは、お婿殿のことを心より歓迎します!」
「アトレバテスの司祭様は、アレー様がこの家に婿入りするのは天意によるものだと保証されたそうですよ。こりゃあもう新婚生活は必ず上手くいくこと間違いなしです、はい」
「ワタクシも主の思し召しを感じますわ」
「天の配剤で貴族様が婿入りなんてスゴイことになってる・・・」
「フーン、まぁ犯罪者の婿が天意じゃなくて良かったわ」
「話がうますぎると思いますケドね」
美貌のスイカップ以外は半信半疑って感じか。
だが、特に俺への拒否反応はないみたいで安心した。
「エマ殿、それでは確かに約束のお婿様をお届しましたですよ」
ほぅ、俺の嫁の名はエマか。良い響きだ。
「ええ、本当にありがとうございました。これで契約成立ですわ」
「じゃあ邪魔者のあたしは失礼させていただきやす」
村長が大仕事をやり遂げた様な満足感まる出しの顔で俺に別れを告げた。
「お、おぃ、もう帰るのか? 少しぐらい上がっていってもいいだろ?」
いきなり女だらけの家に一人で乗り込むなんて童貞の俺には荷が重すぎる。
今さらながらその事実に気付いた。己の童貞力をすっかり忘れてたわ。
だからせめて場が温まるまで一緒にいてくれないか!
「それはできかねますです。アレー様のお国ではどうか知りやせんが、ここセクスランド王国の民にとって家とは聖域なんですなぁ。だもんで家に招待するのは親族かよほど親しい者だけでして。そんなわけで、あたしはこの家に入ることはできませんです、はい」
「そうなのか、では仕方ないな」
文化や習慣を持ち出されたら何も言えんわ。
この辺は今後のためにも早く学習せんといかんな。
「エマ殿、これはお婿様の着替えと土産のブランデーです。今日は皆さんにとって門出の日ですからねぇ、少しぐらい酔ってハメを外しても罰は当たらんでしょう」
そう言って町長は意味ありげな視線をエマさんに送る。
「その通りですわ。お心遣い有難く頂戴致します。レイラ、お願いしますね」
エマさんの後ろに控えていた長身の女がヌッと前に出て着替えとブランデーを受け取った。
直ぐそばに来ると彼女のデカさを文字通り痛感した。
首が痛むからだ。つまり、見上げるほどデカい。
きっと女戦士だな。ビキニアーマーじゃなく普通の私服なのが残念だ。
「それでは、お婿殿の住処となるこの家へお入りください」
エマさんが扉を開けて家の中へ招き入れてくれる。
町長に別れを言おうと後ろを振り返ると、両手で合掌する中年男の姿があった。
まるで人身御供に申し訳ないと謝罪するかのような祈りのポーズだ。
何も言えなくなった俺は目で別れを告げると女冒険者たちの巣へ乗り込んだ。
玄関に入ると床にはドアマットが敷かれていた。
そして右手側には大きな姿見が置いてある。
その鏡に映った自分の全身像を見て驚く。
本当に若い。そして細い。ついでに少し小さい。
天使が若返らせてくれると言ってはいたが、20代半ばで成長が止まった頃のことだと思ってた。でもこれは15歳頃の俺だろ。
たしか身体測定で164.5cmだった筈だ。四捨五入して165、更に四捨五入して170cmだと冗談を言ってた記憶があるから今でも憶えている。醜い脂肪が全て消えたのは有難いが線が細くて頼りなさがにじみ出てるな。
だがまぁその辺は全裸で噴水前に立たされた時に大体分かってた。
しかし、このいかにも子供ですという童顔は気付かんかったわ。
俺って子供の頃こんなピュアな顔をしてたっけ?
あぁ、きっと天使が顔もちょい弄ったんだな。
ホントこんなガキに偉そうな口をきかれても我慢して対応してくれた署長さんたちには改めて感謝だわ。
何だかもう偉そうにしていた自分が無性に恥ずかしくなる・・・
「どうかされましたか?」
「いや、俺の、いえ、僕の姿が痩せ細っていたので驚きました」
「これからはワタクシたちが決して苦労はさせませんわ!」
適当に誤魔化したらエマさんが勘違いしてしまった。ゴメンよ。
玄関から少し歩くと吹き抜けのリビングがあった。
勧められるがままに俺はソファーに腰を下ろす。
「ささやかですが歓迎会を用意をしております。料理を温め直しますので少しの間ここでお休み下さいませ」
エマさんはニッコリ微笑んでそう言うと左側のドアの中へ皆と入っていった。
ポツンと一人残されてしまったが逆に有難い。
今後の対応を考える時間的余裕ができた。
町長の話では、誰が俺を婿にするか彼女たちが決めるらしい。
つまり、あのスイカップを我が物にするためには、まずエマさんに好かれないとダメだ。逆に他の女たちには嫌われるべきか・・・いやそれはまだ早計だろう。
それからこの家には6人の女冒険者がいるはずだ。
今いるのは4人、残りの2人はどうした?
現時点ではエマさん推しだが全員をよく知ってから狙いを定めるべきか。
とはいえ、あのスイカップに勝てる女がそうそういるとは思えんよなぁ。
「・・・本当に凄く大きいよな・・・デュフフ」
「何が凄いんですか? もしかして私のことですか?」