0480 ギルド改革その2 エマニュウエル道場
「イクゾー! お前、新入りなんだからキビキビ動けよ!」
昼間に『ウェラウニの笛吹き男』が爆誕し、夜にヴィンヴィンが入室を拒否した翌日、3月11日の土曜日の午前。
俺はレイラちゃんの三等冒険師昇格試験を兼ねたクエストにまた同行していた。
といっても、今回は見物人ではない。助手として来ている。
つまり、今日は俺の冒険者デビューだった。
ド素人の新人なのでルークごときに偉そうなことを言われても無視はできぬ。
そんなわけで、魔獣に対して果敢に攻撃しなれけばならないのだ。
「カバディ、カバディ、カバディ、カバディイイイヤァァアッー!」
こちらに逃げてきたフカヤミンクを全力で威嚇した。
鬼気迫る俺に恐れをなした黒毛の魔獣はレイラちゃんと戦う仲間たちの方へ向かった。いや分かってるさ。俺じゃなく背後の女忍者を恐れたことは。
だが今はこうして余計なことを考えず体を動かしてるだけでいい。
昨夜にフラれてしまったヴィンヴィンのことを忘れていられる・・・
「おいエロ助、貴様ヴィーと何があった?」
だから今は忘れさせてくれよん!
しかし、自称禍を呼ぶ女は追及の手を緩めない。
「今朝はメシにも現れず部屋から出てこなかったではないか。昨晩、お前とひと悶着あったことは分かっているのだぞ」
くっ、さすがパーティーの情報収集担当だけはある。バレバレだ。
「必ず何とかする。でも今はそっとしておいてくれ、ピー助」
「誰がピー助だ、このエロ助め、早く手を打って修復しろ」
「そのことだが、俺がヴィンヴィンと仲違いするのは、エマ推しのお前にとってはむしろ好都合じゃないか?」
「それとこれは別の問題だ。ヴィーはエマ様にもパーティーにも必要な戦力だからな。腑抜けた状態でいられると困るのだ」
へぇ、ツンドラ魔導師を嫌ってるくせに評価はちゃんとしてるのか。
その冷静さやプライドがこの女の長所で魅力だな。
「了解した。可及的速やかに手を打とう」
とは言ったものの解決策がまったく思い浮かばん。マジどうしよう・・・
「うむ、そうしろ。それから逆にティアは上機嫌だったが何があった?」
俺の魔力てんこ盛りのエキスを摂取してハイになってる、とは言えん。
「知らん。きっと俺がヴィンヴィンにフラれたのが愉快痛快なんじゃないか」
「まったく、パーティーの監督だというのにしょうがない奴だ」
お前もパーティーの一員として今はレイラちゃんのクエストに集中しろ。
三等冒険師昇格へリーチをかけられる大事な一戦なんだぞ。
「肝心のレイラちゃんの調子はどうなんだ?」
「ふむ、バランス感覚が少し向上したようだ。崩れた体勢での攻撃や防御に改善がみられる。お前のおかしな特訓も効果があったみたいだな」
そうだろう、そうだろう。
隙あらばバランスボードで鍛えてもらったからな。
何度も裏庭の土を舐めながら精進したレイラちゃんも偉い。
しかし、この異世界に来て初めて現代知識チートが役に立ったな。感無量だ。
「あのバランスボードを量産させて、若い冒険者たちも特訓させようと思う」
「悪くない考えだが、時間や場所が問題だな」
「場所はともかく、金が無い駆け出しは仕事と生活に追われて、特訓なんてしてるヒマはないってことか」
「そうだ。だいたい冒険者を特訓するギルドなんて聞いたことがない」
誰もやってないからこそ勝機が眠ってるんじゃないか。
「だが俺はやる! 金と場所を与えてでも冒険者を鍛えて精鋭を揃える」
「ほぅ、ウェラウニのギルドを弱小から強豪へ改革する策の一つということか」
