その1
太陽がしずむころ、水助の家ではお母さんがごはんを作ろうとしています。お母さんが作るのは、野菜の入ったみそしると水助が取ってきたイワナの塩焼きです。
「ふ~っ! ふう~っ! ふう~っ!」
土間にいるのは、ごはんを作るお母さんだけではありません。水助も、ごはんやおかずを作るための火おこしを行っています。
「いつも手伝ってくれるから本当にありがとうね」
水助にはお父さんがいないので、お母さんの手伝いを行うのはいつものことです。ごはんを作るときの火おこしはもちろんのこと、畑仕事や川での水くみを行うのも水助の仕事です。
「いただきます!」
いつものように、水助はごはんやおかずをおいしそうに食べています。そんな水助のすがたに、お母さんもうれしそうに見つめています。
こうして、ごはんを食べ終わった水助は土間から家の引戸をそっと開きました。外のほうは、すっかり暗くなっています。
「どうしたの?」
「ホタルが見たくて外へ出たいけど……」
水助が外へ出るのをためらっているのは、こわいお化けが出るかどうか分からないからです。これを見たお母さんは、水助といっしょに外へ出ることにしました。
「ふふふ、お化けなんかどこにもいないよ」
「そ、そうかな……」
暗い中でも平気なお母さんに対して、水助のほうは相変わらず不安でいっぱいです。2人が庭をゆっくり歩いていると。ホタルがいっぱい飛んでいるのが見えてきました。
「わあ~っ! ホタルだ! ホタルがいっぱいいるぞ!」
光り続けるホタルの動きに、水助は大きな声を上げながら喜んでいます。お母さんのほうも、暗やみにうかぶホタルの美しさに見とれています。
「水助、そろそろ便所へ行っておしっこをしないと」
いつもだったら、水助は家の中でぐっすりとねているところです。ねる前にはおしっこをしなければならないのですが……。
「お、お化けが出ませんように……」
水助は、10才になってもお化けがこわくて夜中に行くことがなかなかできません。それでも、おしっこをしないとおふとんに大失敗してしまいます。
おそるおそると暗い中を歩く水助は、庭にある便所の戸を開けて足を入れました。便所に入ると、水助は板ばりのゆかに開いているあなにまたがろうとします。
そんな時、水助の耳に不気味な声らしきものがかすかに聞こえてきました。
「真っ暗やみの中、よくきたなあ。ふははははは……」
その声に、水助は急にこわくなって体がふるえてきました。そして、目の前に大きな火の玉がうかび上がったそのときのことです。
「ぼうや、こっちへおいで……」
「うわああああああああああ~っ!」
水助は大きな声でこわがると、そのまま家の中へ入っていきました。お母さんは、外から聞こえたさけび声が水助の声ではと思ってたずねています。
「そ、そんなさけび声は上げてないよ……。ははははは……」
お母さんに気づかれたくないのか、水助は笑いながらごまかしています。そんな水助の顔つきを見ながら、お母さんはあの言葉を口にしました。
「おしっこはちゃんとしたかな?」
「ちゃんとしたからだいじょうぶだよ」
水助の口から『お化けがいるからおしっこができなかった』などとお母さんの前で言うことはできません。
お母さんも、水助がウソをついているということはすでに知っています。けれども、お母さんはそんなことでしかりつけることはありません。
「さあ、夜もおそくなったことだしいっしょにねようかな」
水助は、お母さんからのよびかけにふとんの中へ入ることにしました。ふとんへ入った水助は、かわいい笑顔を見せながらねむっています。




