クレイスと梟の鳥人(ハーピー)
初めての創作
至らぬとこも御座いますが、よろしくお願いします。
ここはプエラリアンワールド
環境は地球とほぼ同じ、暑い地区もあり寒い地区もある。
文明のレベルは16世紀ぐらい
ただこちらの世界と違う所は人間以外にもモンスター(魔物)という種族が居ること・・・。
人間とモンスターは数千年にも及び争っていたが意思疎通が可能になり、徐々に歩み寄りを始め・・・ついにはお互いの国と同盟関係になるまでになった。
しかし、今だ人間とモンスターとの争い、偏見、差別が残っており、何かのきっかけで種族関での戦争が起きてもおかしくない・・・
そんな微妙な時代のお話しである――――。
(どうしてこんなことに・・・)
学校の教室のような場所、全ての席が見渡せる最前列のど真ん中に置かれた教壇で一人の青年が頭を抱えていた。
彼の名前は『クレイス・ディーネー』
年の頃は25歳ぐらいで背丈はこの世界の成人男性の平均
髪は無駄にサラサラ、薄い金髪のオカッパで前髪で両目の半分が隠れている。
そんなオロオロした青年の前には7人(?)の、子供達がクレイスを興味津々に見つめて居た。
ただその子供達はいわゆる『普通の人間の子供達』ではなく
猫や犬のような耳をして首や頬、手がフサフサの毛で覆われた子供
背中にコウモリのような翼を生やして、鋭い牙を見せ付けるかのようにニヤつく子供
青い粘質の液体がプヨプヨと少女の形を形どった生き物
所謂『モンスターの子供達』が各自の席に付いている。
クレイスがなぜこの様な状況に置かれたかは2日前に遡る――――。
『魔法国ポポル・首都クルルカン』プエラリアンワールドの中でも1、2を争う人間の大都市
過去、千年以上に渡って行われた人間とモンスターとの戦争・・・その戦争の中で、人間側の主戦力となっていたのが『魔術』である。
不思議な力や野生動物以上のパワーや生命力を持つモンスターを相手に人間は自身の内部にある生命エネルギーや大自然の力、または精霊から得た力を操る『魔術』を使い、長い年月をかけて進化させて行き、モンスターに対抗した。
その様な『魔術』を使う『魔術師』を束ねて組織化し
『国』を造り、『首都』を造り、政治、商業、産業、流通を行い魔法使い以外の
人口をも多く獲得した。
そんな魔術師が作った首都『クルルカン』は高い城壁で囲まれた城郭都市で都市の中央には国を治める教皇の城や上位の魔術師達が研究や政治を行うための最重要区画があり、高い城壁に囲まれ、その区間の外側には上位の魔術師や貴族、豪商など富裕層が住む住居や宿がある区間・・・そこも城壁で囲まれていて、その外側には一般市民が住む区間がある。
必ずしも中央区から離れた区間が貧しくあるわけではないが『クルルカン』の最南区画にある地区・・・建つ住居はどれもボロく、住民も昼間から酒を飲んで騒いでいる様なゴロツキが多い、いわゆる『クルルカンのスラム街』である。
そんな南区のスラムで日雇いの仕事をしながら暮らす青年『クレイス・ディーネー』
今日の仕事は酒場での掃除、皿洗い、芋の皮剥き・・・夕方から明け方までゴロツキの喧噪騒がしい酒場での仕事を終えると、長いタバコを吹かしている恰幅が良く厚化粧の女主人から銀貨数枚が入った皮袋を放られるように受け取り、クレイスは軽く一礼して酒場をあとにした。
季節は冬、うっすらと青みがかった明け方の空の下、水仕事で冷えた手にフーフーと息をかけながら家路につくクレイス
今までの人生と今後の人生について考えながら歩いていると悶々(もんもん)とした気分になり、つい足を止め今の気分と同じような薄暗い空を見つめながら
「・・・しょうみがないなぁ」
そうため息交じりでつぶやき、再び歩きはじめようとした時・・・東の空が一瞬青白く発光した――――。
「ん?あれはっ・・・!」
少し驚いたクレイスが発光した方向を見ると、まるで糸の切れた凧のようにクルクルと廻りながら『何か』がクレイスの足元付近に向かって落下し始めた。
「いったい何なんだ?」
落下物がクレイスに近づくにつれ『それ』が羽根をまき散らしながら落ちている1匹の梟ということに気づいた。
このままでは地面に激突してフクロウが致命傷になると思ったクレイスは
