65 閑話その6
今や世間ではありふれたテントの1つに、1人の男が慌てた様子で駆けこんできた。男はかなり急いで走って来たらしく、顔から汗が滴り、ぜぇぜぇと息を吐いている。そんな男に白湯を渡しながら、問いかける女性。
「どうしたのよ、そんなに汗かいて」
「はぁはぁ……ありがとう。それより、ありゃ本当にやべぇよ。双眼鏡で如月家を覗いた瞬間、俺の持っていた双眼鏡が消されちまったんだからよぉ」
男はそう言うと、その場に座り込み荒れた息を整え始めた。その場にいる連中は、一様に顔を顰めて溜息を吐く。
「人の形をした殺人鬼の化け物が。妹たちの仇は必ず討つぞ」
「当たり前だ。兄一家を皆殺しにしやがったガキだけじゃなく、あの家の者は全て誅する」
そんな物騒なことを次々に口に出し、泣き崩れる者・怒りに拳を震わせる者・祈りを捧げる者たち。
ここは、如月薫に殺された6人の少年とその家族たちの親族たちが集まる場所であった。そもそも逆恨みであるのだが、当人たちは正当な復讐だということを微塵も疑っていない。
SNSで如月薫は殺人鬼だと発言しても、今やほぼ無視されるようになった。それどころか、情報提供者だといって薫を礼賛する者もいる始末。
警察へも被害届を出しに行ったが、今はどうしようもないと断られて終わりなのだ。そんなことが続けば、如月薫への怨みや憎しみは弥増すばかりか、その家族までもが復讐の対象へと変わってしまうのも、仕方のないことであった。所謂、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いを体現しているのである。
皆がスマホや写真を眺め故人を偲んでいると、誰かのスマホが鳴った。相手とやり取りをしている男の顔が、真剣なものへ変化していく。しばらくして、通話を終えた男性は、その場の皆へ情報を共有するべく報告を始めた。
「タレコミだ。あの家に大勢の黒服と女性が数名向かって無事に帰ったそうだ。黒服たちは貿易商のボディーガードで、女性たちは人気のない郊外でキャンプしているそうだ。襲撃するか? あの家の奴らに関する情報が手に入るかも知れない」
「どっちだ。両方襲うのか?」
「やるなら女たちの方だな。わざわざ人気のない場所にいるんだから」
「気の毒とは思うが、あの家の者と通じたのが不運と思ってもらうとしよう」
「どうする? 今すぐに行動するか?」
「ここは、夜中まで待つとしよう。寝込みを襲えば捕まえるのは簡単だろう。夜に紛れた方が、無駄に注目を集めるリスクを減らせるだろう」
方針が決まった連中は、《《ある訓練》》をした後、早めに食事を摂るとすぐに眠りについた。




