モンスター小学校
ルビの不具合を直しました。
『魔法国ポポル・首都クルルカン』
世界各地に点在する地域ごとのモンスターを束ねる魔王・・・そのような魔物の支配者と交流を図るにあたり、重要となるのが魔王と太いパイプを持つ側近、幹部の魔物の存在である。
幹部の魔物達を『首都クルルカン』に常駐させることにより外交上での情報交換や条件提示などを円滑に行えるので、クルルカンには何人かの各々別グループの魔王の幹部にあたる魔物が『外交官』として暮らしている。
しかし、そんな幹部の『上級魔物』以外にも各地の魔王からクルルカンに送られた魔物が居た。
人と魔物との交流が不可欠となった次世代の魔物世界を担になう為、『人間世界』の常識や技術を学ばせる為に魔王や幹部候補となる予定の子供達を人の世界で教育、又は保護をすることを目的とした施設が造られた。
「それがここ、『モンスター小学校』です!」
両手を広げて自信たっぷりにこの施設、『モンスター小学校』の概要をクレイスに紹介する『鳥人族』の女性、ソーニャ。
『中央区』で紹介される仕事は『外交員の秘書』、または『施設用務員』あたりを想像していたクレイスにとって、まさか魔物の子供を預かる施設での仕事とは微塵も思っていなかった。
ようやく喧噪ばかりの『南区のスラム』での仕事から静かに業務が出来る『中央区』での仕事を期待していたクレイスは少し顔が引きつっりながら、子供とのふれあいが苦手なクレイスにとって、最悪な業務を請け負うのではないかと、震えた声でソーニャに問う。
「ぼ、僕はこの小学校でのお掃除や・・・庭師・・・それとも料理人でもやればいいのかなぁ・・・?」
『そうであって欲しい』との願いを込めた問いに対し、ソーニャは天使の様な笑顔で、クレイスにとっては悪魔の様な答えを返した。
「いいえ~、クレイスさんには先生をやってもらいます♪」
クレイスは頭を抱えて
(仕事は断ろうか・・・)
(いやいや!助けたお礼に仕事をくださいって言っておいて・・・ここで断るのは流石にどうなんだ!)
(・・・だが、しかし)
「あのぉ~・・・僕に先生なんて出来るのかなぁ・・・教えられることなんて無いかも・・・。」
自信無さげなクレイスにソーニャは答える。
「大丈夫ですよ!難しいことを教えるのではありません!・・・そうですねぇ例えば『外でうんちをしてはいけません!』だとか『人を食べてはいけません!』などを教えるだけですよ!」
「人を食べ!?ハ、ハハァ・・・」
「簡単ですね!みんないい子ですし!」
ソーニャに強引に押し切られ、小声で唸る様な返事で承諾するクレイス、再び教室の扉を開き、騒々しい室内へと2人で入る。
「ほら~みんな静かにして、席につきなさ~い」
パンパンと手を2回叩いて教室の中を走り回ったり、騒いでいる魔物の子供達を席に着かせようとするソーニャ
そんなソーニャを見て、教室を走り回っていた魔物の女の子がソーニャの元へ駆け寄って来た。
その女の子は人の身体つきをしていたが、耳の位置が上にあり、猫のような耳の形をしている。
手も黄色い毛に覆われていて人や猿の様な細く長い指が付いた手ではなく、プニプニとした柔らかそうな肉球が付いていて、まるで犬や猫の様な手をしていた。
「んにゃ!?ソーニャせんせーお帰りぃ・・・んんん?隣のは誰にゃ?」
半人半猫の様な女の子の問いにソーニャは
「今から皆に紹介しますからね~、フーニュイちゃんも皆も座って座って~」
と生徒達に着席を促し、それを聞いた魔物の子供達は室内に並べられた子供用と思われる各々の机へと向かい、小さな椅子に着席した。
席に着いた7人(体)の魔物の子供達、その対面側に置かれた教壇の前に立たされたクレイスは緊張と戸惑の表情をしている。
「では、皆に紹介しますねぇ~!この方は『クレイス・ディネー』さん、今後皆さんの先生になってもらいま~す♪」
先ほどソーニャに駆け寄って行った半人半猫の少女が驚きの声でソーニャに尋ねる。
「えぇ~!?じゃあソーニャ先生はどうするのぉ?」
「先生は皆よりも小さい子の面倒を見る『保育』のおねーさんをすることになったので・・・皆の先生と2つやることは難かしくなってしまいました・・・。」
「そうにゃのか・・・」
生徒の何人かが残念そうな表情でうつむいた。
「大丈夫ですよ!保育はこの施設で行うのでいつでもお話ししたい時とか相談事がある場合は遠慮せずに来てくださいね!」
「やったーーーー!ソーニャせんせい大好きにゃあ~~~」
「ありがと~!先生もフーニュイちゃんが大好きですよ~!」
「私の事はそろそろいいので、クレイスさん・・・皆の前で自己紹介をお願いします!」
「あ、はい・・・」
ソーニャに呼ばれ、教壇の前へとガチガチに緊張したクレイスが『ブリキ人形』の様に歩いて向かい、魔物の子供達が座っている方向を向いて、深く深呼吸をしてから話始める。
「えぇ~と・・・僕の名前はクレイス、一応・・・皆の先生をやるぅ・・・みたいで、よろしく」