「よっ!」
という掛け声とともにフクロウをやさしくキャッチする。
薄茶色の柔らかい羽毛の温もりを感じつつ、フクロウの様子を見てみると、左の羽翼が不自然に伸びていて、明らかに怪我をした様子で羽ばたくことも出来ずに憔悴していた。
「あの光は魔術だな・・・かわいそうに、いったい誰が!」
「とにかくこのフクロウの怪我をどうにかしないと・・・」
クレイスは怪我をしたフクロウを抱きかかえ、自宅へと走った。
『クルルカン』南区のスラムにある木とレンガで作られたボロい長屋の一室・・・そこがクレイスの住居である。
クレイスは帰ると直ぐに窯に火をかけ湯を沸かし、部屋に置いてあった幾つかの薬草をすりつぶし煮出して深緑色のドロドロの液体にする。
その液体を人肌まで冷ますとフクロウの怪我をした羽翼に塗りつけ、ガーゼをグルグルと巻き付けた。
「出血は擦り傷程度・・・羽根の骨は重度ではないが折れていると思う・・・」
「もっといい回復薬があればいいんだけど、痛みと内傷で出る熱は抑えられる」
そう独り言の様につぶやくと、フクロウを自分のベット上に寝かせ、ベトベトした薬液まみれの手を水で洗うとベット近くの椅子に腰をかけ、一息つくのであった。
「あとはこのフクロウ自身の体力と気力に任せるしか無いな・・・」
苦しんでいたフクロウが落ち着いて丸くなって眠ったことを確認するとクレイスも椅子に座りながらウトウトとし始めそのまま眠りについた――――。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
クレイスは夢を見ていた――――・・・
クレイスとその隣に影でよく顔が見えない1人の男と女、その3人の前には黒い人型の塊がある。
その塊に向かって女が走って行く・・・クレイスともう1人の男が女を制止しようとするが身体が動かない!?
女が黒い人型の塊に近づくと、その黒い塊からおびただしい数の『黒い手』が現れ、近づいた女を大量の黒い手が触手のようにウネウネと伸びて女を捕まえ拘束した。
クレイスは必至にその女を救おうとその塊に向かおうをするが身体が動かない・・・身体が動かないので必死に声を出そうとするが、声も上手く出せない
「や・・・め・・・」
女はまるで蜘蛛に糸でエモノを絡め捕られる様に大量の黒い手に身体を覆われてしまった。
クレイスは必至に声を出そうとする――――
「やめ・・・!やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
全身に力を入れ、ようやく振絞れた咆哮・・・しかし咆哮とともに目の前は真っ白になると夢の世界が消え、現実へと意識が戻って行った・・・。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
――――――――「ろおおおおおお!・・・・・・うっ!?」
椅子の上でうめき声とともにガクンとして目覚めるクレイス
「あっ・・・ゆ、夢か・・・・」
ここは隣の住民に声が筒抜けな狭い長屋、夢の出来事で大声をあげてしまったことを急に恥ずかしくなったクレイスは目をごしごしと拭り、完全に頭を覚醒させようとゆっくりと立ち上がる。
ふと・・・ベットの上に目をやると・・・。
「ん・・・え゛えっええぇ!?」
目覚めた現実でも再び大声をあげてしまったクレイス・・・彼の目の前のベットの上には一人の『美しい女性』が座っていた・・・!
年のころは20歳ぐらい、ぱっちりとした目、美しい金髪の長い髪、そして何より胸は豊満であった。
クレイスはまだ夢から覚めてないのかと思いつつ、戸惑いながら目の前の美女に声をかける。
「き、君はいったい誰?・・・え~と、何故家のベットに・・・?」
ベットの上の美女はゆっくりとシーツで自分の身体を隠しながら、クレイスに一礼をすると
「昨晩は私を助けていただき、ありがとうございました・・・」
クレイスが頭を傾げて「?」な顔をしていると美女が答えた。
「あっ!そうですね昨晩は完全にフクロウの姿でした・・・ではその証拠に、えいっ!」
かけ声と共に美女の身体が眩しいぐらいに光始め―――
身体が『人の形』から昨晩治療した『フクロウ』へと変化した!?
