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世界にモンスターが出現し始めてから11日目。
如月春人は、同級生とダンジョンに来ていた。
参加者は、全員新人族である。
始まりは、4月15日早朝、友人から来たラインだった。
何でも、彼らが避難生活を送っている場所では、最近風邪が流行し始めたようで、もしかしたら春人が薬を持っているのではと。さらに、春人も新人族ではないのかと。
だが、春人が薬を持っているわけがない。当時、症状の軽かった春人は、市販薬を内服して治ってしまったのだから。
だから、春人に出来る事は、俺の場合は○○製薬の○○○を内服してたら治ってた、としか答えられなかった。
春人も兄と同様、新人族である事を教えた。まあ、相手も分かってて確認の意味で問うているのだと、春人には分かっていたからだ。
それから翌日の4月16日。
数日前、兄の薫がSNSに上げた情報を知った友人が、春人に再度ラインを送ってきた。
内容は、あのウイルスに効く薬を持ってないか? 若しくは、付けで販売してくれないかと。もしも、あのウイルスに罹患しているのなら、治ってから春人と一緒にダンジョンを冒険して、必ず利子を付けて返すと。
迷宮化防止結界については、問いただしてこなかったし、春人を責める言葉もなった。そのことについては、薫の例を知っているので、友人の反応をうれしく思った。
しかし、あのウイルスに効く薬と問われても、春人にはどれが効果的なのか分らないのだ。そもそも、効きそうな感じの薬に心当たりはあるが、本当に効果があるのか判らないからだ。
そこで春人は、頼りになる兄の薫に相談した。
薫の返答は、もうしばらく待てだった。春人は薫の言葉を信じて待つことにした。
そして今日、4月20日。
あのウイルスに罹患して、治った者が新人族になる。
期待と不安を抱えた顔色の悪い友人たち18名が、春人の条件を受け入れ如月家を訪れた。
条件は、新人族になった者は、なれなかった者の治療費も肩代わりすることだ。2度目はやらないので、新しく新人族になれた者に頼ること。育成期間は8日間で、ダンジョン内で動画の記録をして投稿することに了承すること。と、3つの条件を出したのだ。
今回の治療費用は、1人8000SPとして18名で合計144,000SPだ。勿論、本来の価格で計算しているので、実際はもっと安く済む。
春人は、今までみんなの力にならなかった事に対して、頭を下げて謝罪した。しかし、友人たちは怒るどころか、今回春人が協力してくれることに感謝していると言って、逆に春人を励ました。
厳しい条件を付けた自分に対する友人たちの温かい言葉に、春人は鼻の奥がツンとなり目頭を押さえ暫し俯いた。
まず最初に、春人は400SPの万病薬(微)を全員に与えてみた。それで治ったのは3分の2の12名。残念ながら、普通の風邪であったようだ。症状が回復した者は、とても悔しがっていたが、このご時世では体調が良くなっただけでも、ラッキーであるといえる。
春人は、健康になった12名に万病薬(微)を222本与えた。
春人は、戸惑う彼らに笑みを浮かべてこう告げた。
「そんだけあれば、風邪気味の奴が222人救えるんだ。後はわかんだろ?」
そこまで言われても、ピンと来たのは2人だけだった。まあ、その2人が正解を口にしたのだから、全員が気付き感謝を述べて帰って行った。
残り6名は治らなかったので、万病薬(中)を与えた。
なぜ、万病薬(小)ではなく万病薬(中)なのかは、薫が雫で試していたからだ。
6名ともあのウイルスに罹患していたようで、全員が新人族になっていた。春人は、6名中新人族になるのは2~3名くらいだと思っていたのだが、予想以上だった。
結果的に、6名が他12名の薬代も負担する事に決まった。1人当たり24,000SPだ。
春人が実際に消費したのは、14,400SP。
つまり、万病薬(微)222本は差額分であり、129,600SPが春人の儲けである。
たとえ友人であっても、否、友人だからこそ、金銭に関する事で貸し借りはするなと、薫だけでなく両親にも言われた春人は、アドバイス通りに従った。
少なくとも、騙されたとかケチなど、文句を付ける相手とは今後係わる必要はない。その見極めができるのだから、良い機会だと両親は喜んでいたりする。
加藤大輔、川畑しおり、田中智一、永井俊樹の4人は、小学校からの友人だ。
蓮見勇気は中学1年から、松本藍は中学2年から知り合った友人である。
加藤の職業は、槍士♂。
名は体を表すとはよく言ったもので、身長は180cm台と背が高く、体格も比較的がっちりしている。見た目とは違って、大人しい性格で本を読むのが好き。
川畑の職業は、騎士♀。
名前のしおりからブックマークと呼ばれるようになり、ブクマ呼びが定着してしまった。原因は英語の授業であった。しかし、本人は自分のことをしおりと言い、力ない抵抗をしている。139cmと小柄であるが、本人はこれから大きく育つと豪語している。
田中の職業は、弓士♂。
春人の一番の親友であり、カズと呼ばれている。薫とも比較的仲が良い。サッカー部の副キャプテンで、ゴールキーパーを務めている。反射神経がかなり良い。
永井の職業は、盾士♂。
ゲーム・パソコン好きのオタク。目が悪いのに眼鏡が嫌いでコンタクトもしないため、目つきが悪く他人に誤解されやすい。なぜか、薫の事を慕っているが接し方が歪な為に、薫から邪険にされる。
蓮見の職業も、盾士♀。
母子家庭の一人っ子。父親の影響か、赤い髪で顔が整っている美少女。一人称が僕。体を動かすのが好きで、ダンス(ストリート)を踊るのが趣味。
松本の職業は、回復士♀。
身長は170cm台で春人より背が少し低い。お気に入りの髪型はポニーテール。中学3年生とは思えないプロポーションの持ち主で、男女問わず人気がある。好き嫌いをはっきり言うため、敵も多い。
回復士の松本藍以外は物理職であるが、盾が2人と中距離の槍に遠距離の弓がいるので、それなりだろうと思う春人であった。
全員が職業に就いた事を確認した春人は、ステータス強化系スキル9種と物理耐性スキルを習得するようアドバイスした。
ステータスは、レベルが1上昇する毎に1.1倍強化されること。しかし、小数点は切り捨てとなり、1桁だと全く上昇しないことを自分の失敗も交えて説明した。
物理耐性スキルは、モンスターから受ける物理ダメージを軽減してくれるため、役に立つと。魔法耐性は、魔法を使うモンスターがレアなので、後から習得しても問題ないと付け加えた。
春人の説明に納得した友人たちは、スキルポイント10Pをすべて使い切った。それでも、数項目1桁のままの者が項垂れる。
しかし、マナコインを使用すれば、すぐに挽回できる数値だと春人は励ました。そして6人の友人たちには、再度条件を書いた書面にサインをしてもらい、ちゃんと了承を得た春人であった。
全て薫の指示通りにこなした春人である。春人自身、薫の言った事に納得したからこそである。