クレイスのオドオドとした態度と喋り方を見て、子供達の何人かはクスクスと嘲笑をしている・・・そんな中フーニュイと呼ばれてた子がクレイスに質問をぶつけ始めた。
「クレイスさんはにゃんのモンスターかにゃ?キノコ種族の?」
「いや・・・僕は人間だけど」
「「「 人 間 ! ? 」」」」
大人しく座っていた魔物の子供達がザワ付き始めた。
両手が蟹のハサミの様な手をしていて、頭に先が黒い球体が付いた触角持ちの男子が
「人間が俺たちの先生だなんて冗談だろ!?」
下半身が白い蛇の着物を着た女の子が
「人間って、コワイのでしょ・・・大丈夫なのかしら・・・」
頭に垂れたフワフワの犬耳を付けてモコモコした尻尾を激しく振っている癖毛の女の子が
「人間さん!人間さん!ナデナデしてくれるかな!?お散歩も一緒に行ったり・・・キャー!!」
体中が半透明で全身がヌルヌルとした水っぽい女の子(?)が
「ブルブル!ブブブブブブブーブ」
赤い目を光らせ怪しく笑みを浮かべて、鋭い牙を見せている女の子が
「美味しそうな人間ですわねぇ・・・」
そしてソーニャにフーニュイと呼ばれていた猫っぽい女の子が
「新しい先生は人間にゃんだ~、私は人間好きだよ~人によるけどねぇ~~~」
クレイスが人間ということで騒々しくなった教室を見かねたソーニャが生徒たちを静める。
「はい!はい!みんな静かに~、クレイスさんは怖い人じゃないですよ~怪我をした私を助けてくれた『とってもいい人』ですから、皆は安心してくださいね~」
ソーニャの一言で教室は静かになり、クレイスに対しての生徒達の心証は様々で、主に『好感』・『警戒』・『無関心』である。
「ではでは、皆もこれから新しい先生になるクレイスさんに自己紹介をしてくださいね~」
ソーニャにそう言われた生徒達は、ある者は緊張しながら、ある者はめんどくさがりながら、しぶしぶと席の左前列順から、一人ずつ起立して自己紹介を始めるのであった。
【フーニュイ・スゥーグー】 (原点形体:虎)
頭に猫耳、手が肉球、立派な長い尻尾が生えた金髪ショートヘアの元気娘
一言
「フーニュイだにゃ!キノコ頭のせんせ~よろしくだにゃ~、にゃーは先生のこと食べないから安心するにゃ♪」
【マリリン・サルーキ】 (原点形体:犬)
頭に垂れた犬耳、手がモコモコの毛と肉球、フワフワの毛が柔らかそうな尻尾とくせっ毛な白髪ショートロングヘア―の人懐っこい女の子
一言
「マリリンなのだ、ク、クレイスせんせい・・・よろしくね、よかったら一緒に遊ぼうなのだ!」
【テスタロッサ・ザンジーラ】 (原点形体:蝙蝠こうもり?不明)
赤い目で鋭い牙がある吸血鬼の女の子、黒いフリルドレスと黒い薔薇のカチューシャを着こなし、背中からは蝙蝠の羽根が生えている。
一言
「魔族の名門ザンジーラ家、テスタロッサですわ~、人間の従僕ごときに名乗って差し上げたことを感謝しなさ~~い」
【アルマ・ゼブル三世】 (原点形体:ダンゴ虫)
緑色のサラサラヘアーの上に2本の黒い触角と背中に大きな甲羅を背負った大人しそうな男の子、大きな本で顔を隠しながらモジモジ喋る恥ずかしがり屋
一言
「・・・・・・クレイス・・・・・・・・・・・・よろシク・・・」
【クシナ・ヤチマタ】 (原点形体:蛇)
はるか東にあるとされている国の民族衣装(和服)を着た前髪パッツンロングへーアで下半身白蛇の女の子、おしとやかで知的な雰囲気をまとっているが腰に刀を携えている。
一言
「クシナです。よろしくお願いします・・・。」
【スラコ】 (原点形体というよりそのまんま:スライム)
青みがかったヌメヌメしたゼリー状の液体が女の子の身体をしているスライムの女の子(?)、姿はクシナによく似ているが服は着ていない、たまにプルプルと震えだす。
一言
「・・・・・・・・・ブブブブ」
喋れないようだが右手をピンと突き上げて、たぶん歓迎はしてくれてるようだとクレイスは感じた。
【シオン・カルキノス】 (原点形体:蟹)
ツンツン赤髪頭で肌は褐色、頭には先に丸い球体がある触角(目?)が付いていて、両手が大きな蟹のハサミをしたヤンチャそうな男の子
一言
「ふんっ!なんで人間なんかと・・・俺は認みとめねぇぞ!」
―――――――― 以上
この7人がクレイスが担当する『生徒』達である。
各自の自己紹介が終わるとソーニャが
「今日はクレイスさんには普段の授業の様子を見てもらいます!所謂研修ですね!」
そう言うとクレイスを後ろの一箇所だけ空いていた机に案内し、そこに座ってソーニャの授業を見学する旨を伝え、クレイスも言われるがまま席に着くのであった。
「なんで俺の隣なんだよ!」
不平不満を垂れる蟹の子シオンに苦笑でしか返せないクレイス・・・そんなシオンをソーニャが諭す。
「シオンくん!意地悪いっちゃダメですよ~、これからの先生なんですから、めっ・・・です!」
プイと不貞腐た様子のシオン、『やれやれ』とういう感じで教壇の前へと戻ったソーニャの授業が始まる。