「これが私の完全な『原点形体』・・・そしてこれが私の『真の姿』」
再び身体が光に覆われ始め・・・再び人型へと変化した―――が・・・最初に見た人間の美女とは『幾つか違う』姿をしていた・・・。
耳の部分にはフワフワの羽根、手の部分そのまま大きな翼、そして足は明らかに『人のモノ』ではない黄色く前に3本の大きな指が出た『鳥類の足』そのものだった。
「君はもしかして魔物かい?」
クレイスは半人半鳥の美女に問う・・・『当然』この世界の人間は魔物の存在を知っている。
「はい、私は『鳥人族』フクロウ種のモンスター、名を『ソーニャ・アウロ』と申します。改めて昨晩のお礼を申し上げます・・・。」
再び深くお辞儀をする鳥人族のソーニャに事情を理解し少し落ち着いたクレイスが声をかける。
「いやいや、大した治療は出来なかったし、そっかぁ魔物の娘さんだったかぁ・・・4年前にクルルカンで『人魔不可侵条約』が締結されたから、町に居ても不思議じゃないか・・・とりあえず、怪我はもう大丈夫なのかい?」
「はい!このぐらいの翼の骨折なら10日ぐらい安静にすれば、また元気に空を飛び回れると思います」
元気そうに答えるソーニャにクレイスは安心したように
「それはよかった・・・」
と答えた。
「それはそうと、えーと・・・ソーニャさんは」
「ソーニャでいいですよ~」
「ん、うん、ソーニャはどうして怪我を負ったのだい?自分が思うに、何か『攻撃魔術』を受けた様に見えたが」
「・・・はい」
元気だったソーニャの顔が曇り、うつむきながら話す。
「この国で『人魔不可侵条約』が決まって人と魔物の交流が認められましたが、今だ魔物に対する偏見や・・・先の戦争の遺恨などで再び魔物との戦争を望んでる、所謂『攻魔派閥の魔術師』の方だと思います・・・私も夜中に中央区以外の場所をお散歩してたのも悪いのですが・・・。」
それを聞いたクレイスは納得したようにブツブツと小声でつぶやく
「そうか・・・戦争が無くなるってことは魔術師達の『立場』や『仕事』が危うくなるからな、特に戦闘用に訓練された『魔術兵士』なんかは・・・。」
この世界の解決できない問題の話になり、しんみりとした空気が流れ、話題を変えようとソーニャがきりだす。
「あの・・・よろしければお礼をさせてください!」
「いや、別にいいよ大した治療も出来なかったし」
(久々にモコモコした生き物に触れたし…)
「そんなことありません!命の恩人の・・・そういえばお名前をまだ聞いてませんでした」
「僕の名前はクレイス・ディーネーだよ、クレイスとでも呼んでくれ」
「クレイスさん!素敵な名前ですね…私も『鳥人族』代表の身、命を救われたのに何も無しでは一族に顔向け出来ません!是非とも、何でもするのでお願いいたします!!!」
強く食い下がるソーニャに(大人しそうに見えて意外と頑固な女性だぁ…)と思いつつクレイスはどうしたものかと考える。
(お礼と言われてもなぁ…う~ん、じゃあ今は丁度昼だからランチでも奢ってもらうかぁ)
(待てよ…そういえばソーニャは中央区から来たとか、『鳥人族』代表一族とか言っていたな…)
(もしかして…外交の為に中央区に住むことを許可されてる『魔物の貴族』だとか『有力魔王の外交官』の一族なのでは…)
(もしかして…頼めば何かしらのお仕事にありつけるのでは!?)
南区のスラムで暮らすクレイス、南区では仕事も少なく…酒場や怪しい集会場で他の人間と日雇いの仕事を取り合う毎日…ソーニャが『いいところ』の娘さんだと思ったクレイスはもしかしたら『コネ』で何かしらの仕事を斡旋してもらえるのではないかと考えた。
(いいや!ダメだダメだ!人(魔物)助けでそんな見返りを求めては…でも…)
クレイスは自分の住んでいる部屋を見渡す…壁の木は真っ黒で所々擦り剥けが目立ち、天井は雨漏りを補修した板がゴツゴツと所々にあり…家の食糧はカチカチのチーズとパンぐらいしか残って無く…昨日酒屋で貰った銀貨数枚では5日の食糧で尽きてしまうだろう…。
(ぐぬぬ…)
ソーニャの何かを求めるキラキラとした瞳と自身の今の現状を考え、クレイスは眉間に皺を寄せながら、押しつぶされそうな罪悪感と恥ずかしさを押しのけて嘆願した。
「え~と…な…何か仕事はありませんデショウ・・・カ?」
なぜか片言で答えるクレイス、ソーニャは予想外の願いが来たので少しキョトンとした表情になる。
それを見たクレイスは慌てた様子で
「あ!いやいやすまない!図々しかったね!忘れてくれ・・・!」
しかし少し戸惑った後、ソーニャは何かを思ったのかニッコリとした笑顔て答える。
「お礼がお仕事でいいのですか…?うん!ありますよ!頼めるかもしれないお仕事が!」