「そうだ。冒険者登録名簿の体力測定データで有望な若者をピックアップし、俺たちが考案する特訓をさせて効率的に鍛えるんだ」
「面白そうだな。具体的な計画はできているのか?」
「ザックリとだがな」
「聞かせてもらおう」
いや、マジでザックリなんでそんな真剣な目をされても困るんだが・・・
ま、しゃーない。話しながら考えるか。こいつの意見も聞きたいしな。
「まず、エマ道場を建てる」
「エマ道場ォオオ!?」
凄い喰い付きかただな。
分かっちゃいたが、掴みは完璧にOKだ。
これで少々の瑕疵には目をつぶってくれるだろう。
「俺たちの家の近くの空き地に特訓用の道場を建設する」
「それがエマ道場ということは・・・」
「そうだ。エマが将来有望な若手冒険者を支援するという形をとる」
「なるほどな。エマ様の名声を高めるのが目的か」
「派手な美談にしよう。落成式には新聞社も読んで大いに宣伝してもらう」
「うむ。異論は無い」ニヤニヤ
何だかメッチャ嬉しいそうだな。そんなにエマが好きか。ちょっと嫉妬するわ。
「もちろん、集めるのは潜在能力が高くて良識のある者だけだ」
「当然だな。エマ様の道場から半端に強い慮外者を出す訳にはいかん」
「その辺の選考はお前に任せたい」
「良いだろう」
「そんな戦闘の技術や才能を見抜く目を持つお前に一つ訊きたいことがある」
「何だ?」
私を試そうという気かと退魔忍の夕日の様に赤い目が殺気を放つ。
そうじゃないって。確かめておきたい者がこの場に一人いるんだよ。
「イクゾー! またそっちに一匹いったぞ!」
噂をすれば影。いや別に噂はしてなかったか。ま、どうでもいい。
こっちに向かってきたフカヤミンクは、早業で投げられたクナイによって足止めされ、女忍者の早く続きを言えという熱視線で俺は威圧された。
「ルークの能力をどう見る?」
「ルークとはあそこで腰を抜かしている無能者のルークのことか?」
あれれ、やっぱりアイツって見たまんまの男なのか。
元女軍人のアイリーンがスカウトして連れてきた3人の内の1人だから、隠している能力か凄い潜在能力がある筈だと踏んでたんだが・・・
「そのルークだが、何か秘められたモノがあるんじゃないか?」
「無いな。一切無い」
バッサリ!
一刀両断という形容詞がピッタリなほどピーナは断言した。
つまり、ルークは本物の無能者ということだ。
少なくとも剣士として、冒険者としては。
じゃあ一体、どうしてあの女はギルドに連れて来たんだ・・・
「奴が何だと言うのだ? 何か悪さでも企んでいるのか?」
エマ様の所属するギルドに卑劣漢は要らんと瞳を燃やす女忍者を宥めるように、俺はちょっとした懸念事項を漏らした。
「ルークはあのアイリーンがスカウトしたらしいんだよ」
これで言いたいことが分かるだろと目で伝える。
「らしいな。だがそれがどうした。単にあのヒス女に人を見る目が無かっただけのことではないか。手柄を焦る者にはよくあるミスだ」
うーん、本当にそれだけのことなら良いんだがな・・・
「アイリーンは優秀な軍人だったし、性格に多少問題はあるが、ギルドでの仕事ぶりも超有能だとギルマスも言っていた。絶対に何かあると思うんだ」
「何かあるとしたら、ルークではなく、アイリーン自身だぞ」
え、どういうことだ。何の話をしてるんだ。
「アイリーンの方に秘めたモノがあるってことか?」
「奴が軍を辞めてギルドに来た理由は何か知っているだろ」
「たしか、怪我をしたか病気を患ったせいだと聞いたな」
まさか違うのかと覗くように見るとピーナの表情はひときわ険しくなっていた。
「奴の体には怪我をしていたような箇所は一つもない。病気の跡もな」




